「お願いします!豪炎寺さん!」
「手加減はしないぞ!“超ファイアトルネード”!!!」
イプシロン・改の襲撃から早数日後。立向居は豪炎寺とPK戦を行っていた。
「(思い出せ!あの必殺技を撃てた時の感覚を…!)」
立向居の目的は“デザームもどき”との攻防で放った新必殺技を完成させる事だ。
立向居は必死にあの時の状況を思い出し、人工的な怒りを発生させる。
すると立向居の身体から徐々に化身に似た紫のオーラが発生し出した。
「おお!遂に紫のオーラが出たぞ!ちょっとだけだけど!」
「いっけぇー!立向居!ちょっとだけだけど!」
必死に怒りを込み上げようとする立向居だったが、これ以上紫のオーラは放出される事はなく、呆気なくゴールを許してしまった。
「くそ!もう一度お願いします!」
ほんの僅かであったが、完成の兆しが見えた事で立向居はより一層特訓に力を入れようとする。
だがそんな彼を止める者がいた。
「駄目よ。これ以上の特訓は許可しないわ。」
声の主は瞳子である。
瞳子は立向居の前に立つと冷たい口調で彼の特訓を止めさせた。
「な…!どうしてですか監督⁉︎」
当然立向居は納得せずに彼女へ抗議をする。それでも瞳子は淡々と特訓を止める理由を話す。
「私が貴方を止める理由はただ1つ、時間の無駄だからよ。断言するわ、今の貴方じゃどんなに特訓したところであの必殺技を完全に習得する事は出来ないでしょうね。」
「でもこの前試合は…!」
「あれは貴方の怒りが爆発した事で起きた現象…言わば“火事場の馬鹿力”に近いものよ。今の立向居君の実力じゃあよくて3割…下手するとそれ以下の精度しか極まる事は出来ないわ。」
事実瞳子の言葉は正しい。ここ数日間の特訓で成果らしい成果は先ほどの豪炎寺とのPKでのオーラのみ。寧ろ無駄を嫌う瞳子にしては様子を見た方だ。
「でも…このままじゃ俺は雷門のサブキーパーとしては力不足なんです!せっかく掴めかけたチャンスをみすみす逃すなんて出来ません!」
立向居自身も薄々察してはいたものの、せっかく掴んだチャンスを不意にしたくない為、珍しく食い下がる。
それに対し瞳子の返答は意外なものだった。
「誰が新必殺技の特訓をするなと言ったのかしら?」
「えっ?でも…」
必殺技の特訓は時間の無駄と言ったと思うと、今度はそれを否定するような事を言い出す瞳子に立向居は言葉に詰まってしまう。
「先日のイプシロン・改との試合でこれから先は円堂君1人に頼っていくのは難しいと判断したわ。だからこそ、立向居君には円堂君と同様に究極奥義を覚えてもらいます。」
「お、俺が大介さんの究極奥義を…⁉︎」
「確かにまだ貴方の実力は低いけどキーパーとしての才能は円堂君を凌ぐと確信しているわ。だから究極奥義の習得は不可能ではない筈よ。」
「俺も監督の意見に賛成だ!立向居だったら絶対に究極奥義を完成させられるぞ!」
瞳子提案に円堂も賛成する。
「円堂さん…!」
憧れの円堂に自分の才能を認められた事で立向居はつい涙ぐんでしまう。
すると瞳子は丁度よかったと言わんばかりの様子で円堂に声をかけた。
「そして円堂君。」
「えっ俺?」
「貴方にはキーパーを辞めて貰います。」
「えっ?」
『ええーーッ⁉︎』
雷門イレブンの叫びは広い大海原全体に響き渡った。ある漁師によればその声は近くの島にまで木霊したと言われている。
「ど、どういう事ですか監督⁉︎円堂をキーパーから外すって⁉︎」
「そもそもさっき円堂1人に頼るのはキツいって言ってたじゃないかよ⁉︎」
当然の円堂のリストラ宣言に殆どのメンバーは混乱し、瞳子へ抗議している。しかし一部のメンバーは抗議するどころか寧ろ遅すぎた選択だと言わんばかりの表情だ。
「落ち着けお前達!」
事態の収束を図った鬼道の怒声によってようやく皆は冷静さを取り戻した。
それでも瞳子の指示を飲み込む事は出来なかったようで各々複雑な顔をしている。
「でも円堂は俺たちのキャプテンなんだぞ!究極奥義を覚えてこれだって時なのに急にチームを抜けろだなんて…!」
「勘違いするな土門。何も監督は円堂を離脱させるとは一言も言っていない。あくまでキーパーを辞めて貰うと言っただけだ。」
「そ、それじゃあキーパーは誰が…?」
「そこにいるじゃねぇか。守以上の才能を持つ期待の新人がよ〜!」
「お、俺ですか⁉︎」
さっきまで眠そうに皆の様子を見ていた雷牙が円堂の代わりのGKに立向居を指名する。
確かに先ほど瞳子は立向居に究極奥義を覚えさせると言っていたが、まさかその直後に正GKにさせるとは土門は思っていなかった。
「でも立向居はまだ実力は足りないだろ⁉︎」
「だったら俺達がフォローに回ってやればいい。点を取られたら取り返す。それが俺達のサッカーだろ?」
「豪炎寺さん…。」
「お前達1つ質問しよう。今の俺達に足りない要素はなんだと思う?」
「えっ…、ぼ、防御力とかか?」
「いや違う。今の俺達に圧倒的に足りないのは攻撃力だ。」
「こ、攻撃力?でも豪炎寺や稲魂は帰って来たんだぜ⁉︎まだ足りないって言うのかよ⁉︎」
「ああ足りない。何故なら財前の発言は裏を返せば稲魂と豪炎寺しかエイリアの有効打になり得ないと言っているのと同義だからだ。」
「あっ…。」
「別にお前達が豪炎寺達のようになれとは言わない。だがこれからは1人で得点を取るのは難しくなるだろう。つまり今、俺達は新たな連携技の開発が急務という訳だ。」
「チッ…。」
鬼道の発言が気に食わなかったのか熱也は小さく舌打ちをする。
それと同時に一之瀬は鬼道の説明を聞きようやく瞳子の意図を理解した。
「なるほど…。だから監督は円堂をフィールドプレイヤーに上げるという訳か。」
「どういう事だよ一之瀬?」
「俺達の連携技の中に円堂が参加する必殺技は何個ある?」
「え〜〜っと…。確か“イナズマ1号”に“イナズマブレイク”、“ザ・フェニックス”に…あっ!あと“イナズマ1号落とし”なんかもあったな!…いや多くね?」
「その通りだ土門。雷門の強力な連携技は円堂の参加が必須の技が多い。だが1つ致命的な弱点がある。」
「それはゴールがガラ空きになるって事か?」
「その通り。だが円堂がフィールドプレイヤーになればどうなる?」
「その欠点が解消される…!」
「つまり監督は立向居を雷門の正GKにし円堂をフィールドプレイヤーにする事で攻撃面を更に強化しようとしている訳だ。ですよね監督?」
「ええ。正確には円堂君は戦況に応じてGKに戻って貰うつもりだわ。」
ようやく瞳子の意図を理解出来た雷門イレブンは円堂の方を見る。
円堂はいつになく神妙な顔で考え込んでいる。無理もない、円堂にとってGKとは尊敬する祖父と同じポジションなのだ、エイリアに勝つ為とはいえそう簡単に捨てる事は難しいだろう。
「…俺はボールをキャッチする時いつも爺ちゃんが近くで見てくれているような気がしてたんだ。」
日本が産んだ偉大なるGK円堂大介。彼の勇姿は彼を恨む黒い影によって、殆どの記録が消し去られてしまったが、初めて特訓ノートを見つけた瞬間から円堂にとっては憧れの存在であり、超えるべき目標でもあった。
「でも、最近思うようになったんだ。いつまでも爺ちゃんの後ろに付いて行くだけで本当にいいのかなって。」
イプシロン・改との試合で新たな必殺技を生み出した立向居を見て円堂は悩んでいた。
今まで自分が歩んで来た道は祖父の後追いでしかなく、本当の円堂守だけのサッカーは未だに見つけきれていないのではないか?と…。
「俺は新しい自分の可能性を試してみたい。そんでもって立向居の持つ無限の可能性も見てみたい。だから立向居、雷門の正GKのポジションをお前に託す。」
円堂が努力のGKならば、立向居は天性のGKだ。
まだ円堂の方が実力は上とはいえ、既に彼の中にある才能の芽は徐々に開き始めている。
そんな凄いキーパーが自分の影に隠れてしまう事でせっかくの才能が開花しない事は円堂にとっても残念な事だ。
「どうだ?立向居?」
円堂は立向居に手を差し出す。その手を取るという事は雷門のGKの座を正式に受け継ぐという事だ。
立向居はほんの少し目を瞑り、意を決すると一気に目を開く。
「円堂さん…。…分かりました!1日でも早く究極奥義を習得して本当の雷門の守護神になれるように頑張ります!」
正式にGKの座を継承する事を決めた立向居は円堂の期待に応えるように力強く手を握った。
それでも円堂がGKではなくなる事への動揺は消え去ったわけではない。
特に壁山は今でも不安そうにしている。
「立向居には悪いっスけど、俺達の後ろにキャプテンがいなくなる事に慣れる事が出来るか不安っス…。」
「壁山、そんな顔すんなって!別にGKじゃなくなったって俺は俺だろ?それに今までも隙あらばガンガンゴールを開けてたんだしさ!すぐに慣れるさ!」
「そうっスね…!」
円堂のフォローを受けてようやく雷門の動揺が収まったのを確認すると、瞳子は円堂に立向居に覚えさせる究極奥義を尋ねる。
「それじゃあ円堂君。立向居君と相性が良さそうな究極奥義はあるかしら?」
「え〜と…、究極奥義も色々あるからなぁ…。強くて立向居にピッタリな技は…。」
どれを授けるか悩んでいると雷牙は何かを思い出したように口を開いた。
「なぁ守。
「そうだな!確かに
雷牙の提案を受けた円堂は裏ノートのページを勢いよく進めると無数の触覚を持った怪物のような絵が描かれたページを皆に見せた。
「じゃーん!これが爺ちゃんが残した最強のキーパー技!“ムゲン・ザ・ハンド”だ!」
「“ムゲン・ザ・ハンド”…!」
「めちゃくちゃ強そうな名前っス〜!」
「習得方法はなんて書いてあるんだ?」
「え〜っと…あった!『“ムゲン・ザ・ハンド”の極意…それは…!』」
『ゴクリ…!』
「“シュタタタタタン!ドババババーン!”だ!」
ズコー!
予想出来ていたとはいえ“正義の鉄拳”以上に接続詞が入っていない説明に雷門一同は思わずずっこけてしまう。
「稲魂…通訳を頼む。」
「ほい来た。つまり!“ムゲン・ザ・ハンド”の極意とは〜!」
『ゴクリ…!』
「ズバリ!立向居が最強になる事だァーーッ!」
『…は?』
何故だろうか?世界唯一のオノマトペ語の翻訳家に頼んだ筈なのにもっと複雑になってしまった現状に雷門一同は思わず低い声を出してしまう。
事態をややこしくした犯人は決まった!と言わんばかりの表情で絶妙にダサいポーズを決めるが、そんな彼を嘲笑うように季節外れの空っ風が吹くのだった。
「…雷牙、ふざけるのはやめてちゃんと翻訳しろ。」
「だってよー!オメーらに分かりやすく言うとどう考えてもこうなるんだよ!」
「…具体的にはどういうニュアンスなんだ?」
「ん〜とつまり、“使用者の五感を極限にまで高める事でシュートの作り出す音を見切れるようになり、前後上下左右全ての方向から来るシュートを止めれるようになる技じゃ!”的なニュアンス。」
「…なるほどそれで立向居が最強になる事と言った訳か…。じゃあ最初からそう伝えろ!」
いつも通りふざけ倒す雷牙に鬼道は珍しく怒鳴る。
「ハハハ…。でも!これで目標は決まったな!なぁ立向居!」
「は、はい!大介さんが残してくれた究極奥義!絶対に俺が完成させてみせます!」
「その意気だぜ!立向居!」
こうしてこれからの練習の方向性が決まった立向居は“ムゲン・ザ・ハンド”習得の為に気合いを入れるのだった。
________
時間は進み雷門が沖縄に滞在する最終日となる。
今日が沖縄にいるのも最後という事もあり瞳子は選手に休日を与えた為、各々自由に過ごしている。
ある者は沖縄の名物料理を食べ歩き、またある者はダーリンと呼ぶイケメンと一緒にデート(強制)をしている。
そんな中、雷牙は最近行きつけの砂浜に行きある人物と一緒にボールを蹴り合っていた。
「中々上手くなったじゃねぇか天馬!その調子だぜ!」
「ありがとう先生!」
雷牙のパスを受けている子供は松風天馬。訳あって雷牙と出会いサッカーを教えて貰っているうちにいつのまにか雷牙を先生と呼ぶ仲になった。
染岡ほどじゃないとはいえそこそこ人相の悪い金髪の中学生がまだ3才くらいの子供と一緒にサッカーボールを蹴っている様子は人によって即通報モノである。
「ふぅ、おい天馬!ちょっと休憩だ。オメーも水を飲んどけ。」
「は〜い!」
天馬は持って来たプラスチックの水筒から水分補給をし
「…天馬。オメーに話がある。」
「なになに?もしかして必殺技を教えてくれるの⁈」
「いーやオメーにはまだ必殺技は早ェーよ。」
「むー!じゃなんなの!」
「…俺は明日東京に帰る。」
「えッ…?」
「…言うのが遅くなって悪ィけどよ。な〜んか中々言い出す気にならなくてな。結局今になっちまった。」
雷牙としてはもっと早い段階で言おうとはしていたが中々言い出せず先延ばしにしていった結果今日まで持ち込んだのである。
普段はしょうもない軽口をペラペラと喋るくせして、変なところで口を閉じる辺り本当にめんどくさい奴である。
「…そっか。東京に帰ってもがんばってね先生!」
「…応!」
ニカッと笑い自分に発破を掛けてくれた天馬に雷牙は力強く答える。
正直ギャン泣きされる事を覚悟していたが、幼い天馬のハートは自分の予想以上に強かった事に驚くと同時に思いの外ドライな反応を見せられた事に少しショックを受ける。
「…あれ?おかしいなぁ…。がまんしてるのに…なみだがとまらないや…。」
だがそれは雷牙の思い違いだったようだ。
涙を流す事を我慢出来なかった天馬はまるでダムが崩壊したかのようにギャン泣きしだす。
「ちょ、ちょ、ちょ泣くなって!別に今日が最後の別れってわけでもねぇだろ⁉︎」
「だってぇ〜〜…!!先生とあえなくなっちゃうのはさびしいんだもん〜〜…!!!」
雷牙にとって幸運だったのはこの浜辺にいるのが雷牙と天馬だけだった事だ。
本人達は自覚していないが、もし天馬が泣いているところを誰かに見られたら流石に即通報案件になりかねない。
泣き止まない天馬をなんとか宥める為に雷牙は必死にIQ100(四捨五入)を誇る金色の頭脳をフル回転させて知恵を出そうとするが何も思いつかない。
『餅は餅屋』の言葉を信じて仕方なく天馬を親の元に連れて帰ろうとした瞬間、不意に自身の幼少期の思い出が蘇った。
♢
『フンだ!もう雷牙のことなんかしらないもん!』
『はッ!じゃあ俺もライトの事なんかしらね〜からな!もう6年どもにいじめられても助けてやんねーぞ!』
その日雷牙とライトは初めて喧嘩をした。
理由は殆ど覚えていないが、きっかけは確か両者のしょうもない意地の張り合いだった筈だ。
その日以降、両者は一言も口を効かなくなり気づけば1週間が経過していた。
両親はこれも兄弟の青春として温かい目で見ていたが、兄弟の喧嘩が思った以上に長引いた事で流石に危機感を覚え、ある日父ステラは2人を公園に連れて行った。
『フン!』
『ツーーン!』
公園に到着してもなお、雷牙とライトは顔を合わせずにそっぽを向いている。
『今からオマエ達にはゲームをやってもらう。』
『『ゲーム?』』
『ルールは簡単、ライガとライトは俺からボールを奪うだけ。ハンデとして俺はこの場から一歩も動かない。なんなら手を使っても構わないぜ?』
『カッチーン!子供だからってパピーは俺達を舐めすぎだっての!』
『そうだよ!だって僕らは最強コンビなんだからね!パパ!』
明らかに自分達を舐めている父の態度に雷牙とライトは怒り、不満を露わにする。
するとステラは急に笑い出した。
『おや?その最強コンビは解散中じゃなかったのかい?』
『『あっ…。』』
『あ〜あ〜残念だな〜。もしも俺からボールを取れたら可能な範囲でなんでも言う事を聞いてやろうと思ってたのにな〜。』
子供というのは恐ろしく自分の欲望に忠実だ。特に親からの好きな物を買ってやるアピールは喧嘩の確執すらも超越する。
『…やるぞライト。パピーにひと泡ふかせてやんぞ!』
『…OK。パパ!約束はちゃんと守ってよね!』
『当然。男に…いやステラに『二言』は無いんだぜ?』
『2人共全力でプレーしなさいよー!』
母、雷夏の応援を背景に雷牙とライトは父に勝負を挑む。
しかし相手は世界に名を轟かせるプロ選手だ。如何に復活した最強コンビであっても簡単にいなされてしまい、ボールを奪う事は出来ない。
『もう!今の取れただろ⁉︎雷牙!』
『なにを〜!そういうオメーだってパピーのいかくにビビってちょくちょく動きが止まってんのに気づいてるからな!』
『ム〜〜…!』
『ガルル〜〜…!』
両頬を限界まで膨らませ
『だいたい雷牙はいつも僕を泣き虫扱いしすぎなんだよ!自分だって本当は寂しがり屋のくせに!』
『んだと〜⁉︎オメーが6年に悪口を言われるたんびに俺のユニフォームをびしょびしょにすんのが悪いんだろーが!あと俺は寂しがり屋なんじゃねぇ!1人でいんのが嫌いなだけだ!』
怒りが爆発した兄弟は父とのゲームもそっちのけで口喧嘩を始めた。雷夏は雷牙の拳が出る前に喧嘩を止めようとするが夫によって静止される。
『…ステラ君。どうして止めるの?』
『まっ、ちょっと見てなって。』
感情の爆発によって普段心に秘めている言葉の数々が外部に放出される。
雷牙は顔を真っ赤なしながらも辛うじて拳を上げないように我慢しながら、ライトは大粒の涙を流しながらも逃げ出さないように必死に我慢しながら。
それから10分後、言葉を全て出し尽くした2人は息を荒くしながら仰向けに寝そべる。
彼らの口喧嘩が終わるのを待っていたステラはニヤニヤとした笑みを浮かべながら2人に近寄る。
『夫婦喧嘩は終わったかい?お二人さん?』
『まだ結婚してないもん…。』
『今はハーフタイムなんだよパピー…。』
体力の限界を迎えながらも強がる2人を見てステラは溜め息を吐く。
『はぁ〜…、全くその強がりは誰に似たんだか。なぁ雷牙、ライト、なんで人は喧嘩をするか知ってるか?』
『分かんない…。』
『知らね〜…。』
返答を考える事すらもめんどくさくなる程消耗した2人は一言で会話を終わらせようとする。しかしステラは言葉を止めなかった。
『心の器に言葉を溜める為さ。普段からその人に対して怒っている事、不満に思っている事…色んな言葉がパンパンになった時、初めて人は喧嘩をするんだ。』
『『……。』』
『でもな、心に溜められる言葉はマイナスな物じゃない。その人への本当の気持ちが入っているんだ。』
『『本当の気持ち…。』』
『2人だって言いたい事を全部吐き出してスッキリしただろ?顔を合わせてみろよ、もうさっきみたいな怒りは無い筈だろ?』
雷牙とライトは互いに顔を合わせる。父の言う通り、先ほどまで自分達の心を支配していた怒りの感情は完全に消え去っている。
『まっ、要するにだ。喧嘩をした時は思ってる事を全部吐き出すのが大切だって事さ。』
『…雷牙ごめんね…。僕が悪かったよ…。』
『…いや俺も悪かった…。ああ言ったけどさ…もう一度俺とコンビを組んでくれるかライト?』
『うん…!だって僕たちは2人で最強なんだからね!』
ようやく互いの非を認めた兄弟は手を取り合いもう一度コンビを結成する。
息子の成長を感じ取ったステラは笑みを浮かべながら2人を見るのだった。
『さぁ〜て!仲直りも終わった事だし帰ってご飯を食べよむか!久しぶりにステラ君のスパゲッティ食べたいなー!』
『あれ?今日のご飯の当番雷夏ちゃんじゃ…。』
『ふっふ〜ん!コレな〜んだ?』
雷夏が手に持っていたのはサッカーボールだった。
ステラは急いで足元を見ると先ほどまであった筈のボールが消えている。
『い、いつのまに…?』
『可能な限り言う事を聞いてくれるんだったよね?それじゃ晩御飯よろしくね〜!』
『『よろしくね〜!』』
『…ハイ。』
妻に一本食わされたステラの姿にはまだ若いにも関わらず哀愁が漂っていた。
雷牙によればその日食べたスパゲッティは今まで食べてきた食事の中で最も美味だったそうな。
そんなこんなでライトと仲直りした雷牙はその日以降大喧嘩をする事はなかった。
♢
「…そうだな親父。」
少し長めの回想を終えた雷牙は意を決すると改めて泣きじゃくる天馬の目を見る。
「よし天馬。オメーの師匠として最後の教えだ。」
「…さいごのおしえ?」
「もしこの先辛い事や嫌な事があって諦めんな。それでも心が折れそうになったらこの言葉を口にするんだ。『なんとかなるさ!』ってな!」
「なんとかなるさ…。」
これは未来から来た天馬がピンチの度に何度も口にしていた言葉だが、その言葉への想いは雷牙が自身が心の底から思っている事だ。
雷牙は未来の天馬がどのような経緯で自分と出会ったのかは知らないが、なんとなく本来の歴史の自分も天馬と別れる時に100%同じ台詞を言っていると確信していた。
「そうだ。よ〜しいっちょ海に向かって叫んでみろ!」
「なんとかなるさ!」
「もういっちょ!」
「なんとかなるさ〜〜!」
「ハッハッハ!いいねぇ!よ〜〜し!最後に俺と一緒に叫ぶぞ!」
「うん!せーーの!」
「「なんとかなるさ〜〜〜!!!」」
いつの間にか天馬の涙は止まり、師弟は互いの顔を見て笑い合った。
最後の天馬との練習を終えた時には既に日が暮れ始めていた。少し名残惜しかったが雷牙は天馬を家に返す。
「じゃあね!先生!」
「じゃあな天馬!…おっと、おい天馬!コレを忘れてんぜ!」
天馬と別れる直前、何かを思い出した雷牙は持っていたボールを天馬にパスし、天馬はなんとかボールを受け取る事に成功した。
天馬の足元に渡ったボールはまるで炎に焼かれたかのように所々が焦げたボロボロのサッカーボールだった。ボールを構成する六角形の1つにはマーカーでイナズママークが書かれてある。
「これって…、先生のあいぼうって人のボールでしょ⁉︎俺のじゃないよ!」
「いーや、ソレはオメーのだ。暫く会えない間はソレを見て俺の事を思い出せ!んでもって、いつか本人に返しに行け!いいな!」
「うん!ありがとう先生!俺…いつか雷門に入れるようにがんばるよ!」
天馬の言葉に雷牙はサムズアップで答えその場を立ち去る。
沖縄の地で出会ったこの少年は10年後の未来で管理されたサッカーを取り戻す革命者となる。
雷牙との出会いはまさしく彼の長いサッカー人生における“
〜数日後〜
「くっは〜〜!やっと着いたぜ東京〜〜!!!」
「ハッハッハ!相変わらず声がデケェなぁ綱海!」
沖縄から東京までの長旅を終え、キャラバンから降りた綱海は初めての東京に興奮したのか大声をあげながら飛び出す。
何故綱海が東京まで着いて来ているのかというと、彼のロングシューターとしての才能を買った瞳子がスカウトし、綱海もそれに応じたからだ。
「しっかし本当に綺麗になったなぁ〜!あんなに粉々だったのにもう帝国に負けないくらいピカピカの校舎になってるなんてな!」
円堂は新たに建て替えられた雷門中の校舎に感嘆の声をもらす。
実際まだ校舎が破壊されてから数ヶ月も経っていない為、再建スピードは並ではないだろう。流石は理事長といったところか。
「…しっかし何か様子がおかしくねぇか…?」
雷牙の言う通り新雷門中の雰囲気はどこか不気味だ。
我らが雷門イレブンの帰還であるにも関わらず歓迎の声は一切存在せず、いつもなら我先に出迎えるであろう理事長の姿も無い。
「変ね…。昨日お父様と連絡を取った時は出迎えに来るって言っていたのに…。」
夏美も父の不在を怪しむが、その答えを知る者はこの場にはいない。
その時、屋上から放たれたボールが鋭く空気を切り裂きながら円堂へ襲い掛かった。
「何⁉︎くっ!“真 ゴッドハンド”!!!」
間一髪のところでシュート止める事に成功する。しかし円堂には今のシュートに覚えがあった。
「誰だ⁉︎円堂の不意を突くなんて、汚ぇ真似をしやがって!」
「お前が人の事を言えるか熱也よ…?」
人の事を言えない熱也の怒声に応えるように雷門中の屋上にいた謎の人影はその場から姿を消したと思うと、グラウンドから凄まじい突風が発生した。
「お、お前は…!」
突風の中きら現れたのは炎のように爆発した赤髪を携え、身体のラインが浮き出た独特なスーツを纏っている少年だった。
雷門イレブンはその姿を認識すると即座に戦闘体制に入る。
何故なら彼こそは沖縄で円堂を完膚なきまでに叩きのめしたチーム“プロミネンス”のキャプテン、バーンだからだ。
「久しぶりだなぁ雷門イレブン!わざわざ俺の方から尋ねて来てやったぜ。」
「オメーは確か…、え〜っと確か…あっそうだ!ビューン…!」
「バーンだコラ!テメェワザとだろ!」
「オメーは他のエイリアのヤツらと比べてそのまんま過ぎんだよ。いっその事の改名したらどうだデューン?」
「てんめぇ…!」
「茶番はそのくらいにしておけバーン。我々の目的を忘れたか?」
雷牙の挑発に怒りを燃やすバーンを諌めるのは彼と同じくマスターランクチーム“ダイヤモンドダスト”のキャプテンガゼルだ。
「…マスターランクチームのメンバーが一体私達に何の用なの?」
「チッ!おい雷門イレブン!俺たちはテメェらに宣戦布告をする!」
「せ、宣戦布告だって⁉︎」
「テメェらを倒せば俺は“ジェネシス”の称号に一歩近づくんだ!」
「“ジェネシス”だと⁉︎“ジェネシス”とはグランが率いるチームではなかったのか⁉︎」
「違うな。本来“ジェネシス”とは偉大なる“エイリア皇帝陛下”が認めて下さったチームにのみ与えられるエイリア学園最強の証。グランはその称号を勝手に名乗ったに過ぎない。」
「そして“エイリア皇帝陛下”は俺たちに約束してくださったんだよ!雷門をぶっ潰した方にグランの野郎を叩きのめせるチャンスを与えるってな!」
「つまり俺達は“ジェネシス”に挑戦する前の試金石でしかないという訳か。」
「テメェらにはチーム“ガイア”以外のマスターランクチームと試合をしてもらうぜ!ただし…今回は普通の戦いじゃねぇ、総力戦だ!」
「総力戦だと…!」
2人から提示された試合形式は以下の通りだ。
・試合は今日から1週間後。雷門は予め“ダイヤモンドダスト”、“プロミネンス”、“レグルス”と試合するチームを決めておき試合当日までに選手を揃えておく事。
・一度試合に出場した選手は以降の試合に出場する事は出来ない。ただし別の試合にベンチ入りをした選手がその試合に交代しなかった場合は以降の試合も参加可能。
・雷門が一度でもエイリア学園に敗北すればその時点で総力戦は終了。以降雷門がエイリアの前に姿を表せばサッカーではなく武力で処理する。ただし引き分けで試合が終了した場合は雷門の勝利として扱う。
・万が一マスターランクチームが全敗した場合、エイリア皇帝は雷門にエイリア学園の本拠地を公開しジェネシスとの挑戦権を与える。
…と大体こんなところだ。
雷門一同は言葉を失っている。それもそうだろう、彼らが提示した条件はあまりにも雷門に不利極まりない内容だからだ。
「…影山でさえもう少し相手に公平感を与える契約を結ばせるというのにお前達の傲慢は世宇子の面々以上だな。」
「当然だ。我々は天界に住む神々よりも遥かに高い位置に属する宇宙から来た存在なのだからな。」
「だからってこんな条件で試合が出来るか!あまりに俺らが不利すぎるだろ!」
あまりのエイリアの横暴に土門は思わずキレてしまう。
すると唐突に瞳子が口を開いた。
「…違うわね。」
「何?」
「エイリア皇帝…
瞳子の言葉に鬼道はある違和感を抱いていた。
瞳子は良くも悪くも合理を信じる人間である為、物事を断言して話すというのは滅多にない。
そんな彼女がそこまで確信して話しているのは始めての事だった。
まるで
鬼道だけでなく或葉や塔子、一之瀬等の一部のメンバーもこの違和感に気づいているようだが、マスターランクチームとの決戦を控えている以上、無駄な確執はこちらにとって不利にしかならないと判断し、鬼道は彼らにこれ以上は詮索しないように合図を送る。
「フッ、確かに貴様の言う通りだ。敗北を喫したチームは即座にエイリア学園から追放される。だがそれがどうした?そもそもこの試合は我々にとっては“ジェネシス”争奪戦の予行練習でしかない。私達が負けるなど万が一にもないのだよ。」
ガゼルの言葉にはマスターランクチームとしての強いプライドと雷門への侮蔑の感情が含まれていた。
「へぇ、つまりだ。オメーらに全勝すれば、残りのエイリアのチームはジェネシスだけってこった!」
余程ガゼルの侮蔑が気に障ったようで、やや悪意が含まれた言葉で返す雷牙。
するとガゼルは冷たく笑うと、手に持っていたボールを足に移動させた。
「ならば私もテストをしてやろう。」
「なッ!危ないッ!秋!」
「キャアアアアアッ!」
ガゼルはテストと称して全力のシュートを放った。
先ほどのバーンと同様に円堂の不意を突く形ではあったがそれはまだいい。
問題はそのシュートコースが円堂達ではなくマネージャーの秋に向けられた事だ。
円堂以外の選手も秋を守ろうと飛び出したもののスピードはボールの方が素早く、誰もが秋の怪我を確信してしまう。
その瞬間、どこからか黒い影が彼女の前に出現した。
「よくないなぁ。無抵抗の女性に向かってボールを蹴るのは。」
「何…?」
秋の前に現れたのは厚いローブを身に包んだ正真正銘謎の人物だった。
その人物は秋の代わりに自分の右脚をボールに衝突させると、数秒程度の拮抗の後に完全に回転が止まってしまった。
「何者だ?貴様は?」
「そうだね。ただの“神様の見習い”とでも言っておこうか。」
「ヘッ!ムカつくヤローだ!その化けの皮を引っ剥がしてやるぜ!」
バーンはいつの間にか回収していたサッカーボールに炎を纏わせ謎の人物目掛けてシュートを放つ。
しかし謎の少年はその場から動こうとせずに無抵抗のままボールが衝突した。あまりのシュートの威力により、周囲一帯に大量の砂埃が発生し何かが燃えたような焦げ臭い匂いが充満する。
すると謎の人物が立っていた地点から凄まじい突風が吹き荒れ、砂埃が晴れると同時に中から白い翼を持つ天使が飛び去った。
「あ、あいつは…!」
遂に正体を現した少年は美しく煌めく金髪を風に靡かせ、まるで古代ローマの民族衣装のようなユニフォームを身に纏っている。
純白の翼を携えて空を飛ぶ様子はまるで神話の世界を描いた絵画のようにも感じさせる。
我々はその少年の名を知っている。何故なら彼こそは…
『あ、アフロディ⁉︎』
「久しぶりだね。雷門イレブン。」
かつて神の語り雷門を苦しめた少年は爽やかな笑みを浮かべ、脅威の侵略者達を見下ろしていた。
なんか色んな展開詰め込みすぎて駆け足気味+文字数多くなっちゃったけど許してちょ。
あと総力戦にしたいがあまりに圧倒的に雷門ド不利なガバガバルールを作っちゃったけど海よりも広い心で飲み込んでください。
ちなみに雷門中に人がいなかったのは吉r…エイリア皇帝が雷門中に脅迫状を出して人を遠ざけていたからです。