イナズマイレブンHEROS!!!   作:月兎タンク

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後編を書いているうちに79話は1st雷門のメイン回にするべきだったと後悔する今日この頃。


金剛色の息吹と北風の烈風 後編

『さぁ後半戦が開幕!どうやら1st雷門は前半戦でキーパーがポセイドンが負傷をした為、杉森と交代した模様!』

 

 ポセイドンの負傷の報を聞いたギャラリーは騒ついている。はっきり言ってしまえば杉森がダイヤモンドダストに対抗できるとは誰も思っていないからだ。

 

「皆さん騒ついてますね…。」

 

「まぁ杉森だしな〜。いくらネプチューン*1が怪我したとはいえここで出すとみんな思ってなかったんだろな〜。」

 

「で、でも杉森さんってデータサッカーで有名な御影専農のキャプテンですよね?それにバックアップチームの作った人ですし、俺よりも強そうじゃないですか…?」

 

「甘いぜ〜立向居。言っちゃ悪ぃが杉森はゲームじゃ最強キャラっぽい見た目だが現実(リアル)じゃ、どう甘く見積もってもイプシロンのシュートを止められるかどうかって実力だろうな。」

 

 言葉を一切オブラートに包まずに杉森の実力を評する雷牙。まぁこいつの言葉を選ばない態度は今に始まった事ではないが。

 

「ゲームのくだりはいらなかった気がしますけど、大丈夫なんでしょうか…。」

 

「多分に後半の肝になるのはDFだ。アイツらに賭けるしかねぇ。」

 

 チームだけでなくギャラリーにも不安を感じさせる杉森の存在。それでも後半戦は始まってしまう。

 

 

 GKというポジションは全てのポジションの中で唯一グラウンド全域を見る事が可能なポジションである。

 その特性を活かしてチームの司令塔をMFではなくGKに担当させる監督も少ないほどだ。

 

 そして現在、杉森はGKである事の恩恵を嫌というほど受けていた。

 

 (速い…速すぎる…!!!)

 

 覚悟はしていた。自分はグラウンドに立っている誰よりも格下の存在である事を誰よりも一番理解しているつもりだった。

 しかし実際にグラウンドに立って目の前のフィールドプレイヤー達の動きを見るとその理解でさえも生温いものだったと思わざるを得ない。

 

 とにかく全ての選手のスピードに自身の動体視力が追いついていないのだ。

 0.1秒でも気を抜いた瞬間に状況が飲み込めなくなる…それほどまでにハイレベルな試合だ。

 

 杉森は改めて自分の実力の無さを恥じる。それでも彼の心が折れる事はなかった。

 

「やってやる…!やってやるぞ!」

 

「行ったぞ杉森!」

 

 奮起した途端に実力を試すチャンスが回ってきた事に喜ぶ杉森だが彼の期待に反してFWのブロウが放ったのはただのノーマルシュートであった。

 この行為が表すのはただ1つ。彼らにとって杉森は本気を出すに値しない存在であると言っているのに他ならなかった。

 

「“ロケットこぶしS”!!!ぐぬぬぬ…!」

 

 それでも杉森は彼らの判断は正しかったと思わざるを得ない。

 彼らのノーマルシュートすらまともに受け止めきれないのが今の自分であるからだ。その事実を仲間に知らせるように極限まで進化した“ロケットこぶし”は呆気なく砕け散った。

 

「させるか!」

 

 誰もがダイヤモンドダストの追加点を確信した瞬間、風丸が応援に入ってくれた事で何とか危機を乗り越える。

 

「すまない風丸…。助かった。」

 

「そう背負うな杉森。何かあったら俺たちがフォローする。お前はお前なりの全力を出せばいいさ。」

 

 出鼻をくじかれ責任を感じる杉森に対し風丸の言葉は責めずに優しく諭す。

 

 しかし…

 

「“超フリーズショット”!!」

 

「くっ…!“ダブルロケット”!!!」

 

 今度は新技“ダブルロケット”で打ち返そうとするも両腕を模した宇宙船は呆気なく凍りつき粉砕される。

 

「させるかっての!」

 

 直前で土門が身体を張って肉壁となった事でシュートコースが逸らす事に成功しなんとかシュートを止める事に成功した。

 だがダメージは大きかったようで地面に倒れたまま動かない。

 

「しっかりしろ土門!」

 

「へへ…へーき…へーき…。こう見えて俺…割とタフだからよ。」

 

 フラつきながらも土門は立ち上がり戦場へと戻って行く。杉森は彼の後ろ姿を見ているしかできなかった。

 

 

 後半戦開始から早20分が経過。未だに互いの得点は2対2で拮抗している。

 …否、厳密にはその表現は正しくない。ダイヤモンドダストのDFは多少ユニフォームが汚れているのみで誰1人スピードが落ちている選手はいない。

 それに対して雷門のDFは身体中の至る所にこの試合で付けられた擦り傷と痣が痛々しく残っており、息も絶え絶えである。

 現在の雷門の無失点記録はGKではなくDFの活躍によってもたらされていると言っても過言ではなかった。

 

「“超フリーズショット”!!」

 

「“マーメイドスマッシュS”!」

 

 ダメージの蓄積によってDFの動きが鈍っているのをいい事にダイヤモンドダストのFWは数々と必殺技の嵐を浴びせる。

 その度にDF達は身体を張ってシュートの威力を激減させて何とかゴールを死守する。

 

「悍ましいな…。貴様ら本当に人間か?何度痛めつけても立ち上がってくるその姿…まるでゾンビだな。」

 

 あまりの雷門のしつこさに辟易した様子のフロストは彼らをゾンビと評する。

 宇宙人を名乗る彼らがゾンビを知っている事に違和感を覚えるがその表現は適切なので今は置いておこう。

 

 (言いたい…!今すぐに土門達にゴールは俺に任せて休んでいてくれと大声で言いたい…!)

 

 そんな彼らの身を案じた杉森は必死に喉元まで言葉を引き上げようとする。が…

 

 (言える訳がないだろう…!俺にそんな権利はない…!)

 

 言える筈がなかった。他者を庇う言葉は実力のある者だけが発言する権利を与えられるあまりに崇高な言葉。

 満身創痍のDFにすら劣る弱者の杉森にはそのような事を考えるだけでどうしようもない無力感と罪悪感を感じてしまう。

 

 それでも土門達は笑っていた。

 

「へへへ…ゾンビで結構…!俺ら“踏んでも跳ね返る雑草魂”が信条なんでね…!むしろゾンビは褒め言葉なんだよぉ…!」

 

「何故倒れない…⁉︎貴様らの体力は既に限界の筈だろう…⁉︎」

 

 彼らの態度に若干の恐怖を感じているフロストの言葉に土門と西垣は息も絶え絶えになりながらも答える。

 

「雷門に入ってからは円堂に頼ってばっかだから忘れていたけどよぉ…。」

 

「俺たちDFの仕事はゴールへの道を守り抜く事なんだ…!だからどんなに傷つけられようとも…!」

 

「「そう簡単に倒れられねぇんだよ!」」

 

「くっ…!ならばここで死ねぇ!」

 

 フロストの“フリーズショット”が炸裂し土門達に襲い掛かるが、2人は逃げるどころかボールへ向かって走り出す。

 

「アメリカで培った根性を見せてやるぜ!」

 

「タイミングをミスるなよ土門!」

 

 土門は左脚、西垣は右脚で左右対称になるように“ボルケイノカット”と“スピニングカット”を放つ。すると互いの技が混ざり合い両者の技とは比較にならないほど分厚いエネルギーの障壁が発生する。

 

「「“デュアルアセンブル”!!!」」

 

 新技は“デュアルアセンブル”によって発生した壁は“フリーズショット”の冷気すらも溶かし土門の足元にボールが転がる。

 

『止めたァーーッ!まさかの新必殺技を発動させダイヤモンドダストの必殺技を止めたぞォーーッ!!!ここから雷門のカウンターが始まるのかァーーッ!!!?』

 

 ボールを確保した雷門は再度攻めるものの一向に状況が変わる気配は見えない。

 それどころか体力切れにより自慢のディフェンスにも綻びが生じてしまい遂にガゼルにボールが渡ってしまう。

 

「そろそろこの茶番を終わらせようか。杉森とやらよ逃げるなら今のうちにだぞ?」

 

 最後の慈悲を与えるガゼルだが、それでも杉森に“敵前逃亡”という選択肢はなかった。

 

「俺は逃げん!どんなに弱かろうがゴールを任された以上自身の使命を遂行する!」

 

「愚かな…。」

 

 杉森の返答に失望したガゼルは圧倒的な速度でボールにトーキックを放ち“ノーザンインパクト”を炸裂させる。

 

 

…筈だった。

 

「“影抜い”…!」

 

「小癪なぁ…!!!」

 

 なんとガゼルがシュートを放つ直前、持ち前の影の薄さを活かして気づかれる事なく接近していた影野は新技“影抜い”を用いてシュートを阻止する事に成功した。

 再び雷門にボールが渡った事で追加点の危機はなんとか免れる。

 

「ありがとう影野。助かった。」

 

 杉森の感謝の礼に感情の起伏に乏しい影野にしては珍しく照れている。

 

「へへへ…もっと頼ってくれてもいいんだよ…。俺、影は薄いけど一応雷門のDFだから…。」

 

「…ああ!頼らせてもらう!」

 

 後半の残り時間は後5分。延長戦がない以上残り5分で人類の行く末が決まる。

 雪原に吹き荒れる吹雪のように激しく攻めるダイヤモンドダストと力の限り何度も立ち上がる雷門。その光景は見ていて痛々しいものだった。

 エイリアからすれば引き分けは敗北同然。なんとしても追加点を取らなければならない。

 

 そして遂にその時はやって来る。

 

「これで終わりだ!雷門!!!」

 

 ガゼルに対して厚いマークを付けていたのにもかかわらずマスターランク特有のフィジカルによって強引にディフェンスを突破されてしまった。

 

「“影抜い”…!」

 

 彼の動きを見越していた影野は再度ガゼルの動きを封じようと“影抜い”を発動するも一向に動きが止まる気配を見せないガゼル。それどころか身体中から焼けるように冷たい冷気を伴ったオーラが放出される。

 

「邪魔だ鬱陶しい蝿め。」

 

「う、うわああああ…!!!」

 

 不意を突いていない状態の“影抜い”には化身を発動したガゼルの動きを止められるほどのパワーはなかった。

 幾度も自身の邪魔をする影野に苛立っている様子のガゼルは無慈悲にも化身を使えない影野を吹き飛ばす。

 

 そしてガゼルと杉森が対面してしまった。

 

「消えろ虫ケラめ。“デイブレイク・フロストライン”!!!」

 

 雷門が相手では何が起こるかわからないと理解している証拠であろうか。ガゼルが選択したのは“ノーザンインパクト”ではなく彼が誇る最強にして最大の必殺技だった。

 

 特筆すべきなのはその冷気。前半にポセイドンへ対して放った際は“魔帝の逆鱗”によって威力が抑えられていたが本来の姿を取り戻した“デイブレイク・フロストライン”はその名の通り世界の終焉に導く壊滅の吹雪と評しても過言ではなかった。

 

 ”ノーザンインパクト”すらも止められない杉森にとって化身技という選択は死刑宣告と同義だ。

 

「みんなゴール前に集まれ!!!俺たちが壁になって少しでも杉森の負担を減らすんだ!!」

『応!!!』

 

 常識的に考えて…だ。如何にキャプテンの命令とはいえ絶対零度の冷気を受け止めようとする人間はいるだろうか?断言しよう答えは“いない”だ。

 そんな奴はただの馬鹿…いや目の前の事実を理解していない“愚か者(おろかんちゅ)”だろう。

 

 それでもだ。色違いの雷門のユニフォームを背負っている選手は誰1人例外なくその“愚か者”…いや違う。正真正銘の“サッカーバカ”だった。

 

「“ワイバーンクラッシュA”!!!」

「“ウルフレジェンドG2”!!!」

 

 絶対零度の前には飛龍と銀狼の咆哮すらも掻き消される。

 

「“極ゴッドノウズ”!!!」

「“ペガサスウィングV4”!!!」

「“絶 鳳凰聖火”…!!」

「“ローリングシュート”!」

 

 絶対零度の前には幻獣の翼すらも羽の塊でしかない。

 

「“魔帝 ダークエンペラー”!!!」

「「“デュアルアセンブル”!!!」」

 

 絶対零度の前には最後の砦すら等しく無力。

 

 仲間達が身を挺して庇ってくれたのにも関わらず自分の力ではまだ足りない。まともに受けようものなら余裕で死ねるだろう。

 

 それ故なのか杉森の脳内には生まれてから現在に至るまでの15年間の記憶が絶え間なく再生される。

 

 赤子の自分を抱く母と父、御影専農への入学式…そしてFF予選での雷門との試合…。

 杉森にとってあの日は生まれ変わった日と言っても過言ではない。数々の予想外のアクシデントがデータに支配されていた自分達の目を覚ましてくれたからだ。

 データを遥かに超える成長を見せた豪炎寺、GKであるにもかかわらずゴールから飛び出してシュートを決める円堂、土壇場で“イナズマ1号”を完成させてみせた稲魂が失った心を取り戻してくれたのだ。

 

ん…?“イナズマ1号”…?

 

「…! そうか…その手があったか…!影野、俺に合わせてくれ!!!」

 

 突然自分の名を呼ぶ杉森に影野は驚きつつも彼を信じて急いでゴール前まで移動する。

 

「腕で駄目なら脚で勝負だァーーッ!!」

 

 杉森と影野はアイコンタクトだけで意思疎通を取りまるで長年寄り添ったコンビのように息のあったコンビネーションを見せツインシュートの要領でボールを蹴る。

 

「「“デュアルスマッシュ”!!」」

 

 脚力は腕力と比べるとおよそ3倍のパワーを誇る。それは超次元サッカーにおいても例外ではない。

 その証拠に土壇場で生み出した“デュアルスマッシュ”は今まで披露した杉森の必殺技の中では最も高い。

 だがそれでも世界の終焉を食い止めるにはパワーが足りない。

 

「無理だよ杉森…!これ以上は…!」

 

 流石に弱音を吐く影野だが、杉森には逃げるという選択肢はない。

 

「影野!最後の頼みだ!1秒だけでいい!俺に体勢を整える時間をくれ!」

 

「…!わ、わかった…!」

 

 何らかの意図を察した影野は“デュアルスマッシュ”の体勢を解き自ら肉壁になる事で1秒の時間を稼ぐ事に成功する。

 体勢を整えた杉森は再び真正面からシュートに立ち向かう。

 

「ありがとう影野!お前の想いは無駄にはしない!“ダブルロケットV4”!!!」

 

 影野の犠牲に報いる為に土壇場で必殺技を急成長させる。

 

 それでも崩壊に抗うにはまだ足りない。

 

「ぐぐぐ…ぬおおおおおおッ…!!!」

 

「無駄だッ!貴様のような凡人如きが世界を終焉に導く氷雪に勝てる筈がないだろう!!!」

 

 ガゼルは凡人如きに自分のシュートを止められるわけがないと嘲笑う。

 

それがどうした?

 

 凡人が不条理に立ち向かってはいけないと誰が決めたのだろうか?

 

「ぐぬぬぬぬぬ…!い…一度で駄目なら二度…!」

 

確かに俺は凡人だ。

 

「二度で駄目なら三度…!」

 

唯一誇れる心の強さだって一般人より少し強い程度だ。

 

「三度で駄目なら…成功するまで…何度でも‥何度でもだァァァァーーッ!!!」

 

それでも凡人だってやる時はやるのだ。

 

「“シュートポケットA”!!!」

 

 杉森の魂の叫びが神に届いたのか、はたまた火事場の馬鹿力というものが発動したのか…。

 なにはともあれ確実に言えるのは“凡人(杉森)”の意地は時に“絶対零度の氷”すらも溶かすという事だ。

 

『止めたァーーーッ!!!!雷門イレブン、そして影野の尊い犠牲もあり遂にガゼル渾身のシュートを止める事に成功したァーーッ!!!』

 

 杉森のまさか過ぎる活躍にギャラリーが沸き立つ。

 

「スッゲェな杉森のヤツ…ガゼルのシュートを止めたぞ。それにしてもあの技“デュアルスマッシュ”っつー技…どことなく“イナズマ1号”に似てんなぁ。」

 

「あっ、雷牙もそう思うよな!杉森もあの試合の事を思い出してくれたのかな〜!」

 

 仮にも年上である杉森の成長を親戚のおじさんのようにうんうんと喜ぶ雷牙と円堂に周囲は心の中でツッコミを入れていた。

 

「あり得ない…あり得ないあり得ないあり得ないあり得ない!この私が…ジェネシスの称号を得る筈の私が…!凡人如きにシュートを止められるなどあってはならないのだァァァァァッ!!!」

 

 現実を受け入れられないガゼルは憎しみに塗れた叫びを上げ怒り狂う。

 

「杉森!俺にボールをくれ!」

 

「頼んだぞキャプテン!!!」

 

 杉森はボールを天高く上げ風丸へとパスを繋げる。既に風丸の体力は先ほどの化身によって限界を迎えていた。

 現在の風丸の身体は“このボールだけは絶対に死守しなければならない。”その想いだけで動いていた。

 

…だがその想いに負けないほどドス黒くそして巨大な凍てつくように冷たい闇がすぐそこに迫る。

 

「ボールを寄越せェーーッ!風丸一郎太ァーーッ!!!」

 

 怒り狂ったガゼルは化身を発動しながら反則スレスレのタックルを行った。

 風丸は急いで化身で対抗しようとするも間に合わずそのまま吹き飛ばされてしまう。

 

 身体が宙を浮く感覚に陥る中、風丸の意識は次第に薄れていった…

 

『風丸(くん)!!!』

 

 チームのみんなが自分を心配してくれる声が聞こえる。風丸は悟る。自分は杉森が作ってくれた最後のチャンスをふいにしたのだと。

 

 1st雷門のキャプテンに選ばれた日の夜、本当に自分でいいのか何度も何度も頭の中で考えていた。チームには自分よりもキャプテンに適任そうな選手が何人もいる。彼らを押し除けてまで自分にキャプテンを任せられる価値は本当にあるのかと。

 その思いが限界を超えたある日瞳子に直接問いただした。それでも彼女はこう言った。

 

『貴方だからこそ適任なのよ。その答えは試合をすれば分かるわ。』

 

 恒例の秘密主義によって答えをはぐらかされたまま今日まで頑張って来たが結局答えは分からなかった。

 

 失意に暮れた風丸の意識は深海へと沈んで行く。

 

『哀れだなぁ“俺”。俺に勝って手に入れたものをもう忘れたのか?』

 

 完全に深海へと沈む直前に懐かしい声が聞こえた。

 風丸は最後に瞳を開けその正体を確認する。

 

『やぁ久しぶりだなぁ“俺”。随分と酷い顔じゃないか。』

 

 そこにいたのはジェネシスとの試合中に消えた筈の“もう1人の自分”だった。

 

どうしてお前がここに…?

 

『何を驚いてるんだ?前も言っただろ俺は“お前”で“お前”は俺だ。“お前”が生きている限り俺は消える事はないんだよ。』

 

…ごめんな。“お前”は俺を助けてくれたのに…“お前”の犠牲を無駄にしないように頑張ろうとしたのになさけない姿を見せちまって…。

 

『はぁ…相変わらず生真面目な奴だな“お前”は。そんなに申し訳ないと思うのなら俺に肉体を明け渡せ、そうすれば許してやる。』

 

…嫌だ。何度言うが俺は…“お前”にはなりたくない。その逆も然りだ。

 

『へぇ?だったら立ち上がって否定してみせろよ。“お前”は俺とは違うんだろ?』

 

 “もう1人の自分”は風丸の襟元を掴むと凄まじいパワーを駆使して風丸の意識を天高く投げ飛ばす。

 最後に風丸が見た“もう1人の自分”は憑き物が落ちたかのように笑っていた。

 

『…る!ぜ…まる…!』

 

 肉体にかかっていた水圧が軽くなっていくと共にみんなの声が聞こえる。

 

ああ…戻って来れたんだな。本当にありがとう…“俺”。こんな不甲斐ない俺だけどさ…

 

「否定してみせるさ…。俺が俺である為に…“お前”の存在を無駄にしない為に…!」

 

 “もう1人の自分”の発破によりギリギリの所で現世に戻った風丸はもう一度地面を力強く踏み込む。

 

「邪魔だァーーッ!!!」

 

 “女帝”は今度こそ自らに歯向かう反逆者を始末するべく絶対零度の槍を振るうが漆黒の槍によって受け止められてしまう。

 

「何…!?」

 

「『俺は…!』」

 

自分の能力に限界がある事を知るのが怖い。

 

それがどうした?挑戦をやめる理由にはならないだろう?

 

俺はヒーローになりたかった。円堂や稲魂のように強い人間になりたかった。

 

俺も同じだ。だからこそ今も…いやこれからも走り続けるんだ、いつかあいつらに届くように。

 

…本当に強いなお前は…。でも俺もいつかなれるのかな…、あいつらのように…。

 

きっとなれるさ。だってお前は……

 

「『風丸一郎太だァァァァーーッ!!!』」

 

「何…だと…!」

 

 “魔帝”の勇気と“女帝”の怒りの激突…。勝ったのは言うまでもなく“魔帝(風丸)”だ。

 ガゼルに競り勝った風丸はそのまま限界を超えたスピードで走り去る。

 

「雷牙…!あれってまさか…!」

 

「ああ!“ゾーン”だ!風丸のヤロー…!遂に入りやがったなぁ!!!」

 

 風丸の覚醒に再度ギャラリーが沸き立つ中敗北したガゼルはなおも負けを認められないでいた。

 

「あり得ない…!マスターランクたるこの私が凡人どもに負ける事など…認めてたまるかァァァァァ!!!」

 

 狂ったように叫ぶガゼルは今度こそボールを奪う為に立ち上がる。

 

 

 

 

…筈だった。

 

「こ、これは…!?」

 

 何故か自分の身体は地面に伏せている。もう一度風丸を追う為に幾度となく脳から信号を送るも身体は命令を聞いてくれない。

 

「な、何故だ…!何故身体が動かない…⁉︎」

 

「化身を使い過ぎたんだよ君は。」

 

 ガゼルの言葉に応えたのは敵である筈のアフロディだった。

 

「化身は“裏技”でも使わない限りは体力を大きく消耗するんだ。世界トップクラスの選手でも1試合で数回使おうものなら立つ事すらままならなくなるだろうね。思い返してごらんよ君はこの試合中に何回化身を出したのかな?」

 

「アフロディ…貴様ァ…!最初からこうなる事を見越して…!」

 

 ここでようやくガゼルはアフロディが幾度も自分との勝負を挑んだ来た理由を悟る。

 自分は初めからアフロディの策略にハマっていたのだ。全てはこの瞬間に繋げる為に…。

 

 自己嫌悪と神への憎しみに満ちた目で見るガゼルに対してアフロディは卑しく笑う。

 

「おや、知らなかったのかい?“神様”ってのは時に残酷なものなのさ。」

 

 そしてアフロディは動けなくなった哀れな“侵略者(エイリアン)”を放置して仲間の元へ走り出す。

 

「スゲェよ風丸!このままシュートを決めろーー!」

 

 “ゾーン”に覚醒した風丸のスピードは圧倒的だった。先ほどまで互角だったダイヤモンドダストのスピードを上回るどころかまるで赤子の手を捻るようにたった1人で翻弄している。

 勝てないと分かっていながらもディフェンスに入るダイヤモンドダストには逆に同情の念を送る者までいるほどにワンサイドゲームだ。

 

 しかし…

 

「これはマジぃな…。」

 

「どうしたの稲魂君?珍しく神妙な顔して?」

 

「アイツの“ゾーン”はまだ入りが甘ェ…!このままじゃゴールまで持たねぇぞ…!!!」

 

 雷牙の言う通り現在の風丸は現世とゾーンの狭間を行き来している状態だ。しかしチームメイトは体力切れの影響で風丸のスピードについて来れる選手はおらず、かといってこのまま1人に任せれば先に潰れるのが早いというジレンマに陥っていた。

 

 (あと少し…あと1分だけでいい…!俺の身体よ…持ってくれ…!)

 

「奴の動きが落ち始めたぞ!このまま押し切れェ!!!」

 

 大将を無力化されてもなお冷静に風丸の状態を見極め勝利へ繋げようとする部下達の姿勢は立派なものだろう。

 

 しかし彼らは忘れていた。雷門にはもう1人…“最強にして最凶のライバル(ラスボス)”がいる事を…。

 

「上だ!風丸君!」

 

 突如仲間の声が聞こえた風丸は直感的にヒールリフトでボールを上空に上げるとパスが繋がる。

 

 パスを受け取ったのは当然アフロディだ。

 

 しかし最強のMFにボールが渡ってもなおダイヤモンドダスト達の余裕は崩れない。

 

「貴様の“ヘブンズタイム”の破り方はガゼル様から教えてもらった!!!我らには通用せんぞぉ!!!」

 

 流石はマスターランクチーム。既に切り札である“ヘブンズタイム”の破り方を共有し実行に移せる段階にあるようだ。

 

 自分を殺すかのようにボールを奪いに来るダイヤモンドダスト達。彼らに対してアフロディが取った行動は…

 

 

 

 

 優しく微笑むだけだった。

 

 しかしその微笑みに敵意は無い。あるのは純粋な慈悲の心と自身への可能性への期待だけだ。

 

「君達は神々が住まう楽園に足を踏み入れた事はあるかい?」

 

「消え…!?」

 

 “ヘブンズタイム”の暗示は意識をしていれば掛かる事はない。そう教えられていたのに関わらずまたしても天使は現世から姿を消す。

 

『ぐああああああッーーー!!!!』

 

 そして神に刃向かった天罰が愚かなる侵略者へと下される。

 

「これが僕の新たな力…。名付けるならそう…“ヘブンズワールド”だね。」

 

 “ヘブンズワールド”と名付けた謎の技を用いてダイヤモンドダストのディフェンスを突破するその光景はまさに…

 

「“ゾーン”だ!!アフロディも“ゾーン”に覚醒したぞ!!!」

 

「まるで“ゾーン”のバーゲンセールだな…。流石はアフロディというべきか…。」

 

「しかもアイツの言葉から察するにその気になればいつでも“ゾーン”に入れたっぽいぞ…。なんか妬けるな〜…。」

 

 まさかの風丸に続いてアフロディまで“ゾーン”を解放した事で戦況は一気にひっくり返る。

 恐らく後はアフロディに任せておけば確実に逆転できるだろう。それでも風丸は脚を止めなかった。

 

 (わかってるさ…。これは俺の我儘(エゴ)でしかない…。それでも…!俺はこのチームのキャプテンとして…!最後まで走り続けていたいんだ…!!だから頼む…“もう1人の俺”よ…最後に力を貸してくれ!!!)

 

 風丸は心の中で静かに祈る。そして僅かに残ったエネルギーをフル回転させ切れかかっていた“ゾーン”への接続を繋げ直す。

 

「来たね風丸君!」

 

 再び風が吹く事を信じていた“見習いの神様”は風と共にグラウンドを駆ける。

 

「ここで決めるぞアフロディ!!!」

「ああ!ここからは僕の…いや僕達の“世界”だ。」

 

 覚醒した者同士の連携はまさしく別次元の領域であった。

 人智を超えた筈の自分達(エイリアの使徒)ですらも真似できない常識外れのプレーの数々にダイヤモンドダスト達は翻弄されるばかりであり、呆気なくディフェンスは崩れ去る。

 

「これで終わらせる!」

「僕達の力…とくと見るがいい!」

 

 ゴールの道が開くと同時に飛翔した風と神はアフロディはお馴染みとなった純白の翼を、風丸は初めて見せる漆黒の翼を背中に出現させる。

 

 その姿はまさに天使と悪魔の共同戦線だ。

 

 世界の終末かと錯覚するその光景をダイヤモンドダスト達はただ見ているだけしかできなかった。

 

「我々が…破れる…だと…?」

 

 動けなくなったガゼルの言葉に答える者は誰もいない。

 

「「“ヌル・クリエーション”!!!」」

 

 “虚無(ヌル)”と“創造(クリエーション)”。互いに相反する属性を兼ね備えた光弾は氷山を繰り出す暇さえ与えずにゴールをラインを通過する。

 

ピッピッピー!

 

 ボールがゴールネットを激しく揺らす中試合の終幕を告げる合図がグラウンドに木霊する。

 全ての力を使い果たした1st雷門は皆動けなくなる中、なんとか最後の力を振り絞ってスコアボードに視線を移す。

 

 試合のスコアは3対2。勝ったのは当然雷門だ。

 

「勝った…!俺たちの勝ちだ…!」

 

『よっしゃあーーーッ!!!』

 

『突如開催された雷門イレブンとマスターランクチームとの総力戦!その初戦を制したのは我らが雷門イレブンですッ!!!おめでとう雷門!そしてありがとう雷門!!!彼らの勝利によって希望の光が灯さられたァーーッ!!!』

 

 角馬の祝福の実況と共に周囲の観客達は1st雷門に精一杯の歓声を送る。

 

「すごかったぞーーッ!杉森ィーーッ!!!」

 

「アフロディもナイスプレーだーーッ!!流石はFFのラスボスだぜーーッ!!!」

 

 1st雷門とギャラリーが歓喜に湧く中で風丸はガゼルに手を差し伸べる。

 

「…どういう真似だ風丸一郎太…。敗者()を笑いに来たのか…?」

 

 予想通りの反応を返された風丸は思わず苦笑いをしてしまう。

 

「違うさ。今日の試合で改めて自分を見直す事ができた。ありがとうガゼル。」

 

「……。」

 

 氷のように冷たい心を持つガゼルも雷門との一戦により何か思うところがあったのだろうか。

 ほんの一瞬だけ手を取りかけたもののすぐに我に返った事で手を払いのける。

 

「フン…貴様に礼を言われる覚えなどない。あの杉森というキーパーを侮った故に負けた…それだけだ…。」

 

「そういうこったガゼル!!敗者に居場所はいらない…それがエイリア学園の絶対の掟だ!!!」

 

 ガゼルの言葉を肯定するのは1st雷門でもダイアモンドダストでもない第三者だった。

 突如現れたその男の名は…。

 

「バーン…!」

 

 突然のバーンの来訪に皆が身構えるものの当の本人に戦闘の意志はない。

 

「おっと勘違いしないでくれよ?今日ここに来たのはそこにいる負け犬の後始末の為だ。テメェらとごたごたを起こすつもりはねぇよ。」

 

 バーンは罪人の命を刈り取る剣を向けるように漆黒のボールを足に構えガゼルへ視線を移す。

 

「…最後に言葉はあるかよガゼル?」

 

「フン…敗者に発言の権利は無し。さっさと追放するがいいバーンよ。」

 

 これ以上の対話は無駄だと判断したバーンは刑を執行しダイヤモンドダストは抵抗する事なく光を受け入れ姿を消した。

 

「…本当に残念だぜ。」

 

 ガゼル達の消滅した間際に小さく呟くバーンの表情はどこか悲しげだった。

 やる事を終わらせたバーンは再びボール型のデバイスを操作し本拠地へ帰還しようとする。

 

「少し待ってもらおうか。」

 

 バーンを呼び止める声の主は2nd雷門のキャプテン鬼道有人だ。

 

「アケボシではなくお前が追放に現れたという事は次の対戦相手は“プロミネンス”という解釈でいいんだな?」

 

「へぇ…?という事は俺の相手は鬼道有人率いるチームってわけか?そりゃあ残念だぜ!俺様が稲魂雷牙をぶっ倒したかったのによぉ!!!」

 

 鬼道がキャプテンマークを付けている事でプロミネンスとの試合に雷牙は参加しないと察したバーンはワザとらしく悔しがる。

 つまりは2nd雷門など自分達の敵ではないという挑発だ。

 

「俺も残念だ。ガゼルかアケボシが相手の方が戦略の練りがいがありそうだったからな、お前のような単細胞が相手なら30%ほどの力で十分だろう。」

 

 まさに買い言葉に売り言葉。大将同士の強めの皮肉によって険悪な空気が流れるもここで暴力に身を任せるほど互いに愚かではない。

 

「ヘッ!少しだけ楽しみになってきたぜ!俺の灼熱の炎でテメェのプライドをドロドロにまで溶かしきるのがなぁ!!!」

 

「溶かせるものなら溶かしてみろ。俺の…いや俺達のプライドはそう簡単には溶かせんぞ。」

 

 こうしてなんとか平穏に事を済ませ一時の平和を取り戻した残りの2チームは3日後の試合に向け練習を再開しようとする。

 そんな中、2nd雷門のGKである源田は何故かベンチで横になっている杉森を見つめていた。

 

「源田?何をしている練習に行くぞ。」

 

「ああ…今行く。」

 

 キャプテンに急かされた事でようやく我に返った源田だったが、その歩みはどことなく重かった。

*1
ポセイドンのこと




多分っていうか100%ガゼルの性格は解釈違いになってると思いますが、個人的にはガゼルは一度ブチ切れると周りが見えなくなるタイプだと解釈している為こんな感じになっちゃいました。

〜オリ技紹介〜

デュアルアセンブル:“スピニングカット”と“ボルケイノカット”とのオーバライド技。
最初は“デュアルカット”の予定だったんですけどなんか捻りがないな〜って思ったんでアメリカ組から連想してアメコミヒーローのキャプテン・アメリカの名セリフ“アベンジャーズ!アッセンブル…!”から取りました。

ヌル・クリエーション:風丸とアフロディとのラスボスコンビが使用する林属性の連携技。神と魔帝が繰り出すその一撃を止められる者はいない。
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