時はジェミニストームが雷門中に襲来する少し前に遡る。
東京の都心から少し離れた公園のベンチにて佇む少年がいた。
その容姿はまるで性別を女性誤認してしまう程に整った顔立ちを有し、腰まで届く金色の髪はさながら西洋美術の巨匠が描いた絵画の中の神のように美しい。
彼の名前は亜風炉照美。チームから美の女神アフロディと同じ名称で呼ばれ、先日行われたFFの決勝戦にて雷門と激戦を繰り広げた世宇子イレブンのキャプテンを務める名選手だ。
だが彼を取り巻く環境は異常だ。準優勝校とはいえ40年間FFの王座を死守してきた帝国学園を破った強豪チームのキャプテンに送られる視線は全て彼を蔑むようなものだ。
その原因は彼の手に持っている雑誌の1ページが語っている。
『世宇子中サッカー部の不祥事発覚!!自らを神と名乗る少年達の正体はドーピングによって造られた偽りの神だった⁉︎』
そう、世宇子イレブンはドーピングをしていたのだ。彼らのバックにいた影山零治の甘言に惑わされドーピングというスポーツにおける禁断の果実に手を出してしまった彼らに対して雷門は許しても世間は許してくれなかった。
「何故僕は…僕達は“神のアクア”なんかに頼ってしまったのだろう…。それだけじゃない…僕は皆にあんな酷い事を言ってしまったんだろう…。」
世宇子と雷門の決勝戦中、何度倒れても立ち上がってくる雷門イレブンに心身共に追い詰められたアフロディは更なる力を得る為にチームメイトすらも踏み台にした。
力を吸い取られ倒れ行く仲間に対して“神の名を語る罪人”と烙印を押しながら。
「世宇子は強かった…。皆必死に努力していた…。“神のアクア”なんかに頼らなくても強かった筈なのに…。」
“神のアクア”からの支配を脱したアフロディは自分達の過ちを自覚し、今度は無限に続く後悔の海に囚われていた。
世宇子中は設立されてからまだ日が浅い学校であるものの、練習量は他の強豪校に引けを取らないと自負していた。
しかしその努力すらも自分達の選択によって否定してしまった。
「分かっていた筈だったんだ…。“
キャプテンとして成すべき事を成せなかった自分への不甲斐なさにより大粒の涙が流れてしまう。
だがいくら泣いても時間は戻ってくれない。自分にまとわり付く“過去”は永久に消え去る事は出来ないのだ。
「あら?どうしたんだい坊や?」
突如記憶にない声が聞こえると、アフロディは顔を上げた。
彼の前に立っていた温厚な顔をした白髪が目立つ年齢の女性だった。
「もしかして失恋でもしたのかい?この年寄りでよければ相談に乗るよ?こう見えて恋愛経験豊富だからねぇ。」
「…ありがとう。でもお婆ちゃんには関係ない事だから…。」
「まぁ!関係ないからこそ話しても問題ないだろう?それにこう見えて私も色んな挫折を経験してきたもんだからねぇ。年寄りの好意は素直に受け取っておくもんだよ。」
挫折の経験からは1番程遠そうな温厚な顔付きを見ると本当にそうか?と思ってしまうが、話す事で今にも後悔の念で押し潰されそうな精神が少しでも楽になるなら影山と“雷帝”以外の誰かに聞いて欲しかった。
「…間違いを犯したんだ。大切な仲間を巻き込んで、とても大きな間違いを犯したんだ…。本来僕が…そうしない道を選ばないといけなかったのに…。」
「あら?あなたは自分のせいだと思ってるの?」
「僕はキャプテン…いやキャプテンだったんだ…。皆を守るべきだった…。なのに誘惑によって間違った道を選択した…。あまつさえ仲間を裏切ったんだ…。僕はキャプテンとしても“人”としても失格だ…。」
再び瞳から涙が溢れ出す。
「だったら良い事を教えてあげるよ。“人”って生き物はね、必ず間違いを犯すものなのさ。大切なのはその間違いをしないようにどうするかを考える事なのさ。」
「どうするかを考える…。」
「そうさ〜。そうする為にはね、今までの自分の人生を振り返って見るのが1番だよ、過去は変えられないけどね未来は変えられるんだから。」
老婆の言葉を聞きアフロディは今までの生きてきた14年間を振り返った。
雷門との決勝戦から自身が持つ最も古い記憶を余す事無く。
初めは吐き気がするほど忌まわしい記憶ばかりだったが、次第に楽しかった記憶、嬉しかった記憶も溢れ出し心なしか気持ちが楽になっていく。
しかし記憶とは良い物もあれば最悪な物もある。それはアフロディでも例外ではない。
「どうしたんだい?また顔色が悪くなったようだけど。」
アフロディが見つけたのは“神のアクア”関連以上に思い出したくなかった記憶だった。
それは自分が“勝利”を求めるようになった“
この記憶をスルーするのは簡単だ。しかしこれを避けたら自分は本当の意味で贖罪を果たせないと感じる。
数秒程悩んだ後にアフロディは覚悟を決めた。
「…少し昔話を聞いてくれないかい?」
「どうぞ、私でよければいくらでも聞くわ。」
_____
あれは今日とは正反対に雨が酷く降り注ぐ日だった。
僕は当時小さなクラブチームに所属していて、その日は大雨によっていつもより早く練習が終わった。
クラブが借りているグラウンドは家から近くて、両親は共働きだったから僕はいつも1人で家に帰っていた。
いつも通りの帰り道に通る公園はいつもは同年代の子供達でいっぱいだったが、今日は僕1人しか人の気配はなかった。
人がいない公園が余程珍しかったのだろうね。あの日の僕は誰もいない公園を散策していたんだ。
そして僕はダンボールの中に蹲っていた小さな生物を見つけてしまった。
「くぅ〜〜ん…。」
箱の中にいたのは子犬だった。特に餌も入っておらず雨によって気温が下がっていた事もあって子犬はプルプルと震えていた。
「捨て犬かぁ。こんな雨の中ひとりぼっちなんてかわいそうだなぁ…。あっそうだ!」
震える子犬を憐れんだ僕は子犬を優しくバックの中に入れると急いで家に帰った。
家に帰った僕は子犬を風呂に入れて身体を乾かして、温かい牛乳を与えた。
予想通り子犬は暫く餌を与えられていなかったようで水飛沫を上げながら牛乳を飲み干した。
「アハハ!凄い勢いだね!そんなにお腹が空いていたのかい?」
「ワン!」
牛乳を飲み終わった子犬は少しだけ体力が回復したようで元気よく返事をしてくれた。
「そうだなぁ…よし決めた!君の名前は“ヴィーナス”だ!良い名前だろう?」
「ワン!ワン!」
ヴィーナスと名付けた子犬はすぐに僕に懐き、僕もヴィーナスの事を愛するようになった。
でもその幸せは長く続かなかった。
「最近冷蔵庫から食べ物が無くなるのが早いと思っていたがまさか私達に内緒で犬を飼っていたとはな。」
両親に内緒でヴィーナスを飼っていた事がバレたんだ。
僕が両親に子犬の事を黙っていたのはある理由があった。
僕の両親は過剰なまでの成果主義者だった。彼らの名誉の為に言っておくと彼らは決して毒親ではない。キチンと成果を出せば約束は必ず守ってくれるし、厳しいながらも親の愛情は確かに感じていた。
ただ、両親が僕に求めるハードルはとても高かった。
成果を出せば約束を守るという事は成果を出せなければ僕に発言権は無いという事と同じ。
内緒で子犬を飼っているとバレたらそれこそ元の場所に戻して来いと言われるのは目に見えていた。
「照美、どうしてお母さん達に隠していたの?」
「だって…ヴィーナスを飼いたいって言ったら絶対難しい宿題を出すでしょ…?」
「照美。どうして父さん達が約束の度に難しい宿題を出すか分かっているか?」
「…分からない。」
「父さん達は照美の能力を信頼しているんだ。照美なら必ずその期待に応えてくれるだろうとな。その証拠に約束は守っているだろう?」
「でもヴィーナスと離れ離れになるのなんて嫌だ!もしもテストで100点を取れなんて言われたら手が震えちゃってテストを受けられないよ…。」
「…分かったわ。じゃあこうしましょう、今度のクラブの大会で優勝すれば子犬を飼う事を許可しましょう。」
「本当に⁉︎」
「ただし、それが無理なら子犬を施設に預けるわ。それでいいわね?」
「うん!」
珍しく両親が僕の意向に沿ってくれた事に僕は喜んだ。
サッカーには絶大な自信があったね。なにせ当時の僕は“サッカーの神童”と呼ばれており、クラブ内で僕からボールを奪える子はいなかったから。
それでも僕は試合に勝つ為に必死に練習した。
練習が終わって皆が帰っても自主練に励んだ。
練習に励みすぎてやや勉強が疎かになって母さんから怒られた事もあったがそんな事はどうでもよかった。
全てはヴィーナスと一緒に暮らす為に。
そして遂に大会当日になった。
『強い強いぞぉ!亜風炉君!またもハットトリックだァーッ!』
練習の甲斐あってその日のプレーは絶好調だった。準決勝では優勝候補だったクラブチームも大差で破り後は決勝に勝つだけだった。
この試合に勝てばヴィーナスと一緒に暮らせる!
僕の頭の中はヴィーナスとの生活で一杯だった。
そして迎えた決勝戦。対戦相手は今までどうやら別の優勝候補を立て続けに破ったダークホースのチームだったようだがそんな事は関係無い。
ただ相手からボールを奪い勝つだけ。その時の僕はそれしか考えていなかった。
試合開始早々、僕はボールを奪ってドリブルを始めた。ダークホースと呼ばれるだけあって警戒はしていたが、どの子の実力も僕の足元にも及ばなかった。
強いて言うなら僕が近づいているというのに欠伸をして僕を素通りさせた子に呆れたがすぐに気を引き締めた。
1人また1人とディフェンスを抜いて行き漸くゴール前に辿り着いた。
当時の僕はまだ必殺技を習得していなかったがシュートの切れ味は生半可な必殺技以上だ。
僕は点を奪うべくシュートを放った。人の事を言えたものじゃないが、キーパーの子は僕とは違うベクトルで女子と見間違えられるような顔を持った子だった。
実際、僕も実況で少年だと断言されるまで女の子だと思っていたし。
コホン…。話が逸れたが要するに僕は油断していたんだ。明らかにキーパーに向いていない身体付き、整ってはいるがあまりにも覇気を感じない穏やかな顔付き…様々な要素が僕の判断を鈍らせた。
「う、嘘だ…!」
「へへッ!いいシュートだね!ビリビリきたよ!」
爽やかな笑顔でボールを持つ子は全力ではなかったとはいえ僕のシュートを難なく止めてみせた。
今思えばあの子は覇気を感じなかったんじゃない。覇気を出していなかったんだ。彼にとって僕はその程度の存在だったという訳だ。
「くっ…、みんな守備を固めるんだ!多分僕たちが守りに徹すればすぐにボールを奪える!」
「●●●〜そろそろ俺にボールをくれよ〜。」
「OK、○○○!いつもみたいにズババ〜ンって決めてよね!」
指示に夢中だったから名前までは聞き取る事が出来なかったが、先ほど欠伸をしていた蒼眼の子がキーパーにボールを要求した。
「(でも大丈夫だ!キーパーのパスコースは完全に塞がっている!そう簡単にボールは渡さない!)」
するとキーパーはまるで砲丸投げのような体制になると凄まじい腕力でボールを遥か遠くに飛ばした。
「何だと⁉︎」
ゴールから飛ばされたボールは僕達の頭上を通り過ぎてハーフラインにいる蒼眼の子に足元に移動した。
「ふわぁ〜〜あ。ようやく俺ちゃんの出番かい。……さぁこっからが狩りの時間だ!!!」
ボールを受け取った蒼眼の子は気怠げな表情から一転してまるで別人のように荒々しい口調になって駆け出した。
当然チームメイトは少年からボールを奪う為にディフェンスに入るが一向にボールを奪うどころか次々と抜き去られて行く。
「何をやってるんだお前達!相手はそこまで速くないだろう!たった1人にいいように抜かれるんじゃない!」
たった1人相手になす術もなく抜かれて行く生徒に痺れを切らした監督の怒声が耳に入った。
やや理不尽に感じるかもしれないが、僕の目から見てもそこまで速くない彼を未だに止められないのは少々違和感があった。
しかし僕は初めて彼の前に立ってその答えを脳ではなく魂で理解する事になる。
「はッ!隙だらけだぜ!」
『またしても抜いたァーーッ!今大会最強選手と名高い亜風炉君でさえ止められないとは○○○君は一体どんな必殺技を使っているのかァーッ⁉︎』
当時は頭が真っ白になっていたから自分でも何が起きたか理解出来なかったけど、今なら分かる。
蒼眼の子は必殺技なんて一度も使っていなかった。全ては彼の生まれ付き持った驚異的な反射速度と瞬発力によって僕達を抜いていたんだ。
最後の砦ある僕すらも突破した彼はシュートを放った。
彼が放ったシュートはただのノーマルシュートだったが、一瞬金色に輝く獅子が見えた気がした。
こうして僕たちはたった1人の選手に1点を奪われた。それ以降の展開はあまり思い出したくもない。
試合は金髪の子がボールを取って、蒼眼の子が点を取る。それだけのゲームへと変わっていた。
ピッピー!
『試合終了ーーッ!様々なドンデン返しが多発した今大会!優勝トロフィーを手にしたのは“金ピカレオーズ”!念願の初優勝を果たしましたァーーッ!!!』
実況の人が彼らの活躍に興奮しているがそんな声すらも僕の耳に届かなかった。
まだ目の前の現実が受け入れられなかったからだ。
「お、お父さん…。」
「…約束は約束だ。あの犬は家では飼えない。」
「お母さん…。」
「駄目よ。残念だけど貴方は負けた。今日の失敗を糧に次の勝利に繋げなさい。」
両親の無慈悲な宣告が耳に入った事で漸く僕は試合に負けた事を理解した。
不思議と涙は出なかった。
そして次の日にはヴィーナスは施設に預けられ僕とヴィーナスは離れ離れになった。
この時も涙は流れなかった。多分両親は僕が必死に抵抗するって思ってたんだろうね、あまりに素直に別れたから驚いていた様子だったよ。まぁ自分でもびっくりしていたけどね。
「くぅ〜〜ん…。」
ヴィーナスは悲しそうに鳴き声を上げていたけど、僕はその声に応える事は出来なかった。
それからどれくらい経っただろう…。
ある日は僕は両親の約束を破ってヴィーナスが預けられた施設に足を運んだ。
もう家で飼う事は諦めていた。でもせめて1度だけでもヴィーナスに会いたかったんだ。
施設の人にヴィーナスがどうなったのかを聞くと既に新しい飼い主に引き取られたと言われた。僕はその飼い主の事を聞いたが当然個人情報を教えられずやんわりと断られた。
僕はこれ以上の詮索を諦めてその場を後にした。すると何処からか職員の話し声がした為、なんとなく建物の陰に隠れて耳を澄ませた。
「しっかしこの間の犬は残念だったなぁ…。まさかあんな事になるなんて…。」
「(あんな事…⁉︎)」
「仕方ないわよ、事故だったんだから…。でもまさか自由時間中に木が倒れてくるなんてねぇ…。せめて天国に行けるように祈りましょう。」
「そうだな…、あの犬…確かに
ヴィーナスが死んだ…?嘘だ…嘘だ…!
現実を受け止められなかった僕は急いでその場から立ち去った。
2〜3時間は経っただろうか…、気づけば僕はヴィーナスと初めて会った公園に居た。
既に日が暮れていたから子供は誰もいなかった。その光景は奇しくもあの時と一緒だった。
「ヴィーナス…ヴィーナス…。うわァァァァァァァァン!!!」
漸く僕の目から涙が流れた。ヴィーナスと別れた時でさえも流れなかった涙が。
僕は初めて理解した。敗者が辿る末路を、弱者には守りたいものを守る権利さえ与えられない事を。
泣いたところでヴィーナスが帰ってくる訳でもない。でも僕は涙を止める事が出来なかった。
完全に日が暮れたくらいの時間で漸く涙が止まった。
数年後、13歳になった僕は神学校である世宇子中に進学した。
僕のサッカーの才能を買ってくれてスカウトをする学校はたくさんあったが、僕は敢えて特にサッカーが強くない世宇子を選んだ。神の教えを学ぶ事で少しでも天国にいるヴィーナスの事を感じられると思ったからだ。
でもサッカーは続けた。ヴィーナスを失う要因となってもサッカーを嫌いになる事は出来なかったからだ。
そんなある日、顧問兼監督だった教師が突如退職し外部から新たな監督が就任するとの知らせが届いた。
グラウンドに集められた僕達の前に現れたのはサッカー部には似つかわしくない白衣を身につけた男性だった。
その男とは初めて出会う人物だったが、あまりに強い既視感があった。特に彼の持つ
「ごきげんよう。私の名は“雷帝”。今日から君達の監督となる男だ、以後よろしく。」
新たに監督に就任した男は自身の名を“雷帝”と名乗った。そして最初に語った言葉が僕の運命を変えた。
「さてと…1つ問おう。君達は絶対的な勝利を齎す者は誰か知っているかい?」
「…監督でしょうか?監督は僕達に道を示してくれます。監督無しではサッカーは成り立ちません…。」
「フム…。あの人から“サッカーの神童”と聞いていたが思いの外謙虚なようだねぇ…。監督を信頼してくれて嬉しいが答えは違う。私が考える絶対的な勝利を齎す者とは“神を超えた存在”さ。」
「神を超えた存在…。」
「そうとも。私はその“神を超えた存在”を見たい。で君達はどうだい?」
内心では薄々“雷帝”の中にある狂気を感じ取っていた。
「か、勝ちたいです…!」
「お、俺もだ!俺も帝国の源田みてぇに最強のキーパーになって勝ちてぇ!」
次々と“雷帝”の言葉に賛同するチームメイト達。多分彼らは理解していただろう。“雷帝”の中に潜む誰よりもドス黒い狂気に…。
でも…
「さて…、君はどうするアフロ君?」
僕は…
「勝ちたいです…!もう二度と…負けたくありません!!」
「そうかい。だったら私に付いて来たまえ!君達が“神を超えた存在”になった暁には絶対的な勝利を約束しよう!」
僕に躊躇なく“雷帝”に忠誠を誓った。もう2度と大切なものを失わない為に、そして敗者にならない為に。
____
「…これが僕の“原点”だ。今の僕の姿をヴィーナスが見たらどんな顔をするんだろうね…。」
自身の過去を話し終えたアフロディは不甲斐なさの余り顔を下に向ける。
改めて振り返るといくらでもあの悲劇を回避出来たチャンスは幾らでもあったからだ。
「もう下を向かないの!あなたは自分のトラウマをちゃんと話せたらじゃない!それはきっとあなたが過去を受け入れて前に進もうと決めたからでしょ?」
「…確かにそうさ。でも改めて振り返ると自分の心の弱さが情けなくてね…。」
そう語るアフロディだがその口調は今までと比べるとどこか軽くなっている。
「…そうだ、最後に聞かせてくれないか?どうしてそこまで僕に優しくしてくれるんだい?」
アフロディの質問に老婆はにっこりと笑って答える。
「別に深い理由なんてないわよ。ただね…あなたの目は昔の私に似てたんだよ。」
「昔のお婆ちゃんに…?」
「フフ…これでも昔は結構やんちゃしてたからねぇ。私も自分の力を過信してあなたみたいな間違いを犯した事もたくさんあったわ。変わらない現状に挫折もしたし絶望もした…。」
「お婆ちゃん…。」
「お婆ちゃんからの最後のアドバイス。現状を変えたいなら他人に変化を求めるだけじゃ駄目よ。沈黙を否定するだけじゃなくて寄り添い一緒に歩むの。そうすれば必ず流れは変わって行くわ。」
「そうだね…ありがとうお婆ちゃ…」
再び隣を見ると既に老婆の姿は無かった。まるで最初からその場にいなかったように。
「……フフ。」
自分が話していた人物は本当に実在したのか、心の弱さが生み出した幻だったのかは分からない。もしかしたら本物の神様だったかもしれない。
ただ1つ確かなのは今のアフロディの心は目の前で晴れ渡る空のように晴れ晴れとしている事だ。
「もう一度やり直してみようかな…。“神様の見習い”として…。」
そう呟くとアフロディはスマホを手に持ち、かつての仲間達に電話を掛けた。
許してもらわなくてもいい。ただ彼らに謝罪をする為に。
アフロディの過去は捏造です。構想自体は世宇子戦執筆時点であったんで軽く描写しようかなって思っていたのですがテンポが悪くなりそうだったのでカットしました。
ヴィーナス:幼少期のアフロディが偶然拾った捨て犬(♀)。共にいた期間は短かったものの彼女の死は幼かったアフロディに大きな影を落とし、彼の異常な程の勝利への執念に取り憑かれる事となった。
アフロ両親:回想内にて少しだけ登場したアフロディの両親。どちらが韓国人かは不明。ある意味アフロディ闇落ちの元凶ではあるが、本人が言及している通り2人に悪意は無かったものの行き過ぎた成果主義がアフロディが歪む要因の1つになった感はある。
しかし世宇子のドーピングが発覚した事でようやく自分達にも非があった事を自覚し息子と和解したとの事。
???:決勝戦にて対峙した蒼瞳の少年。まだ低学年ながらも上級生も顔負けのサッカーセンスによってアフロディを負かした。
サッカーセンスは高いものの良く言えば自信家、悪く言えば傲慢不遜な為ワンマンプレーに走りやすく度々チームメイトと揉める様子が目撃されている。
近々家庭の事情でイタリアに引っ越す予定らしい。
???:決勝戦にて対峙した金髪の少年。まるで少女のような容姿とは裏腹にキーパーとしての才能はずば抜けて高くアフロディから1点も奪わせなかった。
非常に優れたGKだったが普段のメンタルが弱いのが玉に瑕で少し悪口を言われただけで大泣きし弟である蒼瞳の少年の後ろに隠れていたらしい。
近々家庭の事情でイタリアに引っ越す予定らしい。
“雷帝”:回想のラストで登場した正体不明の科学者。アフロディが1年生の頃に世宇子の監督に就任し、彼らを“神のアクア”に耐えられるように鍛え上げた。当然この時点で影山と共謀しており、万が一帝国イレブンが影山を裏切った時に備え世宇子を第二の帝国にするように送り込まれた工作員(本人には別の思惑があるようだが)。
この時点ではアフロディとの関わりこそ薄かったものの他の人物達がアフロディ闇落ちをさせる銃本体ならば彼はその引き金を引いた存在。
松坂キヨ:失意に暮れるアフロディの前に現れた謎の老婆。雷牙の義母である雷夏が憧れた“サッカーの女神様”と謳われたサッカー選手と同姓同名だが…?