♢
『オマエがサッカーを諦めた“今日”は、誰かがサッカーをしたかった“明日”だってことを一度でも考えたことはあんのか⁉︎』
これはかつて俺の友から送られた言葉だ。
当時の俺は妹への贖罪に焦るあまり、身勝手な自己解釈に至りサッカーを諦めていた。夕香がそんな事を望む訳がないのに。
友はそんな俺に何を見たのだろうか。
妹の想いを踏み躙る毒兄?
贖罪を言い訳に逃げた卑怯者?
“あいつ”の事だからそのどっちともでも不思議ではないが今なら別の見方も出来る。
もしかしたら“あいつ”は俺を通して“IF”の世界の自分を見たのかもしれない。
“IF”…。そう、サッカーを“諦めた”世界線の自分を。
“あいつ”はずっと苦しんでいたのだろう。
身寄りのいなかった自分に愛情を注いでくれた父を、母を、兄弟を。愛する者達がいなくなったんだ。
孤独となった“あいつ”にとって唯一の支えは“サッカー”だけだったんだろう。
プロサッカー選手だった父への憧れの“サッカー”
厳しくも優しい母と観に行った忘れられない“サッカー”
世話が焼けると文句を言いながらも人生で初めて背中を任せた兄弟との思い出の“サッカー”
“あいつ”にとってサッカーは人生と言っても過言ではなくいつ、どの瞬間においても近くにサッカーがいた筈だ。
だが同時にサッカーによって大切な人を奪われた。
恐らく“あいつ”はサッカーを恨んだのだろう。
だがサッカーを捨て去る事は出来なかった。
自分がサッカーを捨てれば“あいつ”が生きる“今日”は誰かがサッカーをやりたかった“明日”になるのだから。
だからこそサッカーに家族との繋がりを見出した。
サッカーをしている時だけは家族が側にいてくれる気がしたのだろう。
だけど…現実は残酷だった。
死んだと思っていた兄は生きていたんだ。
アケボシが仮面を取った時の“あいつ”の衝撃はどんなものだったのだろう?
少なくとも俺が同じ立場だったら精神が崩壊してもおかしくない。
奇跡的に“あいつ”のココロは崩壊しなかったがそれでもダメージは深刻だった。
その結果今まで押さえ込んでいた“感情”が最悪の形で爆発したのだろう。
目を覚ました“あいつ”は明らかに覇気がなかった。
まるで“あいつ”自身の魂が抜け落ちたかのように。
当然だ。サッカーを…いや生きる意義でもあった家族の1人が生きていたんだから。
それは“あいつ”のこれまでの人生が否定されたも同然だったのだろう。
こんな時。俺はどうすればいいんだろうか?
慰めの言葉を掛けてやるべきか?
厳しい言葉を掛けて頭を冷やさせるべきか?
違うだろ。
その程度じゃ“あいつ”は救われない。
今、この瞬間に“あいつ”を救い出さなければ意味がないんだ。
ならばどうすればいいか?答えは既に決まっている。
俺はサッカープレイヤーなんだ。
いつも大切な事はプレーで示してきた。だから今回も同じ事をするだけだ。
だから…。
見ていてくれ。友よ。
俺の
♢
「ウォォォォォオ!!!」
雄叫びを上げた豪炎寺は灼熱の炎を身体に纏いながら
当然、星屑は豪炎寺目掛けて降り注ぐが身体に当たる瞬間その熱気によって一瞬にして燃やし尽くされ全ての星屑が灰と化している。
「何よコイツ…!稲魂雷牙といい…雷門は脳筋しかいないわけ…!?」
「邪魔だァ!!!」
「キャアッ!?」
ピピーッ!
『おおっとファウルだ!今のプレーは少々ラフすぎたようです!』
豪炎寺のプレーを危険だと判断した審判によって試合が中断される。その光景を見ていた円堂はなんとも言えない違和感を抱く。
「…今の豪炎寺のプレー少し荒くなかったか?」
円堂の記憶には今までの試合で豪炎寺がファウルを取られるような荒いプレーをした事は一度もない。
しかし今のプレーだけは違った。恐らくファウルを取る気はなかっただろうが明らかにいつもと比べて強引なプレーだった。
先ほどの場面も普段の豪炎寺ならば仲間にパスを回すかテクニックで技を回避していただろう。
故に先ほどのプレーは豪炎寺という人間を知っていれば知っている程異質に感じるのだ。
「…もしかしたら何かの意図があるかもしれないな…。」
「分かるのか?鬼道?」
「…いやまだ分からん。だが豪炎寺は意味の無いプレーはしない男だ。奴が行動を起こす時は常に目線を勝利に向けている。今のプレーも例外ではないだろう。」
「豪炎寺…。」
ギャラリーは豪炎寺に視線を集中させる。
(…観客席の皆には今の俺がどう映っているんだろうな。だがこんなところで立ち止まるわけにはいかない。俺には…いや俺達にはやらなければならない事があるからな…。)
豪炎寺は興奮した精神を落ち着かせる為に瞼を閉じる。そして脳裏で数分前の出来事を回想した。
≪数分前…≫
「PTSD…まあ簡単に言えば過去のトラウマが原因だろうねぇ。」
PTSD…それが“雷帝”が出した雷牙の診断結果だった。
「過去のトラウマ…。」
「稲魂クンにとって数年前の事故で亡くなった家族の事は思い出したくもないトラウマだった筈さ。それが今になって死んだ筈の兄の名を語る者が現れた…彼にとって相当なストレスだっただろうねぇ。それが爆発した結果が
「じゃあもう稲魂さんは目を覚さないんですか…!」
「いんや?別に脳に外傷がある訳でもないし多分あと数分くらいしたら目を覚ますと思うよ?
「どういうことですか…?」
「さっきの彼の反応を見て確信した。恐らく稲魂クンは“サッカー”に対して何らかのトラウマを抱えている。」
“雷帝”の言葉に皆は騒つく。“雷帝”の言葉は雷牙が本当はサッカーが嫌いだと言っているに他ならないからだ。
「そ、そんな筈はありませんっ!俺は稲魂さんほどサッカーが大好きな人間は数える程しか見た事がないですし…!」
「監督、俺も立向居と同じ意見です。雷牙はサッカーには真摯な奴なんです。あんたの意見はにわかに受け入れられません。」
「だったらなんで影山零治はサッカーから手を引かなかったんだい?」
「!」
唐突に影山の名が出た事に固まってしまうが確かに“雷帝”の言う事は的を射ている。
影山は父を狂わせたサッカーに対して強い憎しみを抱いている男だ。それにも拘わらず奴はずっとサッカーと関わり続けている。ただサッカーに復讐するだけなら別の方法はいくらでもあるにも拘わらずだ。
「意外といるんだよね〜、心の底から嫌いにも関わらずその嫌いな物に強烈な執着を燃やす人って。“嫌よ嫌よも好きのうち”ってヤツ?めんどくさいツンデレだよね〜。」
“雷帝”はケラケラと笑うが雷門イレブンは誰1人笑っていない。だが同時に否定もする事が出来ない。
「おっとすまない本題に戻そう。恐らく目を覚ました稲魂クンはカラ元気を演じてでも試合に出ると言うだろう。だが92%の確率で彼はまともにプレーが出来なくなる筈だ。身体能力も本調子時の10分の1以下にまで低下するだろう。まっ、要するにお荷物になるって事さ。」
「雷牙さんが足手纏いに…。」
「さて、君達に与えられた選択肢は2つだ。」
「2つ…?」
「プランA。稲魂クンを下げて試合を完遂させる。勝つ事は難しいが、私の指示に全面的に従ってくれるのならば引き分けには持ち込めるだろう。そうすれば一先ず武力による侵攻だけは避けられる。」
「じゃあ…!」
「ただ、その選択の場合目を覚ました稲魂クンは100%キャラバンからリタイアするだろうねぇ。なんならサッカーを辞める可能性すら十分にある。」
「そんなはずは…!」
「だって今までサッカーをする理由だったお兄ちゃんが生きていたんだよ?私だったら強烈な空虚感に襲われてサッカーそのものに興味が持てなくなるだろうなー。」
「……。」
「おや?どうしたんだい豪炎寺クン?そんな怖い顔で私を睨んで。」
「…いえ、少し考え事をしていただけです。」
「そっか、ではお待ちかねのプランBだ。無理をさせてでも彼を試合に出す。そこからなんやかんやして稲魂クンの悩みを吹き飛ばす。プランAが対処療法ならプランBは原因療法だねー。」
「なんやかんやって…そんな適当な…。」
「よーし!そろそろ稲魂クンも目を覚ましそうだしパパッと決めちゃおー!プランAがいい人手を上げてー!」
誰も手を上げない。上げられる訳がないだろう。プランAを選んだ場合一時凌ぎは出来ても失う者が大きすぎるのだから。
「なるほどー。じゃあプランBがいい人手を上げてー!」
またしても誰も手を上げない。上げられる訳がない。プランBを選んだとしてもまだ対処方法が明確ではないのに加えて失敗した場合に雷牙の精神がどうなるか分からない。
結局彼らに与えられた選択肢は最初から“沈黙”しかなかったのだ。
「はい!終ー了ー!公平なる投票の結果
『えっ…?』
雷門イレブンは唖然とする。確かに自分達は“沈黙”で答えた筈なのだ。だが現にプランBに票が1票入っている。
もしかして不動か?雷牙を嫌っている彼ならば彼が傷つく姿を見る為に票を入れてもおかしくない。
皆は一切に不動に視線を移すも彼は腕を組み『俺じゃねーよカス共』と言わんばかりの目で睨みつける。
じゃあ誰が…?
視界を周囲から上方向に向けた結果、1人だけ天高く右手を上に上げている者がいた。
その男は…。
「なんでですか…!
豪炎寺さんっ!!!」
副キャプテンであり雷牙の相棒である筈の豪炎寺修也だった。
よりにもよって彼はプランAではなくプランBを選択したのだ。
「本気でプランBが稲魂さんのためになるって思っているんですか!?」
「ああ、そうだ。」
「そんなの…あんまりですよ…!」
立向居は豪炎寺に抗議する。だが豪炎寺は眉一つ動かさずに淡々と自分の意見を言う。
「…皆聞いてくれ。確かにプランBのリスクは大きい。失敗すれば雷牙の精神は崩壊し廃人になってしまうかもしれない。でも俺はそのリスクを背負ってでもあいつを“過去”から助けたいんだ。だから…頼む。俺に力を貸してくれ!」
豪炎寺は皆に頭を下げる。彼の言葉と姿勢には茨の道を通ってでも友を助け出したいという強い想いが感じられた。
「ケッ!本当に幸せ者だねぇそこで寝ているクソライオンは。そんで愚かだ、目の前に幸せがあるにも拘わらずずっと後ろを向いてばかりでよぉ。」
不動はベンチで眠っている雷牙を見下しながら彼の本質の核心を突く発言を行う。
もう慣れたとはいえ雷牙を侮辱する発言に怒りを覚えるものの正論故に誰も言い返す事が出来ない。
しかし不動は豪炎寺の側に立った。
「不動…!」
「おいおい?勘違いすんなよ?別に俺は稲魂がどうなろうが興味は無ぇよ。ただなぁ俺は
見事なまでのツンデレ発言に思えるが不動の性格からして言葉以上の意味は持たないのだろう。
それでも1人が豪炎寺の側に立ったという事実は決断に悩む仲間達の背中を押すのには十分だった。
「豪炎寺さん!俺…やります!絶対に稲魂さんを助け出してみせます!」
「俺もでやんす!」
「俺もっス!」
豪炎寺の覚悟を理解した今。雷門イレブンに拒否の選択肢はなかった。こうして3rd雷門は稲魂雷牙救出という目的の元、更に結束を深めたのだ。
「それで?豪炎寺君に何か作戦はあるのかな?」
「ああ。1つだけある。それは…」
「それは…?」
「俺達が“雷牙”になる事だ。」
≪現在≫
(豪炎寺君。あなたも分かっている筈よ。“稲魂君”になりきる事がどれだけ難しいか…。中途半端な猿真似じゃ彼の目を覚まさせる事は出来ないわ…。)
稲魂雷牙という人間は規格外の選手だ。
生半可なFW顔負けのパワー、フィールド全域を60分間全力疾走しても余裕を残せるスタミナ、そして自身の実力を過信せず仲間と共に戦う事が出来る精神力。
サッカープレイヤーが目指すべき要素全てを兼ね備えたまさに“ぼくのかんがえたさいきょうのサッカーせんしゅ”だ。
彼の強さを讃えて未来の人々は彼をこう呼んだ。
“雷撃のサッカーモンスター”と。
つまりだ。“雷牙”自身になるという事は彼と同等のスペックを持たなければならないということに他ならない。
しかし3rd雷門にはそれだけの身体能力を持つ選手が何人いるのだろうか?
答えは“0人”だ。
豪炎寺、吹雪、不動と名だたる天才プレイヤーを持ってしても身体能力の一点においては雷牙に敵わないのだ。
「ウォォォォォオ!!!」
「…もしかして雷牙の真似をしてるつもりかい?ハァ〜まったく…解釈違いも甚だしいなぁ!!!」
最愛の弟の猿真似がライトの地雷を盛大に踏み抜いたのだろう。天使の如き顔に似つかわしくないドスの効いた声色で豪炎寺を吹き飛ばす。
ピピーッ!
『あーっと!イエローカードです!アケボシにイエローカードが示されましたーっ!』
「ちぇ、流石に頭に血が昇りすぎちゃったか反省反省。…けど次は無いよ、ボク達がその気になれば反則にならずにキミを潰す手段はいくらでもあるんだから。」
「ライト…テメェ…!」
あまりにも自身の記憶とは乖離したライトの言動に雷牙は怒りの表情を浮かべながら抗議しようとする。
それが失言だったことに気づかずに。
「あっ!今ライトって言ってくれた!嬉しいなぁ〜!やっとボクのことを本物だと認めてくれたんだね!」
「ッ…!うるせぇ…!」
自身の失言に気付いた雷牙は即座にライトから背を向け豪炎寺に手を貸す。豪炎寺は雷牙の手を取りなんとか立ち上がったものの雷牙と顔を合わせようとしない。
「豪炎寺…。」
「…助けてくれた事は礼を言う。だがまだお前を許したわけじゃない。」
豪炎寺はそれだけ言うと次のプレーに備える為にポジションに着く。
ピピーッ!
審判のホイッスルにより試合が再開し雷門イレブン達は1秒でも早く追加点を取る為に攻め上がる。
だが事実上フィールドプレイヤーが9人しかいない雷門ではレグルスの強固なディフェンスを崩す事は叶わずにただ体力だけが削られていく。
「くっ…!吹雪!」
豪炎寺はボールを奪われる寸前、一瞬の隙を突き吹雪にパスを出す事に成功する。
「ナイスパスだよ!豪炎寺君!」
ボールを受け取った吹雪はトップスピードで攻め上がる。がDFのディッパーが彼の前に立ち塞がる。
「フン!たった1匹の狼が熊を狩れると思うでごわすか!身の程を弁えるでごわす!」
「…1人じゃないさ。僕は1人じゃない。」
「フン!寝言は寝てから言うでごわす!おいどんにボールを渡してからなぁ!!!」
ディッパーはその巨体を駆使してタックルを仕掛け吹雪からボールを奪おうとする。如何に雷門トップクラスのスピードを持つ吹雪であっても体力を大きく削られた現在の状態では彼の巨体を避ける事は簡単ではない。
その時だった。吹雪は静かに目を瞑ると首元に軽く触れる。そしてそっと一言呟いた。
「熱也…。君の力を貸してくれ…。」
「なにをゴチャゴチャ言ってとるでごわすか!」
ディッパーは岩のように硬く大きい身体に全体重を乗せ吹雪を吹き飛ばした。
筈だった…。
「トロいんだよっ!!!」
「ゴバァッ!?」
なんと吹雪は普段の彼からは想像もつかない荒々しい口調とプレーでディッパーを吹き飛ばす。
抜き去る一瞬、観客の目には吹雪の髪が逆立ち、目付きも熱也を思わせるツリ目になったように見えた。
『な、なんとーー!?吹雪がレグルス屈指の巨漢DFディッパーを逆に吹き飛ばしたぞぉぉぉぉぉ!?』
「ば、馬鹿なでごわす…!?」
「どうした?その程度か?」
熱也の生き霊(?)が憑依した吹雪はそのままケイワクと対峙すると両足でボールを回転させ凄まじい冷気を浴びさせる。
「吹き荒れろ…!!!“エターナルブリザァァァァァド”!!!」
吹雪兄弟の代名詞たる“エターナルブリザード”が炸裂する。吹雪の“エターナルブリザード”は熱也のものと比べるとパワーは足りていないもののその分スピードは彼の方が僅かに上だ。
「デザームを破れなかった技が私に通用するとでも?ハッ!!」
確かにスピードは凄いがそれだけの技。デザームにすら通用しなかった技がケイワクに通用する筈なく。必殺技すらも使わずに右手だけで吹雪のシュートを止めてみせた。
「あっちゃ〜、やっぱり駄目だったか。」
「ナイスプレーだ吹雪!この調子で行くぞ!」
シュートは止められたものの豪炎寺は吹雪のプレーを褒め称える。
同時にケイワクは一連のプレーに対して僅かな違和感を感じていた。
(…偶然でしょうか…?体力も削られて動きが鈍くなっているにも拘わらずシュートを許した…。確かに吹雪士郎のあの変化には面を喰らいましたがそれだけであのディッパーを突破できるものなのでしょうか…?)
初めはあまりにも小さかったこの違和感。しかしケイワクは思いもしなかった。
この火種が烈火の如く燃え広がるように雷門のプレーが変化していく事に…。
「クウル!」
「必殺タクティクス!“オプティカルファ「させないっス!!!」なんだと!?」
クウルが必殺タクティクスを発動する瞬間。彼の目の前が黄色の肉壁に塞がれる。
肉壁の正体は当然雷門一の巨漢DFである壁山塀五郎だ。
「な、何故貴様が
「DFが前に上がっちゃいけないなんてルールは存在しないっス!“超 ザ・ウォール”!!!」
「グオッ!?」
壁山は間髪入れずに“ザ・ウォール”を発動させクウルからボールを奪う。予想外の伏兵により陣形が崩れたレグルスはディフェンスが甘くなってしまい鈍足の壁山に容易に突破されてしまう。
「豪炎寺さん!
「分かった!」
壁山の意図を察した豪炎寺は飛翔し壁山も遅れて飛び上がる。両者の最高到達点に達すると壁山は地面に背を向け空中で大の字になると豪炎寺は彼の腹部を足場にし更に跳躍する。
「「“イナズマ落としV4”!!」」
天空から放たれた一線の稲光が遥か遠くのケイワクに狙いを定めて襲い掛かる。
「させないよ!それ!」
“エターナルブリザード”を超えるスピードを持ってしても流星の落下速度には敵わない。
ライトは一瞬でボールに追いつき蹴りを入れるとボールに込められた稲妻のオーラは飛散し彼の足元にボールが収まった。
「そうなる事は予想済みなんだよォ!!!」
「! おおっと皆さんおそろいのようで!」
ボールを確保したライトの前に不動、マックス、シャドウの3人が立ち塞がる。
個人の身体能力に圧倒的な差があるとはいえ数の差は実力差を容易に埋める。
流石のライトも彼らのディフェンスには苦戦している様子だ。
「アケボシ!一旦私の方にボールを下げてください!」
ケイワクは主人にボールを要求をするが何故かライトは無視をする。
「アケボシ…?」
自分の指示が聞こえなかったのだろうか?
その考えがケイワクの脳裏をよぎったが主人はそのような凡ミスをする選手ではない。
では何故無視をするのか。その答えは彼の表情にあった。
「アケボシが…笑っている…?」
ライトは笑っていた。確かに彼は表情が豊かな人間ではあるが今まで彼が笑みを浮かべた場面は全て最愛の弟である雷牙と対峙している時だけだった。
それにも拘わらずライトは笑っていたのだ。
「アハハハ!いいねぇ!ちょっとはマシになってきたじゃないか!」
「その減らず口を黙らせてやんぜ!“マーダースライド”!!」
不動は“キラースライド”以上に荒く殺気の籠ったスライディングを繰り出すもライトは跳躍しあっさりと破る。
だがそれこそが不動の狙いだった事に気付かずに…。
「いくよ!シャドウ!」
「ああ…!」
如何に圧倒的な身体能力を持っていようが人の形をした生命体である以上、全ての生命体に共通する弱点がある。
「「“ブロックサーカス”!」」
シャドウとマックスの巧みな連携によりライトからボールを奪い返す事に成功する。
これこそが不動の狙い。如何に身体能力が高くとも空中では動きが大きく制限される。故に不動はスライディングをする事でライトを飛ばせ動きを制限したのだ。
「…不動!」
なんとマックスは即座にあれだけ嫌っていた不動にボールを回す。ボールを受け取った不動はどちらが悪役か分からなくなるほどに悪い笑みを浮かべるとマックス目掛けて全力のキラーパスを送り返す。
「クッ…!やっぱりそう来ると思ったよ!こうなったらプライドなんか捨ててやる!ウォォォォォォォ!!!」
マックスは間一髪のところでキラーパスを避けると今度はボールを全速力で追いかける。
「“ブラックドーン”!!!」
ボールに追いつくと同時にシュートを撃つ事で更にボールを加速させる。
「な、何!?クッ…!“パラレルディメンション”!!!」
前半のトラウマが蘇ったのだろう。ケイワクは冷や汗をかきながら即座に必殺技を発動しシュートに対抗する。
先ほどケイワクを破ったとはいえマックスの放った“ブラックドーン”ではケイワクを破る水準には達していなかったようだ。
ほんの少しの拮抗の末にボールはケイワクの右手に収まった。
『止めたァァァァァ!キーパーケイワク、前半戦の屈辱を晴らしたぞォォォォォォ!!!』
角馬の実況通り前半のリベンジを達成したケイワクだったが感傷に浸る暇などなかった。
(確信した…!今の
その時だった。
ケイワクは見てしまった。
雷門イレブンの陣地に巣食う“怪物”の残影を…。
その“怪物”の姿は獅子を思わせる四足歩行の獣であったがとても不定形で今にも消えてしまいそうな程度の存在感しかない。
だが何故だろう。“怪物”が持つ力強さと凶暴性は十m以上先にいる自分にダイレクトに伝わり、冷や汗が止まらない。
そんなケイワクの恐怖を知ってか知らずか。観客席にいた誰かがこう呟いた。
「みんなのあのプレー…まるで稲魂君が乗り移ったみたい…。」
仲間達は“怪物”ではなく“雷牙”の残影を見出していたのだ。
確かに彼らの身体能力は雷牙には及ばないだろう。しかしだ、雷牙が“怪物”たる所以は身体能力だけではないのだ。
雷門はずっと見ていた。どんな逆境でも諦めず。最後の1秒までも勝利に向かって突き進む雷牙の姿を。
彼らにとってフィジカルだとかスタミナだとかは些細な事だ。
かつて雷牙はこう語った。
『負ける前から勝つ事以外を考えるバカがいるか?』と
その言葉こそが雷門イレブン全員が宿す“イナズマ魂”の本質であり、その信条の元に戦い続ける雷牙は“イナズマ魂”の権化とも言える人間なのだ。
だからこそ皆は今日まで彼に付いて来た。そして今も彼ならば必ず彼自身を苦しめる“過去”を乗り越えられると信じている。
「目を逸らすな雷牙ァァァァァッ!!!俺のプレーからッ!!!そして…お前自身のサッカーからッ!!!」
豪炎寺は叫ぶ。
絶望の深淵に沈みかける友に向けて。
自分のが過ちを気づかせてくれた友に向けて。
そして…
最高の相棒を救う為に。
♢
怪物はひとりぼっちだった。
幼い頃に実の両親を失い。
愛情を注いでくれたもう1つの家族すらも失った。
大切なものを失う時、怪物の側にはいつもサッカーボールがあった。
『オマエのせいだ…!オマエがおれからみんなを奪うんだ…!』
怪物はサッカーを責めた。
サッカーこそが自分から大切なものを奪ったと結論づけた。
だからこそ怪物はサッカーを捨てた。
それなのに…
『スッゲェな今のシュート!よーし!もういっぺん来い!次こそは止めてやる!』
サッカーを捨てる事は出来なかった。
『君と別れるのは寂しくなるよ。だからこそ約束しよう、次会う時は世界のフィールドだ!』
何度も捨てようとしたのに。
『目を逸らすな雷牙ァァァァァッ!!!俺のプレーからッ!!!そして…お前自身のサッカーからッ!!!』
気づけばボールを蹴っていた。
怪物は分からなかった。何故サッカーは自分に付き纏うのか、何故自分はサッカーを捨てる事が出来ないのか。
…いや本当は分かっている筈なんだ。
だって“
『サッカーが大好きだから…だろ?雷牙?』
「えっ…?」
“怪物”の耳に届いた声はとても懐かしい…だが聞こえるなどありえない声だった。
“怪物”は目を開く。
目の前に立っていたのはどことなくライトの面影がある顔と彼と全く同じ
“怪物”はその男に見覚えがある。…いや、忘れられる筈がないのだ。
だって彼は…
「親…父…?」
『オイース雷牙。お久ー。』
“怪物”の前に現れたのは死んだ筈の父…稲魂ステラだった。
ヴィクロのストーリーに感動したから雷牙の子供を主役にしたアナザーストーリーを書きたいなーって思う今日この頃。
あくまでifストーリーじゃなくてアナザーストーリーである都合上ネタバレを含むのでまだ投稿はできないけど設定自体は固めてあるのでもし気になるよーって方は感想で作者に尋ねてください。
〜オリ技紹介〜
イリュージョーカー
林属性のドリブル技。ボールが奪われる直前の自身の分身を作りディフェンスを突破。その後オーラに戻った分身が相手を痛めつける不動らしい荒いドリブル技だ。
マーダースライド
林属性のブロック技。名前からお察しの通り“キラースライド”の強化版。つまりファウル率も強化されている。