イナズマイレブンHEROS!!!   作:月兎タンク

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今回から雷牙の修行編に入ります。修行編って言っても短編なので2〜3話で終わらせます。


神が鳴る島 前編

「…ま〜た来ちまったなぁ…。」

 

俺が今いるのは稲妻町にある河川敷…にくりそつな場所。この前みてーによく分からん樹海と違って、ここが世宇子戦(あの時)に一瞬だけ訪れた場所である事が直感で分かる。

 

「おーいライトー…。今度こそいるなら返事してくれー、変な鉄仮面野郎だけは絶対ェ来るなよー。」

 

…駄目かぁ。俺、本当に死んじまったのかなぁ…最後に見たの絶望する風丸の顔だし、あんまり記憶が無ェけど風丸を校舎の崩壊から庇って死んだんだろうなぁ…。風丸の事だから絶対ェに自分のせいだって落ち込むんだろうなぁ…。

 

「でもおかしいなぁ、この前は親父とお袋が反対側にいたのに今日はいねぇぞ…?」

 

『それは君がまだ生きているからだよ。』

 

「ライト、来てくれたか!いや〜助かったぜ〜!やっぱ持つべき者は死後も助けてくれる兄弟だよな〜!」

 

『……。』

 

あん?何かライトの表情がどこか暗ェなぁ…。そういやライトはいつも隠

し事がある時はあんな顔してたっけ…。

 

「やましい事がある時は黙り込む癖は死んでも治らなかったみてーだなぁ?最近助けられてばっかだし俺に言ってみ?俺に出来る事なら手伝ってやるからよー。」

 

俺の言葉を聞いたライトは少しだけ躊躇していたが、すぐに意を決して口を開いた。

 

『実はね…三途の川(ここ)に君を呼んだのは僕…いや僕の“想い”のせいなんだ…。』

 

「“想い”?もしかして“未練”って奴かい?だったらいいぜ!俺が気が済むまで相手してやんよ!!!」

 

てっきり俺とサッカーがしたいから呼んだと思っていたがライトは首を横に振る。表情もさっきより辛そうだ。

 

『残念だけど違うよ。今日はね君にお別れを言いに来たんだ…。』

 

「…てことは成仏するって事か…?」

 

『そうとも言えるしそうじゃないとも言える…とだけ言っておこうかな。だから僕が雷牙に手を貸せるのも今日が最後なんだ…。』

 

…そっか。そもそも何度も三途の川で会うのは普通じゃないしな…。てか待てよ?俺ってただサッカーをしてるだけだよなぁ?なんで2回もあの世に逝きかけてんだ?

なーんて事を考えていたらこの前とは違う紫色の光(・・・・)が俺を現世に呼び戻し始めた。

 

「時間か…。なぁライト、今回でオマエと会えるのが最後かもしれねぇけどよ、俺はオマエたちと一緒のところに逝けるようにこれから生きていくからさ…、待っていてくれよ?そんじゃあなライト!!!」

 

流石に2度目の兄弟との別れは涙腺にくるなぁ…。だからこそ俺はアイツに涙を見せるわけにはいかねぇ。

紫の光に包まれるまで俺はライトの方を見る事はなかった。

 

『大丈夫だよ雷牙…。確かに僕はここからいないくなる…、だけどね僕達は地球に向かう星々の光なんだ…。必ずまた再開()えるよ…。」

 

最後の最後にライトの呟きが聞こえた気がした。

 

「…ここは?」

 

静かに目を開けた先にあった光景はグラウンドではなく何処かの病院の病室だった。

 

_______________

 

「ここが監督が探してくれた特訓場所かぁ〜…。なんか別世界に来た気分…。」

 

鬼瓦のおっさん達が操縦する船で到着した先は木々が生い茂った野生中以上に自然豊かな島だった。

 

俺が目を覚まして数日後、響木監督が見舞いに来てくれて今のエイリア学園の現状を教えてくれた。守たちは俺を病院送りにしやがったジェミニストームを白恋イレブンと協力しぶっ倒してくれたようだが、すぐに奴らよりも強いデザームとかいう奴が現れたらしい。

 

新たな脅威に対抗する為に雷門イレブンに合流する事を勧められたが1ヶ月間眠り続けた身体じゃ足手纏いになると判断し、監督に我儘を言って自然豊かな無人島でサバイバルを行う事になったってわけ。

 

「しっかし響木の奴もよくこんな場所探し出したなぁ〜!こんなデカい島があるとは俺は知らなかったぞ!それに島の名前も“かみなり島(・・・・・)”ときた!これはお前さんにピッタリな特訓場所だな!」

 

“かみなり島”、それが俺が今いる場所の名前だ。名前を聞くとさぞかし降水量が多い島なんだろと思うが、実はそんな事は無ェ。この島が“かみなり島”と呼ばれる理由は別にある…

 

ボワァァァァァ~

 

「おっ!来やがったな響木が言ってた“神鳴り”ってやつが!噂以上に不気味な声だなぁ!」

 

そう、これがこの島が“かみなり島”と呼ばれる由縁。なんでも決まった時間にさっきみてーな“怪物”の鳴き声が聞こえる事からかつて住んでいた島の住人が神の鳴き声、つまり“神鳴り”と呼んでいた事が由来らしい…って監督から聞いた。

 

「それにしても本当にここでよかったのか小僧?警察のコネを使えばもっと設備が整った場所を用意する事出来たぞ?」

 

「いいんすよ鬼瓦のおっさん。エイリアを倒すのには生半可なトレーニングじゃ意味ないんす。心配しないでください、俺は簡単に死ぬタマじゃないですよ。」

 

「…そこまでの覚悟があるなら俺も止めるつもりは無ェ。一応部下にちょくちょく様子を見に行かせるが、これだけは言っておく…絶対に死ぬなよ!」

 

旦那はそう言うと本土に戻って行った。なんでも影山が脱走したとかでその対応に追われているんだと。影山も懲りねぇ奴だなぁ…。

 

「さ〜てと…。確かここら辺に住人がいるんだったな…流石に挨拶に行かねぇとまずいか…。」

 

さっきこの島は無人島と言ったが厳密には違ェ。なんでも100年程前までは人が住んでいたんだと。そんでこの島には独自の文化があったそうだが、ある時を境に人口が本土に流れていった結果、現在では住人は1人になっちまったらしい。

 

「あーここか…、すみませーん!響木監督の紹介で来た稲魂雷牙って言うんですけどー!」

 

…返事が無ェな。もしかしてどっか出かけてんのか?だとしたらまた後で挨拶すr…

 

「ほっほっほ、近頃の若者にしては珍しく勘が鋭いじゃないかい。だがまだ集中力が疎かじゃのう?もしワシが猛獣だったらお前さんは死んでいたぞい。」

 

なんだこの爺さん⁉︎(驚愕)…じゃなかった、多分この人が監督が言ってた最後の住人だよな…?なんかやたら物騒な事を言ってたけど海よりも広い心で受け入れよう…うんそうしよう。

 

「ははは…、少し油断してたっす…。え〜と、あんた…じゃなくて爺さんがこの島の管理人ですかい?」

 

「管理人なんてそんな偉い立場の人間じゃないわい。見ての通りこの島にはもう私しか住んでいないからのう…。色々あっても(・・・・・・)この島はワシの故郷…だからワシが死ぬまで最低限の管理をする義務があるのだよ。」

 

「…そうっすか。しばらくは特訓の為にここにいさせてもらうんでよろしくお願いします。」

 

「構わんよ、ただ1つ気をつけるんじゃよここには出るからね…亡霊(・・)が…。」

 

…亡霊かぁ。何回か夢でライト会ってるからあんまし怖くねぇなぁ…。ここに壁山がいたら100%トイレに行ってたんだろうなぁ…。

とりあえず寝てた分を取り戻す為の体力作りからだな。俺が寝てた時間は約1ヶ月…うへ〜、思ったよりも寝過ごしたようだな…

 

〜1週間後〜

 

「ふぅ…、92…いや95%くらいか…。だいぶ体力が戻ってきたな…。」

 

特訓を開始して早1週間、俺は日が昇ってから落ちるまで砂浜に沿って島を走る続ける日々を送っていた。ハッキリいって精神的にもキツかったが頑張ったおかげで予想よりも早く体力が1ヶ月前とほぼ同じくらいに戻った事を確信する。

 

「さ〜てと…。そろそろ次のステップに進んでもいい頃か…。」

 

俺が立てた特訓プランは大きく分けて3つ。1つは体力を戻す事、2つ目はズバリ身体能力の強化だ。3つ目は…まぁ後で分かんだろ。

 

「“プロジェクトAB(エイリアブレイカー)”フェーズ2いきまーす!!」

 

そう言って俺は島の奥深くへ入ってドリブルで駆けていった。

 

______________

 

「どりゃぁぁぁぁぁぁあ!!!」

 

島の奥地に入って早数時間が経った。俺はひたすら無数に生えた木々の間を躱わすトレーニングを行っている。

 

「そら!…しまったぁぁぁぁあ!!!」

 

つい力の加減を間違えちまってあらぬ方向にボールがいっちまう。マズい…アレ、サッカー部のボールだから絶対ェ見つけねぇと弁償しなくちゃなんねぇ…。

俺は飛んで行ったボールを探す為にさらに奥地へと進んで行った。すると幾分か開けた場所に出た。そこにはやたらデケェ木の下に独特な石像がポツンと置かれていた。

 

「なんだこりゃ?地蔵って訳でもねぇな…、昔は人が住んでいたって聞いたし何かの神様の像か?」

 

木の下にはいろんな石像が設置されていたがその中で一際目立ったのは頭にボールみてぇな球体を乗っけている石像だ。

 

「なんかリフティングしているみてーだな。よーし今日からオマエの名前は“ボブ”だ!じゃあなボブ、ボールを見つけてくれたら俺に教えてくれよな。」

 

そう言ってその場から離れようとすると何処からかこの世のものとは思えない声が聞こえてきた。“神鳴り”とは異なるその音はだんだんとこっちに近づいてきているようだった。

茂みの中から現れたのは牛と見間違う大きさの猪だった。

 

「で、デケェ…!!!」

 

なんちゅーデカさだ⁉︎あれはこの前の牧場で戦った牛以上のサイズはあんぞ、こんな大きさの猪がいんのかよ…⁉︎

 

「ブヒィィィィ!!!」

 

「上等だコラ!!!オメーが孤島の大自然の王者なら、俺はコンクリートジャングルの王者だ!都会っ子の底力見せつけてやんよ!!!」

 

俺に襲い掛かろうとする猪を見てコンクリートジャングルの王者雷ちゃんの血が騒いだ俺はバケモン猪に立ち向かう。だが、流石は突進力の代名詞である猛獣だ。アフロディの“ゴッドノウズ”に勝るとも劣らないタックルには勝つ事が出来ずに吹き飛ばされてしまった。

 

「くそったれが…!そういや漫画で聞いた事があるっけ…“人は武器を持ってようやく猫と対等に戦える”って…。だがなぁ…俺はここで死ぬつもりはねぇぞ…!」

 

猪は今度こそ俺にとどめを刺す為に全速力で突進を開始する。俺は逃げはせず化身を発動させ猪に立ち向かおうとする…

 

だが勝負は予想もしなかった横槍が入ってしまった。

 

「ブギャァァァァア⁉︎」

 

「何だ⁉︎…これは俺のボール…?」

 

さっき誤って森の奥深くへ行方不明になっていた筈の俺のボールが凄まじいスピードで猪を撃退した。

俺は急いでボールが飛んできた方向を見るとそこには黒髪と褐色がよく目立つ俺と同い年くらいの少年がいた。

 

______________

 

雷牙を助けた少年は雷牙に声をかける事なくその場から立ち去ろうとしていた。それを察した雷牙は彼にお礼を言う為にトップスピードで駆け寄る。

 

「助けてくれてサンキューな!それにしてもさっきのシュート凄かったなぁ!もしかしてオマエもサッカーやってるのか⁉︎」

 

柄にもなく興奮している雷牙。思えば自分の実力に魅入られる事はあっても、自分が他の選手の実力に魅入るのは初めての経験だった。あの時の守もこんな気持ちだったんだろうなぁ…と思いながら少年に話しかけたが、当の本人は涼しい顔をして彼を無視する。

 

「おいおい⁉︎無視はねぇーだろ⁉︎せめて話くらいは聞いてくれよ!」

 

「…君は“島の主”に喧嘩を売った挙句負けただろう?言わば敗者だ、そんな弱い奴がこの島にいる資格は無い。さっさと出て行ってくれるかな?」

 

年齢よりも幼い顔からは想像も出来ないほど辛辣な言葉をかけられ雷牙は数秒ほど固まってしまうが、次第に脳が言葉の意味を理解し怒りが湧き上がってくる。

 

「ほぉ…?言ってくれるじゃねーか、だったら何だ?オメーは俺よりも強えーって言いたいのかい?」

 

声色自体はいつも通りだが目が笑っていない雷牙。だが少年は更に雷牙を挑発するように不敵な笑みを浮かべ静かに呟く。

 

「ああ、ずっとね。」

 

「…上等だ。だったら勝負しよーぜ、さっきのシュートを見た感じオメーもサッカー選手だろ?俺が攻めでアンタが守り、シンプルな1対1の3本先取で勝負をつけようぜ?」

 

「いいよ。ただし君が負けたら直ちにこの島から出て行ってもらう…それが条件だ。」

 

「GOOD!さぁ始めようか!!!」

 

勝負の為に互いに配置に着くが、雷牙はその前に少年に向けて名を尋ねる。

 

「そういや自己紹介がまだだったな、俺の名前は稲魂雷牙。でオメーは?」

 

「…シュウ。」

 

「中々いい名前じゃねーか。よっしゃシュウ!覚悟しろよ、俺に喧嘩を売った事を後悔させてやるからよぉ!!!」

 

早速シュウに向かって勢いよく駆け出す。だがシュウは涼しい顔をしてその場から動く気配がない。3m、2m、1m…、着々とシュウとの距離が縮まっていくが、まだ動かない。とうとう雷牙はシュウを通り過ぎてしまった。

 

「おいシュウ!一体どうゆうつもりだ⁉︎そこまで俺と勝負したくねーのかよ⁉︎」

 

シュウの態度に不満を露わにする雷牙だが彼はまるで道化を見るような目でクスクスと笑う。何事かと思う雷牙だったがふと足に違和感を感じる。まるで足に持っている筈の物が無いかのような違和感を…

 

「嘘だろ…、いつの間に…!」

 

「ハハハ!本当に隙だらけだね君は。次は僕が攻撃だけど、そんなんじゃ僕からボールを奪う事すらも怪しいんじゃないかい?」

 

「言ってろ…!今度は俺が勝つ…!」

 

「そんな事言う暇があったらさっさと本気を出したらどうだい?言っとくけどまだ僕はこれっぽっちも全力を出していないよ。」

 

「はッ、言ってくれるじゃねーか!だったらこれを見て驚くなよ!!!はぁぁぁぁぁあ!!!“雷鳴の覇王 レグルス・マキシマム”!!!」

 

「へぇ…まさか“化身”を使えるとはね…。」

 

「これが俺の全力だ!!後悔すんなよ!」

 

俺は“レグルス”と共にシュウに向かって突撃する。流石のシュウも化身によって強化された雷牙の身体能力には押され気味だが、それでも巧みなテクニックでボールをキープしていた。

 

「ほらほら!オメーの実力はその程度かよ!」

 

「…いいよ、僕の本気を見せてあげるよ。はぁぁぁぁぁあ…!」

 

その瞬間、シュウの背中からも紫のオーラが立ち昇る。次第にオーラは形を形成し、巨大な斧を携えた漆黒の戦士が姿を現す。その現象を雷牙は嫌と言うほど知っていた。

 

「な、何⁉︎オマエも“化身”だと⁉︎」

 

「これが僕の化身…、“暗黒神 ダークエクソダス”さ…。さぁ?勝負を再開しようか。」

 

「はッ、面白れぇ!偶然にもオメーの化身もでっけぇ斧を持っているみてーだしなぁ!“斧”対“斧”のガチンコ勝負といこうか!!!」

 

意気込んだはいいものの“レグルス”の斧による一撃は“ダークエクソダス”の前には悉くいなされる。

 

「くそ!攻撃が当たらねぇ!まるで俺の動きが分かってるみてーに…!」

 

「分かっているように…その表現は正しくないな。僕は君の動きに無駄が多すぎるんだよ、それに気の使い方もまるでなっちゃいない。その程度で僕に勝てるとでも本気で思っているのかい?」

 

既に雷牙の化身を持続時間を大幅に超えているにも関わらずシュウは息一つ乱していない。遂に限界を迎えた雷牙は化身を維持できなくなった。

 

「くそったれが…!」

 

「これで終わりだ、“魔王の斧”。」

 

もうこれ以上の勝負は無駄だと判断したシュウは渾身のシュートを放ち雷牙の敗北を知らせようとする。

その瞬間思わぬ来訪者が彼らの勝負に乱入してしまった。

 

「めぇぇぇぇ〜。」

 

「何⁉︎避けるんだ!」

 

シュウの静止は子山羊に伝わる事はない。状況が判断出来ていない山羊はそのまま

 

「しまった…、僕とした事が…!ん…?」

 

土煙が晴れるとシュートコースには山羊の姿はなかった。その代わりに横にいたのはさっきまでそこに倒れていた筈の雷牙だった。

シュウのシュートをモロに喰らった雷牙は気を失っており、山羊は心配そうに彼の顔をペロペロ舐めている。

 

「まさかあの一瞬であそこまで移動したのか…⁉︎それに彼の体力は既に限界だった筈…。」

 

シュウは雷牙がいた場所を見るとそこには地面が数cmほど抉れていた。まるでスコップを使って掘ったようなその跡は雷牙が凄まじい脚力で地面を踏み込んだ証拠だった。

 

「稲魂雷牙か…、中々面白い奴だ。」

 

ここで初めて“喜”の感情を見せたシュウは気を失っている雷牙を軽々と背負い何処かへ連れて行くのだった。

_____________

 

「…ッハ!あ、アレ?俺は確かさっきまでシュウと勝負した筈じゃ…?」

 

目を覚ました雷牙は辺り一帯を見回すとそこは古代遺跡のような場所の一室だった。

 

「やぁ目が覚めたようだね。」

 

「シュウ…!勝負はどうなったんだ…⁉︎俺は勝ったのか⁉︎」

 

「僕の圧勝…だと言い張りたいけど残念ながら横槍が入っちゃったからね。今回は引き分けって事にしといてあげるよ。この島で特訓するのも許可するよ、ただし“島の主”に殺されかけてももう助けないけどね。」

 

「…ならいいけどよ。(なんかコイツさっきと性格変わってねぇか?)」

 

意識を失う前とは180度異なるにこやかな笑顔を見せるシュウに違和感を覚える雷牙。するといつの間にかシュウの姿は消えていた。

 

『この島には出るんじゃよ…“亡霊”がな…。』

 

「…まさかな。」

 

1週間前に老人から聞いた言葉が雷牙の頭を駆け巡ったが、とりあえず今日は明日に備えて身体を休める事にした。

_____________

 

〜数週間後〜

 

雷牙が“神鳴り島”に訪れてから1ヶ月近くが経過していた。シュウとの一戦で更に特訓に火が着いた雷牙はメキメキと実力を上げ、既に強化されたジェミニストーム以上の実力を身につけていた。

 

「駄目だな…。この程度じゃシュウにはまだ通じねぇ…。」

 

実力を上げた雷牙だがまだ自分の実力に満足いっていないようだ。元々はエイリア学園を倒す為に始めた修行だったが、今の雷牙にはシュウを超える事以外頭に無かった。

 

「しっかしあの日以降シュウには会わねぇなぁ…。最近修行にも行き詰まってきたし一緒に特訓出来ればなぁ…。」

 

雷牙の言う通り、あの一戦以降シュウは姿を見せていない。何度か初めて会った場所で訪れたり、自分を看病してくれた場所を見に行ったりしたものの彼の姿を見る事はなかった。

一度練習をやめ、その場に寝転がっていると雷牙の側に人影が現れた。

 

「おや、まだ生きていたのかい坊主?最近姿を見せんからてっきり死んだと思ってたわい!」

 

そこに現れたのはこの島の唯一の住人である老人だった。再開して早々雷牙に向けて凄く失礼な事を言う老人だが、雷牙はなんとか怒りを抑える。

 

「ハハハ…、死んでなくて悪かったすね〜。生憎俺は仲間の為に強くならなきゃならないんでね。こんなところでくたばるわけにはいかねぇんっすよ。」

 

「“仲間の為に強くなる”ねぇ…。お前さんは何故そこまで強さを求めるんじゃ?」

 

「あれ?知らないっすか?今エイリア学園っつー宇宙から来た謎のテロリストが日本中を襲っているんすよ。んで俺が所属している雷門サッカー部が直々に奴らを討伐する為に全国を旅しているって訳っす。俺は旅に出る前にドジ踏んじゃって眠ってたんでね、アイツらに追いつく為にこの島で特訓をしているっす。」

 

「ほほほ、そうかそうか。いやのぉ〜この島にはある“悲しい伝説”があっての…。強さを追い求めるお前さんも“彼”と同じ轍を踏まないかと思っての…。」

 

「悲しい伝説…?なんすかそれ?聞かせてくださいよ。」

 

「ん〜別に話してもいいが、ある程度は覚悟しておいた方がいいぞい?お前さんの年頃じゃと刺激が強すぎるエグい伝承じゃからな。」

 

「ばっちこい!って感じっすよ!」

 

雷牙の覚悟を見た老人はポツリポツリとこの島に伝わる“伝説”を語り出した。

 

_____________

 

ずっと昔…島には1人の戦士がいた。

 

その戦士は島で最も強く、“島の主”すらも敵わないその強さに住人からも尊敬されていた。

 

戦士の両親は彼が幼い頃に病で亡くなり、彼の家族は歳が離れた妹だけだった。

 

この島では重要な事を決める時にはサッカーに似た儀式を行う風習があった。

 

戦士はその儀式においても負けなしの強さを誇っていた。

 

しかしその島にはもう一つ風習があった。

 

定期的に発生する干ばつに対して若い娘を生贄に捧げるという風習があったのだ。

 

そしてある時、その生贄に戦士の妹が選ばれてしまった。

 

戦士は族長に抗議し自分が儀式で勝利すれば妹を助けもらうように頼んだ。

 

族長はそれを了承し戦士は妹を助ける為に鍛錬を重ねた。

 

だがそんな彼を疎まう人間もいた。

 

彼らは生贄を捧げられず神の怒りに触れる事を恐れていた。

 

彼らは戦士が勝てないようにあらゆる手段を使った。

 

戦士の仲間を人知れず怪我を負わせた。

 

戦士の家を焼き払い帰る場所を失わせた。

 

度重なる不幸の前にして戦士の仲間達は次々と彼の下を去っていった。

 

それでも戦士は諦めずに戦った。

 

だが儀式の結果は戦士の敗北で幕を閉じた。

 

戦士は再び族長に抗議をしたが負けた事実を変える事は出来なかった。

 

戦士の妹は生贄に捧げられた。

 

その日以降、戦士は島から姿を消した。

 

戦士が姿を消して数年後が経った。

 

ある時島に大嵐が訪れた。

 

嵐は天が怒り狂った如く島の各地に稲妻を落とした。

 

その稲妻は何人もの島民の命を奪った。

 

その島民達は皆、戦士を疎んだ者達だった。

 

島民は大嵐を戦士の呪いだと噂した。

 

止む事のない大嵐を見て、これ以上犠牲が出ることを恐れた島民達は知恵を出し合った。

 

話し合いの末に島民は戦士を神として祀る事に決めた。

 

彼が大好きだった“球技の神”として祀るとあれだけ続いていた大嵐はすぐに去った。

 

その代わりにこの島には決まった時間に不気味な声が聞こえるようになった。

 

それ以降、この島はこう呼ばれるようになった。

 

“神鳴り島”と…。

 

_____________

 

「どうじゃ?これがこの島に伝わる“伝説”じゃよ。」

 

…かける言葉も見つからねぇ…。今の俺のココロには困惑、怒り、悲しみ…色んな感情が渦巻いてゴチャゴチャしてやがる…。

 

「言葉を失うのも無理はないじゃろうな。だがこれは本当の事なんじゃよ…。だからこそ神は今まで鳴いておるのじゃろうな、人のココロを失ったかつて住民達の蛮行に…。」

 

「…ありがとうございます。余所者の俺にこんな大切な伝説を話してくれて。」

 

「構わんよ、ワシももう長くない。ワシが死んだらもうこの島を管理する人間はおらんくなるだろうが、最後にこの伝説を誰かに聞かせる事が出来たよかったわい。」

 

「…俺、また特訓してきます。」

 

「無茶はほどほどにの〜。」

 

爺さんの呑気な声とは対照的に俺は何とも言えない気分だった。だがこれで確信した事が1つある…。

…少なくとも俺はこの世界に“魂”っつー概念は確実に存在していると思う。だからこそだ、俺の予想が正しければシュウの正体はきっと…。

 

_________________

 

雷牙はとにかくシュウを探した。しかし広い島中の隅々まで探したが一向に彼は姿を現さない。気がつけば空は真っ赤に染まり、地平線の彼方に太陽が沈みかけていた。これ以上の捜索は危険だと判断した雷牙は最後に初めてシュウと会った場所に行ってみる事にした。

 

樹齢は千年は余裕で超えているであろう巨木の木の下に彼はいた。チャイナ服にも見える独特な私服、前髪を2つに結んだ逆ツインテールといえる髪型、やや褐色気味の肌色、間違いなくシュウその人だった。

 

「…やぁ雷牙、久しぶりだね。そんなに僕に会いたかったのかい?」

 

最後に会った時と何一つ変わらない振る舞いだったが、今の雷牙にはどうしても不気味に感じてしまう。

 

「…なぁシュウ、俺聞いたぜ…この島に伝わる“伝説”をよ…。」

 

「…そうかい。僕も聞いた事があるよ、実に人間のエゴと敗者が辿る末路をありありと語ったいい物語だと思うね。」

 

島の伝承について話すシュウの言葉は明らかに悪意が込められていた。まるでその物語の敗者は自分だと言わんばかりに…

彼の反応を見て自分の想像が正しい事を確信した雷牙は恐る恐る言葉を発する。

 

「…単刀直入に言うぜシュウ。オマエがその“戦士”なんだろ…?」

 

雷牙自身でも出来れば自分の予想は外れて欲しいと願っていた。遥かに昔に生きていた人間が亡霊となる程の未練を残していると考えたくなかったからだ。

だがシュウの答えは雷牙に現実を見せるには十分だった。

 

「…もし僕がその“戦士”だったらどうするつもりだい?」

 

シュウの言葉はYESとのNOとのとれない内容だったが、揺れている雷牙の覚悟を決めさせるには十分すぎるものだった。

 

「…俺はオマエを見過ごす事は出来ねぇ…。オマエが本当に“亡霊”なのだとしたら、俺はオマエを助ける義務がある…!」

 

雷牙の言葉は100%の本心からのものである。自分には大切なものを失う無力感をよく知っている。だからこそ、シュウが抱えている“闇”を自分が受け止めてやらなくてはならない…そう思っているのだ。

 

「僕の“未練”を断ち切る…?中々面白い事を言うじゃないか。どうやって僕の“未練”を断ち切ってくれるか興味が沸くなぁ…。」

 

「白々しい態度をとりやがって、俺がこの場にいる時点で分かっているんだろ?」

 

そう言うと雷牙は手に持っていたボールを地面に置き、シュウに向かってドリブルを始める。この期に及んでもあくまで“サッカー”で勝負をしようとする雷牙を見たシュウは謎の既視感を感じつつも不敵に笑う。

 

「…それが君の答えか。いいよ、付き合ってあげるさ。ただしこの前と同じだとは思うなよ…?」

 

凄まじい殺気を放ち雷牙のボールを奪おうとするシュウ。この数週間で更に力を増した雷牙でさえも恐怖を感じる程の気迫はまさに“亡霊”と評してもいいだろう。

 

「ハハハ…!それがオメーが抱えた“闇”か…、しゃあ!いっちょいくぜッ!!!」

 

だが、未だにシュウとの実力差を埋められていない雷牙はただ彼に蹂躙されるだけだった。ボールを奪ったシュウは勝負ありと判断しその場から立ち去ろうとするもいつの間にか自身の目の前に雷牙が立ち塞がっている。

 

「もういいだろ雷牙…。僕の“未練”は君には関係無い筈だ。これ以上抵抗するなら本当に君は死ぬよ?」

 

「はッ!オメーの方こそ本当にいいのかよ…⁉︎ここで俺を見逃せば俺は何度でもオマエの前に現れるぜ…?」

 

どんなに痛めつけても折れる事のない雷牙のココロにシュウは苛立っていた。もうこれ以上の対話は無駄だと判断したシュウは本気で彼を叩き潰す事を決意する。

 

「“暗黒神…ダークエクソダス”…!」

 

漆黒の斧を携えた神を顕現させ雷牙へ襲いかかる。雷牙も金色の斧を携えた覇王を顕現させシュウへ立ち向かった。

 

「「うぉぉぉぉぉぉぉお!!!!」」

 

互いに雄叫びを挙げながら衝突しあう。2つの化身の衝突は彼らを中心に金色と漆黒の2色で構成された衝撃波を発生させ“神鳴り島”全域を包み込む。

数秒ほど経っただろうか?遂に片方のオーラが完全に消え去ってしまう…

 

「僕の勝ちだね雷牙。」

 

「……。」

 

“ダークエクソダス”の斧が雷牙の顔の前に向けられる。雷牙を見下すシュウとシュウを見上げる雷牙…彼らの姿はどちらが勝者でどちらが敗者かをハッキリと示していた。

しかし、不思議とシュウは彼に勝った気にはなれない。完膚なきまでに叩きのめした筈なのに…、彼の全力を自身の全力を持って打ち砕いた筈なのに…、未だに雷牙の瞳に宿る闘志の火は消えていない。

 

「何故なんだ…?何がそこまで君を奮い立たせるんだ…?君は負けたんだぞ…⁉︎それなのに…、なんでそんな目が出来るんだ⁉︎なんでまだ立ちあがろうとするんだ⁉︎」

 

シュウには理解出来なかった。彼の価値観ならば雷牙は既に何度も大切なものを失っている。家族…仲間…財産…そしてプライドでさえも…。それにも関わらず雷牙は戦意を失う事はない。

 

「答えろ…!君は全てを失っているんだぞ…⁉︎次に負けたら君の命すらも失ってしまう…!それなのに何故君は立ち上がるんだ⁉︎」

 

息も絶え絶えになりながらも雷牙は静かにそして力強く答える。

 

「…次に負けねぇ為だ…。」

 

「“次に負けない為”だと…?君は話を聞いていたのか⁉︎全てを失った君に支払えるものは命しかない!それなのに何故、次の事を考える必要がある⁉︎」

 

「確かに俺は肉体的には死ぬかもしれねぇな…。だがよぉ…俺は信じているんだ…、たとえ俺が死んだとしても…諦めなければ必ず誰かが俺の意志を継ぎ…!いつか必ずリベンジをしてくれるってな…!」

 

「そんなものは理想論でしかないだろう!!!」

 

「分かるんだよ俺には…、俺は小っせぇ頃に2度も親を亡くしてる…!2度目に家族を亡くしたあの日…、俺は自分の運命に絶望して死のうとした…!だがなぁ、あ?“サッカーバカ”に気づかせてもらったんだよ…!たとえ、肉体が死んでもどっかに魂を継いでいる人間はいるんだって事をな!!!だから俺は信じているんだ!!!人との繋がりを、そしてそれが生み出す本当の力をなぁ!!!!」

 

凄まじい雷牙の気迫によりシュウは無意識に後退りしてしまう。先ほどまでどん底にまで落ちていた筈の雷牙のプレッシャーは膨れ上がり、永い年月を彷徨っていたシュウでさえも初めて経験するものとなる。

 

「(な、なんだこのプレッシャーは…⁉︎これがただの人間に出せるものなのか…?これはじゃまるで…!)」

 

“怪物”…。その2文字がシュウの頭に浮かんだ瞬間、雷牙の姿がその場から消え去る。

 

「ど、何処に行った⁉︎」

 

「こっちだ…!」

 

声がした方向を向いた先にいたのは、身体が地面に着くすれすれまでに前傾姿勢となった雷牙だった。

 

「しま…!」

 

予想のしなかった死角から現れた雷牙に一瞬反応が遅れたシュウはボールを奪われてしまう。その瞬間、シュウの目には雷牙の姿が金色の立髪を携えた獅子の姿に見えたという…。

 

「勝った…、勝ったぞぉぉぉぉぉお!!!!」

 

遂に実力でシュウからボールを奪う事に成功した雷牙は円堂が乗り移ったかのように大声で叫び喜びを露わにする。

その姿を見たシュウはようやくずっと感じていた既視感の正体を理解する。

 

『私ね!お兄ちゃんが儀式をしているのを見るのが大好きなの!』

 

『へぇ?意外だね、どうしてだい?』

 

『だって儀式の時だけいつも無愛想なお兄ちゃんが笑ってるんだもん!それでね!そんなお兄ちゃんの動きを見てると感じるんだ!ビリビリ〜ってね!』

 

「(…久しく忘れていたな。サッカーを純粋に楽しんでいたあの時の事を…。)」

 

自分が最も忌み嫌っていた“敗北”を経験したのにも関わらず不思議とシュウは笑みを浮かべていた。その表情も以前のような作り笑いではなく、心の底からの“喜び”の感情を表していた。

 

「雷牙!明日の朝、日が昇る前にまたこの場所に来てもらえるかな?」

 

「あん?なんで?」

 

「エイリア学園って奴らを倒したいんだろ?僕が直々に鍛えてあげるよ。ただし、僕の特訓は生優しいものではないよ。三途の川を見る覚悟はできているかい?」

 

「はッ、上等だ!2度も三途の川を渡りかけた雷牙さんの覚悟を甘く見るなよ!!」

 

とりあえず今日は解散する事となり、雷牙は明日に向けてテントに向かう。帰り際に何気なく見た空には何光年もの時間を経て地球に届いた光が黒色のカーテンを彩っていた。

 




シュウの過去を少しだけ改変して八百長の件は削っています。そのせいで“神鳴り島”の住人の印象が悪くなっているけど飲み込んでください。

稲魂雷牙:目を覚さないかもしれないという医者の診断を覆し目を覚ましただけでなく傷すらも全快した主人公。病院関係者の話によると彼が眠っている間、度々紫の光が彼の病室から漏れ出ていた様子が目撃されていたらしいが…?

シュウ:“ゴッドエ…もとい“神鳴り島”を彷徨う亡霊。島に住む老人から伝承を聞いた雷牙が過去の自分と重ねた事で彼を救う為にサッカー勝負を挑んだ(?)最終的に雷牙の覚悟によって心を動かされ、雷牙に生前の自分の技術を託す事を決めた。

やるか分かんないけどエイリア編が終わったら番外編をやってみようと考えているので参考までにアンケートをとります。

  • オーガ襲来
  • 究極の絆グリフォン(チームゼロ戦のみ)
  • 正史版DE戦
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