イナズマイレブンHEROS!!!   作:月兎タンク

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金剛色の息吹と北風の烈風 中編

 前半15分が経過した現在。グラウンドには2体の化身が顕現している。

 1体がアフロディが操る荒々しくも神々しさを兼ね備えた“絶対神 デウス・エクス・マキナ”。

 そして“絶対神”に対するのはガゼルが操る燃え盛る氷の化身たる“氷結の炎帝 ダイアモンドダスト”。

 

 試合を見守る観客達(ギャラリー)はエイリアも化身を習得している事実に驚きを隠せない様子だ。

 

「何を驚く必要がある?我らエイリアの使徒は全ての能力が貧弱な地球人よりも遥かに上なのだ。貴様らに出来て我々に出来ない事など無いのだよ。」

 

 ガゼルはさも当然のように言うもののただでさえ人間を超えた身体能力を持つエイリアが化身によって更に強化されるのだ。

 その光景はまさに“鬼に金棒”である。

 

『なんと静かな光景なのでしょう…!この角馬数多くの試合を見てきましたが試合の途中にここまでの静寂に包まれる事は初めての経験です…!』

 

 角馬の言う事はもっともだ。

 本来サッカーとは絶え間なく身体を動かし続けるスポーツであるのにも関わらずアフロディとガゼルは互いを睨み合い、周囲のメンバーは動かないでいた。

 

 “絶対神”と“女帝”が向き合う中先に動き始めたのはアフロディだった。

 

「ほぉ…私の冷気を前にしても動き出すか、恐れずに立ち向かって来るか。」

 

「残念だけど動かなきゃ点を取る事は出来ないからね。」

 

「フン、無駄な事を。」

 

「どうかな?少なくとも円堂君ならこう言うだろう…やってみなくちゃ分からないぞってね!」

 

 全ての砲台を“女帝”に向け“絶対神”は攻撃の態勢に入る。それと同時に“女帝”も槍を回転させ地面に向けていた刃の方向を敵へと向けると同時にトップスピードへと達する。

 

 勝負の行方は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かはッ…!」

「言っただろう?やっても無駄だと。」

 

 勝負は一瞬だった。

 夥しい数の“絶対神”の砲撃を槍一本のみで全て弾いた“女帝”は無防備となった“絶対神”の心臓を寸分の狂いもなく正確に突き刺したのだ。

 ”女帝”と“絶対神”の決着にシンクロするようにガゼルはアフロディの腹部にボールを突き刺している。

 

「まだ…だ…!」

 

「何…⁉︎」

 

 “神”が討たれてもなおアフロディは最後の力を振り絞り腹部にめり込んでいるボールを足に移動させガゼルを抜き去ろうとする。

 当然それを見逃すガゼルではなくアフロディの右脚を自身の右脚で潰そうとするが何故か拮抗してしまう。

 

「なんだこのパワーは…!」

 

 アフロディの覚悟に呼応するように活動を再開した“絶対神”は槍を胸に刺したまま“女帝”とのロックアップを始める。

 

「貴様の体力は既に限界だった筈…!」

 

「ようやく魂で理解できたよ…。これこそが“イナズマ魂”なんだ、どんなに追い詰められて絶対に諦めない思いこそが“イナズマ魂”の本質なんだ!」

 

 2つの化身のパワーがぶつかり合った事で、彼らの周囲にエネルギーの嵐が発生し勝負の行方が分からなくなる。

 しかし次第に嵐も収まり始め、ようやく2人の姿が見えたと思うと決着の行方は意外な執着点だった。

 

『ああーーッと!ご、ご覧ください皆さん!先ほどまでアフロディとガゼルが奪い合っていたボールが粉々になっております!どんな必殺技にも耐えうるように設計された筈のサッカーボールがここまで無惨に粉砕される光景を私…どころか父であっても初めて見るでしょう…!』

 

 姿を現したアフロディとガゼルの足元にはボールは存在していなかった。その代わりにあったのはボールの意匠が施された破片が地面に散らばっているだけだったのだ。

 

 この状況証拠が示すのはボールの破裂による勝負の中断。つまりは“引き分け”だ。

 決着は“引き分け”で終わったもののギャラリー達は彼らに対して畏怖の念を抱かざるを得なかった。

 

 如何に全てが常識はずれの超次元サッカーであっても選手同士の力のぶつかりに合いによってボールが破裂するのはプロであっても滅多に起こらないと言えば事態の恐ろしさがよく分かるだろう。

 

 ボールが破裂するなど予測出来ていなかった為、代わりのボールが届くまで試合が中断してしまう。

 先に立ち上がったガゼルは自陣に戻る前にアフロディの前に近寄り冷たく呟く。

 

「…運が良かったなアフロディよ。またしても引き分けだ、だがその運はいつまで持つかな?」

 

 息一つ乱さずにその場から立ち去るガゼルとは対照的にアフロディは体力を大きく消耗し返事を返す事が出来ない。

 

「大丈夫かアフロデ… ッ⁉︎」

 

 チームメイトはアフロディを心配して駆け寄るが一瞬言葉を失ってしまう。

 何故ならアフロディが笑っているからだ。

 

「アフロディ…。」

 

 唖然とする一之瀬に気づいたアフロディは彼に微笑みかける。

 

「おや?なんだか意外そうだね。」

 

「い、いや〜ガゼルに負けた事が受け入れられなくて落ち込んでんじゃないかな〜って…。」

 

 土門の言う事ももっともだ。事実FFでの決勝戦の際に進化した“レグルス”によって破れてしまった時は立ち直れずに最終局面での彼の蛮行に繋がってしまった。

 今回のシチュエーションは当時と全く同じであり、当時の彼を知る者は誰もがアフロディのメンタル面のダメージを心配している。

 

 しかしアフロディの返答は意外なものだった。

 

「落ち込む?確かに負けた事は悔しいさ、でもね…それ以上に嬉しいんだよ。」

 

『嬉しい…?』

 

「自分より強い人がいるって事はまだ僕は…いや僕達は成長できる余地があるって事だろ?この試合が僕達に何を齎してくれるのかを考えると楽しみで仕方ないんだよ。」

 

 そう言いながら不敵に笑うアフロディにチームメイトはどこぞの“怪物”の姿が見えてしまう。

 本人もそれを自覚しているのか視線をチームメイトからギャラリーとして試合を観賞している雷牙へ移す。

 アフロディの視線に気づいた雷牙は不敵な笑みで返しアフロディの成長を喜ぶ。

 

 アフロディの無事を確認した風丸はチームを集めてある作戦を伝える。

 

「みんな聞いてくれ。確かにガゼルが化身を使えるようになったのは想定外の事だ。だから同じ化身使いの俺が全力で奴を抑える、みんなは攻めに徹してくれ。」

 

「で、でもさっきのガゼルのパワーを見ただろ⁉︎風丸1人で抑えるのは無理だって!お前が怪我をしちまうよ!」

 

 雷門イレブンの中で最も一般人に近い感性を持つ男、半田は風丸の身を案じて彼の作戦を却下する。しかし風丸は半田を咎めずに優しく微笑む。

 

「やれるだけやってみるさ、本当に無理かどうかを決めるのはそれからだ。」

 

 風丸の覚悟に半田は何も言えなくなるがそれでも首を縦に振らない。

 すると今まで黙り込んでいた或葉が口を開いた。

 

「…このチームのキャプテンはお主だ風丸一郎太。お主がそうすると決めた以上、我々はその決定に従うのみよ…。」

 

「鳳凰院…!」

 

「事実これまでの攻防で確信した…。ダイヤモンドダストはスピードはどのチームより優れていても攻撃力は大将のガゼルに依存しているとみた…。奴さえ抑えられれば自ずと勝利への道は開かれるであろう…。」

 

 司令塔である或葉も全面的に風丸の決意に賛同した為反対派のメンバーも従わざるを得なくなる。

 

「代わりのボールの用意ができましたーッ!」

 

「さぁ勝つぞみんな!」

 

 ようやく代わりのボールが届き試合が再開する。

 前例の無いトラブルに審判はどちらのボールから再開するか悩んでいたがキャプテンのガゼルが先行権を譲った為雷門ゴールから試合が再開する。

 

「半田頼む!」

 

「任せろ!」

 

「行かせない!“絶 フローズンスティール”!」

 

 序盤は順調に進んでいたものの終盤の守りは厚く、DFのクララによってボールを奪われてしまいガゼルにボールが渡ってしまった。

 凄まじいスピードで攻め上がるガゼルに対して雷門は先ほどの風丸の指示に従いあえてディフェンスを緩める。

 

「はあああああッ!“魔帝 ダークエンペラー”!」

 

 風丸と同じく蒼色に染まった長髪を靡かせ漆黒の鎧を身に包んだ“魔帝”が顕現する。

 

「その姿…“ダイアモンドダスト”と似ているな。人のデザインを真似るとは情けない奴め。」

 

「これは俺のオリジナルだ!“あいつ”から託された俺達の想いの結晶だ!」

 

 化身を発動した風丸は間髪入れずに化身技を発動する。

 

「くらえ!“魔帝の逆鱗”!!!」

 

 無数に生み出された漆黒の大嵐によってガゼルの進路が塞がれる。これが風丸の化身技“魔帝の逆鱗”だ。

 

「小癪な…!いいだろう…貴様も凍てつく闇の冷たさを理解するがいい!!!」

 

 流石のガゼルも暴風の檻から脱するのは容易ではないと判断した二度“女帝”を顕現させる。

 改めてガゼルのパワーに冷や汗を流す風丸だがすぐに気持ちを切り替えて、なんとしてもここでガゼルを抑える事を決意する。

 

 しかしガゼルが取った行動は風丸の予想を超えるものだった。

 

「“デイブレイク・フロストライン”!」

 

 絶対零度の冷気を纏った槍と共に放つそのシュートはあまりの冷気により万が一触れようものならばその者に訪れる結末は“凍死”ではなく“焼死”へと至らせるだろう。

 矛盾した冷気の槍は魔帝の大嵐すらも簡単に打ち破りそのままゴールに向かう。

 

 そう、ガゼルが出した答えとは強引に監獄の壁をぶち破る事だったのだ。

 

「くッ…!後は頼むポセイドン!」

 

 暴風の檻を破り自由を得た氷結の槍はゴールへ向かって飛んで行くが、その蛮行を止める為に立ちはだかる2つの影があった。

 

「くそ!せめてもの抵抗だ!いくぞ西垣!」

「応!」

 

 万が一に備え後方に待機していた土門と西垣は“ボルケイノカット”と“スピニングカット”を繰り出し何とか威力を抑えようとするが絶対零度の前には彼らの壁など1秒たりとも持たなかった。

 

「くっ!“アルカディア・ウォールG3”!!!」

 

 それでも土門と西垣のディフェンスによってシュートに気づく事ができたポセイドンは今度こそ彼の最強必殺技を発動させる。

 

「ぐぬぬぬぬ…!な、なんてパワーだ…“ノーザンインパクト”の比じゃねぇ…!」

 

「当たり前だ!全てが静止する絶対零度の世界は楽園の地すらも地獄と化す!愚かなる神々よ…永遠の闇に包み込まれるがいい!!」

 

 氷河期を迎えた楽園の地は無惨にも砕かれゴールネットを激しく揺らす。

 これでダイヤモンドダストの得点は2点。とうとう雷門は逆転を許してしまった。

 

「すまない…俺が抑えると言ったのに突破されてしまって…。」

 

「仕方ねぇさ…まさかガゼルが力押しで来るなんて誰も想像できねぇよ…。」

 

 残りラストワンプレーとなった段階でリードを許してしまった事実に雷門の空気は重くなる。

 

「マズいね…恐らく前半中にイーブンにまで持っていかないと後半戦はもっとキツくなるだろうね…。」

 

「カウンターだ…。」

 

「カウンターか…、確かに確実に点を取るにはそれが一番効果的だが簡単には通用しないだろうな…。」

 

 ダイヤモンドダストは持ち前のスピードを活かした速攻を得意とするチームだ。

 これだけ聞くと攻撃一辺倒のチームにも聞こえるが実際はスピードを活かした戻りの速さにより防御力も高い水準にあるバランスの取れたチームである。

 そんな彼ら相手にカウンターを決める事は容易ではないだろう。

 

「…1つだけ俺に策がある。だが心して聞け…チャンスは1度きり…失敗すれば二度とカウンターのチャンスはないと思え…。」

 

 

 雷門ボールから試合は再開し、FWを中心に攻め上がる。

 当然ダイヤモンドダストはディフェンスに入るもののMFの援護によって遂にゴールへの道が開ける。

 そこへ染岡による飛龍の咆哮が炸裂する。

 

「“ワイバーンクラッシュA”!!!」

 

「何度やっても同じ…「そいつはどうかな?」何⁉︎」

 

 ベルガが“アイスブロック”を発動しようとする直前に熱也がシュートコースに割って入り、その肉体に銀狼を憑依させる。

 

「“ウルフレジェンド”!!!」

 

 “ウルフレジェンド”でのシュートチェインによって“ワイバーンクラッシュ”に足りなかったパワーが加わる。

 

「くッ…!“ジ・アイスバーグ”!!!」

 

 それでもベルガを破るには足りずにボールを天高く宙を舞う。

 それを見越したように1人の天使が飛翔した。

 

「まだだ!”ゴッドノウズ・インパクト”!」

 

 染岡と熱也の意志を継いだ“ゴッドノウズ・インパクト”が今度こそ点を奪わんとゴールへ向かう。

 

「させん!“ノーザンインパクト”!」

 

 アフロディの動きを警戒していたガゼルがシュートブロックに入るものの、流石のガゼルでも完全に威力を殺す事は叶わずにトドメをベルガへ任せる。

 

「ありがとうございますガゼル様!“ジ・アイスバーグ”!!!」

 

 大幅に弱体化した“ゴッドノウズ・インパクト”ではベルガを破る事はできずに氷山の壁に敗北する。

 それでもアフロディは諦めずにボールに食らいつくがそれすらも見越していた者が行手を阻む。

 

「満身創痍の貴様に負ける要素など無い!」

 

「どうかな?やってみなくちゃ分からないさ。」

 

 今度こそ雌雄を決する為に“神”と“侵略者”は全力を尽くす。

 

「“氷結の炎帝 ダイアモンドダスト”!」

「“絶対神 デウス・エクス・マキナ”!」

 

 互いに死力を尽くした化身の迫力は1戦目の比ではない。それでも実力差は逆転する事はなかった。

 

「いい加減認めたらどうだ?貴様は私には絶対に勝てない事を。」

 

 先ほどまで顕現していた“絶対神”の胴体は2つに分かれて地面に伏している。

 奇しくもその光景はFF決勝戦での雷牙とアフロディの決戦の様子と瓜二つだった。

 

「少々計画が狂ったが残り時間もあと僅かだ。ここで追加点を取り雷門の心を折るとしよう。」

 

 ボールを確保したガゼルがゴールへ向かおうとした瞬間彼の目に信じられない光景が入る。

 

「ククク…ハーハッハッハ!」

 

 笑っていた。敗者である筈のアフロディは笑っていた。

 

「何がおかしい…⁉︎気でも狂ったのか…⁉︎」

 

 まるでさぞおかしい喜劇を見ているかのように笑うアフロディに流石のガゼルも冷静さを欠く。

 

「君…クールそうに見えて意外と脳筋だろ…?分かっていたさ…僕が化身を使えば君も使わざるを得なくなる事はね…。」

 

「まさか…!」

 

 その刹那ガゼルの神経に絶対零度よりも冷たい予感が走る。急いで視線を足元に移すと奪ったと思い込んでいたボールは初めから無かった。

 

 ではボールは何処に…?たった1つの思考に脳内が埋め尽くされる中アフロディは静かに囁く。

 

「後は任せたよ…

 

 

 

 

 

 

 

一之瀬君!!!」

 

「ああ!!」

 

 或葉が定めた最後の切り札とは“フィールドの魔術師”一之瀬一哉だった。

 …否、彼だけじゃない“フィールドの魔術師”の後続にはアメリカにて苦楽を共にした仲間達もいる。

 

「決めるぞ!土門、西垣!!」

「「応!!!」」

 

 一之瀬、土門、西垣はトップスピードで正三角形(トライアングル)の軌跡を描くと蒼炎の炎で構成された巨大な天馬(ペガサス)が羽ばたく。

 3人は同時に飛翔し西垣、土門、一之瀬の順でシュートを放ち天馬が行くべき道を教える。

 

「「「“トライペガサスA”!!!」」」

 

 本家本元の天馬の羽ばたきは実に美しく、そして力強いものだった。

 

「くっ…!“ジ・アイスバーグ”!!!」

 

 ベルガは“ゴッドノウズ”すら止めて見せた氷山を再び生成するが完全に不意を突かれた事もあり、明らかに先ほどよりも技の完成度が落ちている。

 そのような技では天馬の歩みを止められる筈がない。

 

「ぐ…ぐああああああッ!」

 

 目の前の障壁をすらも乗り越えた天馬はゴールネットを揺らしてもなお自由を求めて無限の青空の元へ飛び去って行った…。

 

ピッピッピー!

 

『ゴーール!!!まさかの“トライペガサス”によって同点まで追いついたァーーッ!!!そしてここで前半戦は終了!まだまだ試合の結末は予測できませんッ!!!』

 

 ギリギリで同点に追いついた事で歓喜に沸く1st雷門とは対照的にガゼルの瞳には微かに燃える炎のように揺らめいていた。

 

 

 

 

「みんな!前半はよく頑張ってくれた!後半もこの勢いのまま押し切ろう!」

『応!!!』

 

 風丸はキャプテンとして前半戦のチームメイトの働きを讃え士気を高める。

 そんな中、監督である筈の瞳子は浮かない顔をしていた。

 

「どうしました監督?まだダイヤモンドダストに不安を感じているんですか?」

 

 瞳子の表情に気づいた木野は彼女に問いかけるが瞳子はその問いに答えずに突然歩き出す。

 

「…歩星君。グローブを取ってもらえるかしら?」

 

 瞳子の行き先はポセイドンだった。しかも瞳子はポセイドンにグローブを外すように命令した。それが指す事はただ一つ…

 

「ポセイドン…お前まさか…!」

 

「くッ…!」

 

 これ以上隠し通すのは無理だと判断したポセイドンはグローブを取る。

 日の目に晒された彼の手は酷く真っ赤に腫れていた。

 

「ひ、酷い…!この怪我じゃ試合を続けるのは無茶だわ…!」

 

「だが俺はまだ戦える!俺がこのチームのGKなんだ…頼む監督!」

 

 ポセイドンは後半も試合に出すように必死に瞳子へ懇願するが彼女は首を縦に振らない。

 

「駄目よ、監督としてこれ以上君を試合に出すわけにはいかないわ。イカロス君、行けるかしら?」

 

 瞳子は世宇子の控えキーパーであるイカロスに頼むが当の本人の返事はなかった。

 逃げ出したわけではない、声を出す事ができなかったのだ。

 

「すみません監督…。ポセイドンさんですら通用しなかった相手と戦うのは無理です…。俺だって命が惜しい…!」

 

 震えながら交代拒否するイカロスに対して非難の声を口に出す者はいない。

 GKとは11人いるチームの中で最もシュートを受けるポジションなのだ。つまりは怪我を負う確率が最も高いという事…。

 全ての人間が円堂や立向居のような勇気と根性を持っていない事はよく知っている。だからこそイカロスの恐怖を理解していた。

 

「で、でもそれじゃあ誰がキーパーをするの…?」

 

 木野の言う通りイカロスが交代を拒否しても誰かがキーパーを担当しなくてはならない。

 だが総力戦のルールの都合上円堂や立向居を使う事は絶対に許されない…誰もが頭を悩ませているとある男が立候補した。

 

「俺に行かせてくれ…!」

 

「杉森…!」

 

 交代に立候補したのはバックアップチームの創設者であり御影専農のキャプテンである杉森威だった。

 

「…最後の確認よ。今の貴方の実力では彼らどころか格下のファーストランクチームのシュートを止める事すら難しいわ…、特にガゼルのシュートをまともに喰らったら良くて大怪我、最悪今後サッカーができなくなる可能性があるわ…。そのリスクを承知の上で試合にでるのね?」

 

 瞳子は杉森に対して最後の確認をする。

 事実、現在の杉森の実力はセカンドランク以上ファーストランク未満といった程度だ。そんな彼がどのチームよりも遥かに強いマスターランクチームに太刀打ちが出来るのかと聞かれれば答えは当然NOだ。

 

 それでも杉森の闘志は揺るがない。

 

「…確かに昔の俺だったなら勝負する前に降参していただろう…。だが俺は雷門と…円堂と出会って変わった!最後の1秒になるまで結果は分からない…それがサッカーなんだ!」

 

「…分かったわ。貴方の交代を認めます。」

 

 彼の覚悟を確認した瞳子は杉森の交代を認めた。そしてハーフタイムが終了し選手達がグラウンドに移動した事で再びベンチに静寂が訪れると木野はずっと瞳子へ疑問の声をかける。

 

「本当に変わりましたね監督。少し前の貴方だったら絶対に杉森君を試合に出しませんでしたよね?」

 

 どうやら木野は瞳子の変化に驚いていたようだ。確かに雷門と出会ったばかりの彼女ならば交代拒否するイカロスを無理矢理にでも試合に出し、杉森の言葉には耳を貸さなかっただろう。

 

「…恐怖に支配された天才よりも揺るぎない決意を持った凡才の方が実力を出せる…そう判断しただけよ。」

 

 素直になれない瞳子の反応を見た木野は微かに笑うのであった。

 

 場面は変わりダイヤモンドダストのハーフタイムに移る。司令塔を兼任するガゼルの指示の元後半の戦略を一字一句頭に入れているメンバーは皆真剣な顔つきだ。

 

「作戦は以上だ!では解散…ッ…⁉︎」

 

 突如ガゼルは体勢を崩し地面に膝を突いた。突然の主君の不調に今まで冷たい顔をした部下達は焦りながら一斉に主君に駆け寄る。

 

「大丈夫ですかガゼル様⁉︎」

 

「問題ない…!私の事など気にせず早くポジションに着け…!」

 

 明らかに不調だが本人が大丈夫と言っている以上部下にこれ以上の発言権はない。

 下手に動揺すれば雷門にエースの不調がバレかねない為、仕方なくダイヤモンドダストのメンバーは平静を装い各ポジションに着くのであった。

 

 

 

 

 しかし遠くから彼の様子を見ていた“見習いの神様(アフロディ)”は不敵な笑みを浮かべていた。




“魔帝の逆鱗”不遇技入り説…。まぁ相手が悪いとしか言いようがありませんね。次回は活躍する…と言いたいけど展開的に無理そう。

〜オリジナル化身紹介〜
氷結の炎帝 ダイアモンドダスト:ガゼルが操る風属性の化身。常にクールである事を心情とする彼とは対照的にまるで炎のように逆立った氷の鎧が特徴的な化身。彼女が手にする槍は常に絶対零度の冷気を発している。
化身技の元ネタは名作ボカロ曲『DAYBREAK. FRONTLINE 』から。
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