イナズマイレブンHEROS!!!   作:月兎タンク

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燃えよ豪炎寺

「ん?なんだ?」

 

 試合が再開する直前、突如観客席が騒つき出した事により円堂達はグラウンドに近付いて来る謎の人影に気付く。

 

 謎の少年はフードを深く被っておりその表情を読み取る事は出来ない。

 

 だが古くから雷門に所属する選手は直感的にその人物の正体を察した。

 

 雷門イレブンの陣地に到達した謎の少年は勢いよくパーカーを脱ぎ捨てその正体を皆に現す。

 

 少年はボロボロの雷門のユニフォームを身に纏い背中にはエースナンバーである10の数字が刻まれている。

 少年の身体中にある無数の擦り傷と焦げたような跡は彼がどれほど厳しい特訓を行っていたかの証明だ。

 まるで炎のように鋭い目、逆立った白髪。その存在感は世界中のスター選手にも引けを取らない。

 彼こそが雷門が誇るエースストライカー。その名は…!

 

『豪炎寺!!!』

 

 遂に現れた豪炎寺に円堂と雷牙は駆け寄る。

 

「待たせたな、円堂、雷牙。」

 

「ヘッ!お前はいつも遅いんだよ!」

 

「はッ、待たせすぎだバーカ。」

 

 遂に再会した3人は互いに拳を軽くぶつけ合う。

 

 そんな中再会を喜ぶ雷門イレブン達とは対照的に“デザームもどき”はその場に座り込み、動かなくなっていた。

 

「…ナルホド。奴ノ記憶ニヨレバ、アノ選手ノ名ハ“豪炎寺修也”…。底知レヌ才能ニヨリ“伝説ノストライカー”ト称サレタ“強イ奴”カ…。ククク…相手ニトッテ不足ハナイ…!」

 

 本体の記憶を読み込み、豪炎寺の情報を獲得した“デザームもどき”はよい玩具が現れてくれたといわんばかりに醜悪な笑みを浮かべる。

 

 その様子を遠目から見ていた雷牙は改めて豪炎寺に尋ねる。

 

「…んで?アソコでラリってる“デザームもどき”に勝てる見込みはあんのか、豪炎寺くん?」

 

 豪炎寺の復活に水を差すようだが、はっきり言って“デザームもどき”の力は異常だ。

 最低でもマスターランクチームのキャプテン達にも引けを取らないどころかそれ以上の実力を持っていると見て間違いないだろう。

 

 皆が豪炎寺に視線を向ける中、彼は静かにそして力強く答える。

 

「…さあな。とりあえずやれるだけの事はやってみるさ。」

 

 “デザームもどき”の見る豪炎寺の目は淡く光を放つ炎が燃えていた。

 

_______

 

ピッーー!

 

『さぁ雷門のゴールキックから試合が再開します!行方不明だった豪炎寺修也の復活により、雷門イレブンはイプシロン・改の鉄壁の防御を破る事が出来るのかァ⁉︎』

 

 円堂からボールを受け取った風丸は雷門一のスピードを駆使してボールを前線に運んで行く。

 

 当然、イプシロンのメンバーは彼を止める為にディフェンスに入ろうとする。

 すると背後から狂気の男の怒声がグラウンドに響き渡った。

 

「ナニヲシテイル“愚カ者”共ヨ…!!!私ハ“豪炎寺修也”ニ興味ガアルノダ…!勝手ナ真似ヲスルデナイ…!」

 

「で、デザーム様…。お言葉ですが、ディフェンスに入れと言ったのは貴方の命r「止めろ!クリプト!」ぜ、ゼル!」

 

 叱責を受けたクリプトは反論しようとするがゼルによって止められる。

 

 その様子を見ていた豪炎寺はイプシロンの中に渦巻く混乱を強く感じ取っていた。

 

「決めてくれ!豪炎寺!」

 

「…!」

 

 イプシロンの隙を突き、風丸は豪炎寺にパスを送る。

 

 先ほどの“デザームもどき”の叱責により豪炎寺をフリーにする事になったイプシロンの陣形はどうぞ好きに通ってくださいと言うようにゴール前のディフェンスがガラ空きになっていた。

 

「豪炎寺迷うな!今の奴の戦略に深い意味など無い!」

 

 鬼道の後押しもあり豪炎寺は一切の迷いを捨てドリブルを再開する。

 

「ソウダ…。貴様ニモ私ヲ更ナル次元ニ引キ上ゲル為ノ“肥ヤシ”トナッテモラオウ…。」

 

「…それはどうかな?」

 

 突如豪炎寺は不敵に微笑むと、膨大な量の気を炎に変換しながら放出始めた。

 

「あれは“ガザード”か…⁉︎」

 

「いや違ェ…!“化身”のオーラには限りなく近ェがアレは別モンだ…!」

 

 豪炎寺から発せられた不定形な炎は次第に人型のシルエットを形成すると紅蓮に染まった“魔神”が出現した。

 その“魔神”は円堂が使用する“魔神”と瓜二つであったが、彼とは異なり色は赤く、体型もややスマートに感じられる。

 

 背後から差し出された“魔神”の両手を踏み台にして烈風を纏いながら豪炎寺は飛翔する。

 そして主人の跡を追うように“魔神”も飛び立ち、数m以上はあろう高さに届いた瞬間、豪炎寺は灼熱の右脚を、“魔神”は熱血の右腕を同時に振り下ろしその名を叫ぶ。

 

「“爆熱ストーム”!!!」

 

 これこそが豪炎寺が沖縄での特訓によって編み出した“ファイアトルネード”を超える必殺技“爆熱ストーム”だ。

 

 火炎弾…否、火という言葉すらも生温く感じる程の熱を浴びたボールはもはや自らの身体を燃やしながら落ちていく“隕石”と同格と言ってもいい。

 

「ククク…ハーハッハッハ…!」

 

 そのような凄まじいシュートを前にしても“デザームもどき”は笑っている。

 その笑みは新たな強者の出現による歓喜ではなく、その真逆。弱者へ向けられるものだ。

 

 確かに豪炎寺のシュートは強力だ。だがそれはあくまで地球人目線での話。雷牙の“カイザーレオーネ”や化身技すらも幾度となく止めてみせた自分には通用しない事は分かっていたからだ。

 

「残念ダッタナァ…!!ソノ程度ノシュート…私ニハ通用シナi…グッ⁉︎」

 

 “デザームもどき”が“ソウル”を発動しようとした瞬間、突如彼は苦しみだす。

 彼に呼応するように胸に付けられた“エイリア石”は黒と紫の順番に点滅し始め、エイリア石が紫になった瞬間にようやく彼の身体が動き出した。

 

「フハハハ!!いいぞ!そうこなくては面白くない!“ギガドリルクラッシャー”!!!」

 

「で、デザーム様…⁉︎」

 

 彼の変化を真っ先に感じとったのは副キャプテンのゼルだった。

 先ほどまで狂気を宿していた瞳は彼がよく知る誇り高き戦士の瞳へと変化し、どこか違和感のあった口調も従来の流暢な日本語に戻っている。

 

 そんな事は露知らず、“爆熱ストーム”は自身の障壁となる鋼鉄の槍と激突する。

 

 デザームの“ギガドリルクラッシャー”も見事な技であるが、相手が悪かった。

 灼熱の炎を浴びたボールはゆっくりだが確実に鋼鉄の槍を溶かし、その衝撃に耐えられなくなった槍は徐々にヒビが入って行く。

 

 豪炎寺は自身の勝利を確信するといつぞやの金色の怪物と同じく背中を向け自陣へと歩き出した。

 

「ぐおおおおおおお⁉︎」

 

『ゴーール!復活した豪炎寺修也!新たな必殺技の“爆熱ストーム”でデザームの鉄壁の壁を文字通り溶かしきったァーーッ!これで雷門は2点目!このまま勝つのは雷門なのかァーーッ!』

 

「デザーム様ご無事ですか⁉︎」

 

 “爆熱ストーム”に敗北し地面に膝を突く主人の身を案じたゼルは最早キャプテンの事を信用していないチームメイトの静止を振り切り、彼に手を差し伸べる。

 

 だが彼の手は呆気なく振り払われてしまった。

 

「オノレ…砂木沼ァ…!余計ナ真似ヲ…!!」

 

 既に肉体の主導権を取り戻した“デザームもどき”は自身の怒りをゼルにぶつけ、立ち上がった。

 “デザームもどき”は顔中に青筋を立て、地球人には理解出来ない言語をブツブツと話している。

 

 彼の怒りの原因は実にシンプル。最強である筈の自分がデザームの横槍があったとはいえ点を許した事だ。

 

「“エイリア”共ヨ…!次ノプレーハ、スグニ私ニボールヲ回セ…!今度コソ“円堂守”ヲ壊シテヤル…!」

 

 “デザームもどき”の指示を聞いたイプシロン達は仕方なく指示に従う。

 

 FWからボールを受け取った“デザームもどき”は自身の怒りを爆発させ、先ほどとは比較にならないスピードで攻め上がって行く。

 

「来たぜ豪炎寺!いっちょ俺たち最強コンビの実力を宇宙人に見せてやろーぜ!」

 

「…いや待て雷牙。ここは…。」

 

 リベンジに燃える雷牙だが豪炎寺は彼を止める。彼に耳打ちをし自身の作戦を伝えると雷牙は渋々了承した。

 雷牙は“デザームもどき”のリベンジを諦め、体力を温存する為に必殺技無しでディフェンスに入る。

 当然“デザームもどき”に敵う筈がなく一蹴されてしまう。

 

「…フン!ワザワザゴール前マデ移動スルノモ面倒ダ…!コノ距離ナラバ威力ヲ落トサズニシュートヲ撃テル…!」

 

 そう言うと“デザームもどき”は“ソウル”を発動させシュートを放った。

 彼の言葉通り、ハーフラインから放たれたシュートの威力は一向に減少する気配はなく、雷門のディフェンスを容易く突破していく。

 

 ボールが円堂を捉えた瞬間、円堂は再び化身を発動し、黄金の右腕を力強く押し出す。

 

「“グレイト・ザ・ハンド”!!!」

 

 1度目の時と変わらず“グレイト・ザ・ハンド”を放つ円堂だが意図的なものだろうか、それとも無意識なのだろうか?通常の化身技を放つ体勢とは少し異なりどことなく“正義の鉄拳”を放つ際のモーションと似た体制で必殺技を放つ。

 

「無駄ダ…!貴様ガ“負ケ犬”トナッテカラ何分経ッタ…?1日カ…?1週間カ…?違ウナァ…マダ僅カ20分程度ダロウ…!!!ソンナ貴様ガ私ヲ“負ケ犬”ニ出来ルト思ウナァ…!!!」

 

「ぐぎぎぎ…!負けるもんか…!」

 

 必死に耐える円堂だが“デザームもどき”の言葉の通り、まだ彼との実力差は歴然だった。

 

 しかし“デザームもどき”はある違和感を抱く。先ほどシュートを撃った際は円堂は1秒も持たずに破られてしまった。

 だが今の彼はどうだろう?“グレイト”の右腕はヒビ割れ、徐々に押されているとはいえ未だに円堂は耐えている。

 

「ぐあああああ!」

 

『ゴーール!キーパー円堂、あと一歩力及ばずに得点を許してしまったァーーッ!これで2対2の同点に戻りました!後半も残りあと僅か!一体勝利の女神が微笑むのはどちらのチームなのかァーーッ!!!』

 

「ククク…、“女神”ガドチラニ微笑ムノカダト…?知レタ事ヲ…。円堂ヲ見ロ…モウアヤツハ立チ上ガル事ハ出来マイ…。」

 

 1度目よりも強力なシュートを放った“デザームもどき”は再び円堂が気を失った事を確信し自陣に戻ろうとする。

 

 だが彼はまだ理解していない。彼の目の前にいる男は何度倒れても強くなって立ち上がる“イナズマ魂”の権化のような男である事を…!

 

「待てよ…!まだ試合は終わってねぇぞぉ…!!!」

 

「何ダト…⁉︎」

 

 1度目よりも遥かに強く撃ったシュートを受けても気を失わない円堂を見て“デザームもどき”は驚愕する。

 

 後半戦も残り僅か、イプシロン・改が圧倒的に有利な以上アディショナルタイムに希望は無い雷門は必ず後半中に1点を取らなくてはならない。

 

 豪炎寺はボールを受け取るとすぐに化身を発動した。

 

「はあぁぁぁぁあ…!“炎魔 ガザード”零式!」

 

「ガザードもパワーアップしている!」

 

「行けるぞ豪炎寺!」

 

 化身を発動した豪炎寺は化身と共に縦横無尽に空を駆け巡る。すると彼の右脚に剣の形状をした炎が形成され、“ガザード”の右腕と共にシュートを放つ。

 

「“マキシマムファイア”!!!」

 

「これが豪炎寺の化身技か!」

 

「サッキハ思ワヌ邪魔ガ入ッタガ…次ハ同ジヨウニイクトハ思ウナ…!」

 

 完全にデザームの意識を封じ込めた“デザームもどき”は今度こそ“ソウル”を発動させ異形の怪獣へと姿を変える。

 

 無数の触手を使い幾度となく攻撃を加える事で“マキシマムファイア”の炎を掻き消しシュートを止めた。

 

「……。」

 

「ククク…絶望ニヨリ言葉モ出ヌカ…?ツマランナァ…“負ケ犬”ニナルノナラバ“負ケ犬”ラシク吠エヨ…!」

 

 ボールを確保した“デザームもどき”は再びゴール前から攻め上がる。

 

 だが豪炎寺は“デザームもどき”を止めようとはせずにスルーした。

 

「フン…“負ケ犬”ガ…。」

 

「へいへ〜い豪炎寺くんよぉ?少し冷たきゃねーか?言っちゃ悪ぃけど守じゃデザームもどきのシュートを止められないぜぇ?」

 

「だったらお前がディフェンスに入ればいいだろう?円堂には悪いが俺は勝利を求める人間だからな。あいつがこの程度の逆境を超えられない選手だったらそれまでの奴だったって事だ。」

 

「おーおー冷たいお人だこと。んじゃ俺は下がりま〜す。攻撃は頼んだぜ〜。」

 

 雷牙がディフェンスに加わってもなお“デザームもどき”からボールを奪う事が出来ずにディフェンスを突破されてしまった。

 

 “デザームもどき”と対峙した円堂は無意識のうちに冷や汗をかく。

 今までの攻防で“グレイト・ザ・ハンド”では“デザームもどき”のソウルストライクに勝つ事は不可能だと証明された。

 つまりこれ以上の失点を防ぐ為には土壇場でソウルストライクに勝てる新技を完成させるしかないのである。

 

(さっきの一戦…。あの時俺がなんとか耐えれたのは何か理由がある筈だ…。)

 

「何ヲボーットシテイル…⁉︎“負ケ犬”ニナル為ニハ思考ナド必要ナイゾ…!」

 

「くッ…!」

 

 “デザームもどき”は容赦せずソウルストライクを発動する。

 

「させないっス!“真ザ・ウォール”!」

 

「“スーパーしこふみV3”」

 

 DF達の活躍により数秒時間を稼いでくれたがまだ新必殺技への答えが出せていない。

 仕方なく円堂は“グレイト・ザ・ハンド”を使用する事を決め体勢に入ろうとするとあの男の声が耳に届いた。

 

「円堂ーーッ!」

 

「綱海⁉︎」

 

「あーだーこーだ考えて答えが出ねーくれーなら、いっその事思考なんて捨てちまえ!そんでもって自分が感じた事を形にするんだ!そうすりゃどデケェ波も簡単に乗りこなせる!」

 

「自分の感じた事を形に…。」

 

 円堂は化身を発動したまま目を閉じる。そして脳内に散らかっていた思考を全て排除すると1つの行動が浮かび上がった。

 

 それを躊躇なく実行した円堂は左脚を天高く上げる。

 

「フン…!今更“正義ノ鉄拳”カ…?モハヤ策ハツキタヨウダナ…!」

 

 策が無いと見て勝ち誇る“デザームもどき”だったが円堂の行動に呼応するようにグレイトは黄金の右腕を天高く上げ力強く拳を握った。

 

「ぐ、グレイトが…!」

 

『拳を握ったァーーッ⁉︎』

 

「はあぁぁぁぁあ!!!」

 

 円堂は“正義の鉄拳”と同じモーションを行い拳を突き出す。グレイトは本体の動きと連動し、巨大な拳をボールにぶつけると一瞬で空高く弾き飛ばしたのだった。

 

「ナ、何ダトォーーーッ!?」

 

「“ソウル”のシュートをいとも容易く止めるなんて…!まさにあの必殺技は“グレイト・ザ・ハンド”を超えた技…!名付けれるならそう…!“グレイテスト・フィスト”です!」

 

 ベンチの目金によって名付けられた新化身技“グレイテスト・フィスト”は綺麗な曲線の軌跡を描きながらボールを豪炎寺の元へ運んだ。

 

 しかしそれ許さない生物が1匹いた。

 

「認メン…!認メンゾォ…!私ガ…俺ガアンナチッポケナ“生命体”ニ負ケルナゾ…!!!」

 

 自分の最強の技を破られてもなお現実を認められない“デザームもどき”は再び円堂に勝負を挑むべく、飛翔しボールを確保した。

 

 

 

 

 

…筈だった…。

 

「そうは問屋が卸さないんだよ!!!」

 

「マダ俺ノ邪魔ヲスルカ…稲魂雷牙ァ…!!!」

 

 制空権を得ている筈の“デザームもどき”の領土に侵入したのは金色の怪物だった。

 

 今の雷牙には迸る黄金の気も荒々しい化身の姿も見えない。言ってしまえば通常時と変わらない容姿だ。

 でも何故だろうか?彼から発せられる威圧感は今までの比ではなく、自慢の蒼色の眼も淡い輝きを放っているように感じられる。

 

「気ニ入ランナァ…!ソノ瞳…!イイダロウ…“円堂守”ノ前ニ貴様カラ喰ラッテヤロウカァ…!!!」

 

「俺を喰らうだと…?いいねぇ!やれるもんならやってみせろよぉ!!!」

 

 まさに買い言葉に売り言葉。“宇宙の怪獣(デザームもどき)”は自身に歯向かおうとする“怪物(雷牙)”を喰らうべく、彼もろともゴールに叩き込もうとシュートの体勢に入る。

 彼の動きを察知した“怪物(雷牙)”も物理法則を無視した動きで体勢を整えるとボールへ向かって黄金の右脚を突き出した。

 

 同タイミングで両者の蹴りがボールを捉えた瞬間、彼らを起点とし漆黒のオーラと黄金のオーラが眩い光となって発せられた。

 雷門もイプシロン達もあまりの光の強さに思わず目が眩んでしまい、誰1人として彼らの勝敗の行方を知る事が出来なくなる。

 

 一体どのくらいの時間が経ったのだろうか。ようやく光が晴れてもなお視力は戻らない。

 すると彼らがいた方角からボールが脚を離れた音が耳に入った。

 

 円堂は万が一の場合に備え戦闘体勢に入るが、一向にシュートが自分の元に届く気配が無い。

 徐々に回復する視界に映ったのは…

 

 

 

 

 ボールを受け取り敵ゴールへ走って行く豪炎寺修也だった。

 

『パスが通ったァーーッ!我々の目には映りませんでしたが、稲魂がデザームを打ち破りエースにボールを繋いでくれましたァーーッ!!!』

 

「何…ダト‥⁉︎」

 

「はッ!ザマァないねぇ“宇宙人”さんよぉ、地球人の底力…舐めんなよ!!!」

 

「クソ…!マダダ…俺ハマダ“豪炎寺修也”ニハ負ケトラン…!」

 

 “デザームもどき”は部下達が時間を稼いでいる隙にゴールに戻ろうと走り出す。

 既に体力を使い果たしている雷牙はそれ以上“デザームもどき”の後を追えずにその場に座り込んだのだった。

 

「大丈夫か雷牙⁉︎」

 

「へ〜きへ〜き、ちょっと体力の借金をし過ぎただけだっつーの。まっ、ラッキーな事に多分コレがラストワンプレーだから関係無ェけどな。」

 

 雷牙は軽く笑うと、前方を走る豪炎寺を見つめる。

 

「…俺たちがこの試合に勝ってもデザームは元に戻るのかな…。」

 

「…知〜らね。ただ1つ言える事は俺たちは信じるしかねぇんだよ。復活した俺たちのエースストライカー様をな…。」

 

 雷牙はそう言うと、誰もいなくなったDFエリアを1人膝立ちで守るのだった。

 

____________

 

『強い、強い、強ーーい!!!稲魂から魂のボールを受け取った豪炎寺!凄まじいテクニックを駆使してイプシロンのディフェンスをものともしません!!!』

 

 角馬の実況の通り、豪炎寺は特訓により更に磨き上げられたテクニックを用いてイプシロン達を翻弄していた。

 否、テクニックだけではない、元々豪炎寺は同ポジションの染岡や熱也と比べた場合、僅かにパワーとスピードに劣るという弱点があったが、沖縄での修行により完全にその欠点を克服していた。

 

「“グラビテイi 何だと⁉︎」

 

「役立タズ共メ…!モウヨイ…!ドンナ手段ヲ使ッテモ時間ヲ稼ゲ…!!!」

 

「ふさけないでくださいデザーム様!貴方はそのような事を言う人ではなかった筈です!いい加減目を覚ましてください!」

 

 普段の彼らしくない発言に遂に堪忍袋の緒が切れたイプシロンメンバー達は彼の命令に背く。

 

 しかし1人だけ形だけを真似た“暴君”に従う男がいた。

 

「…はッ。」

 

「やはり来たか…!」

 

 ゼルはカードを貰う事覚悟で豪炎寺にラフプレーを仕掛ける。

 今までの彼の発言からこの展開を予測していた豪炎寺は紙一重で躱し何とかボールをキープする。

 

「…何故お前はそこまでして奴に従う?既にお前は気づいているんじゃないか?そこ立っている男はお前達の知っているデザームではなくなっている事に。」

 

「黙れ…!!!俺にとっての主人はデザーム様ただ1人だ!あの人がボールを奪えと命令した以上、俺は従うだけだ!!!」

 

「…そうか。お前と話せてよかったよ、これでようやく覚悟(・・)が出来た。」

 

 そう言って更に加速した豪炎寺はゼルを抜き去り前方を見る。

 既に“デザームもどき”はゴールに戻っており、漆黒のオーラを迸しながら豪炎寺を見つめていた。

 

 自身の右腕と言うべき男の叫びを聞いてもなお自分の事しか考えない外道に豪炎寺は静かに怒る。

 しかし豪炎寺はその“怒り”を爆発させる事はしなかった。別にクールでいる事に拘っている訳ではない。

 今の豪炎寺にとって“怒り”という感情は自分を新たな“領域”に辿り着かせる為の燃料でしかなかったからだ。

 

「これが俺の見つけ出したサッカーへの回答だ!!!」

 

 その瞬間、豪炎寺は凄まじい爆炎に包まれ最後に残ったDF達を吹き飛ばした。

 

「な、なんだあれ⁉︎」

 

「大丈夫っスか豪炎寺さん⁉︎」

 

 突然の豪炎寺の異変に仲間達は驚くが、1人だけ若干の悔しさが籠った笑みを浮かべる選手がいた。

 

「んヤロ〜…、先に俺が到達したかった“領域”にアッサリと着きやがって…。」

 

 後方で膝立ちをしている雷牙は悔しそうに呟くが、同時に改めて豪炎寺修也という人間はサッカーの神様の寵愛を受けた人間である事を確信した。

 

 自身を包んでいた炎が収まると豪炎寺は周囲を見渡す。この形態へと到達したのは今日が初めてであったが想像していたような違和感は不思議と感じなかった。

 いや変化そのものは感じている。まるで今の自分なら出来ない事はないと思える程の高揚感、全ての五感が極限まで研ぎ澄まされた事で遥か後方にいる雷牙が膝立ちしている事が分かる程の空間把握能力、それでいて心は波一つ立っていない海のように穏やかだ。

 

 この矛盾している心境を自覚する事で初めて自分が目指していた“領域”…否“

段階(ステージ)”に立てたのだと理解出来た。

 

「…待たせたな。悪いがまだこの“段階”にはなれていないんだ。多少の痛みは我慢してくれ。」

 

 雷牙が目標とし豪炎寺が辿り着いた“段階(ステージ)”、名付けるとするならば“バーニングフェーズ”…この名前が相応しいだろう。

 

「バ…化ケ物メ…!!」

 

 豪炎寺の変化を目ではなく脳で理解した“デザームもどき”は震えている。

 

「“化け物”か…。人の心を失った“怪獣”よりかはマシだろう?…最後の忠告だ。今すぐその肉体を本人に返し、二度と地球に関わらないと誓うなら敗北だけで済ませてやる。」

 

「フザケルナヨ“下等生物”ガァ…!!!俺ハ…“復讐”ヲ遂ゲル為ニィ…!コンナ所デ逃ゲルワケニハイカンノダァ…!!!」

 

 豪炎寺の最後の忠告に激昂した“デザームもどき”は“ソウル”を発動し巨大な“怪獣”へと姿を変える。

 

 最後のチャンスをふいにした“デザームもどき”を見た豪炎寺は軽く溜め息を吐くと、自身の身体中にある気を一気に放出した。

 

「はあぁぁぁぁぁあ!!!“炎魔皇 ガザード・レクイエム”!!!」

 

 “バーニングフェーズ”によって齎された力により新たな姿を得た“ガザード”は悪魔の如き肉体はそのままに“魔皇”の名を冠するのに相応しい荘厳な鎧を身に纏っている。

 

「スッゲェーッ!!!なぁ雷牙⁉︎豪炎寺の“化身”が進化したぞ!!!」

 

「ん〜…“レグルス”と違って大まかな見た目は変わってねぇから進化っつーよりパワーアップって言った方が正しいんじゃねーか?」

 

 “魔皇”を顕現させた豪炎寺はボールに自身の気を集中させる。それと同時に“魔皇”は自身の掌から爆炎で構成された大剣を作り出し、大きく振りかぶる。

 豪炎寺は右脚でボールを蹴ると同時に“魔皇”は大剣を振り下ろす。

 

「“ファイア・オブ・レクイエム”!!!」

 

 “マキシマムファイア”以上の爆炎を纏ったボールは、周囲の地面を溶かしながら異形の怪獣が守るゴールへ向かう。

 

 異形の怪獣は豪炎寺の言葉を否定する為に無数の触手でボールを受け止めようとする。

 

 だがその考えはあさましかったと言わざるを得ない。

 

「グギャァァァァア!!!ア、熱イ…!!!体ガ…俺ノ体ガ燃エテイクゥゥゥゥゥゥウ…!!!」

 

 怪獣がボールに触れた瞬間、夥しい数の触手は1本残らずに燃やし尽くされる。

 怪獣は絶叫の叫びを上げながらも最後の抵抗として頭部を使って止めようとする。

 だが呆気なく頭部は粉砕されてしまい、“ソウル”が強制的に解除されてしまう。

 

「コンナ…コンナモノォ…!!!」

 

 “ソウル”が解除され素手で対応せざるを得なくなった“デザームもどき”は爆炎の熱気を必死に耐えながらボールを掴む。

 “デザームもどき”がシュートと対峙した時間は現実時間に換算して僅か数秒しか経っていない。しかし彼にとっては無限にも思える時間、何百回と気を失いかけ、その度に憎しみによりギリギリの所で耐えるという行為を繰り返していた。

 

 そしてそれが千の回数に届いた瞬間、“デザームもどき”は真っ白な空間の中で目を覚ました。

 

『コ、ココハマサカ…!』

 

「お察しの通り“精神世界”だ。貴様ではなく“俺”のな。」

 

『砂木沼ァ…!!!』

 

 “デザームもどき”…否、もはや自身の名前すらも忘れた亡霊の前に現れたのは殺した筈のデザームその人だった。

 

『何故ダ…⁉︎貴様ハ…確カニ消シタ筈…⁉︎』

 

「不甲斐ない事に俺はファーストランクだが1つだけマスターランクにも負けない点がある。」

 

『ナ、何ヲ言ッテイル…⁉︎』

 

「それは“精神力”だ。エイリア学園に属する戦士としても“誇り”だけ他の同士にも負けるつもりはない!!!だが貴様はどうだ?幾度の敗北を受け入れず否定ばかりし挙句には俺の大切なチームの皆を使い捨てた!そのような下衆以下の下等生物如きに易々と肉体を乗っ取られる俺ではない!!!」

 

『クソダッタラモウ一度… ナ、何⁉︎俺ノ魂ガ…俺ソノモノガ燃エテイク…⁉︎』

 

「ハーハッハッハ!!!哀れだなぁ名も知らぬ亡霊よ!冥土の土産に教えてやろう!貴様の敗因はただ1つ…地球人の力を侮った事だ!その後悔を胸に抱えたまま地獄に落ちるのだな!」

 

 デザームの高笑いと共に“亡霊”は豪炎寺の炎に燃やされながら地面に引き摺り込まれていく。

 

『マ、待テ…!待ッテクレ…!俺ハァ…!復讐ヲ果タサナケレバナラヌノダ…!我ガ故郷…“イクサル”ヲ滅ボシタ“ファラム・オービアス”ヘノ復讐ヲ…』

 

「知らん、勝手にやってろ。」

 

『砂木沼ァァァァァァァーーッ!!!!』

 

 命乞いも虚しく完全に何処かへ引き摺り込まれた“亡霊”はデザームへの憎しみを口にしながら消えて行った。

 

「…お前は負けたのだよ…。地球人に…そして雷門に…。」

 

 デザームは誰も居なくなった空間に静かに呟く。その表情はどこか晴れやかなものだった。

 

______________

 

ピッピッピー!

 

 審判の笛が試合終了の合図を鳴らす。驚くべき事に今グラウンドに立っている選手は誰1人としていない。

 

 そんな状態でありながらもなんとか最後の力を振り絞ってスコアボードを確認する。

 スコアボードに表示された特典は3対2。どちらが3点なのかは言うまでもないだろう。

 

「やった…、やったぞぉぉぉぉお!!!」

 

『ウォォォォォ!!!』

 

 円堂は久しぶりに雷のようにうるさい大声を上げた。その瞬間、観客席からは雷門を讃える歓声を彼らに送る。

 

 様々な混沌に塗れたこの一戦、勝利の女神が微笑んだのはイプシロンではなく雷門イレブンだった。 




ようやくイプシロン・改戦が終わった…。なんやかんやいってエイリア編も終わりが近づいているんで頑張ります。

炎魔 ガザード:ご存知豪炎寺の化身。GOの黒裂とは異なり化身技は“マキシマムファイア”となっている。当初は“爆熱ストーム”にする気だったが作者が無印の“爆熱ストーム”の方が好きだった為土壇場で変更した。

炎魔皇 ガザード・レクイエム:バーニングフェーズにより強化されたガザード。進化との差別化の為に容姿は通常のガザードに鎧を装着しただけのシンプルな変化に留めている。
バーニングフェーズ中しか使えないというデメリットがある分そのパワーは“レグルス”すら超える。
化身技は“ファイア・オブ・レクイエム”。

バーニングフェーズ:豪炎寺が沖縄での修行の果てに到達したゾーンの上位形態。当然発動する難易度も相応に高く、豪炎寺ほどの天才でも厳しい条件を満たした上で発動出来る確率は4割以下。
他作品で例えるなら雷牙の“ゾーン”がクリア●インドならばバーニングフェーズはトップ・●リア・マインド。

プロミネンス戦やって欲しいって人います?もし見たいって要望があればジェネシス戦前にマスターランクチーム全員と総当たり戦をする形になりますけど…。

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