イナズマイレブンHEROS!!!   作:月兎タンク

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お待たせしました。やっと時間が取れるようになったのでぼちぼち再開していきまーす。


大海原での再戦。そして……

ピッー!

 

『さぁ!遂に始まりました、雷門VSイプシロン・改との決戦!大阪での試合以降更なる強化を遂げたイプシロンに雷門イレブンはどう対処するのかぁぁぁぁあ⁉︎』

 

 試合開始早々、ボールを受け取ったゼルはトップスピードで攻め上がる。だが雷門が取った行動は彼らでも予想していないものだった。

 

『な、なんとぉ⁉︎雷門イレブンは誰1人動かない!強敵イプシロンに対してこの対応!これは一体どんな作戦なのかぁぁぁあ⁉︎』

 

 そう雷門イレブンが選択したのは“静止”だった。文字通り誰1人動く事なく素通りさせる雷門の姿を見て、自らのプライドを傷付けられたゼルは青筋を立て怒りを露わにする。

 

「何を考えている雷門イレブン…!だったら容赦なく行かせてもらうぞ!!!マキュア、メトロン!」

 

 イプシロンが誇るエースストライカー達と共に攻め上がるゼル。彼らが揃ったという事はあの技を発動する前触れだ。

 

「「「“極ガイアブレイク”!!!」」」

 

 更なる強化を果たした“ガイアブレイク”を前にしても誰もディフェンスに入ろうとはしない。シュートがDFエリアを突破してようやく最後の砦である円堂が左脚を天高く上げた。

 

「“正義の鉄拳G2”!!!」

 

「何だと⁉︎」

 

 彼らと同じく進化を遂げた“正義の鉄拳”が完膚なきまでに悪を打ち砕き、ボールを遥か遠くへ弾き飛ばす。

 

『と、止めたぁぁぁあ!!!キーパー円堂、新たに習得した必殺技で強化された“ガイアブレイク”を吹き飛ばしたぁぁぁぁぁあ!!!』

 

 まさかパワーアップした自分達のシュートをいとも容易く止められるとは思っていなかったゼル達は唖然としている。彼らの動揺は他のメンバーにも伝播していったが、ただ1人だけ笑みを浮かべる者がいた。

 

「ククク、そうこなくては面白くない…!!!」

 

 デザームは不敵な笑みを浮かべながらこれから始まる激闘に胸を躍らせる。時を同じくして円堂もチーム全員への鼓舞を送る。

 

「みんなぁ!ここから反撃だ!!!」

 

『おう!』

 

 円堂の活躍により士気が高まった雷門イレブンは怒涛の攻めを見せ次々とイプシロンのディフェンスを突破していく。ここでようやく先ほど雷牙から言われた言葉が強がりではないと実感したイプシロン達は遊びを捨て全力で雷門を潰しにかかる。

 

「“真グラビテイション”!」

 

 チーム一の巨体であるタイタンの必殺技が雷牙に直撃する。彼が使った技は“グラビテイション”。周囲に特殊な空間を作る事で相手に普段の数倍の重力を発生させ身動きを取れなくさせるディフェンス技である。ボールが地面にめり込んだ事を事を確認したタイタンはボールを奪おうとした瞬間、自身の目の前に稲妻が走った。

 

「何⁉︎」

 

「おいおい少し気を抜きすぎじゃねぇか?この雷牙さんにかかればその程度の重力なんぞ屁でもねぇんだよ!」

 

 ボールを奪う為に技を解除した一瞬の隙を突き、持ち前の瞬発力を駆使してタイタンを突破した雷牙は続いてディフェンスに入ったモールとケイソンすらも悠々と打ち破っていく。

 

「さぁ来い!稲魂雷牙よ!!!ジェネシスをも圧倒したその実力、この私が打ち砕いてくれる!!!」

 

 余程彼との対決が待ち遠しかったのだろうか。デザームはいつも以上に興奮した口調で雷牙へ宣戦布告する。

 

 しかし雷牙の方はどこか乗り気ではない表情をしている。

 

「ん〜…、ここは1つ…パ〜ス!」

 

 何故かデザームとの対決を避けバックパスを回す雷牙。彼の行動を予想出来なかったイプシロンは一瞬反応が遅れ、パスが通ってしまう。

 

『おーーっと!稲魂ここでバックパス!そしてそのボールを受け取ったのは…

 

 

 

 

吹雪熱也だぁ!!!』

 

 ボールを受け取った熱也は以前とは比較にならないスピードでデザームに向かって走る。しかしその姿は今までの吹雪のような荒々しいものではなく福岡で散った兄、士郎を思わせる無駄のない華麗な走りだった。

 

「勝負だデザームッ!!!」

 

「ほぉ吹雪熱也か…。まぁいい、メインディッシュは後に取っておくとしよう。」

 

「その薄ら笑いを止めてやるぜ!」

 

 最早自分に興味のないデザームに苛立ちつつも、熱也はシュートの体勢に入る。だがその体勢は“エターナルブリザード”ではなく、全く違ったシュートフォームだ。

 

「でりゃあぁぁぁぁあ!!!」

 

 目にも止まらぬ速さで三度ボールに蹴りを入れると熱也の背後から巨大な銀狼が姿を現した。しかしまだ未完成のようですぐに銀狼のオーラも消え去ってしまったが、放たれたシュートの威力は“エターナルブリザード”を既に超えている。

 

「ぬぅ!“ドリルスマッシャーA”!!!」

 

 熱也の新たな必殺技の威力を見たデザームは直前で“ワームホール”から“ドリルスマッシャー”に技を変更する。その判断は正しかったようで、ゴールラインギリギリまで移動させられつつも何とかシュートを止める事に成功した。

 

「チッ!やっぱ兄貴がいねぇと中途半端な威力しか出ねぇか…。」

 

「ククク…ハーハッハッハ!驚かされたぞ吹雪熱也ァ!!まさか兄のいない貴様が1人でここまでのシュートを放てるとはな!!!」

 

「うるせーよ!次は決めてやる!」

 

「ククク、それは不可能だな。見たところさっきの必殺技はまだ完成していないのだろう?稲魂雷牙をFWに上げているのがよい証拠だ。だが誇れ、貴様は確かに強くなった、それだけ認めてやろう。」

 

 熱也が強くなった事を認めるデザームだが、未完成の必殺技では彼の興味を引く事までは出来なかったようで、既にデザームの目線は雷牙へ移っている。

 

「おいお〜い、そんな充血した目で俺を見ないでくれよ。見てるコッチまで目が痒くなっちまうだろ?」

 

「ククク…、貴様がその気にならないのならばこちらにも考えがある!!」

 

「ん〜?」

 

 なんとデザームは手に持っていたボールを雷牙の方へ転がした。

 

『な、なんとぉーー⁉︎まさかのデザーム、ミスプレーだぁーーッ!!!しかもゴール前には稲魂とデザームの1対1!圧倒的に雷門有利の状況です!!!』

 

「…どうゆうつもりだ?」

 

「先ほども言っただろう?私のメインディッシュは貴様だ、稲魂雷牙。貴様は強い、雷門の中で圧倒的と断言出来るほどにな。仮に貴様が我らの傘下になったならば確実にマスターランクチームのポストが約束されるだろう。」

 

「そりゃど〜も。」

 

「だからこそ!!貴様を倒したならば、エイリア皇帝陛下は必ずや我らファーストランクチームにもジェネシスへの争奪戦への切符をくださるだろう!!!」

 

 “ジェネシス”…、それは彼らの元締めであるエイリア皇帝から最強と認められたチームにのみ名乗る事を許される名。

 …だが“ジェネシス”の名を賭けた争奪戦に参加する事が出来るのはエイリア学園の中でも上澄みであるマスターランクチームのみ…。それ以外のチームには最初から挑戦する権利さえ与えられないのだ。

 だからこそデザームは雷牙との対決に拘るのだ。陽花戸中にてその“ジェネシス”すらも圧倒した実績のある彼に打ち勝てば自分達は“ジェネシス”を超えたも同然だからだ。

 

「…じゃあお望み通り、ここはいっちょ“イナビカリブレi「違うッ!!!」 ッ!」

 

 シュートの体勢に入ろうとした瞬間、何故かデザームは突如大声を上げ雷牙を静止させる。

 

「んだよ?“イナビカリブレイカー”じゃ不満かドリルくん?」

 

「フン、本当に白々しい真似をする奴だ。貴様の切り札は“イナビカリブレイカー(それ)”ではなかろう?何の考えがあって出し惜しみしているかは知らんが、私が見たいのはネロを破ったあの技だ!」

 

「……へいへい。だったら見せてやんよ、この俺が誇る最強、最大、最高の必殺技をなぁ!!!」

 

 デザームからの要請を受け仕方なく“イナビカリブレイカー”を中断し、ボールを天高く上げ雷牙自身も同じ高さまで飛翔する。ボールに追いついた雷牙は誰もいない方向へボールを蹴ると同時に彼の姿が消えたと思うと次の瞬間にシュートの落下地点へ移動する。それを何度も繰り返していると次第にシュートの軌跡が巨大な球体を作り上げ、その中から巨大な獅子が姿を現した。

 

「怪我しても文句は言うなよ!!!“カイザーレオーネ”!!!」

 

 皇帝の名を冠した獅子の咆哮により蓄積されたエネルギーが一気に放出されデザームに襲いかかる。

 

「そうだ!!!あのネロですらも止められなかったこの技を私が打ち破る事を何度夢見た事か!!!貴様の獅子は私が狩らせてもらう!“ドリルスマッシャーA”!!!」

 

 雷牙の本気に対しデザームも出し惜しみなく自身の最高技を持って立ち向かう。だが幾らパワーアップしたデザームであっても“神鳴り島”での地獄の特訓を終えた雷牙との実力差は歴然であった。

 

「ぐッ…!ぬおぉぁぉぉぉお!!!」

 

「で、デザーム様が押されているだと…!」

 

「あ〜あ言わんこっちゃねぇ。だから敢えて使わなかったのに。」

 

 確かに“カイザーレオーネ”は化身を除いた必殺技の中では最高の威力を持つ技である。その威力は“イナビカリブレイカー”すらも優に凌ぎ、スピードも“オーバーサイクロン”に匹敵する凄まじいものだ。

 では何故この技を使用する事を雷牙は躊躇していたのか?理由は単純、“カイザーレオーネ”はあまりにも強すぎる技であるからだ。強すぎて試合がつまらなくなる等の生易しい理由ではない、文字通り威力が強すぎる余り人を気付けてしまう可能性があるからだ。

 だからこそ雷牙はこの技を簡単には使わないように決めた。奇しくもその理由は円堂大介が究極奥義を封印していたものと同じだった。

 

「わ、私は負けん…!貴様に打ち勝ち‥我らイプシロンこそが“ジェネシス”の称号を手に入れるのだ…!」

 

 必死に耐えようとするデザームだが、当の雷牙は最早勝負を決したと確信し次のプレーに備えてその場から立ち去る。その瞬間、彼の動きと連動するかのようにボールはデザームのドリルを粉砕し、ゴールネットを激しく揺らした。

 

『ゴーール!!!稲魂雷牙、あのデザームから単騎で先制点を奪ったぁぁぁぁぁぁあ!!!この男は一体どこまで強くなれば気が済むのかぁぁぁぁあ⁉︎』

 

「よっしゃぁぁぁぁあ!!!」

 

「凄いっス稲魂さん!」

 

 更に強化されたイプシロン・改に互角以上に立ち回るどころか、先制点を獲得した事により雷門イレブンは湧き上がる。

 

「で、デザーム様大丈夫ですか⁉︎」

 

 デザームの右腕であるゼルは彼の身を案じて駆け寄る。流石のデザームも“カイザーレオーネ”をまともに受け切る事が出来なかったようで、大きく体力を消耗し肩で息をしている。

 

「ハァ…ハァ…、ククク‥ハーハッハッハ!!!」

 

「で、デザーム様…?」

 

 負けたのにも関わらず突然大声をあげて笑い出すデザームにゼルは困惑せざるを得なかった。

 

「素晴らしい…素晴らしいぞぉ雷門イレブン!!!よくぞここまで短期間で我々と互角以上の領域まで成長してくれたぁ!!!この高揚感こそが私の求めていたものだぁ!!!」

 

 今まで以上に歓喜に満ちた笑みを浮かべるデザームを見て雷門イレブンは完全に困惑していた。何せ今までのデザームは冷徹・冷酷・冷淡の3Rが揃った鉄の男だったのだ。それが今や円堂のような熱血キャラになっている、これを見て困惑しない方がおかしいだろう。

 

「…なんかアイツ‥キャラ変わってね…?」

 

「ま、まぁ雷牙のシュートがデザームの心に響いたって事じゃないか…?多分…。」

 

 突然のデザームのキャラ崩壊により先ほどまでの緊迫した空気が少し緩まったものの雷門イレブン達は再び気を引き締めて次のプレーに挑む。

 

 それからのプレーは完全に雷門優勢に戦況が傾いていた。如何にパワーアップした“イプシロン・改”といえど、それ以上の成長を遂げた雷門イレブンの前では完全に力関係が逆転していた。

 

「“超ガニメデプロトン”!!」

 

「“真ゴッドハンド”!!!」

 

「“真ワープドライブ”!!」

 

「させるか!“スーパーしこふみ”!!!」

 

 イプシロンが攻めては守護神の円堂に全てセーブされる状況が続く。イプシロンの中で唯一円堂を破る事が出来る可能性がある選手はデザームのみであったが雷牙がいる以上ゴール前を空ける事は難しい。

 そんな状況でも雷門イレブン…特に雷牙は一切の手加減をせずに攻め続けた。

 

「もう一点いっとくか!“カイザーレオーネ”!!!」

 

 追加点を得ようと再び“カイザーレオーネ”を放つ雷牙。すると…

 

「「「させるか!!」」」

 

 なんと先ほどまで前線に居た筈のゼル、マキュア、メトロンのストライカー三人衆がシュートを打ち返そうと間に入り込んだのだ。

 しかし流石の彼らでも皇帝の名を冠した獅子を打ち返す事は叶わずに吹き飛ばされる。彼らにとって幸いだったのはなんとか威力を緩める事には成功した事だ。

 

「フハハハ!!!ゼル、マキュア、メトロン!貴様らの働きを褒めてやろう!“ギガドリルクラッシャー”!!!」

 

 なんとここに来て新技を編み出したデザームは両手を前方に押し出し“ドリルスマッシャー”以上の大きさのドリルを出現させる。

 

「ぬう!!ぐぬぬぬぬぬ…!」

 

 “カイザーレオーネ”は新技の初登場補正なぞ知らぬと言わんばかりにデザームの身体をゴールラインに移動させていく。

 

 その様子を見ていた雷牙は再び自身の勝利を確信し背を向ける。その瞬間デザームの胸に装着された宝石が仄かに光り輝いていた事に気付く。

 

「(なんだアレ…?アイツの胸の宝石が光り輝いてやがる…。そういや名前知らん奴(抹茶ソフト)のチームにも同じ宝石が付けられていたな、何か意味でもあんのか…?)」

 

 すると驚くべき事に徐々に“カイザーレオーネ”の威力が落ち始め数秒後には完全に弾き飛ばす事に成功した。

 

「何だと⁉︎」

 

「ハァ…ハァ…、フフフ…ど、どうだ稲魂雷牙よ‥貴様のシュートを止めてやったぞ…!」

 

 なんとか“カイザーレオーネ”を止める事に成功したデザームだがそれでも体力の大半を持っていかれてしまっている。だが何故か彼の表情には笑みが漏れている。それは間違いなくサッカーを心から愛する者の笑みだった。

 

「…はッ。いいねぇ、中々面白ェヤローじゃねぇか!!!」

 

 まさかエイリア学園の選手がここまで純粋な笑顔を見せるとは思わなかった為少々驚いていたがすぐに我に帰り、デザームの挑発に不敵な笑みで返す雷牙。

 

 イプシロンキックオフで試合が再開する。残り時間も僅かとなっている、恐らくこのプレーがラストワンプレーであろう。

 雷門イレブンは変わらず雷牙を中心に攻めるプレーを、イプシロン・改はなんとしても雷牙のシュートを止めてカウンターによる得点を狙っている。

 互いに一歩も引かない攻防の末にボールを確保したのは雷門イレブンであった。

 

「「「“グラビテイション”!!!」」」

 

 1対1では雷牙を止められないと判断したディフェンス陣は最後の抵抗として3人同時に“グラビテイション”を使用するという奇策に出た。

 実際その策は功をなし雷牙はその場から一歩も動けなくなってしまう。

 

『流石の稲魂も一歩動けません!!このままイプシロン・改のカウンターが決まるのかぁぁぁぁあ!?』

 

 その瞬間彼の背後から凄まじい雷鳴が鳴り響き、DF全員が吹き飛ばされてしまった。

 

「いや〜悪りぃなぁデザーム、コレに関しては別に隠そうとなんてケチな真似をしようとしたわけじゃねぇんだ。ちょっちコレは体力の消耗が激しくてよ〜。使うなら後半って決めてたからなぁ!」

 

 遂に顕現した“雷鳴の覇王 レグルス・マキシマム”。これこそが雷牙の持つ化身である。

 

「それが“化身”とやらかぁ…!素晴らしいぞ!さぁこい!」

 

「これで終ェだ!“マキシマム・オブ・レグルス”!」

 

 遂に降臨した“レグルス”の巨斧が振り下ろされる。化身のエネルギーを限界以上に注入されたシュートは“イナビカリブレイカー”とは比較にならない程の稲妻を纏いながらデザームの守るゴールへ向かっていった。

 

「フン!!!“ギガドリルクラッシャー”!!!」

 

 デザームも彼の全力に応えるべく“ギガドリルクラッシャー”を発動し立ち向かう。

 

「ぐぬぬぬぬぬ…!」

 

 何度も言うが化身は通常の必殺技の完全上位互換に当たる技である。故にそのシュートを止める為には同じく化身のキーパー技を使用するしか方法は無い。通常技で止められるのは余程の実力差がなければ不可能である。

 残念な事に現時点のデザームには雷牙との間に圧倒的な実力差があった。それにも関わらずギリギリの所で踏ん張れているのは彼のプライドがそうさせるのか…、それとも彼の胸に装着された自身の力の源(エイリア石)がそうさせるのか…。

 

「ぐ…ぐわぁぁぁぁあ!!!」

 

 永遠にも思えた勝負に勝ったのは雷牙だった。粉砕されたドリルと共に宙に舞ったデザームは全ての景色がスローモーションに見えた。

 

 彼は気付く。今度こそ自分は雷門に負けたのだと。

 

 彼は思う。もっと自分に力があったならと。

 

 彼は悔やむ。自分に付いてきてくれたイプシロンの皆に申し訳ないと。

 

 

 

『悔しいか“私”よ?』

 

 様々な想いが交差する中自分の頭の中に声が響く。その声は自身が敬愛するエイリア皇帝陛下のものではなかった。

 

 だがどこか懐かしく、どこか聞いた覚えのある声だ。

 

『どこを見ている“私”よ?私はこっちだ。』

 

 謎の声のする方向を向いた瞬間、デザームの意識は突如途切れてしまった。

 

 

____________

「ここは…?」

 

デザームは気がつくと何も無い真っ白な空間の中にいた。

 

「…そうか私は負けたのだな。フフ…惨めなものだ、エイリア皇帝陛下より“エイリア石”を授かりながらも結局は敗北するとはな…。これではレーゼになんと言われるか分からんな。」

 

 自らが敗北した事を思い出し自虐的に笑うデザームだが、ふと違和感を覚える。先ほどまで自分は大海原中のグラウンドで雷門と試合をしていた筈だ。だが今いる場所は辺り一面が真っ白で物らしい物も何一つ無い場所だった。

 

「…そもそもここは何処だ?私は雷門イレブンと試合をしていた筈…。」

 

『ここは貴様の精神世界だ●木●治よ。』

 

「誰だ⁉︎」

 

 再び自身の脳内に謎の声が響く。今度こそその声の正体を暴こうと周囲を見渡すと突如自身の目の前に立つ人間がいた。

 同時にデザームは声の既視感の正体に気付く。それもその筈である声の主と思わしき人間の姿は最後に見た鏡に映った自分の姿と瓜二つであったからだ。

 

「…誰だ貴様は?何故私と同じ姿をしている⁉︎何故私の本当の名を知っている⁉︎」  

 

 デザーム…否、●●沼の質問に対し、“デザーム”はやや呆れながらも淡々と答える。

 

『質問の多い奴だな“私”よ。だが幸いな事に貴様の疑問は一言で答えられる。私は“お前”だよ。貴様が理想とする戦士の(ビジョン)であり、貴様がなりたかった自分そのものだ。』

 

「俺がなりたかった自分…。」

 

『悔しかろう私よ…。貴様はエイリア皇帝陛下に絶大なる力を与えられたのにも関わらず“ジェネシス(最強)”の称号への争奪戦に参加すらさせてもらえなかっただろう?』

 

「くッ…!」

 

『貴様はエイリア学園で誰よりも強さを求めた男だろう…?日々“マスターランク”に昇格する事だけを求めて鍛錬を続けた結果がこれか…?』

 

「…ならどうすればいい?私は自分に出来るだけの事はした!寝る間も惜しんで鍛錬に明け暮れ、チームとの連携も完璧に極めた!だがそれでも“マスターランク”との壁は厚い…!!そして今稲魂雷牙にも敗けた…!」

 

 誰にも見せなかった弱さを初めて表に出した●木●治。そんな彼の姿を見たデザームはニヤリと笑うとある取引を持ち掛けた。

 

『貴様はもっと強くなりたいんだろう…?ならば私の手を取れ…、そうすれば貴様は誰よりも強くなれる…!』

 

「貴様の手を取れだと…?本当にそれだけで俺は強くなれるのか…?」

 

『ああ約束しよう…。貴様は誰よりも強い力を手に入れる…。』

 

 デザームの言葉に砂●●の心は大きく揺さぶられる。普段の彼ならばそんな怪しい取引に応じる事はまずないだろうが、不思議と目の前にいる男の言葉は強靭な精神力を持つ彼ですらも耳を傾けてしまう。

 

「俺は勝ちたい…!!!稲魂雷牙にも…バーンにも…ガゼルにも…アケボシにも…そしてグランにも…!!!」

 

『…取引は成立…と解釈してよろしいのだな?』

 

 ●木沼の言葉から取引は成立したと判断した“デザーム”はそっと彼の前に手を出し述べる。だが●木●の出した答えは彼の想定とは異なるものだった。

 

「取引が成立だと?貴様は何か勘違いをしているようだな?」

 

『何だと…?』

 

「俺が求めるのは互いに血の一滴になるまで全てを出し尽くした後に残る“勝利”のみ!!!貴様のような得体の知れない紛い物(・・・)の甘言にホイホイと乗る程落ちぶれてはいない!!」

 

 一連の会話で目の前にいる男が自身の姿を模した“紛い物”であると確信した砂木●は彼の手を払い除ける。

 

 自身の正体を暴かれた“謎の生物”は演技をする必要がないと判断すると、即座に醜悪な笑みを浮かべる。

 

『ククク…そうか、それが貴様の答えか…。本当に…本当に愚かだな。』

 

「何⁉︎ぐ…ぐあぁぁぁぁあ!!!」

 

 突如、砂●沼の体は光の粒子となり消え始める。その姿を見た“謎の生物”はゲラゲラと悪意に塗れた笑い声をあげる。

 

『貴様も勘違いをしていたようだなぁ…!!!初めから貴様には拒否権なぞないのだよ…!!』

 

「お、“俺”が消えていく…!き、消えて‥たまる…か…。」

 

 必死に抵抗する●木沼だったが、抵抗も虚しく完全に消え去ってしまった。とうとう1人になったデザームはその場から立ち去り誰もいなくなった空間内にて独り言を呟く。

 

『さぁ…復讐を始めようか…!』

 

 完全に砂●沼の肉体を乗っ取ることに成功したデザーム…否、デザームの姿を模した何かはゆっくりと肉体を立ち上がらせた。

_________

 

「何だ⁉︎」

 

 俺の“マキシマム・オブ・レグルス”がデザームの“ギガドリルスマッシャー”に勝ったと思った瞬間、突然デザームの身体がドス黒いオーラが溢れ出やがった。そのオーラは一瞬でゴール全体を覆ってしまいデザームとボールの姿は誰にも確認出来なくなる。

 

「な、何が起こっている⁉︎」

 

「デザーム様ァ!どうか返事をしてください!」

 

 …どうやらコレはイプシロンのメンバーにも予想外の事態のようだな…。にしても今更ゴールを変なオーラで纏ったところで何の意味があるんだ?まさか秋葉名戸みてーに審判の目を盗んでしょ〜もねぇ不正をするんじゃねーだろうなぁ?…いやぁ、あのプライドが高そうなデザームに限ってそんな事はねぇか…。

 

 数秒程経っただろうか、ようやくゴールを覆っていたオーラが収束して徐々にデザームの姿が見え始める。

 

 だがその瞬間、俺は見てしまった…。ボールを貪り食う悪魔みてーな謎の生物(・・・・・・・・・・)の姿を…。

 

「デザーム様、ご無事でなによりです!どうやら稲魂雷牙のシュートを止める事に成功したようですね!さぁここから反撃しましょう!」

 

「………。」

 

 さっき見た謎の生物は俺の見間違いだったのかゴール前に立っていたのは紛れないデザーム本人だった。ヤツの無事を確認したイプシロンの副キャプテンっぽいヤツがデザームに話しかけるが当の本人は何一つ返事をしやしねぇ。それどころまるで自分の身体の動きを確認しているみてぇな動きをしてやがる。

 

「で、デザーム様…?」

 

「! おい褐色!!!その場離れろ、すぐにだ!!!」

 

「ジャマダ…。」

 

 ヤツの変化に一番最初に反応したのは多分俺だった。動作確認を終えたデザームは突然さっきとは比べ物にならねぇ殺気を俺に向けてきやがったからだ。…いやそれは間違いだろうな…、ヤツの殺気を感じ取ったのは俺だけじゃねぇ…このフィールドに立っている全ての選手に向けていたものだったんだろうな。

 

「イナタマ…ライ‥ガ…。」

 

 デザーム(?)は突然途切れ途切れに俺の名を呼ぶとその場から姿を消した。

 柄にもないが神に誓ってもいい。俺は一度も瞬きをしていない。もっと言えば俺の中の”本能”が瞬きをする事を拒否していた。そして俺の動体視力は例え新幹線レベルのスピードの中でも周囲の景色を正確に捉えられる程のものだ。そんな俺でもヤツの姿を捉える事が出来なかったんだよ。

 

「何処に行きやがった⁉︎」

 

「ココダ…。」

 

 話は戻すが俺の脳みそがやっとデザームがいなくなった事を理解した瞬間には既にヤツは俺の目の前に立っていた。

 

「な、なんだと…⁉︎」

 

「セントウタイセイニウツレ…。キサマニハワタシノウォーミングアップノアイテニナッテモラオウカ…。」

 

 ようやく口を開いたと思ったら何故かデザームの口調は変わっていた。さっきまでは普通に流暢な日本語を喋っていたにも関わらず、急に言葉のイントネーションが変わったんだ。

 

「クソッタレがぁ!!!はぁあぁあぁ!!!“獅風迅雷”!!!」

 

 いつもの俺だったらアイツの口調を煽っていただろーが、今の俺にはそんな余裕は無かった。俺の中の“生存本能”か?それとも人間が持つ根源的な“恐怖”によるものか?理由は分からねぇがヤツが目の前に立っているだけで嫌な汗が止まらなかった。

 

 気付けば俺は“獅風迅雷”を発動していた。監督と鬼道からは耳にタコが出来るくれぇ自分達の指示があるまで使うなと釘を刺されていたがそんなのは関係無ェ、俺には分かる…今のアイツはデザームであってデザームじゃねぇんだよ!!!

 

「みんな!“フォーメーション2号”だ!デザームが稲魂の相手をしているうちに早く体制を整えるんだ!!!」

 

 鬼道もただならない事が起きていると察してくれたのか、対デザーム用に考案したポジションに変えるように指示を出す。

 

 早くしてくれよオマエら…。俺1人じゃそう長くは時間を稼げねぇぞ…!

 

 まだ“限界突破”の領域までは気を高められてねぇが、それでも使わないよりかは遥かにマシだ。俺はみんなの時間を稼ぐためにデザームに立ち向かった。

 

 

 

 

 

…でもその想いは呆気なく打ち砕かれた。

 

「なっ何処に…?」

 

「ソノテイドカ…。」

 

 結果だけを先に言えば俺は無傷だった。そりゃそうだ、だってデザームっぽいナニカは最初から俺と勝負するつもりは無かったんだからな。

 アイツは捉えられないスピードで俺の目の前から姿を消すと次の見た時には既にゴール前にいた。

 

 今思えばイエローカードのリスクを負ってでもアイツを止めるべきだったかもしれねぇ…。

 そう俺が思ったのはそこから経った数秒後の未来だった。

 

「ショウブダ…エンドウ‥マモル…。」

 

「くっ!はぁぁぁあ…“魔神 グレイト”!!!」

 

 脳の理解よりも先に“本能”で今のデザームは先ほどとは比べものにならない力を持っていると確信した守は化身を発動し全力で身構える。

 

 するとデザームは突然深淵の悪魔と形容出来る異形の怪物へと変貌した。

 

「な、なんだあの姿は…!」

 

「あれも化身なのか稲魂⁉︎」

 

 おいおい…。俺に聞かれても分かりっこね〜だろ?…だが1つだけ言える事がある。今のアイツは“ドロドロ”だ。ずっと感じていた嫌な気配の正体こそがあの“怪獣”なんだ…。

 

 怪獣化したデザームだった者はボールに膨大な気を集中させ、極大のビームと共に射出する。その威力はデザームのシュート技“グングニル”とは比較にもならない程凄まじい威力だった。

 

「逃げて円堂君!!!」

 

 守の身を案じた木野はアイツに逃げるように伝える。だけど雷門のゴールを守る守にとって逃げるという選択肢は初めからなかった。

 

「うぉおぉおぉぉぉお!!!“グレイト・ザ・ハンド”!!!」

 

 守の切り札である“グレイト・ザ・ハンド”を発動しデザームのシュートに対抗する。だがアフロディの化身技どころかグランの“流星ブレード”以上の威力を持つ謎の現象によるシュートの前ではアイツの黄金の右腕は完膚なきまでに粉砕されて化身ごとゴールに叩き込まれてしまった…。

 

『守ッーー!!!』

 

 “グレイト”の身体が撃ち抜かれた瞬間、俺は急いで守の元に駆け寄った。俺が駆け寄った時、守は完全に気を失っていた。

 断言する。アイツは日本でいや世界で一番タフなGKだ。今までシュートを受け続けて気を失った事はあったが、たった一撃でここまでのダメージを負った事は一度もねぇ…。それだけでさっきのシュートの威力がどれほどのものかがよく分かる。

 

イクセーラ…(いい気分だ…)。ヒサシブリニエタコノニクタイ…、ゾンブンニツカワセテモラオウカ…!!」

 

 元の姿に戻ったデザームもどきは狂気に支配された高笑いをフィールド全域に響かせる。俺は今一度ヤツの姿を見た瞬間ある変化に気付く。

 アイツの胸に収められた紫色の宝石が光沢の無くなった漆黒に染まっている。そしてそれに呼応するかのようにヤツの影も“怪獣”の姿になっていた。




まさかのデザーム様“ソウル”に覚醒……いや乗っ取りが正しいかな?彼の“ソウル”のデザインはイクサルフリートが使っていたモノと思ってもらったらOKです。
あと“カイザーレオーネ”に関して設定変更を行ったので過去回の描写を一部変更してます。

デザームもどき(仮):デザームの身体を乗っ取った謎の人物。闇丸を彷彿とさせる存在だが、彼の心の弱さが生み出した幻である闇丸と異なりその正体は完全に謎。ただ1つ言えるのはデザームと彼は別人である事だけ。
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