深夜13時を回った時間帯。雲一つ無い綺麗な夜空の下で静かに瞑想をする人物がいる。
その人物の名は風丸一郎太。彼の持つ青髪は月明かりに照らされてより美しく輝きを放っている。
彼は既に1時間以上瞑想を続けていた。雷牙が雷門イレブンに復帰して以降、彼が身につけた気の効率化を各々がマスターするべく練習に励んだ結果、風丸が行き着いた先は瞑想による精神修行だった。
「……よし。」
彼はおもむろに立ち上がると急激に気を高め始める。次第に彼の周囲から濃い紫色のオーラが発生し始め、巨大な影を形成していく。数秒後には影の中から本体と同じ青髪を持ち、漆黒に染まった鎧を身に包んだ“魔帝”が顕現した。
これこそが風丸一郎太が先日のジェネシスとの戦いで覚醒した化身、“魔帝ダークエンペラー”である。
「…何度見ても悲しそうな顔をするんだなお前は…。」
改めて自身の化身と向き合った風丸は寂しそうに呟く。
“魔帝”の姿を見た者は誰しも風丸に似ていると思うだろう。だが本人には“魔帝”が自分に似ているとはとても思えなかった。何故なら自分以上にこれに酷似した人物を知っていたからだ。
『本当に羨ましいよ…俺も“お前”と同じ選択をあの時出来たならな…。』
風丸の脳内に響くのはジェネシスとの試合中に現れた“もう1人の自分”が最後に呟いたあの言葉…。
そもそも彼が本当にいたのか、自分の弱さが生み出した幻だったのかは未だに定かではない。しかし、“彼”が自分に後を託してくれた…それだけは否定しようのない事実である。
ガサガサ!
「…! 誰だ!!」
エイリア学園の刺客が自分を遅いに来たと思った風丸は語気を強めて警戒する。しかし草むらから出てきたのは風丸がよく知る人物だった。
「お〜お〜、そんなの怖い顔をしないでくれよ〜風丸。雷牙さんは悲しいぜ?」
草むらにいた人物の正体は雷牙であった。どうやら風丸がキャラバンを抜け出した事が心配で彼を見に来たようだ。
「なんだ稲魂か。悪いな、少し精神統一をしていて気が立っていたみたいだ。」
「俺も覗き見して悪かったなぁ。だが練習のしすぎも身体に悪いぜ?少し休憩したらどうだい?」
「あぁそうしようかな。」
雷牙の勧めで練習を中断した風丸はその場座り込む。雷牙は彼の隣に座り満点の星空を見る為に寝転がった。
「綺麗〜な星空だよなぁ〜。風丸もそう思うだろ?」
「星空か…。今まで何度もキャラバンで過ごしてきたがそんなものを見る余裕は一度も無かったな…。」
「おいおい、オメーらはずっと日本を回ってたんだろ〜?こんな綺麗な星空をじっくり見ないなんて人生の損だぜ〜?」
「…確かにな。」
雷牙が倒れてから風丸はずっと彼の代わりになろうと努力していた。しかし楽観的な性格の雷牙とは異なり神経質な風丸は知らず知らずに自身を追い詰め、いつのまにか心に余裕を無くしていた。そんな中星空を見るなどという娯楽に時間を費やす事を自身が許さなかったのだ。
「…お前が俺を庇って昏睡状態になってから…俺は1日でも早くエイリア学園を倒さなきゃって思ったんだ。」
「ほぉ〜ん。それって俺の仇打ちって事かい?」
「まぁそうだな。けど事の大きさは俺が思っていたよりも大きかった…。ようやくジェミニストームを倒したと思ったら奴らよりも強いイプシロンが現れた…、イプシロンに追いついたと思ったら更に強いジェネシスが現れた…。正直福岡でのあの戦いは心が折れかけたよ…あそこまで先の見えない力の差を見せつけられたのは初めてだったからな…。」
「でもオマエはそれを乗り越えて今ここにいる…。それが結果だろ?」
「そうだな…確かに俺は先に進む事を選択出来た。だけどな、あの試合途中…、俺は見たんだ。“先に進めなかった俺”の姿をな…。」
「“先に進めなかった自分”?なんだそれ?」
“先に進めなかった自分”の姿を思い出した風丸は自身の身体が無意識に震えてしまう。あと一歩のところで自分も同じ道を歩んでいたかもしれない事に恐怖を感じているのだ。
「なぁ稲魂、お前は“ifの世界”を信じるか?」
「“ifの世界”?それって所謂“パラレルワールド”って奴か?う〜ん…考えるだけってなら結構面白そうだけどな〜、“士郎が熱也の人格を宿しま二重人格者になってサッカーする世界線”とか“老害と化したおばさんが暗器を使う使徒を世界各国に送り出してサッカーを支配しようとする世界線”とかな〜。」
些かピンポイントすぎる世界線ばかりを想像する雷牙を見て風丸は苦笑いを浮かべるもそのような独特な世界観を持ってこそ稲魂雷牙であると改めて思う。
「多分俺は生かされたんだと思う“ifの自分”にな。だからこそ“彼”に報いる為に戦い続けようと思うんだ。途中で心が折れかけるかもしれないけど、その度に立ち上がってやる。それが俺が見つけた
自分が見つけた“強さ”を語る風丸の表情は以前のような迷いは一切感じられなかった。その姿を見た雷牙は“
「いい答えじゃね〜か。うっし、俺ちゃんはそろそろ寝ようかね〜。睡眠不足はアスリートの敵だからなぁ〜。」
「俺ももう寝るか…。あっそうだ、このノートをお前に返すよ。」
風丸は旅立ちの日以降、肌身離さず持っていた雷牙の必殺技ノートを元の持ち主に返した。返されたノートを見た雷牙は急に冷や汗をかき始め恐る恐る風丸に問う。
「あ〜これか〜…。…なぁ風丸、コレ確かヨネさんから貰ったんだよな…?あの人…このノートの事なんて言ってた…?」
「えーと確か、お前が考えた必殺技を書き留めたノートだって聞いていたが…?」
「…そっかならいいや。よ〜し!パッパと寝て明日に備えるぞ〜!」
そう言って雷牙はピュ〜と走ってキャラバンへ戻って行った。だが風丸は見逃さなかった……一瞬だけ雷牙が悲しそうな顔をしていた事を…。
___________
〜次の日〜
「さぁ!今日も張り切って練習だ!」
バーンとの対決から一夜明け、円堂は練習のモチベーションを更に上げていた。どうやら彼との戦いは円堂に良い刺激を与えてくれたようだ。
「おーーっすーー!!!」
練習をしようとした瞬間どこからか聞き覚えのある声が聞こえてきた。円堂達は声の方向を見ると、そこにいたのは背中に大きな籠を背負った土方だった。
「土方!どうしたんだ急に?」
「よかったら食ってくれ!家の畑で取れた新鮮な野菜だ!」
「おおー!東京じゃお目にかかれないほど新鮮な野菜だ!助かるよ。」
土方が持ってきた野菜を見た古株は彼に感謝の言葉を送る。他のメンバーも同様に感謝の念を送ると土方は豪快に笑った。
「ガッハッハ!気にすんな!お前らには地球を守ってもらってるんだ、いつも元気でいてもらわないとな!」
土方の差し入れにより俄然やる気が上がった雷門イレブンは練習を再開しようとすると、再び来客が現れた。
「おーーい円堂ーー!!」
「あれ、土方?また俺を呼んだか?」
「いや俺は何も言ってないぞ?それに今の声は海の方から聞こえたような気がしたが…。」
「こっちだ!こっちーー!!!」
「あれって…綱海⁉︎」
なんとそこにいたのは数日前に別れた綱海だった。巨大な波をスイスイと乗りこなし、波をジャンプ台にし数mはあろう高さまで跳躍する。
「イヤッホーー!!!」
サーフボートと共に跳躍した綱海は何事もなかったかのようにその場から飛び降り、円堂の前に着地する。流石は雷牙と鬼道が認めた身体能力の持ち主である、その脚には傷一つ無かった。
「あの高さから飛び降りるなんて中々の度胸ですね…。」
「あっ目金、その場から動かない方がいいーぜ。」
「はい…?それってどういう意 もぎゃぁぁぁぁあ⁉︎」
2度目の目金の情けない叫び声が空に木霊する。それもその筈、彼のすぐ真横には先ほど綱海が乗り捨てた“273”の数字が印刷されたサーフボートが地面に突き刺さっていた。
「よう!探したぜ円堂!」
「探したぜ円堂じゃないですよ!こんなもんで飛んで来て〜!」
「悪りぃ悪りぃ!お前らを見つけたらいても立ってもいられなくなってな!」
『悪りぃ悪りぃ』で済まされた事に納得のいかない様子の目金だったが、綱海には一度命を救われている身である為これ以上は何も言えなくなる。
「なぁ円堂、俺達のチームとサッカーしねぇか?」
「え?でもこの前聞いた時はサッカーをした事がなかったって言ってたよな?」
「あぁ!でもあの日の事が忘れられなくてよー!だからサッカー部に入ったんだ!まぁノリだよノリ。」
『ええっ〜〜⁉︎』
そう言うと綱海はどこから水色のユニフォームを取り出し、その場で着替えた。彼の胸には“海”の一文字が印刷されている。
「んでよ!サッカー部のみんなにお前らの事を話したら、それはフットボールなんちゃらって大会で優勝した雷門中に違いないって話になってなー。どーしても試合がしたいって聞かなくてよー。なっ?いいだろ円堂?俺の顔を立てるって思ってよー。」
「そりゃもちろんO「駄目よ。私が許可しないわ。」ってええ⁉︎」
円堂が試合を了承しようとした瞬間、瞳子が円堂の言葉を遮った。
「なんでですか監督⁉︎」
「私達の目標はエイリア学園を倒す事。まだイプシロンすらも倒せていない今、何の練習にもならない地元のチームと試合をする余裕は無いわ。」
「よーよー監督さんよー。何の練習にもならないってのは流石に言い過ぎじゃねーか?こう見えても俺達“大海原中”は沖縄じゃピカイチの実力を持つチームらしいぜ?本来だったらフットボールなんちゃらって大会にも出る予定だったらしいしな!」
「FFにか⁉︎でも出る予定って何があったんだ?…まさか!影山の妨害か⁉︎」
「んー影山って奴が誰か知らねーけど、どうやら地区予選の決勝戦の日に村祭りがあったらしくてよー。そこで監督が試合の事を忘れて踊りまくって試合に遅刻したんだとよ。で、気がついた時には集合時間を過ぎて不戦敗だったらしいぜ。まっ!そういう事もあるよな!」
『あるか!』
綱海の能天気な感想に思わずツッコミが入る。普通の人間なら一生モノのトラウマになりそうな事があってもいまだに監督の座に着いているあたり、大海原イレブンの呑気さがよく分かる。
しかし彼らの代わりにFF本戦に出場した学校は世宇子によって全員病院送りにされている為、もしかしたら結果オーライだったのかもしれない。
「まぁそれより試合だ試合。少しは試合をする価値も出てきたんじゃねーか?」
「お願いします監督!俺は綱海たちと試合をしてみたいんです!」
「俺からも頼みますよ監督。それにアンタはまだちょっとしか俺のプレーを見てねぇだろ?そんなんじゃ俺の実力をフルに発揮できる指示を送れるとは思えないね。」
雷牙を筆頭に次々と大海原イレブンとの試合を望む生徒が増えた為、瞳子はこれ以上意地を張るのはチームの士気を下げかねないと判断し、仕方なく試合をする事を了承する。
「…分かったわ、好きにしなさい。」
「よっしゃあ!そんじゃあ行くか、みんな待ってるからよ!」
『おおー!!!』
こうして雷門イレブンは綱海に案内され大海原中まで移動するのだった。
__________
「へぇ、ここが大海原中か〜。俺こういう雰囲気の場所ケッコ〜好きかも。」
「同じ海の上でも“真・帝国学園”とはえらい違いだな。」
大海原中は綺麗な珊瑚や魚達がよく見える透き通った青い海の上に建てられた水上学園だった。
鬼道の言う通り、同じ海の上にある学校でも牢獄のような“真・帝国学園”とは異なり、まさしく海上のリゾート地と評しても問題ない後穏やかな雰囲気だ。
「こんな綺麗な所で毎日サッカーが出来るなんてこの学校の生徒は幸せね〜!」
「それよりもお前が言っていたサッカー部はどこだ?グラウンドには誰1人いないようだが?」
予想外の大海原中の設備につい気を緩める雷門イレブンだったが、鬼道だけはいつも変わらない険しい表情だ。何故なら綱海に案内されたグラウンドにはサッカー部が1人もいなかったからだ。
その時何処からか小さな花火が打ち上がり、むさ苦しそうなおじさんと大海原中の生徒が飛び出した。
「サァプラァァァアイズ!!!」
突然の出来事に唖然とする円堂達だったが、そんな彼らにむさ苦しいおじさんが近づく。
「驚いた?驚いた?ねぇねぇ驚いた?ガッハッハ!やったな皆!この日の為準備してた甲斐があったな!」
まるで子供のようにサプライズの結果を聞いて回るおじさんに皆少し引いている。
「あれが大海原イレブンの監督…?」
「ハッハッハ!いいノリだろ?」
「な〜んか腰が軽そうなおっさんだねぇ。ありゃそこらへんでしつこくナンパしまくって女から嫌われるタイプだな。」
雷牙の考察は正しく、大海原の監督は瞳子を見るなり鼻の下を伸ばしながら話しかけた。
「おお!貴方が監督さんですな!こんな所で会えるなんて感激ですなぁ!見てましたよ〜!あのFF決勝戦で見せた完璧な采配!まさに監督の鏡!いや〜どうですかな、この後星空を見ながら優勝監督の監督論を!」
「…ありがとうございます。そこまで言われて響木監督もさぞ喜ばれているでしょうね。今度彼に伝えておきましょう。」
「へっ…彼?あ、あぁ…俺とした事があまりにも響木監督と似ていたものでつい間違えてしまいましたよ〜!」
「ほらな?」
『あはは…。』
「…貴方達のチームっていつもこんな人ばかりなの…?」
直射日光から身を守る為に日傘をさしている夏未である。どうやら夏美は真面目な分、自身の理解を超える現象を目にすると不快感を露わにするタイプのようだ。
「あぁ!みんな毎日ノリノリだからな!こいつは毎日親父さんと船に乗ってるし、こいつは家がノリヤマ町で、こいつのかーちゃん海苔屋のノリコ!」
綱海の言う“ノリノリ”の基準がよく分からない夏未は余計に頭が痛くなる。
「でもこの中で1番ノリがいいのはあいつだぜ!」
綱海が指を刺した先にはヘッドフォンを耳につけ中から流れる音楽のリズムに乗っている青髪の少年が立っていた。
「あいつの名前は音村楽也。チーム1のノリノリ男さ!」
「君達の事は綱海から聞いているよ。試合、楽しみにしているから。」
音村はそう言うと、試合をする為にその場から離れた。
「アレだな、秋葉名戸と似たような匂いを感じる奴らだな。」
「…帰っていいかしら?」
まだ大海原イレブンと会って10分程しか経っていないにも関わらず、既に精神の我慢の限界を迎えた夏未。果たして彼女の精神は試合終了まで持つ事が出来るのか?
割とどうでもいい話なのですが最近、“逆転裁判シリーズ”を全作クリアしました。そのノリで逆裁の二次創作作品を書いている途中なのですが、トリックを考えるのが難しくて断念してます…。