イナズマイレブンHEROS!!!   作:月兎タンク

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久しぶりの熱也の主役回です。


2“+1”

 世宇子との練習試合を終えた日の夕方。稲妻町の河川敷を駆ける1匹の狼がいた。

 

 「吹き荒れろ!“エターナルブリザァァァド”!!!」

 

 狼が繰り出した一撃は強力な冷気を纏いながらゴールネットを激しく揺らす。

 もしも名のあるスカウトマンが今の光景を見ていたならば間違いなくスカウトに入る程に素晴らしいシュートであるにも関わらず狼は納得のいっていない様子だ。

 

「…クソ!全然駄目だ!もっと強い技じゃねーとエイリアからは点を取れねぇ!もう一度だ…!」

 

 狼の名は吹雪熱也。まだ1年生ながらもFFベスト3の白恋中のエースストライカーであり、現雷門の攻撃の一角を担う天才ストライカーだ。

 

 だが熱也は焦っていた。理由は単純、自身の力不足にだ。

 天才ストライカーである彼にとってエイリア…厳密にはデザームとの試合は生まれて初めての挫折だった。

 それ以降デザームをライバル視して努力を重ねたのにも関わらず、結局一度も彼に勝つ事が出来なかったばかりか、最終的には美味しい所を全て彼と因縁の薄い雷牙と豪炎寺に持って行かれた。

 

「俺は…もっと強くなりてぇ…!稲魂にも‥豪炎寺にも負けないくらいのストライカーになりてぇ…!」

 

 FFの準決勝で初めて彼らと出会った時の純粋な実力はほぼ互角だった。

 だが今はどうだろう?少し目を離した隙に彼らは自分よりも遥か先の領域へ到達しており、どう足掻いても彼らに勝つ事は不可能だ。

 

 凡人から見れば1年の時点で2年の彼らと張り合える実力を持っていただけで凄まじいものなのだが、熱也にとって歳の差など負けを認める為の言い訳にしかならなかった。

 

「…チッ、こんなところで理想ばっか垂れ流しててもしょうがねぇ…。いい加減練習を再開する… ッ⁉︎」

 

 練習を再開しようとした時、何処からかシュートが彼目掛けて飛んで来た。

 不意を突かれたものの熱也はなんとかボールを蹴り返す事に成功する。

 

「誰だ⁉︎しょうもねぇ真似をしやがるのは⁉︎今の俺は虫のいどころが悪ぃんだ!出てきやがれ!」

 

「相変わらず短気な奴だぜお前は。本当に士郎と血が繋がってんのか?」

 

 グラウンドに繋がる石階段を降りて現れたのは、ピンクに染まった坊主頭に、竜を思わせる鋭い目つきとゴツい筋肉を有した少年だった。

 

「染岡…!お前…もう怪我は治ったのか⁉︎」

 

 その少年の名は染岡竜吾。数少ない熱也が実力を認める優れたストライカーであったものの、真・帝国との試合での負傷によって戦線離脱していた選手である。

 

「ああ、監督から紹介してもらった最新医療ってやつのおかげでな。」

 

「へぇ!そりゃ良かったn…ゴホン!ケッ、あの程度の怪我を治すのに時間を掛けすぎだっての!」

 

 染岡の復活を喜んだと思った瞬間、すぐに態度を一変させるという絵に描いたようなツンデレムーブをかます熱也。

 

「よく言うぜ、俺がいなくなって暫く迷走してたのは何処のどいつだ?」

 

「なっ!テメ‥どこでそれを…!」

 

「僕が染岡君に教えてあげたんだよ。彼、ずっと熱也の事を心配してたからね。」

 

 狼と竜の口喧嘩の最中にもう1匹の狼が姿を現す。その狼は熱也と瓜二つの姿をしている。

 

「あ、兄貴…!あんたも来てたのかよ…!ちょっと俺にも連絡入れろよな!」

 

 もう1匹の狼こと熱也の兄、吹雪士郎は文句を言う弟に向けて爽やかに微笑みながら答える。

 

「サプライズってやつさ。どうだい?驚いただろう?」

 

「あーはいはい驚きましたよー。」

 

 その後休憩がてらに吹雪は自分が福岡で離脱してからの事を弟に話す。

 瞳子が提供する最新医療を受ける為に東京まで移動した事、偶然染岡と同じ病室に割り当てられた事、リハビリの休憩中によく熱也との昔話を話していた事。

 

「そういえば或葉君は?一緒じゃないのかい?」

 

「あー、あいつは木暮と一緒に東京のカレー屋巡りに行ったぞ。多分あいつは監督が用意したホテルに泊まると思うし後で会いに行けよ。」

 

 ちなみに或葉に連れて行かれる木暮は死んだ魚のような目をしていたらしい。後輩というのも楽ではないようだ。

 

「ふ〜ん、だから1人で練習をしてたって訳か。」

 

「でも1人で練習するよりも誰かと練習した方がいいんじゃないかな?雷門の皆なら断りはしないだろ?」

 

「…なぁ染岡、お前はシュートを打つのは好きか?」

 

「ああん?そりゃ好きだぜ?好きじゃなきゃFWなんてポジションは務まらねぇだろ?」

 

 突然当たり前の事を染岡に質問熱也に士郎はある違和感を覚える。

 

「…もしかしてまだ1人で勝つ事に拘っているのかい?」

 

「…違ェよ。確かに俺は大阪での試合でようやく理解したさ…1人で点を取る事には限界があるって…。でも…」

 

 熱也の脳裏に浮かぶのはイプシロン・改との決戦にて暴走したデザームをたった1人で破った豪炎寺のあのシュートだった。

 

「あの試合から何度も考えちまうんだよ…。あんなシュートを打てたのが…あの場所に立っていたのが俺だったならどんなに気持ちよかったんだろうなってな…。」

 

「熱也…。」

 

「みんなと戦う事は否定しねぇ…、でも俺はやっぱり1人でも点を決めれるようになりてぇ…!バンバン点を取ってチームを勝たせるストライカーになりてぇ…!」

 

 熱也は小さくそして力強く理想を語る。それを見た染岡は突然笑い出した。

 

「ハッハッハ!こりゃ傑作だ!あの自信家の熱也が黄昏れる光景を見る日がくるとはな!」

 

 熱也の落ち込み様に大笑いする染岡だが、当の本人は怒るのではなく恥ずかしそうに顔を真っ赤にする。

 

「…俺も成長したんだよ。」

 

「でもな熱也、お前の悩みはよく分かる。」

 

「何…?」

 

 染岡は熱也に自分の過去を語る。

 

「2年に上がってすぐに俺たちは近くのサッカー部と試合をした。初めての試合だったから前の日の夜は興奮して全然眠れなくてよ。結局試合当日は寝不足のままだった。それでも俺は“雷門の点取り屋”として相応しいプレーをしようと思ってたんだよ。」

 

 深海中との試合は10対0で雷門の圧勝だった。だが点を決めたのは染岡ではなく…。

 

「でもそれは呆気なく打ち砕かれた…。あの日点を決めたのは全部稲魂だった。俺にもシュートを打つ機会はあったが全部止められちまった…。」

 

「染岡…。」

 

「あの時感じた気持ちはお前と一緒だ。だからこそ俺は皆がサッカーへのやる気を無くす中必死に練習した。そんでやっとの思いで“ドラゴンクラッシュ”を生み出したって思ったら次は豪炎寺の出現だ。」

 

 染岡は初めて豪炎寺の“ファイアトルネード”を見た時の衝撃を未だに覚えている。

 自分の“ドラゴンクラッシュ”や雷牙の“キングレオーネ”すらも簡単に止めてみせたあの源田でさえも反応し切れなかったスピード、遅れて現れたのにも関わらず試合の空気を帰る程の圧倒的な存在感。

 

「最初はあまりの嫉妬でおかしくなりそうだった。でも円堂達のお陰で俺はなんとか立ち直れた。それからはお前の知っている通りだ、“ワイバーンクラッシュ”を編み出して、豪炎寺と相棒って認められるくらいまで仲良くなって…、俺も成長出来たと思っていたがあいつは更に先に行った。」

 

 野生、御影専農、秋葉名戸、帝国との試合を通して自分達はベストパートナーと呼ばれる名コンビになっていった。

 それでも世間が注目するのは豪炎寺の方で自分は彼の添え物でしかないと自覚していた。

 

「んで木戸川清修との試合の時にあいつが化身を出した時よ、俺は悟っちまった…こいつには一生かかって追いつけねぇってな。」

 

「でも俺は努力を止めなかった。なんでだか分かるか?」

 

「…いや分かんねぇ。」

 

「豪炎寺に負けねぇ為だよ。」

 

「は…?」

 

 熱也は混乱していた。ついさっきまで豪炎寺に追いつけないと悟った奴が今度は豪炎寺に負けない為に努力をしていると言い始めたのだ。そりゃ混乱もするだろう。

 

「ハハハハ!思った通り困惑してんなぁ!まっ、そりゃそうか。つまりだ、俺はあいつに追いつけねぇとは思ったが勝てねぇとは思ってねぇって事だよ。どんなにあいつが俺の一歩先に行っても俺は別の道を通ってあいつに追いつこうともがくんだよ。」

 

「別の道を通る…。」

 

「だからこそ俺たちは歩みを止めちゃいけねーんだよ。たとえ俺たちの全力疾走が才能のある奴らにとっての徒歩でも諦めずに挑戦を続けるんだ。そうすりゃいつかは追いつけるんだよ。」

 

 染岡の言葉に熱也は何かを掴めかけた気がしたが、すぐに霞のように消え去ってしまいせっかくのチャンスを逃してしまう。 

 そのショックが現実世界の顔に出ていたのか、それとも血の繋がった兄弟特有の勘でも働いたのか、士郎は弟の手を引く。

 

「よし!それじゃあやろっか!」

 

「やる…?何をだ?兄貴?」

 

「稲魂君や豪炎寺君に負けない必殺技作りをだよ。そもそも熱也が特訓してた目的はそれだろ?」

 

 兄からの言葉で熱也はようやく自身の最初の目的を思い出す。

 

「でもよぉ…そんな簡単に“エターナルブリザード”以上の必殺技は出来ねぇだろ…?」

 

 弱気な事を言う熱也だったが、士郎は彼を咎めずに爽やかな笑みを浮かべ力強く答える。

 

「出来るさ、僕と熱也そして染岡君が力を合わせれば!」

 

「…! へッ、そうだな!よっしゃ!いっちょスゲェ必殺技を完成させて稲魂と豪炎寺に一泡吹かせてやろうぜ!」

 

「ようやくいつとの調子が戻って来たようだな!リハビリがてらに付き合ってやるぜ!」

 

 雪国から訪れた兄弟の狼は新たな可能性を広げる為にグラウンドを駆ける。彼らの覚悟に呼応するように側には蒼龍も加わったという。

 

 

 

 

 

 その日の深夜、東京方面に繋がる高速道路を猛スピードで爆走する警察車両がある。一般人がその車を見れば一体どんな事件が起こったのか身構えてしまう程常識はずれな速度だったが幸い酷い事件は起こっていない。

 

…現時点では。

 

「やれやれ…本当に厄介な事になったな…。」

 

 警察車両の目的は後部座席に座る人物を一刻も早く雷門中に届ける事。そしてその人物とは本来の雷門イレブンの監督である響木正剛だ。

 現在彼は監督業を瞳子に任せ自分はエイリア学園の情報収集に全国を回っているものの、マスターランクチームからの宣戦布告の報告を受けて至急東京は帰還している最中だ。

 

「(しかし…エイリア学園最強クラスのチームが一斉に攻めてくるとはな…。しかも1週間で3チームを作れと来たもんだ。今の日本に瞳子さん以外で奴らに対抗出来る人材は果たしているかどうか…。)」

 

 自分と瞳子を入れても担当出来るチームは2つ。1戦でも落とせば終わりの勝負である以上、数合わせではなく瞳子に匹敵する程の実力を持った監督が必須である。

 

「(影山…は駄目だ。そもそも奴の居場所は未だに不明だ…、万が一奴と連絡が取れたとしてもエイリアの騒動が終わった後に奴がつけ上がる隙を与えかねん…!くそ…どうしたら…。)」

 

 あれほど忌み嫌っていた“影山”の名を出しかける程響木は悩んでいる。

 

ピロロロ…♪

 

 すると響木の携帯から着信が入る。瞳子かと思い画面を確認すると表示されていたのは『非通知設定』の五文字。

 不動の件もあり、電話の先にいるであろう人物を警戒する響木であったが、いくら待っていても着信が鳴り止まない気配がなかった為、折れた響木は電話に出る。

 

「…もしもし。どちら様でしょうか?」

 

『や〜っと出てくれましたか。電話のコールには2コール以内に出るのは常識だって習わなかったのですか響木さん?』

 

 響木は電話から流れる声に聞き覚えがなかった。元々人間関係は広くない方であるが、声のハリから考えて電話の先の人物はまだ30代後半くらいの成人男性だろう。そんな知り合いは彼にはいない。

 

「あいにく知らん奴に与える礼儀は習ってなくてな。単刀直入に言う…何者だお前は?」

 

『おっと、どうやらご機嫌斜めどころか90度の様子ですねぇ。ご安心を、私は貴方を手助けをする為に連絡をしたのですよ。』

 

「手助けだと?そんなものは『3人目の監督にお悩みなのでしょう?』何だと…?」

 

『でーすーかーらー、雷門イレブンは近い内にエイリア学園のマスターランクチームと試合をしなくてはならない。でも担当する監督があと1人足りない…それに加えて数合わせの人材じゃ奴らに勝つ事は出来ない…そんな所でしょう?』

 

 関係者以外誰も知らない筈のマスターランクチームの襲撃の事を知っている謎の男に響木は警戒心を更に高める。

 

『多分何故お前がそれを知っているって顔をしてますね。まぁどっちみち企業秘密なので言えませんが、あるツテからの情報…とだけ言っておきましょうか。』

 

「お前の目的は何だ!言え!」

 

 遂に我慢の限界を迎えた響木は声を荒げて強く問う。あまりの迫力に運転している刑事すらも驚いているが電話の主は口調を崩さずに淡々と要求する。

 

『なぁに簡単な事です。私をその3人目の監督に加えて欲しいのですよ。少なくとも失望はさせませんよ。』

 

「……ッ!」

 

 響木は言葉を失う。急に知らない人物が自分達の秘密を知っているのに加え、今度の試合の監督に自分を採用しろと言って来たからだ。

 響木からしたらこんな怪しすぎる人間の言う事など選手の安全を考えれば聞く必要はないのだが、少なくとも電話の先の人物は極秘事項を容易く仕入れる事が可能なリサーチ力、現役の刑事でさえも怯む自分の怒鳴り声を喰らっても怯まない胆力、自分と瞳子がいる事を知りながらも自身を売り込もうとする能力への自信を持っている人間だ。

 それに加えてここまでの会話で見えてくる奴の人間性にはどこか影山を思わせる雰囲気が感じられた。

 

『ふ〜む案の定黙ってしまいましたねぇ。…ああそうだ!どうしても信用出来ないと言うのでしたら東京に着き次第稲妻町の鉄塔へお越しください!そこで貴方の知らないエイリアの秘密をお教えしましょう。ではでは〜。』

 

 一方的に要求だけ伝えた謎の男は響木の返答を待たずに電話を切る。まるで嵐のように現れて通り過ぎって行った電話によって車両の内はエンジン音だけが鳴り響く静寂に支配された。

 

「ひ、響木さん…。」

 

 刑事は意を決して響木に問いかけるが、彼からの返事は無い。

 それから数分いや数十分は経過しただろうか。遂に響木が覚悟を決め運転手に告げた。

 

「…運転手さん、目的地変更だ。稲妻町の鉄塔に行ってくれ…俺は少し寝る、着いたら起こしてくれ。」

 

 響木は鉄塔に待つ謎の人物について思案しながら眠りに着いたのだった。




唐突に現れた謎の人物…一体“○帝”なんだ…⁉︎(すっとぼけ)
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