イナズマイレブンHEROS!!!   作:月兎タンク

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タイトルなっっっが。


稲光で繋がれし星よ君は何処へ行き何処に帰るのか

「ボーッ…」

 

「豪炎寺さんステイ!ステイでやんす!」

 

「試合は明日なんスよ!稲魂さんが怪我したら本当にやばいっスから〜!ここは抑えてくださいっス〜!」

 

 説明しよう。2nd雷門とプロミネンスの試合から既に数日が経過し3rd雷門とレグルスとの試合が明日に迫っている。

 普通なら明日は向けて対策を練るなり、連携を高める為にミニゲームをするなりやる事は山積みの筈なのだが3rd雷門の練習風景はそのどれにも当てはまらない。

 

 司令塔である筈の不動は練習に参加しておらず、監督である筈の“雷帝”は選手を見ずにiPadを操作してばかり。

 

 そして極め付けはキャプテンである雷牙だ。

 

 現在の雷牙の顔は目と口にあたるパーツが全て『●』で構成され態度も心ここにあらずといった様子だ。

 要するに全ッ然練習に集中できていないのだ。

 

「ハッ…!いけねぇいけねぇ…試合は明日なんだ練習に集ty ボーッ…」

 

 一応時々我に返る事はあるもののすぐに魂が抜けたように元に戻ってしまう。

 こんな調子でここ2日間の練習は身が入らずにぼーっとする雷牙に対し豪炎寺がファイアトルネードでの治療を試みて栗松達が止める…その繰り返しだった。

 

「へッ!そんなにシュートを撃ちたいなら俺があいつをしとめてやるぜェ!!!」

 

 あえて詳細は省くが約2週間で幾度となく雷牙によって散々な目に遭わされた不動は溜まりに溜まった鬱憤を晴らさんと豪炎寺の代わりにパワーシュートを放つ。

 だが無意識かはたまた初めから不動のシュートに気づいていたのか…雷牙は気の抜けた表情のまま綺麗なオーバーヘッドキックでシュートを打ち返す。

 

「チッ…!」

 

「ボーッ…」

 

「あんなにぼーっとしてるのに不動のシュートを打ち返したでやんす…!」

 

「まさに身勝手の●意っス…!」

 

 雷牙がこうなってしまった理由は明らかに先日のアケボシとの会話が原因なのは誰の目から見ても明らかだ。

 だがどんなに本人に問い詰めても黙秘権を行使し意地でも答えてくれない。

 

「ハァァァ…本当に大丈夫なのかしらこんなチームで…。」

 

 協調性皆無の不動、何を考えているか分からない“雷帝”、明らかに調子が悪い雷牙。いつ爆発してもおかしくない爆弾を3つも抱えたチームの現状を見て夏未は大きな溜め息を吐く。

 

「まともに練習しているのは彼くらいね…。」

 

 夏美の視線の先にはDF陣と共に“ムゲン・ザ・ハンド”の練習をする立向居がいた。

 

「皆さん!もう一度お願いします!」

 

「よっしゃ任せとけ!」

 

 立向居は“雷帝”からのアドバイスを取り入れ目隠しをしたままボールを止める特訓を続けている。

 そんな状態では当然まともにボールを受け止められる筈がなく、彼の身体には至る所が痣だらけだ。

 

「だったら俺が相手になってやるよっ!!!“エターナルブリザード”!!!」

 

 何処からか強烈な冷気を纏ったシュートが放たれる。不意を突かれた立向居は咄嗟に“ゴッドハンド”で対抗するも蒼炎に輝く右手は一瞬にして凍り付き呆気なく粉砕される。

 

「このシュートは…!」

 

 エイリアを除けば強烈な冷気を放ち挨拶代わりにシュートを撃つような人間は1人しかいない。

 

『熱也!』

 

「へっ!」

 

 彼らを見下すようにグラウンドの外にいたのは士郎の弟、吹雪熱也だ。彼の後ろには染岡と或葉も呆れた表情で立っている。

 

「染岡君に或葉君もいるじゃないか!でも一体どうして…?」

 

「あん?俺らはマネージャーから兄貴が呼んでるって言われて来たんだぜ?」

 

「「…え?」」

 

 兄は何故彼らがここにいるのかと疑問視し、弟は兄から呼ばれたと主張し互いの会話が噛み合わない。

 皆が頭に?マークを浮かべているとこれまたいつの間にかいた“雷帝”が高笑いしがら種明かしをする。

 

「アーハッハッハ!いい表情じゃあないか!彼らをここに呼んだのは私だよ。ちょ〜っとやりたい事があったんでねぇ。」

 

「やりたい事?」

 

 すると“雷帝”は立向居の方へ視線を移す。

 

「君達は本当にいいチームだ。私の見立てではFW、MF、DFの実力は十分に“レグルス”に通用するレベルに達している。だがしかーし!立向居クン。非っ常〜に残念たが君だけがその水準(レベル)に達していないのだよ〜。」

 

 仮にも監督であるにもかかわらず“雷帝”は歯に衣を着せずに痛い所をずきずき…いや塩で塗れた手でビンタを喰らわせる。

 それでも立向居は彼の言葉を否定する事は出来ない。まだチーム“レグルス”の実力は未知数であるが“マジン・ザ・ハンド”だけでは絶対に彼らに通用しない事は確実だからだ。

 

「ッ…!…分かってます…、俺はまだ未熟である事くらい…!だからこそ今“ムゲン・ザ・ハンド”を習得しようと…「まだ必殺技の『ひ』の字も掴めていないのに?」ッ…!!」

 

「あー1つ勘違いしないで欲しいな。別に私は君の才能を疑ってるわけじゃあないよ?寧ろその(リバース)、君ほど才能に溢れた選手はいないだろうねぇ…。なんなら私の計画に入れてm…ゲフンゲフン!まぁ…つまり私は君の才能を買っているんだよ。」

 

 雷門に入ってから皆が自分の事を才能に溢れた選手だと言ってくれる。だが立向居本人にはどうしてもその言葉を信じる事ができなかった。

 

「うーわ、いかにも本当に自分にそんな才能があるのかって顔してんねぇ。本っ当によくないよそれ〜。『俺はまだ未熟?』そんなもんは関係ないだろぉ?私が才能があるって言っているんだからもっと誇りなさいよ。言っとくが君の才能が燻っている原因は君自身なのだよ?」

 

「…ごめんなさい。でもどうしても俺には信じる事ができないんです…。」

 

「ハァ…相変わらず謙虚だねぇ。ならヒントをくれてやるよ。もっと欲張れ傲慢になれ。傲慢とは強者の特権だ、そして君にはその権利がある。」

 

「俺が傲慢に…。」

 

「ハハハッ!傲慢になれかぁ!そりゃ的を射ているかもなぁ!問題は立向居からは一番遠い言葉ってとこだけどなぁ!」

 

「こーら熱也。」

 

「さてと…ここで漸く本題に入れる訳だ。今から私は立向居クンに試練を与える。」

 

「試練?」

 

「ルール簡単。今から君以外のメンバーが代わり代わりにシュートを撃って君は止めるだけ…つまりただのPK戦さ。」

 

 そんな簡単な事が試練になるのかと疑いながらも取り敢えずは“雷帝”に従いゴールへ向かうとする。

 

「た・だ・し。君は“ムゲン・ザ・ハンド”以外の必殺技を使う事を禁止する。あっ、他のみんなはバンバン必殺技を使っちゃっていいよーなんなら連携技も可としまーす。」

 

『ええっ!?』

 

 “ムゲン・ザ・ハンド”以外の必殺技は禁止…つまり立向居に与えられた選択肢はただのキャッチか完成進捗0%の“ムゲン・ザ・ハンド”しかないというわけだ。

 

「あの…もしも俺が一度も止められずに終わったらどうするんですか…?」

 

「ん〜…明日の試合は棄権する…とでも言って欲しいのかい?困るな〜まだ私は生きていたんでね、そんな恐ろしい事はできないよ〜。まぁどうしても罰が欲しいってならそこでぼーっと突っ立ってる雷牙クンをGKに起用させるのが関の山かな〜。」

 

「稲魂さんを…。」

 

 立向居の視線の先にあるのは相変わらず目と口が『●』になっている雷牙の姿。

 あの日以降初めて彼をしっかり見るがあまりの覇気の無さに思わず目を逸らしてしまう。

 

「…やります。やらせてください…!」

 

「おんやぁ?意外と乗り気だねぇ、よーし!1番手はピンク狼ボーイだ!」

 

「熱也だ!ったく…このムカつき加減…まるで稲魂みてーだぜ…。」

 

 変な仇名をつけられた事にブツブツ文句を言いながら立向居と対峙する熱也。

 数週間ぶりに熱也とPKをする立向居だが彼から感じられる気迫は以前とは明らかに違う。凍えるような冷気を感じるのは変わらないがまるで身体を削られるような荒々しさもプラスされている。とても同い年の人間の気迫とは思えない。

 

「くっ…!頼む熱也!」

 

「言われなくてもやってやらぁ!!!吼えろ…!“ウルフレジェンドG2”!!!」

 

 銀狼の遠吠えが鳴り響き凄まじ速度でゴールへ向かう。

 

 (目でボールを追うんじゃない…!肌で…耳で…細胞で…五感全てで感じ取るんだ…!)

 

 雷牙から教えられた事を何度も頭の中で反射させる。

 ほんの一瞬だけ脳内にボールの姿が浮かぶ。

 

「! ウォォォォォッ!!!“ムゲン・ザ・ハンドォォォォォォッ”!!!」

 

 両腕を前方へ突き出し技名を叫ぶ。だが何も変化は起こらずにボールはゴールネットを激しく揺らす。

 

「ピーッ!ゴール!ピンク狼クンの勝ち〜。」

 

 開始早々1点を奪われたが立向居の闘志は折れない。

 

「くっ…!次…お願いします…!」

 

「加減はしねぇぞ立向居!!“ワイバーンクラッシュA”!!!」

 

 飛龍の咆哮は無限すらも突破する。

 

「久しぶりにいこうか…!来い熱也、士郎…!」

「「「“パラドックスブレイクG3”!!!」」」

 

 矛盾に満ちた塊は無限すらも破壊する。

 

 容赦なく各々の最強技を繰り出され立向居は一瞬でボロボロとなる。

 

「次…お願いします…!」

 

 立向居は身体の限界を迎えながらも弱々しく立ち上がる。

 

「はい次は…アッキークーン!出番だよー!」

 

「だからアッキーって言うなぁ!!!」

 

 不貞腐れて寝ていた不動もアッキー呼びに反応し苛立ちながら立向居の前に立つ。

 

「お、お願いします…!」

 

「チッ…!相変わらずなよなよした野郎だ…!テメェみてぇな奴を見ると虫唾が走るんだよ!!!」

 

 溜まりに溜まった鬱憤を晴らさんと強烈なシュートを放つ。ただのシュートといえどその切れ味は剃刀のように鋭い。

 

 (…!み、見えた…!)

 

 それでも立向居は感覚でボールの姿を掴もうとし遂にその瞬間がやって来る。

 

「“ムゲン・ザ・ハンド”ッ!!!!」

 

 自身の感覚に導かれるままに両手を突き出すと背後に青色の鈍い光が輝く。

 

「明らかに今までと違うぞ!!!」

 

「いっけぇーーっ!!!立向居ーーっ!!!」

 

 だがそれだけだった。

 

「グァァァァッ!!!」

 

 必殺技らしい現象も起きずにボールは立向居の鳩尾に入り彼の身体ごとゴールが入る。

 

「ゲホッ…ゲホ…!」

 

「もうやめてください監督!このままじゃ立向居君が潰れてしまいますっ!」

 

 あまりの惨状に見ていられなくなった夏美は“雷帝”に試練を辞めさせるように懇願する。

 

 だが…

 

「次…お願いします…。」

 

 立向居は立ち上がり次のシュートを要求する。

 

「立向居君…。」

 

「やる気はマンマンなようだねぇ〜。次、豪炎寺ク〜〜ン!」

 

「…はい。」

 

 グラウンドに立った豪炎寺は初めは何かを悩むような表情だったがすぐに覚悟を決め、全身の気を外部へ放出する。

 

「“爆熱ストームG2”!!!」

 

 炎の魔神と共に繰り出す豪炎はバーンに匹敵する…どころかそれ以上の熱を帯びながら立向居へ襲い掛かる。

 

「見えた…!聞こえた…!」

 

 不動のシュートで何かを掴んだ立向居は両手を前に出すと背後から細長い青い4本の腕が炎を掴まんと勢いよく伸びる。

 

「これは…!」

 

「遂に完成か!?」

 

 だが腕は炎を掴む事はなくあらぬ方向に向かってしまい呆気なくシュートが決まってしまう。

 

「そんな…せっかく出せたのに…。」

 

「多分まだ立向居君がコントロールできていないんだ…。」

 

 それでも完成まで一歩前進した事実は変わりなく立向居は次のシュートを要求する。

 

「次の人は…稲魂クンかぁ。」

 

 自身の名前を呼ばれた雷牙はまるで夢遊病のようにフラフラと移動し立向居の前に立つ。

 

「ボーッ…。」

 

「また●ー坊になってるぞ…。」

 

「豪炎寺さんステイ!ステイでやんす〜!!!」

 

「稲魂さん…。」

 

 覇気の無い表情の雷牙を見た立向居は彼と初めて会った時の事が脳裏に浮かぶ。

 

『おミャー守に憧れているんニャって?』

 

 彼と初めて出会ったのはジェネシスが襲撃する数週間前。

 当時正体を隠し“自縛猫 鈴”と名乗っていた雷牙はいづれ雷門が来る可能性の高い陽花戸中に出入りしていた。

 校長の提案で彼によって陽花戸イレブン達は徹底的に鍛え上げられ自分も“ゴッドハンド”と“マジン・ザ・ハンド”を習得できた。

 故に立向居にとって憧れの人物が円堂ならば雷牙は師匠にあたる存在なのだ。今でも彼のアグレッシブな言動を理解する事はできていないがサッカー選手としては円堂と同じくらい尊敬している。

 だからこそこんな姿の師匠は見たくなかった。彼の身に何があったかは分からないし本人が拒む以上無理に聞きだすつもりもないがここまで覇気を無くしている雷牙に対して心を痛めていた。

 

「稲魂さん!!!全力でお願いします!!!」

 

「……ボーッ…。」

 

 不動の時と同様に無意識なのかワザとなのかは定かではないが雷牙は走り出した。そして彼に向けてパワーシュートを放つ。

 たかがノーマルシュートでも雷牙の脚力を持ってすればその威力はそこらへんの必殺技より遥かに上だ。

 

「“ムゲン・ザ・ハンド”!!!」

 

 豪炎寺で掴んだ感覚を再現し両腕を突き出すと背後から蒼色に輝く4本の腕がユラユラとボールへ向かう。

 

「出たっ!!

 

 なんとかボールを掴む事には成功したもののまだ集中力が足りないのかガラスのように砕け散る。

 しがらみから解放されたボールはネットではなくポストに当たった事で立向居は名目上の勝利を得る。

 

「ボーッ…。」

 

「まだ変化は無しか…。」

 

「流石にファイアトルネードを1発撃ち込んだ方がいいでやんすかねぇ…?」

 

「……。(スッ)」

 

 あまりのキャプテンの重症に荒療治も厭わなくなった3rd雷門達は皆豪炎寺に視線を集め、当の本人も涼しい顔でボールを足に置く。

 

「…か?」

 

 ファイアトルネード治療法が炸裂する寸前。豪炎寺はある人物の視線に気づく。

 

「立向居…?」

 

 立向居からただならぬ気迫を感じた豪炎寺はファイアトルネードを中断し視線を立向居へ移す。

 

「その程度なんですか…稲魂さん…!俺は…まだやれますよ…!」

 

 ユニフォームはボロボロとなり身体も擦り傷だらけ。体力の底も尽き息も絶え絶えにもかかわらず立向居は雷牙にシュートを打つように要求する。

 彼の表情は普段の彼からは考えられないほど好戦的な笑みを浮かべている。

 

「……プッ!ハハハ…アーハッハッハッハッ!!!!」

 

「笑った…!」

 

「稲魂君が遂に笑ったよ…!」

 

 立向居の覚悟に触発されたのだろうか。雷牙は点となっていた顔を元のパーツに戻し気を急激に高め始める。

 

「ハァァァァァ…!!!“獅風迅雷”…!!」

 

 次第に雷牙の周囲から金色のオーラが溢れ出し所々に稲妻を纏いだす。ただでさえ金色に染めた髪色もあいまってその姿はまるで某野菜人の変身形態である。

 

「で、出たでやんす…!超地球人2…!!!」

 

「前々から思っていたっスけど、これ世界観的に大丈夫なんスか…!?」

 

 10年後の未来では宇宙人だってサッカーで惑星の滅亡を決めるのだ。今更某野菜人っぽい姿になっても変わらないだろう。

 

 覚醒した雷牙はボールを上空へ上げると自身も飛翔し縦横無尽に空を駆け回る。

 彼の軌跡は金色に輝く巨大な球体を作り出し中から“皇帝”の名を冠した獅子が産まれる。

 

「“カイザーレオーネV3リャャャャャ”!!!」

 

 獅子は雷鳴を思わせる咆哮をあげながらゴールへ襲い掛かる。

 

「“カイザーレオーネ”だと!?おい稲魂ァ!それはいくらなんでもやりすぎだ!!」

 

「立向居を壊す気か!?」

 

 まさか“カイザーレオーネ”を撃つとは思っていなかったギャラリーは皆雷牙を非難するが立向居は逃げ出すつもりはない。

 寧ろ自分に対して本気をぶつけてくれた師に対して感謝すらしていた。

 

 (ありがとうございます稲魂さん…!俺の為に本気になってくれて…。だからこそ…俺もあなたの期待に応えてみせます…!)

 

「笑ってる…?」

 

「立向居も笑っているぞ…?」

 

 恐らくこのシュートをまともに受ければ大怪我は必至だろう。それは立向居には分かっている筈だ。

 

 それでも立向居は笑っていた。

 

「見ててください稲魂さん…!これが俺の…“ムゲン・ザ・ハンド”ですッ!!!!」

 

 立向居は両手から眩い光を発しながら掲げる。すると神々しい光が彼の背後に満ちた。その光景は神話の世界の神にすら感じられる。

 その光は徐々に人の腕を形作り、その中から四つの手が勢いよく伸びる。

 

 その光景を見ていた“雷帝”は誰にも聞こえない声量で呟く。

 

「漸く“才能の芽”は開花したか…。」

 

 その腕は今までの蒼色の物とは異なり“ゴッドハンド”を思わせる金色に輝いている。

 4本の腕は“カイザーレオーネ”を力強く掴む。獅子は拘束から逃れようともがくものの手はびくともしない。遂には凄まじい手の握力によって押し潰され威力を無くした。

 

「ハァ…ハァ…ハァ…。」

 

「アッハッハッハッ!いや〜止めたか〜止められちゃったか〜止めちゃってくれたか〜!」

 

 がっちりと両手に収まったボールを見て雷牙は笑い飛ばす。その様は我らがよく知る“雷鳴のサッカーモンスター”稲魂雷牙その人だった。

 

「フフ、やっと本調子に戻ったみたいね。」

 

「ン?ナンノコトカナ〜?」

 

 しらばっくれる雷牙に対して夏美は溜め息を吐きつつも最後の確認を行う。

 

「1+1は?」

 

(rice field)(ネイティブ)。」

 

「不動君は?」

 

「モヒカンバナナ・アッキー。」

「おいコラ。」

 

「ハァ…いつもの稲魂君ね…。」

 

「よーーし!記念にいっちょ稲魂を胴上げだァーーッ!!!」

 

『おーーっ!!!』

 

 綱海の発言に悪ノリしたチームメイトは雷牙の首根っこを掴み彼の体を天高く上げる。

 

「うげぇ〜〜…気持ち悪ぃ…。」

 

 数分後…今度は“ムゲン・ザ・ハンド”を完成させた立向居を祝う為に胴上げを交代した雷牙はあまり胴上げに慣れていないようで気持ち悪そうにしている。

 

「は〜〜いみんな注目〜〜。今日の練習はここでおしまいだよー君達は明日に備えて今日はぱっぱと寝る事!分かったか〜い?」

 

 “雷帝”は今日の練習の終了を宣言しそそくさとグラウンドから離れようとする。

 

「あっ…待ってください監督!」

 

 “雷帝”に何か用がある立向居は彼の後を追おうとするがそれに気づいた雷牙は彼を呼び止める。

 

「立向居!」

 

「! は、ハイッ!!!」

 

「…あんがと。」

 

 自分の目を覚ましてくれた事に感謝を述べて雷牙は雷帝を追う立向居を見送った。

 

「監督!ありがとうございました!」

 

 “雷帝”に追いついた立向居は彼に対して感謝の念を送る。それを見た“雷帝”は彼に対しやや面を喰らっている。

 

「…しっかし本当に君は真面目だねぇ。どうしてそこまでの才能がありながらそこまで謙虚でいられるんだい?」

 

「…別に俺は謙虚を心がけているつもりありませんし傲慢にもなるつもりもありません。でも強くはなります!円堂さん、源田さん…どのGKよりも強くなってみせます!」

 

 立向居の答えを聞いた“雷帝”は目を点にすると唐突に笑いだす。

 

「ククク…ハハハッ!!!そうかそうだったのか!」

 

「……?えっと…何がおかしな事言いましたか…?」

 

 ようやく理解する。恐らく立向居は一生“傲慢”という感情を心に抱く事は無いだろう。それもその筈だ、彼の心には既に“強欲”という感情を習得していたからだ。

 どんなに成長しても自分の実力に満足せずに永遠と上を目指せる強欲さを…。

 

「あー本当におかし…。いやはやどうやら私は君の事を誤解していたみたいだ。すまなかったネ、立向居クン。」

 

「は、はぁ…。」

 

 雷牙の不調と立向居の“ムゲン・ザ・ハンド”の2つの課題を一気に解決した3rd雷門イレブン。

 練習を終えた戦士達は明日の決戦に向けて休息に励むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 たった1人を除いて…。

 

♢side雷牙

 

 稲妻町。日本の首都東京都に数多く存在する街の1つで何の変哲も無い至って普通の街。

 どのくらい普通かと言えば守と会わなければ住む事は無かったと断言できるくれぇには普通だ。

 だが…1つだけ…どの街にもイタリアにだって無い唯一無二の場所がある。

 

 それは…

 

「…綺麗だな。ライト(アイツ)がいる場所からならまた違った景色に見えるんだろうなぁ…。」

 

 この街で一番の高度から見る満天の星空だ。エイリアとの戦いで日本各地の星空を見たがやっぱりここから見る星が一番だろうな。

 

 …えっ?なんで明日試合なのにこんな場所で星を見てるかって?それはだなぁ…。

 

「…チッ、マジで遅っせェなぁ…俺ちゃんもそんなに暇じゃないっつーの…。」

 

 俺がここに来た目的はあるヤツとの約束を果たす為。

 

『2日後の夜…稲妻町で1番星に近い所で待ってるよ…。』

 

 お察しの通りここ2日間俺ちゃんの調子が悪かったのはあの日…アケボシが伝えた言葉が頭から離れなかったからだ。

 …まぁそのせいで練習に身が入らなかったり、チームのみんなにいらん迷惑を掛けたりしたけどそこらへんの事はちゃんと試合で活躍すればなんか有耶無耶になんだろ多分。

 

「だァーーッ!!!マジで遅っせェーーッ!!!今21時だぞ!?俺、もう2時間くれェここで待ってんだけど!?よーーし分かった!あと10分!10分待って来なかったら俺ちゃん帰ってやるもんねーー!!!」

 

 俺こう見えても時間にはケッコウ厳しいのよ。学校だって無連絡でサボりはすっけど遅刻は一度もした事ねぇし。

 …まさかと思うが場所間違えた?いや〜でも稲妻町で一番高い場所っつったら鉄塔広場しかねぇよなぁ?もしかして裏山…は確かあんま星が見えねぇしなぁ…。

 

「もしかして鉄塔の方にいんn…ッ!!」

 

 結論から言おう。ヤツは…アケボシは確かにそこにいた。…今にも折れそうな程に錆びた電灯の上に…。

 

「そっちにいたんかい…!?」

 

「……。」

 

 俺の視線に気づいたアケボシは電灯から飛び降りると猫みてぇに着地音すら立てずに綺麗に着地した。

 …今の動きパフォーマンスの参考にしよ。

 

 …にしてもだ。ここまで近くでアイツをじっくりと見んのは初めてだな…。

 なんつーか…他のマスターランクのキャプテンは割とガタイがいい選手ばっかだけどコイツに関してはそこまでだな…。

 なんなら華奢なまであるわ。勝手に男だって思ってたけど女性説あるかコレ?

 まぁだからといって油断はしねぇがな。コイツのパワーは福岡の一戦で身を持って知ってる。

 

「へ〜い?俺ちゃんをこんだけ待たせてごめんなさいも無しかい?駄目だね〜道徳がなっちゃいないねぇ。もしかしてエイリア学園には道徳の授業は無いのかい?よかったら夏未に頼んで『●んこちゃん』のDVDを貸してやろうか?」

 

「……。」

 

 うっわシカトかよ。雷門のみんなもちょくちょく俺のジョークをシカトすっけどシカトされた本人の気持ちを考えた事ある?意外と傷付くのよ?

 

「はぁ〜〜…。んで?俺ちゃんをココに呼び出して何の用だい?おーーっと?もし俺を集団リンチする算段なら気をつけな?俺の手にある小学生御用達神器(防犯ブザー)が稲妻町一帯に鳴り響くぜェ?」

 

 まぁ俺は中学生だけど。

 

 アケボシは俺をシカトして空を見上げる。

 

「夢を見るんだ、ずっと同じ夢を。パパがいて…ママがいて…そして…大切な弟がいて…。僕達は同じ夜空を見上げているんだ。」

 

 …初めてコイツの声を聞いたけど思ったより低いな。ムカつく事にどことなく俺ちゃんの声と似てるし。なんだ?声優代を浮かす為に1人2役させてんのか?(←???)

 

「なんとなく確信はあったんだ…。ここは実在する場所…そして僕はここに来た事がある…。でもそれがどこにあるのかは分からなかった…。今日まではね(・・・・・・)…。」

 

 知らん、つまらん、アンダスタン。え?何?もしかしてこんな意味分からん事を言う為だけにこんな時間に俺を呼び出したの?それも試合前日に?

 

「フフフ…ちょっと喋りすぎちゃったかな…。でも本当に嬉しいんだ。明日…ようやく僕の願いが叶うんだから。」

 

 僕の願いィ?…おい待てよ何で柵の上に立ってんだよ?危ェって。

 

「バイバイ雷牙。明日の試合楽しみにしてるよ。」

 

 柵の上に立ったアケボシは数年前の俺のIFみてぇに飛び降りる。

 別に心配だったわけじゃねぇが恐る恐る下を見るとそこにはアケボシの姿はどこにも無かった。

 

 …上等じゃコラ。見てろよ親父、お袋、ライト…稲魂家最後の生き残りであるこの稲魂雷牙がみんなの技をパクった慮外者の素顔を晒してやらぁ。

 

あっ、今オメーらこんだけ分かりやすく振ってんのに気づいてないのか馬鹿キャプテンって思ってんだろ〜?あーそうですよ〜!どーせ俺は自意識過剰な癖して変なところで落ち込みスイッチが入るめんどくさいヤツですよ〜だ。…な〜んてな。今思えばあの時の俺は全力で現実から大逆走してたんだろうな…。頭の中じゃアイツの真意を分かってたんだから…。

 

♢次の日…

 

 約束の時間まであと10分を切っている現在。雷牙は正座をさせられていた。そんな彼の前には“ゴゴゴ…”の擬音が目に見える程の威圧感を醸し出しながら腕を組む豪炎寺と夏未がいる。

 

「最後に確認しておく…。本当の本当に大丈夫なんだな?」

 

「ハイ。ワタクシ稲魂雷牙ハミナ様ニゴ迷惑ヲオカケシタ事ヲ心ヨリゴ謝罪シマス。ソノオ詫ビノ為ニコノ試合ハ粉骨砕身ノ思イデ大活躍スル事ヲココニ誓イマス。」

 

「ハァ…カタコトなのが気に入らないけど、もういいわ。絶対に腑抜けた試合だけはしない事…分かったわね?」

 

「ハイ。ゴ理解シマシタ。」

 

「ま、まぁまぁ夏未さん、豪炎寺さん!稲魂さんも反省しているみたいですし試合に集中しましょうよ…!」

 

 時計の針が正午を指した瞬間にグラウンドに眩い光が放出され11人の戦士達が姿を現す。

 炎と氷の侵略者達とは異なりレグルスが纏う鎧はどこかテレビの中の英雄(特撮ヒーロー)を思わせるものだ。

 

「ほ〜んまるでこの戦いの正義はこちらにありって言いたげだなぁ。」

 

 実際割と容姿が整っている選手が多いレグルスに対し、3rd雷門のスターティングメンバーはやたらと人相の悪い選手が多いせいか余計にそう感じさせる。

 

「よっほっほっほ…!」

 

 だからといってそんな事は試合には関係無い。雷牙は恒例の稲魂ステップを開始し最後の調整を行う。

 

「…うし!行くか!」

 

 稲魂ステップを終えた雷牙は余裕に満ちた笑みを浮かべながら戦場へ赴く。

 そんな彼の後を追うように戦士達も続き、閃光の侵略者を狩る者が揃う。

 

「さぁーて…俺の“レグルス”とそっちの“レグルス”…果たしてどちらが強ェかな?」

 

「……。」

 

 遂に全貌が露わとなったチームレグルス。

 互いの未来を賭けた最終決戦が今始まる。




〜オマケ『アッキーの受難』〜

雷牙「よーし不動!一緒に練習しようぜ!」

不動「ケッ、嫌だね。そもそもせっかく助っ人に来てやった心優しい人間を拒絶したのはどこのチームだぁ?」

雷牙「まぁそう言うなってアッキー。」

不動「誰がアッキーだ!気安く仇名を付けんじゃねぇ!!」

雷帝「まぁまぁ〜人の厚意は素直に受け取っておくものだよアッキークン。」

不動「アッキー言うな!!!」

栗松「(ヒソヒソ)聞いたでやんすか壁山さ〜ん。アッキーだってやんすよ〜。」

壁山「(ヒソヒソ)かわいらしい仇名じゃないでスか〜。俺の仇名(デブ)よりずっといいっスね〜。」

吹雪「こーら。駄目じゃないか2人共、人の仇名を馬鹿にしちゃ。あんな半グレみたいな頭と顔からは想像付かないような可愛らしい仇名なんだよ?僕は結構好きだな。」

不動「テメェが一番失礼なんだよ…!」

綱海「別にいいじゃねぇか?仇名なんてチームのみんなから認めてもらってる証拠だろ?なんなら俺の事をナッミーって呼んでくれてもいいぜ?」

不動「誰が呼ぶかッ!ケッ、付き合ってらんねー俺は帰る。」

マックス「おや?もしかして逃げるんだ?アッキー?」

不動 (ピキッ!)

雷牙「そりゃあよくねぇなぁアッキー。」

不動 (ビキビキッ!)

吹雪「駄目だねぇアッキー君。」

不動 (ビキビキビキッ!)

豪炎寺「せめてグラウンドには残れ不動。」

不動「だーかーらーッ!!!俺はアッキーって言ってんだろッ!!!」

一同『…ん?』

雷牙「あーーッ!!!アッキーがアッキー呼びを認めたァーーッ!!!」

不動「クソッタレがァァァァァァッ!!!!」

しょうもない自爆をかました結果アッキーを呼びを認めてしまい、その日以降“孤高の反逆者”不動明王は“モヒカンバナナ・アッキー”の異名で(主に雷牙と雷帝から)盛大に弄られる事になる。
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