イナズマイレブンHEROS!!!   作:月兎タンク

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や”っ”と”書”け”ま”し”た”っ”!!!!
1ヶ月も開けた挙句“マ逆転裁判”を始めてすみませんでした。なんかちょくちょく書いてはいたんですけど拘りが強すぎて書いては没、書いては没を繰り返していたんですよね。
そんなこんなしてたらヴィクロ発売直前になったんで流石にやばいと思って本来1話に納める筈だった話を2話構成に変えるという妥協をしてなんとか投稿できました。あと2〜3話くらいでレグルス戦は終わると思うのでもう少しお付き合いください。


撓る怪物

 

「…空気が重いっス…。」

 

 現在3rd雷門を包んでいる空気の重さに耐えきれなかった壁山は皆があえて口にしなかった言葉を呟く。

 その原因は至極単純、ベンチで眠っている雷牙にある。

 

 雷牙は前半戦終了後に気を失って以降起きる気配はない。キャプテンでありチームの要でもある雷牙の喪失はあまりに大きいものだった。

 

「そりゃそうでやんすよ…。死んだと思ってたお兄さんが生きてただけじゃなくてエイリア学園の一員になっていたんでやんすから…。いくら稲魂さんでも受けたショックは計り知れないでやんす…。」

 

 皆は雷牙の身に起きた

 

 約1名(・・・)を除いて…。

 

「情けねぇなァ!その程度(・・・・)の事で精神が参っちまうなんてなァ!所詮“サッカーモンスター”も人間だったってわけか!」

 

「黙るでやんす不動!お前が稲魂さんがどんなに亡くなった家族の事を思っていたか分かるわけないでやんす!」

 

「そうっス!いくら稲魂さんのことが嫌いだからって悪口は許さないっス!!!」

 

「ピーピーうるせぇ奴らだなァ。だったらテメェらは知ってんのか?本当の地獄をよォ?」

 

 不動は声を低くして栗松達を悩みつける。その瞳はいつになく冷たく、“家族”という概念に対して非常に強い憎しみを感じられるものだった。

 

「止めろ不動!今は喧嘩している状況ではないだろ!」

 

「そーだそーだ。性格捻くれてるから中学生なのに白髪混じりのモヒカンになるんだぞアッキー。」

 

「だからアッキーって言うなァ!!……あん?」

 

『えっ…?』

 

 一触即発の空気となった現場に謎の声が投入される。別に声そのものは非常に聞き慣れたものだが今、この状況においては聞こえる事は絶対にあり得ない声だった。

 

「い…!」

 

『稲魂ァ!?』

 

「オッハ〜皆の衆〜。」

 

 声の主はなんとつい数秒前まで眠っていた筈の稲魂雷牙その人だった。

 

「お前…大丈夫なのか…!?さっきまでいくら呼びかけても起きなかったのに…!?」

 

「ん〜別に?なんで気を失ったかは知らねぇ〜けど元気ピンピンよぉ!」

 

 自らの好調を見せつけるかのように独特なセンスの舞を皆に疲労する雷牙。

 それによって先ほどまでピリついていた空気は一瞬にして消失しギリギリのところで暴力沙汰は回避された。

 

「いや“身体”じゃなくて“心”が大丈夫かって聞いてるんだよ…。流石の稲魂でもお兄さんがエイリア学園の仲間になっていたのはショックだっただろ?」

 

「ハッハッハ!マックスく〜ん?チミはアソコにいるのが本物のライトだと本気で思っているのかね〜?あんなのエイリア学園が俺ちゃんの動揺を誘うために用意したニセモノに決まっているじゃないか〜!」

 

 マックスの疑問に対して雷牙は明るい振る舞いで答える。まるで自分自身に言い聞かせるように。

 

「んま、いいんじゃない?見たところ目立った外傷は無いし、私としてもキミには試合に出て欲しいし。」

 

「サンクス〜監督〜。んじゃもうすぐハーフタイムも終わりだし後半頑張ろうぜ〜。」

 

 雷牙はチームメイトに質問する隙を与えずにグラウンドに戻ろうとする。

 しかしある男が彼を呼び止めた。

 

「…雷牙。お前はサッカーは好きか?」

 

 その男の名は豪炎寺修也。怪物の友であり相棒でもある男だ。

 

「あん…?なんだね豪炎寺クン、サッカーは“超大好き”に決まってんだろ?」

 

 さも当然のように怪物は答えるが、彼は後ろに振り返る事はなくただ前を見ている。

 

「…そうか。ならいいんだ。」

 

 友は戦場へ戻る怪物の背中を見送る。だがその顔には深い悲しみが描かれていた。

 

『遂に…!遂に…!ここまで来ましたァァァァア!!!突如行われた雷門イレブンVSエイリア学園マスターランクチーム、両者の未来を賭けた総力戦ッ!雷門イレブンは1度でも負ければ終わりというプレッシャーを跳ね除け”ダイヤモンドダスト”と“プロミネンス”の2チームを打ち破ってきましたァ!!!そして遂に…!この後半戦で全てが決まるゥゥゥゥウ!!!』

 

 残り30分となった3rd雷門VSレグルスの試合。ここで3rd雷門が負ければ先の2チームの努力が水の泡となる正真正銘の最終決戦だ。

 

『おおっと!?先ほど気を失っていたキャプテン・稲魂はどうやら目を覚まし後半も出場する予定のようですッ!』

 

「…雷牙大丈夫かな…。」

 

 円堂は戦場にいる親友の姿を見て心配そうに呟く。 

 

「…もう俺達に出来るのは勝利への“祈り”だけだ。信じよう、雷門の勝利を。」

 

「鬼道…。…そうだな!雷牙ーーッ!頑張れよーーッ!!!」

 

 観客側にいる親友に応援に対して怪物はまたしても声ではなく行動(サムズアップ)で応える。

 

 そして遂に最終決戦の幕開けを告げる号令(ホイッスル)が告げられた。

 

「行くぞ皆の者!必殺タクティクス“オプティカルファイバー”だ!!!」

 

『応ッ!!』

 

 開始早々クウルの号令によってレグルスのメンバーは前方に6人の選手がやや斜め気味に横並びすると凄まじいスピードで雷門イレブンを吹き飛ばしていく。

 その軌跡はまさにオプティカルファイバー内を反射しながら移動する光そのものだ。

 

「くっ!まだこんな技を残していたのか…!」

 

「フン!当たり前だ!前半で全ての手の内を明かすような馬鹿はエイリアにはいないっ!!!」

 

 光速のスピードによって雷門は1人また1人突破されていく。だが不思議と危機感はなかった。何故なら中盤にはまだこの男がいるからだ。

 

「ハッ!その程度のスピードで俺に敵うと思ってんのか?」

 

 怪物は不敵な笑みを浮かべながら単身で光の中へ飛び込んで行く。

 確かに凄まじいスピードのタクティクスではあるが雷牙の動体視力と反射速度を使えば対処できない技ではない。

 

 

 

 

 

 そう誰もが思っていた…。

 

「さぁ!ショータイムd」

 

『待ってよ〜雷牙〜!』

 

「ッ…!」

 

 彼の名誉の為に言おう。怪物は決して怖気付いたわけではなかった。ただ目が合ったのだ、光のその先に天使の如き笑みを浮かべている一番星と。

 

 その瞬間、雷牙の脳内に封印していた記憶がフラッシュバックし足が一瞬だけ止まってしまった。

 時間にして0.1秒程度だが光速の前にはそれも十分すぎる時間となる。雷牙は呆気なく自陣に敵の侵入を許してしまった。

 

『な、なんという必殺技タクティクスでしょう!稲魂のディフェンスを前にしても赤子の手をひねるように突破したァァァァァア!!!』

 

「しまった…!」

 

「ハハハ!!その程度のディフェンスで光速に挑むとは甘い!甘すぎるぞ!!」

 

「チッ!やる気が無ェなら大口叩いてんじゃねぇぞクソライオン!!」

 

 口こそ悪いものの不動もまさか雷牙が突破されるとは思っていなかったようで珍しく冷や汗をかきながら後衛に指示を飛ばす。

 

「“超ザ・ウォール”!!!」

 

「“スピニングカットV3”!!」

 

「フン!出番だ!アケボシ!」

 

「ほいきた!」

 

 地上から突破口を塞がれた光速だったが即座にボールを上空へ上げ既に飛翔していた一番星へパスが通る。

 

「くっ…!こいっ!!!」

 

「いいねーそのやる気!昔の雷牙を見てるみたいだよっ!それじゃあお望み通りに…。」

 

 青空のキャンパスに獅子座を描き獅子を顕現させる。

 

「“スターダストレオーネ”!!!」

 

 神秘たる宇宙を駆ける獅子が強烈な光を放出しながら立向居へと襲い掛かる。

 立向居も“ムゲン・ザ・ハンド”の構えを取り対抗するが前半の様子から分かる通り今の立向居では“スターダストレオーネ”を止める事の出来る可能性は0に等しい。

 それでも立向居には“逃亡”という選択肢は無い。

 

「“ムゲン・ザ・ハンドG2”!!!」

 

 6本の黄金の腕が勇敢に立ち向かう。だが星の名を冠した獅子の前には捉える暇もなく一瞬にして食いちぎられる。

 

「そんな…!」

 

 まだ発展途上とはいえ伝説のGKが残した最強のキーパー技すらも通用しないライトとの実力差に立向居は少なくないショックを受ける。

 だがショックを受けたところで現実は変わらない。立向居はボールが自身の真横を通過する光景を見ているしかなかった…。

 

 

 

 筈だった。

 

「させるかよっ!!!」

 

 直前に綱海が割り込みシュートを打ち返そうと試みる。だが並のFWを凌駕する彼のキック力を持ってしても打ち返す事は叶わない。

 

「くそっ!だったら…!」

 

 綱海は力を振り絞りシュートコースをゴールネットからゴールポストへ変える事に成功した。

 綱海の脚とゴールポストがクッションとなったことでボールは天高く舞う。

 

「うっそーん!?…なーんてね!こうなることは想定済みだよ!」

 

 ライトはすぐさま跳躍しボールを確保しようとした。しかしその瞬間、ボールが目に見えない力によって地面へ引き寄せられた。

 

「“旋風陣”!うっしっし!引っかかった〜!」

 

「ナイスだ木暮!」

 

 木暮の活躍によってボール確保した事により雷門イレブンの反撃が始まる。

 必殺タクティクスを使った事により選手の大半が前線に上がってしまった為、レグルスの防御が薄くなり自慢の防御力を活かせずにゴール前への侵入を許してしまった。

 

「だるっ…“ゼログラビティ”…。」

 

 それでも流石はマスターランクチーム。少ない人員でも最強のFWである豪炎寺を徹底的にマークし時間を稼いでいる。

 

 だがレグルスは失念していた。最も厄介な選手は豪炎寺だけではなかった事を…。

 

「フッ、残念だが俺は囮だ。出番だ雷牙!!」

 

 無重力空間に包まれる直前に豪炎寺はヒールリフトでボールを上空に上げ真上で待機していた雷牙にボールを送る。

 その様は奇しくも先ほどのレグルスのプレーと瓜二つだった。

 

 ボールを受け取った雷牙は空中で巨大な球体の軌跡を描き“王”を超えた“皇帝”の名を冠した獅子を降臨させる。

 

(ぶっ潰す…。ライトを汚したエイリアをぶっ潰す…!!!)

 

 亡き兄を汚したエイリアへの怒りを燃やしシュート体制に移る雷牙。その時、後方から今最も聞きたくない声が聞こえた。

 

「行っけー雷牙ー!“カイザーレオーネ”だーー!」

 

『行っけー雷牙ー!“キングレオーネ”だーー!』

 

「ッ…!」

 

 またしても記憶がフラッシュバックしてしまう。だが先ほどとは異なり黄金の脚は止まる事はなかった。

 

(振り切れ稲魂雷牙…!俺の過去も…、ライトへの想いも…、その全てを“怒り”に変えてこのボールにぶつけろッ!!!)

 

 黄金の右脚はしっかりとボールを捉えエイリアに対する“怒り”を爆発させながらその名を叫んだ。

 

「“カイザァァァァアレオーネェェェェェエ”!!!!」

 

 遂に“皇帝”の名を冠した獅子が降臨し雷鳴を思わせる咆哮をあげながらゴールへ向かう。

 その威力は今まで撃ってきたどのシュートよりも強く、まさに稲魂雷牙のサッカー人生史上最大最強のシュートと言っても過言ではなかった。

 

 そのシュートを目撃した者は敵味方関係無く雷門の得点を確信した。

 

 

 

 

 

 

 たった1人を除いて。

 

「…!いや駄目だ!」

 

 シュートに感じた違和感の正体に気づいた豪炎寺は叫ぶ。そして他の者達はその意味に遅れて気づく事になる。

 

 確かに放たれた“カイザーレオーネ”威力は凄まじいものだった。威力だけに限れば“化身”すらも超えているだろう。

 そんなシュートを喰らえばケイワクは得点を許すだけでなく無傷でも済まないだろう。

 

 しかしだ。シュートが放たれてから数秒が経過してもスコアボードに得点は加算されずケイワクも無傷のままだ。

 

 それは何故か?答えは簡単だ。

 

「う、嘘だろ…?」

 

「今のは稲魂の最高のシュートの筈だ…!それなのに…!」

 

 観客達は目の前に現実を受け入れる事ができない様子だ。それもそうだろう。だって…

 

「俺が…外した(・・・)…?」

 

 シュートが外れたのだから。

 

 スコアボードに変化がないのも当然だ。だって外したのだから。

 

 ケイワクが無傷のまま立っているのも当然だ。だって外したのだから。

 

 雷牙がシュートを放った瞬間、確かにシュートコースはケイワクを捉えていた。だが僅か1秒後、シュートコースは大きく逸れ隕石の如く落下したボールは小さいクレーターを作った後、静止した。

 

『な、なんということでしょう…!絶好のシュートチャンスにも関わらず稲魂のシュートが外れてしまいました…!はっきり言ってこの私も現実を受け入れる事ができません…!』

 

「みんな…悪ぃ…。」

 

「気にしないでよ。あんな強烈なシュートを放ったんだ誰だって足元が狂うこともあるさ。」

 

「次のプレーで決めればいいっス!そのために俺たちがいるんスから!」

 

 皆雷牙を責める事なく励ましの言葉を送る。

 

「チッ…、甘ちゃん共が…。」

 

 そのような空気に耐えられなかったのだろうか。不動は1人苛立ちながらポジションに戻って行った。

 

「……。」

 

 そして豪炎寺は慰めるでも叱責するのでもなくただ無言で雷牙を見つめていた。

 

ピッー!

 

 レグルスのゴールキックから試合が再開し、ケイワクは中々のキック力でボールを前方へ送る。

 一刻も1点を取りたいレグルスとボールを奪いたい雷門。両チームは一進一退の攻防を繰り広げるが、雷牙の不調により他のメンバーにかかる負担が大きくなる。

 この調子では先に潰れるのは雷門が先だろう。

 

「くそっ!こうなったら破れかぶれだ!“クイックドロウ”!!!」

 

 膠着する状況に業をにやしたマックスは一か八かに賭け“クイックドロウ”でボールを奪わんと試みる。

 しかし相手はエイリア最高ランクチームたるマスターランクに属する選手だ。そのような必殺技が通用する筈がない。

 

 だが…

 

「今回だけは褒めてやるよダサ帽子ィ!」

 

「ッ!いつの間に!?」

 

 マックスを躱した直後、いつの間にか接近していた不動がヴィーナの隙を突きボールを奪う事に成功した。

 

「しゃあ!ナイスだアッキー!俺にボールをくれ!次は絶対ェに決めてみせる!」

 

 リベンジに燃える雷牙は不動にパスを要求する。

 

 が…。

 

「……。」

 

 不動の答えはなんと“沈黙”。つまりは“無視”だ。

 

「んな…!おいアッキー!オメーじゃケイワクを破る事は出来ねぇだろ!せめて俺じゃなくても豪炎寺にボールを回せ!」

 

 雷牙は必死に抗議するも不動は答える事はなく単身で前線へ突撃する。

 

『おおっと!?これは凄い!レグルス相手にものともせずグングンとボールを運んで行くゥ!!!流石は鬼道に匹敵すると言われた天才MFだァ!!!』

 

 獅子奮迅の活躍を見せる不動に対して角馬は純粋な賞賛の声を送る。すると…

 

「良くないなぁキミ。せっかく雷牙がパスを要求したのに無視するなんて。」

 

「ヘッ!生憎俺は自分がパスを出したい時にしかパスを出さねぇ主義なんでなぁ!」

 

 チームレグルスの最も強いライトを前にしても不動は互角の攻防を繰り広げる。恐らくこの短時間で既にライトの持つ癖を見抜いたのだろう。

 

「もらいっ!」

 

 僅かな隙を突きライトは不動の持つボール目掛けてスライディングを行う。しかしライトの身体はボールをすり抜けた(・・・・・・・・・)

 

「んなっ!?」

 

 不動…いや不動だと思い込んでいた(・・・・・・・・・・・)虚像は漆黒のオーラへと変貌すると鋭い槍と化しライト目掛けて突撃する。

 

「ヘッ!“イリュージョーカー”!」

 

「ちょ、ちょ、ちょ!ターイム!」

 

 あまりに唐突な出来事に流石のライトも面を喰らっているがなんとか紙一重で槍の雨を躱わす。

 だが既に不動の目的は達成されていた。

 

「ようやく会えたなァ。さっきの借りを返させてもらおうかっ!!!」

 

「暴力にモノを言わせる野蛮人に作った“借り”など身に覚えがありませんよ。」

 

 不動は指笛を吹くと何処からか7色のペンギンがボールに突撃し虹色のオーラをボールに纏わせる。

 

「“皇帝ペンギン7”!!!」

 

 ボールを蹴ると同時に再びペンギン達が姿を現しケイワクに目標を定めミサイルを思わせる速度で突撃する。

 

『なんとォ!!!不動が繰り出したのはまさかの新型の“皇帝ペンギン”だァ!!!前半戦の雪辱は果たせるかァ!?』

 

「フッ!“パラレル・ディメンション”!!!」

 

 迫り来るボールに手をかざした瞬間全ての景色に色が消失する。その余波によってボールを覆っていた7色のオーラとペンギンは一瞬にして消滅し呆気なくケイワクの右手にボールが収まった。

 

「チッ…!」

 

『止めたァァァァ!!!不動、リベンジならずゥゥゥ!!!』

 

「無駄ですよ。貴方の本職はゲームメイカーでしょう?そこそこキック力には自信があるようですが、所詮はそこそこ。貴方が私からゴールを奪うのは不可能ですよ。稲魂雷牙の要求通りにパスを送った方が良かったのではありませんか?」

 

「ケッ、あんなヤローにパスを出すくらいなら負けた方がマシだ。俺は俺がしたい通りにサッカーをする。昔もそしてこれからもなァ。」

 

「…哀れな人間ですね。」

 

 敵とはいえ誰にも心を開かない“孤高の反逆児”に対して憐れみの姿勢を向けるケイワク。不動はそれを知ってから知らずか一度も彼に顔を見せないまま元のポジションに戻って行った。

 

「おーい!ケイワクー!ボクにボールをくれよー!」

 

「! 了解です!アケボシ!」

 

 キャプテンの声によって我に帰ったケイワクはボールを天高く蹴り上げ前線にいるライトにボールを送る。

 

 だがそれを大人しく見守っている雷門ではない。

 

「させるかっ!!」

 

 地面までの高さは数mはあろうかという距離にも関わらずパスカットを行ったのは我らが豪炎寺だった。

 豪炎寺はボールと共に着陸し、ゴールに向かってドリブルを始めた。

 

「ディフェンス!絶対に彼を止めなさいっ!!!」

 

 ケイワクは冷や汗をかきながらDFに指示を飛ばす。冷や汗をかきながら指示を飛ばす姿は情けなく思えるが、逆に言えばケイワクは自身と敵の実力差を認めその都度最適な指示を飛ばせる選手であると言えるだろう。

 

 事実常に豪炎寺を警戒していたDFの寄りは迅速であり、他のマスターランクチームに比べて体格の良い選手の多いレグルスのディフェンスの前では流石の豪炎寺も苦戦している。

 

「豪炎寺ィ!!俺にパスだ!次こそは絶対ェ決めてみせるっ!!!だから俺にパスをくれ!!!」

 

 後ろから友の声が聞こえてくる。多分この状況では友にパスを送るのが正解なのだろう。

 友の実力ならば必ずレグルスからゴールを奪ってくれる。豪炎寺はそう確信していた。

 

 

 

 

 だが彼が選んだのは全く別の選択肢だった。

 

「ハァァァァァ…!“炎魔 ガザード”!」

 

「ここで化身だと…!?」

 

 豪炎寺は化身を発動させその圧倒的なパワーによりレグルス屈指の巨漢DF達を吹き飛ばしゴールまでの道を切り拓いた。

 

「フフフ…その圧倒的なパワー…敵ながら惚れ惚れしますね…。エイリア皇帝陛下が人質を取ってでも貴方を離脱させた理由がよく分かりますよ…!」

 

「……。」

 

 恐らく自嘲も含まれているであろうケイワクからの賞賛に対し豪炎寺は沈黙で応えた後、自身の背後に顕現している“炎魔”を解除する。

 

 確実に点を取るのならこのまま化身技を放つのが合理的であるものの最も脅威であるライトは遥か前方にいる以上ブロックに間に合う可能性は限りなく低い。

 バーンとガゼルの例からみて恐らくライトも“化身”を習得している可能性が高い以上、何故今になっても化身を使わない理由は分からないが万が一の時に備えて体力を温存しなければならない。

 故にケイワク相手には通常の必殺技で十分と判断し化身を解除したのだ。

 

「…最初に言っておく。怪我をしたくないのなら逃げろ。」

 

 豪炎寺は気を限界まで高めると背後から化身とは異なる灼熱の魔神が顕現する。

 魔神は両手で主人を掬い上げるように空中へ放り投げると、豪炎寺は爆炎を纏いながら回転し天高く空を舞う。

 そして最高到達点に到達し灼熱の右脚を炸裂させる。

 

「本っ当に凄いねキミ。パワー、技術、判断力どれを取っても一流じゃん。ただ残念なのは…キミはボクの実力を見誤ったってとこだね。」

 

 その直前だった。豪炎寺の前方から聞こえる筈のない声が聞こえた。

 

 “あり得ない”

 

 その言葉が脳裏を過ぎったが豪炎寺は誰よりもサッカーに“あり得ない”という言葉は無い事を理解している。

 

 否定する事を諦め声の方向に目をやるとそこにいたのは白金の獅子を従え左脚にボールを捉えた稲魂ライトその人だった。

 

「まさか…!あの距離から一瞬でここまできたのか…!?」

 

「さあさあ豪炎寺君!ボクが直々に雷牙の相棒に相応しいかテストしてあげるよ!さあ〜てキミは何点取れるかな〜?」

 

「“爆熱ストームG3”!!!」

 

「“スターダストレオーネ”!!!」

 

 全てを焦がす爆炎の魔神と全てを喰らう星々の獅子が激突し2人を起点に凄まじい光が発生する。

 それを見た者全て目が眩み2人の勝負の行方が分からなくなる。

 

ピッピー!

 

 光が収まってから数秒後。漸く皆の目に視力が戻ったと同時に審判がホイッスルを鳴らす。

 皆が豪炎寺とライトに目をやるとボールは地面に着地した2人の足元ではなく数mズレたフィールドの外に移動していた。

 

「ふーん…大目に見積もって95点ってとこかな〜。」

 

「…何点満点中のだ?」

 

「10000点満点。雷牙の相棒を務めるには10000点でも足りないくらいだけどね。」

 

「フッ…だったらお前も赤点だな…。」

 

 激闘を終えた2人のストライカーは軽口を叩きながら仲間の陣地へ戻る。

 

 その時。豪炎寺の前に立ち塞がる人影があった。

 

「…なんで俺にパスをくれなかった…。」

 

「……。」

 

「答えてくれよ豪炎寺…。なんで俺にパスをくれねぇんだ!!!」

 

 人影の正体は当然雷牙だ。その声は怒りに満ちていながらも何処か弱々しい。

 

「…俺はこの試合、絶対に勝つ為にプレーしている。あの時のお前のパスは勝利に繋がらなかった…それだけだ。」

 

「そんなこと…!」

 

「いや〜優しいねぇ優等生の豪炎寺クンはァ。」

 

 雷牙と豪炎寺の口論の間に不動も混ざる。その声はいつになく嬉々としており、まるで宝くじにでも当選したかのようだ。

 

「…下がってろアッキー。これは俺と豪炎寺の問題だ…。」

 

「へぇ?だったら俺は豪炎寺の肩を持たせてもらうぜ?」

 

「んだと…!」

 

「ハッキリ言ってやろうか?テメェはお荷物なんだよ。ディフェンスに入れば脚は止まるわ、シュートを撃てば無様に外すわ。何をしてもクソの役に立たねぇテメェがパスを寄越せだァ?冗談はクソみてぇにおめでたい頭だけにしろよ。」

 

「おい不動!口が過ぎるぞ!稲魂はずっと真面目にプレーしてたじゃないか!先制点だって稲魂が取っただろ!」

 

「そうでやんす!いくらキーパーにシュートを止められたからって八つ当たりはよくないでやんす!」

 

「だったら後半が始まってからクソライオンが役に立ったプレーを言ってみろよ凡人共。」

 

「それは…!」

 

「言えないよなァ。先制点を取った?今までこいつがいなけりゃ試合に負けていた?テメェら“いつ”の話をしてるんだよカス共?俺は“今”試合をしてるんだぜ?“過去”の功績が“今”の勝利に繋がるかァ?違うよなァ!!!“今”勝てなきゃ意味が無ェんだよ!」

 

 不動の狂気とも言える“勝利”への執着にチームメイトは言葉を失う。同時に不動の言葉が正しい事も理解してしまう。

 

 確かに後半が始まってから雷牙は明らかに不調である。あれだけ荒々しかったプレーにはキレが無く、シュートを撃てばロクに狙いも定められない。ハッキリ言ってミスプレーが多すぎるのだ。

 

「…ねぇ。」

 

「あん?聞こえねぇなぁ。もっと大きな声で言ってみろよ。」

 

「すまねぇ…!確かに俺は後半でロクな活躍をしてねぇ…!でも“次”は…!“次”プレーこそ活躍する…!ライトと止めるし…点も取る…!だから…俺にパスをくれ…!」

 

 雷牙は弱々しくチームメイトに懇願する。だが誰も彼の言葉に答える者はいない。

 

 見限ったわけじゃない。見損なったわけでもない。

 

 “今”の雷牙にパスを送る事が勝利へ繋がるとは思えないのだ。

 

「見たかクソライオン?この静寂を。これが“今”のテメェの現実だよ。分かったならすっこんでな邪魔だ。」

 

「不動…!そんな言い方は無いでやんす…!」

 

「…いや、不動の言う通りだ。雷牙、お前はもう動くな。中途半端な覚悟で試合に混ざろうとしてみろ。俺は退場してでもお前からボールを奪う。」

 

「豪炎寺…。」

 

 副キャプテンであり相棒でもある豪炎寺まで不動の言葉を肯定したことでチームメイトは皆、中立を保つ事しか選択肢が無くなる。

 

「ごめんなさい…稲魂さん…。」

 

「立向居…!」

 

 こうして1人また1人雷牙の元から離れて行く。牙を抜かれた怪物はその場で独り佇むしかなかった。




ヴィクロのキャラクリ機能で雷牙やライトを再現できるといいなー。
作者の中では容姿は決まってるけど絵は全く描けないしAI絵も生理的に無理なんで今まで深くは言及しなかったんですよねー。
上手く再現できたらどっかで公開します。
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