イナズマイレブンHEROS!!!   作:月兎タンク

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各チームの名称は“1st雷門”、“2nd雷門”、“3rd雷門”に決めました。


雷を統べる帝

 対マスターランクチームのメンバーが決まり、後は試合に備えるだけとなった今日。

 風丸が率いる“1st雷門”は世宇子中、鬼道が率いる“2nd雷門”は帝国学園、そして雷牙が率いる“3rd雷門”は雷門中とそれぞれ異なる場所で練習を行っていた。

 今回のチームは様々な学校で構成された混合チームである為、監督達はミニゲームや新たな連携技の開発で交流を深め合い今では元のチームメイトと遜色ないチームワークを見せている。

 

 

 

 …あるチームを除いて‥。

 

「おい不動!何度も言ってるだろ!パスを出すスピードが早すぎるって!そんなスピードじゃ取れるわけないだろ⁉︎」

 

「ケッ、この程度のパスが取れなくて日本一を名乗ってるとは呆れるねぇ。そうだ!いっその事ベンチの奴らと交代したらどうだ?あんたにゃあベンチを温めておくのがお似合いだぜ!」

 

「なんだと⁉︎」

 

「落ち着けマックス!ここで問題を起こしたらまずい!」

 

 問題のチームとは雷牙率いる“3rd雷門”である。

 その原因はお察しの通り絶賛マックスを煽り中のモヒカン頭がトレードマークの人物、不動明王の存在である。

 

 真・帝国学園での蛮行により元からチームメンバーの信用貯金は0に等しかったものの、本人はそんな事知った事かと言わんばかりに練習初日からチームの和を乱しまくる行動を頻発し試合も目前に迫った現在に至る。

 

 特に不動はFW、MFの選手には当たりが強く、ずっとシュートと遜色のないキラーパスを連発している。

 雷牙、吹雪、豪炎寺は何とか対応出来ているものの彼らより実力の劣るマックスと闇野は普通にパスをくれない不動に対して不満を溜めていた。

 

「…キャプテン。いい加減不動をチームから外すようにあの監督に頼んでくれないか…。チームの和を乱すような奴がいたら勝てる試合にも勝てなくなる…。」

 

「え〜…俺割と不動の事気に入ってるんだけどな〜。」

 

 不動をチームから外すように闇野から要求されるが、何故か雷牙は渋る。性格が悪い者同士通じ合うものがあるのだろうか?

 

「そもそも稲魂はあいつがした事を実際に見てないからそんな事を言えるんだ!俺は今でも覚えてる!あいつが佐久間に“皇帝ペンギン1号”を撃つように命令した時の顔は本当に悪魔みたいだった!」

 

「ん〜でもアイツの種族は悪魔族じゃなくて人間だろ?」

 

「いやそういう事じゃなくて〜〜!」

 

「はぁ…。雷牙、少し話したい事がある、こっちに来てくれ。」

 

 雷牙のズレた返答にマックスは頭を抱える。そんな彼を見かねた豪炎寺は彼をグラウンドの外に連れて行き話をする事にした。

 

「なぁ雷牙、どうしてお前はそこまで不動を庇うんだ?お前だって分かっているだろう?いくらゲームメイクは鬼道に匹敵しても不動はチームの不確定要素になっている事くらいは。」

 

 豪炎寺も不動の能力だけは認めてはいる。恐らく今の日本に彼以外に鬼道と張り合える選手は存在しないだろう。

 しかし他人を信頼しない将に配下が従うのか問われればそれは否だ。鬼道が実力主義者であるならば不動は超が付くほどの自分至上主義者…それが不動が唯一鬼道に劣る要素である。

 

「…なぁ豪炎寺。オメーは道に財布が落ちてたら交番に届けるか?」

 

「…は?」

 

「いいから答えてくれよ。」

 

「いや…普通に届けるが…。そもそも届かなかったら犯罪だろ?」

 

「そう、普通は届けるんだよ普通はな。守だって、鬼道だって、染岡だって、熱也だって、雷門にいるヤツら例外なく届けるだろうな。でも不動はどうだ?アイツ絶対ェ中身を抜き取るタイプだろ?」

 

 豪炎寺はさっきから雷牙の発言の意図を読めずに頭に『?マーク』を浮かべている。

 

「別に俺はアイツがした事を肯定している訳じゃねぇよ。ただな…な〜んか不動を見た時にビリビリ〜って感じたんだ。守やオメーと初めて会った時とは違う何かをなー。こういうのをなんて言うんだっけ…?え〜と確か“なんちゃら反応”ってヤツ…。」

 

「…つまりお前は奴が加わる事による“化学反応”を期待しているというのか?」

 

「そう!“化学反応”だ!俺が思うによ!俺とアイツがぶつかればスッゲェ事を出来る予感がするんだよなぁ〜!」

 

 雷牙はただでさえ蒼色に煌めく瞳を更にキラキラさせながら語り始める。

 その瞬間豪炎寺は確信した…『多分こいつはギャンブルにハマると確実に破産するタイプだ』と。

 

「それにさ…俺思うんだ、アイツは本当はサッカーが好きなんじゃねぇかなってさ。」

 

 ここで豪炎寺はようやく雷牙が妙に不動を気に入っている理由を理解する。

 未だに彼の思考を理解出来ないところも多いが、雷牙の人を見る目だけは信頼している。

 そもそも雷牙がただ実力があるだけの選手にあそこまで肩入れする筈がない。恐らくここ数日の間の不動のプレーを見て彼のサッカーへの想いを感じ取ったのだろう。

 

「はぁ…まったく、お前は  だがこれだけは言っておくぞ、あまりに不動の態度が酷いと判断した時は容赦なくあいつをチームから外すように監督に頼むからな。」

 

「まっ、その時はアイツの自業自得だからな俺も口を挟まねぇよ。んじゃ!マックスたちを説得しに行こーぜ!」

 

 その後豪炎寺は雷牙と共になんとかマックスと闇野を説得してミニゲームに不動を参加させない事を条件に試合の参加を認めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さてここまでが3rd雷門1つ目の爆弾(・・・・・・)の解説である。

 そう、このチームにはもう1つの爆弾を抱えているのだ。

 

 それこそが…。

 

「行くぜ!立向居!“ツナミブースト”!」

 

「うおぉぉぉぉお!!!“ムゲン・ザ・ハンド”!」

 

 雷牙と豪炎寺が話し合っている頃、立向居はDFに協力を得て“ムゲン・ザ・ハンド”の特訓に励んでいる。

 雷牙の解読により前後上下左右の感覚を鍛える事が重要だと判断し、こうして複数人でシュートを打つ事でその感覚を鍛えようとしているわけだ。

 

「シュタタタタタン!ドババババーン!」

 

 あらゆる方向から飛んで来るボールを捉えようと立向居は精一杯五感を鋭し両腕を突き出す。

 しかし朧げでも20%ほどのクオリティは出せた円堂とは異なり、立向居はそれらしい技すらも出せずにそのまま全てのボールが直撃してしまった。

 

「大丈夫か⁉︎立向居!」

 

 倒れた立向居に綱海は急いで駆け寄ろうとするが立向居はすぐに立ち上がる。

 

「痛てててて…だ、大丈夫です…。もう一度お願いします…!」

 

「しゃあ!その意気だぜ立向k「おぉ〜精が出るねぇ君達。」…やっと来やがったか…。」

 

 練習を再開しようとした瞬間、呑気な声が彼らの耳に入る。

 声の主は“3rd雷門”の臨時監督であり、不動に続くこのチームの第二の爆弾の正体でもある“雷帝”だ。

 彼が姿を現した途端、メンバーは顔をしかめる。

 というのもこの男、チームの監督であるのにも関わらずこの数日間ロクに監督らしい事を何一つしていないのだ。

 

 強いて監督らしい事をやったのは初日の一言のみ。

 

『君達の好きなように練習をしてくれ。以上。』

 

 これだけ。

 以降、彼はこうして遅れてやって来ては1日中ベンチに座って練習風景を眺めているだけだ。

 

「少しいいですか“雷帝”さん。貴方はエイリア学園と戦うチームの監督なのですよ?そんな人が毎日遅刻するというのは些か緊張感が欠けてなくて?」

 

 いつ自分達が試合を行うか分からない状況にも関わらず緊張感の無い“雷帝”に対し、マネージャーである夏未はキツい口調で彼を咎める。

 

「おやフロイライン(お嬢さん)。朝から眉間に皺を寄せるのは良くないなぁ。もっと笑顔でいないとそのビューティーフェイスが台無しだよ?ほら、スマイル!スマイル〜!」

 

 1mmも反省していない“雷帝”の態度に夏未は更に眉間に皺を寄せる。

 そんな彼女の様子を見た“雷帝”はケラケラと笑いながら視線を夏未から立向居へ移す。

 

「えっと…なんでしょうか…?」

 

「何故君は目を開けて練習してるんだい?」

 

「えっ…?」

 

 “目を開けて練習する”という人間ならば当たり前の行為を咎められた事で立向居は言葉を失ってしまう。

 

「だってそうだろう?その技の肝は全ての方向を感じ取る事っぽいが、それに対して人間の目はMAX180°の正面しか見れないんだよ?それじゃあどう頑張っても一方位しか感じる事は出来ないだろ?」

 

「じゃ、じゃあどうすれば…?」

 

「知らないなぁ。後は君の頭脳で考えてごらんよ。」

 

 質問をした立向居を突き放すと“雷帝”は夏未の静止を無視し大きな欠伸をしながらベンチへと向かって行った。

 その様子は“我が子を千尋の谷に落とす獅子”ならぬ“我が子に目隠しと重しを付けて千尋の谷に落とす獅子”の如しだ。

 

 とまぁ3rd雷門はいつ爆発するか分からない2つの爆弾を抱えながら練習するしかなかった。

 

 

「はぁ…この調子が最悪1週間以上続くと考えると頭が痛くなるわ…。」

 

 今日の練習が終わり家に帰宅した夏未は広い部屋の中で呟く。すると部屋の戸を叩く音が聞こえる。

 

『夏未お嬢様。少しよろしいでしょうか?総一郎様からお届け物でごさいます。』

 

「お父様から…?分かったわ、鍵は開いているから入ってちょうだい。」

 

 執事である場寅の手にあるのはA4サイズの紙がすっぽりと入る大きさの茶色の封筒だった。

 

「パパから?こ、これは…!“雷帝に関する調査書”⁉︎」

 

 どうやら親子の血は争えないようで、総一郎も“雷帝”に関して強い不信感を感じ鬼瓦刑事に調査を依頼していたようだ。

 

 場寅から渡された封筒を急いで開封し、資料に書かれた情報に目を通す。

 

「そんな…!こんな事って…!」

 

 夏未は資料で得た情報に驚愕するしかなかった…。

 

 

「リ〜ヨリ〜ヨ♪リ〜ヨリ〜ヨ♪立〜ち上〜がり〜よ♪」

 

 場面は変わり、鼻歌混じりに自身の居城(ラボ)に帰還した“雷帝”はポケットから取り出したUSBメモリをPCに差し込み画面を変化させる。

 デスクトップに追加されたファイルを開くと選手の能力を数値化したデータが所狭しと表示される。

 そのデータの名前には“3rd雷門”のメンバーの名前が表示されている。

 

「い な た ま 君のデータはっと…。…あったあった。」

 

 カーソルを“稲魂雷牙”に重ね彼のデータを表示する。

 

====

稲魂雷牙(14)

ポジション:FW.MF.DF.GK

 

AI評価

父稲魂ステラの死以降、成長率は急上昇中。現時点でフェーズ2相当にまで成長。この成長率を維持すればエイリア学園との戦いを終えた際にはフェーズ3に到達する見込みあり。

====

 

「へぇ、予想を上回る上昇率だ。このペースなら勝負は来年のFF(・・・・)か…。強いてケチを付けるなら性格が悪く成長した事だなぁ…まったく、ステラ(・・・)のヤツめ…。一体どんな教育をしたらあの歳であんな傲岸不遜な性格に育つのかねぇ…。」

 

 雷牙のデータを見た“雷帝”はその成長率を喜びながらも自信家な性格に育てた両親に溜め息を吐く。その姿は普段グラウンド見せる飄々とした態度とは異なり年齢相当の人間味のある口調だった。

 

 その後“雷帝”はキーボードを操作し何かの作業を行なっていると白衣のポケットに閉まってあるスマホから着信が入った。

液晶には“凡人”の二文字が表示されており、“雷帝”はめんどくさい奴が掛けてきたと言わんばかりの表情をし嫌そうに電話に出る。

 

「おんやぁ〜?研崎君じゃないか〜、どしたの?こんな夜遅くに電話をするなんて珍しいじゃないか。」

 

『どういうつもりでしょうか“雷帝”。何故貴方が雷門に手を貸してるのですか?』

 

 口調こそは冷静だったがその声には明らかに怒りの感情が籠っている。

 

『宜しいのですか?我々の計画の邪魔をするつもりならば貴方が影山だけでなくエイリアとも繋がりがある事をバラしますよ?』

 

「おっと私を脅迫するのかい?中々生意気になったじゃないか、そんな事言って本当はエイリアの負けを望んでいるくせに。」

 

 研崎は“雷帝”の秘密を雷門にバラすと脅迫するが“雷帝”は狼狽えるどころか逆に噛み付く勢いで爆弾発言を行う。

 

『何を根拠にそんな事を…!』

 

「え〜っと確か…“吉良星次郎”だっけ?君、あの爺さんの事嫌いだろ〜?」

 

『別にそのような事は…!』

 

「だってさぁ、あれだけ“エイリア石”に執着している君の事だ、それすらも踏み台にして人間(・・)の能力を超えようとする爺さんの計画に賛同なんかする筈が無いだろう?そんな上司への好感度なんて火を見るよりもファイヤーってヤツだよ。」

 

 必死に否定する研崎だが、“雷帝”の事をよく知る彼は次に“雷帝”が取るであろう行動を嫌でも察してしまう。

 

「いや〜どうしよっかな〜。意外と強かそうなあの爺さんの事だし100%信じないだろうけど君の下心を言っちゃおうかな〜。多分信じなくても警戒くらいはするだろうな〜。そしたら君の待遇はどうなっちゃうんだろうねぇ〜良くて永遠に監禁…最悪現世にグッパイ宣言かもねぇ〜。」

 

 いつの間にか脅す者と脅される者の立場が逆転し、研崎は黙り込むしかなかった。

 

 “雷帝”の言う通り、自身の野心をリークされてもエイリア皇帝は100%は信頼しないであろうが、それでも疑惑の種を植え付けるには十分だ。

 彼の情報収集能力を駆使すれば自身の計画の証拠を揃えられるのは時間問題。一応重要な情報は簡単には見つけられないように対策は立ててはいるものの人の心を失ったエイリア皇帝ならば証拠が無くても口封じ目的で殺しかねない。

 

 互いが沈黙する中、先に折れたのは研崎の方だった。

 

『…分かりました。マスターランクチームとの総力戦までは大目に見ましょう。いくら気に食わない老人でも今倒れられたら困るのでねぇ…!ただし!私の“DE計画(・・・・)”の邪魔をする場合は例え貴方でも容赦はしませんよ…。」

 

 如何に崇拝する人物でも自身のプライドを傷付けられた事は許せなかったようで負け惜しみと言わんばかり忠告を行なった研崎は一方的に電話を切る。

 

 遠方からの来客が帰った事で再び作業を再開した“雷帝”は呆れたように呟く。

 

「“DE(ダークエンペラーズ)”ねぇ…。雷門は“神”すら殺す存在だというのにそれより遥か格下の“皇帝”に拘るなんて本当に愚かな男だなぁ…。まぁいいさ、周りを見えない凡人の鼻を折ってやるのは偉大な天才の務めだ、ど〜れ、ちょっと面倒だけど手を貸してやるとするかな。」

 

 “雷帝”は再びスマホから誰かに電話を掛け、何らかの計画を立て始めるのであった。

 その計画が雷門…ひいては人類にどのような影響を与えるのかはまだ誰にも分からない…。

 

 

「「“真 ファイアトルネードDD”!!!」」

 

「ウォォォォォ!!!“ムゲン・ザ・ハンドォーーッ!”」

 

 夜が明け、今日も今日とて練習に励む雷門イレブン達。“雷帝”は珍しく遅刻せずに朝からグラウンドに現れ、ベンチで選手の動きを観察している。

 

(“雷帝”…。あなたは一体何者なの…?)

 

 そんな彼を夏未はまるで妖怪を見るかのような目で見つめている。

 

 先日父から送られて来た警察が調べた“雷帝”に関する資料の内容。結論から言うとそこから情報を引き出す事は出来なかった。

 

 何故なら文字通り何1つ情報が書かれていなかったからだ。

 

 自分達の前に姿を現すまでの来歴は元より、本名、年齢、出身地といった戸籍情報すらも警察の情報網を駆使しても得る事が出来なかったのだ。まるで最初から目の前にいる人物は存在していないかのように…。

 

「私の顔に何か用でもあるのかなお嬢さん?」

 

 自分の視線が露骨過ぎたのだろうかそれとも最初から気づいていたのだろうか。“雷帝”は視線をグラウンドに向けたまま夏美に問いかける。

 

「…いえ珍しく遅刻していない事に驚いているだけです…。」

 

「そっか〜この学園の生徒はよっぽど教育がいいんだろうねぇ。一度遅刻しなかっただけでまるで妖怪を見るような目で見られるとは初めての経験だよ。」

 

 遠回しに自分に隠し事は出来ないと警告された事で夏未は覚悟を決める。

 

「…昨夜父から貰ったあなたの警察資料に目を通しました…。」

 

「へぇ…それで?警察は私にどのような評価をくれたのかな?」

 

 口調こそは崩さないものの“雷帝”から発せられる威圧に圧倒される。今にも逃げ出したいほどに恐ろしい威圧感だが夏未は自分は雷門のマネージャーだと言い聞かせ自分を奮い立たせる。

 

「…調査結果は“経歴不明”…。それどころか戸籍情報すらも入手出来なかったそうです…。あなたは…一体何者ですか…!」

 

 最後の勇気を振り絞って夏未は核心に迫る質問をする。その姿は普段の凛とした彼女とは異なり、目は水槽の中の小魚のように緩やかに泳ぎ、足は生まれたての子鹿のように震えている。

 

「…震えてるね。でも恥じる事はないさ、人とは自分の理解を超えた存在を前にすると自然と恐怖が沸く生き物だ。君の気持ちはよーく理解出来るよ。」

 

 ようやく自分に目線を移したと思うと“雷帝”の瞳には“同情”の感情が映っていた。

 そして自分への敵意に満ちている筈の彼女を落ち着かせようと静かな口調で諭そうとする。

 

「だが君の質問に答えるわけにはいかないなぁ。君だって好きな人からでもスリーサイズを言うように迫られたら嫌どころか警察に通報するだろう?私にとって過去とはスリーサイズなのさ、それこそどんな手を使っても消し去りたいほどにねぇ…。」

 

 本人の口からの答えは期待出来ないと判断した夏未は質問を変える。

 

「…なら約束しなさい。あなたが監督である間…絶対にチームのみんなを危険に晒すような真似はしないと…!」

 

「…お嬢さんのその勇気に応えて約束しよう。この試合に関しては君達の意思を尊重する事を。」

 

 こうして夏未と“雷帝”との知られざる戦いは終わりを迎えるのだった。

 

 

 

 

 いよいよ明日に試合が迫った今日。当日になるまでどのチームと当たるかは雷門には分からない為、全てのチームは簡単なシミュレーションだけを行い、明日までの時間を各々自由な時を過ごすように指示された。

 

 ある者は尊敬する先輩から託された究極奥義を完成させる為の特訓に、ある者は大切な妹のお見舞いにとそれぞれ違った時間の使い方をしている。

 

 そんな中“3rd雷門”のキャプテンである雷牙は稲妻町の墓地へ赴いていた。

 彼は“稲魂家”の3文字が彫られた巨大な墓に向かって亡き家族と語り合っていた。

 

「親父、お袋、ライト…最近練習で忙しく来るのが遅くなって悪りぃな。俺、初めてチームのキャプテンになったんだぜ!んでもって親父の技をロクでもねぇ事に使うアケボシをぶっ倒してやんだよ!」

 

 実は雷牙がキャプテンを務めるのは今回が初めてだ。雷牙は強い、だがキャプテンとは強さが直結する役割ではない。如何にしてチームを引っ張り上げ勝利に導けるかが重視される。

 その為良くも悪くも気分屋かつ気分が高まると意味不明な言葉を連呼する雷牙にキャプテンの座が回ってこなかったのだ。

 

 初めてのキャプテンという事もあり、やや興奮して今まで起こった事を亡き家族に報告する雷牙であったが、彼に近づく人影があった。

 

「いたいた。やっと見つけたよ稲魂君。」

 

 雷牙が振り向くとそこにいたのは美しい金髪を携えた天使の如き容姿の少年、アフロディだった。

 

「アフロディ…?なんでオメーがここに…?」

 

「ああ“木枯らし荘”に行ったら管理人さんにここにいるって教えられてね。少しいいかい?」

 

 ここでの立ち話は何だとして雷牙達は近くの公園へ移動する。

 

「んで?俺ちゃんに話って何よ?」

 

「まず最初に君に礼を言いたかったんだ。FFでの決勝戦の後の“あの言葉”…恐らくあれが無ければきっと僕は今も立ち直れていなかったらね…。」

 

『いつか戻って来いアフロディ!俺は知っているぞ!オマエは“神のアクア”が無くてもスゲー選手だって事をな!!だからいつか…正々堂々とサッカーやろうぜ!!!』

 

 “敗北者”となったアフロディがスタジアムから立ち去ろうとする直前、雷牙は彼の実力を認め、再戦の約束をした。

 

「あ〜言った言った。あの時勿体ねぇって思っちまったんだよ。“神のアクア”無しであんな凄ェシュートを打てるヤツがこんなところで終わっていい筈がねぇって思ってさ、もうほぼ無我夢中だったけどな。」

 

「そしてもう1つ…。君のチームの監督である“雷帝”についてだ。」

 

「…!」

 

 ハッキリ言って“雷帝”はまだ秘密を抱えている瞳子以上に掴めない人間だ。

 不動の本質を感じ取った雷牙でさえも彼の事を読み取る事は出来ない。普段の行動、発言、表情…その人となりを知る為の全ての要素がギリギリのところで本当の自分を出していないが故にまるで煙に巻かれたように彼の本質を知る事は出来ないでいるのだ。

 

「…そういやあのおっさんが最初に俺たちの前に現れた時夏未たちと一緒に反応してたな…。オメーとあのおっさんとの関係は何よ?」

 

「“雷帝”…。彼は影山の前の世宇子の監督だ。」

 

「んだと…⁉︎」

 

 雷牙達は世宇子とは影山が理想のチームを構成する為に作り上げられた傀儡の学園だと思っていたが、実際にはそこそこの歴史のある神学校だ。

 そして完全に影山の支配下に入る前から監督にいた人物こそが“雷帝”なのだ。

 

 …とは言っても…。

 

「ある日サッカー部の監督だった教師が突然退職をして新たに就任したのが“雷帝”だ…。今思えばその時から彼は影山と手を組んでいたんだろうね…。」

 

 全てが終わってからアフロディは“雷帝”の監督就任すらも影山の野望の為の保険の1つであった事を悟った。何故なら…。

 

「そして彼はある日僕達にある薬を差し出した。」

 

「まさかそれが…!」

 

「ああ…“神のアクア”だ…。」

 

  雷牙は驚愕する。自分達の目の前に現れた男がサッカーを汚すドーピングに手を染めていたからだ。

 

「一応聞くが君の身体に何か異常は無いかい?例えば世界が自分の中心に回っているかのような高揚感があるとか…?」

 

「う〜ん…“ゾーン”に入った時はそんな高揚感はあっけど、普段は特にねぇな…。」

 

「そうか…ならドリンクに細工してるって事はなさそうだね。」

 

 因みにマネージャーの夏未は“雷帝”が“神のアクア”の制作者である事を知っている為、彼が細工していないか調べてはいるが今まで一度も細工をした形跡はないそうだ。

 

 ともあれ、自分達が信頼を寄せなくてはならない監督が案の定ロクでもない奴であった事には少なくないショックを受けているようで、少し俯いている。

 

「君にとって“雷帝”は信用に値する人間だと思うかい…?」

 

「…分かんねぇ。ただな…俺が“雷帝”のおっさんと初めて会った時、妙な既視感を感じたんだ…。」

 

「既視感?」

 

「うまく言葉にできねぇーけど…俺はあのおっさんと昔どこかで会った事がある感じっつーか…あーもう!分かんねぇ!アフロディはどうなんだよ?」

 

 いくら考えても既視感の正体を掴めない雷牙はアフロディに返答権を譲る。

 

「僕か…。はっきり言ってよく分からない人…って感じだね。」

 

「なんだそりゃ。」

 

 自分以上に曖昧な返答するアフロディに雷牙はツッコむ。しかしアフロディは言葉を続ける。

 

「まぁ聞いてくれよ。“雷帝”は確かに影山側の人間だ。でも彼はサッカーの事となると恐ろしく真剣だった…。」

 

「ドーピングを勧めるようなヤツがか?」

 

「ああ、だからこそよく分からないんだ。ドーピングに手を染めさせる事を厭わないような人間なのにサッカーへの知識と監督としての能力は影山にも匹敵する程高い…」

 

 ドーピングとはスポーツにおいては文字通り“禁忌”とされる最低最悪の行為である。

 そのような事を平気に行うような人間がサッカーへ真剣に向き合っているとはまさに“矛盾”としか言いようがない。

 

 確かにアフロディが彼と共にいた時間はそう多くはなかった。しかし、彼が自身が理想とする最強のサッカー選手について語っている時の目は彼の本当の感情が出ていたように感じられた。

 

「…それに彼が自分の理想のサッカー選手を語る時はいつも子供のように目を輝かせていたんだ…。」

 

「サッカー選手の理想像ォ?どんなのだ?」

 

「彼曰く…“サッカー選手の到達点は“神”ではなく“怪物”だ、“神”と崇められた選手は数多く存在しても“怪物”の異名を得た選手はある人物を除いて存在していない”…とね。」

 

 雷牙にはその人物に恐ろしい程、覚えがあった。何故ならその人物は自分にとって永遠の憧れの英雄であり、尊敬する父親でもあったからだ。

 

「その人物って…!」

 

「ああ。伝説の“サッカーモンスター”ステラ・オーロの事だろう。」

 

「親父が…“雷帝”の理想…?」

 

 確かに父ステラ・オーロこと稲魂ステラは素晴らしい選手だった。それこそ神ですらも鼻で笑うような人間である雷牙ですらも唯一純粋な尊敬の念を送る程、文字通り世界最強のサッカー選手だった。

 

 対して“雷帝”はどうだろうか?彼は言わば闇の世界の住人、彼と同じ住人である影山は父の没落のトラウマにより勝利の為なら手段を問わないようになった。

 “雷帝”がやらかした事は影山と同等の事…つまり“雷帝”がドーピングに手を染めても“怪物”に執着するという事は父との間に何らかの接点があった事に他ならないのだ。

 だが雷牙は今まで父から“雷帝”のような人物の事について聞いた事は1度もない。それこそが最も大きな謎であった。

 

「長くなったが改めて言おう、“雷帝”には気をつけるんだ。何かおかしな行動を見せた瞬間、すぐに監督を辞めさせた方がいい。話は以上だ、明日に備えて今日はもう帰るよ。ばいばい稲魂君。」

 

「ああ…。」

 

 アフロディの後ろ姿を見送った雷牙はその後もベンチに佇み続けた。

 

 何故“雷帝”が自分の父に執着しているのか、何故自分が初対面であった筈の彼に既視感を感じたのか、何故影山の騒動の裏に隠れていた筈の人間が突然自分達の前に現れたのか…etc

 

 様々な疑問が雷牙の脳内を駆け回るが、サッカー以外では情報処理能力の低い雷牙の脳ではすぐにショートを起こしてしまい、物理的に爆発が起こってしまった。

 

「だぁーーっ!もう考えてもしょうがねぇッ!!!変な事を考えてんならドーンとかかってきやがれ!俺たちがズババーンって打ち砕いてやっからよぉッ!」

 

 監督すらも敵になるのならば仲間達と共にそれすらも打ち破る事の決意を叫ぶ雷牙。

 気合いを入れ直した雷牙は猛ダッシュで“木枯らし荘”へ帰り、明日への期待を胸に1日を終えるのであった。

 

 

 

 

 

 遂に試合の当日を迎えた午前11時55分。

 1st、2nd、3rdに分かれた雷門イレブン達は雷門中のグラウンドに集合し、いつでも試合が出来るコンディションを整えていた。

 

 そして時計の針が2本とも“12”に重なった時、“彼ら”は現れた。

 

「ほぉ逃げずにいた事だけは褒めてやろう…。さぁ、我ら“ダイヤモンドダスト”と相手をするのは誰だ!」

 

 光の中から現れたのはガゼルと10人の選手達だ。

 

「俺達だ!行くぞみんな!」

『応!』

 

 風丸率いる1st雷門達は誰1人ガゼルに怯む事なく勇ましく歩みを進める。

 そんな彼らをガゼルは冷たく笑う。

 

「フッ、中々の熱気ではないか…。いいだろう!凍てつく闇の前に凍え死ぬがいい!」

 

 雷門VSマスターランクチームとの総力戦の初戦、ダイヤモンドダストとの決戦が幕を開けるのだった…!




今回は“雷帝”を深掘りする回でしたが、今までの彼の登場回を見直すと結構キャラが違ってる事に気づきました。多分当時の自分的には悪役である事を強調する為にあんな典型的なマッドサイエンティストみたいな書き方をしていたと思うので、現在の彼が本来私が想定していた人物像です。

次回からダイアモンドダスト戦です。

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