「…ん。」
目を覚ましたライトは周囲の歓声と雷牙達の様子により現状を理解する。
「…そっか。負けちゃったか…。」
エイリア学園最高幹部であるマスターランクチームに敗北は許されない。一度でも敗北を喫すれば容赦なくエイリア学園から追放される。
それでもライトは清々しい気分だった。全ての力を出し尽くして負けたというのもあるがそれ以上に再び弟とサッカーが出来た事に心の底から満足していた。
「…アケボシ。」
自身の右腕であるケイワクは静かに主人の元に寄る。その表情はライトと動揺に晴れやかなものだ。
「もうライトでいいよケイワク。ずっと騙しててごめんね、ボクの名前は稲魂雷斗。それが…
自身の名を訂正させようとするライトだがケイワクは首を横に振る。
「…お気持ちだけ受け取っておきます。私にとって貴方はアケボシです。今も昔も。」
「…そっか。」
「…今日の試合で初めてサッカーが楽しいと思いましたよ。貴方が仰っていた事は本当だったのですね。」
「だから言ったでしょ?ボクの言葉は世界の真理だって。」
「スターダスト仮面、36話の怪人・フォーの名言ですか。」
「あっ、バレた?」
「バレバレですよ。私も“スターダスト仮面”のファンですから。」
ケイワクは何者かの接近に気づくと名残惜しそうな顔をし主人の側を離れる。
「…さて部外者はそろそろ出て行きましょうか。」
「えっ…?」
ライトは前を向くとそこには円堂と鬼道の肩を借りながらなんとかライトの元まで歩いてきた最愛の弟・雷牙がいた。
「雷牙…。」
「……。」
弟は相変わらずムスッとした顔で黙っているが、鬼道に無言で促され大きな溜め息を吐くとジト目のまま口を開く。
「…とりあえず色々言いてぇ事はあっけどよぉ…、ナイスプレー。…これだけは言っとくわ。」
「…!うん!雷牙もナイスプレー!」
弟に健闘を讃えられた兄は星の輝きの如く眩い笑顔で拳を突き出す。体力を使い果たした雷牙は拳を動かす元気すらも残っていなかったが友の力を借りなんとか拳を前に出した。
運命の再会を果たした兄弟はその喜びを分かち合うために拳を合わせる。
事は出来なかった。
「随分と敵と仲良くなったじゃないか。アケボシ?」
「こ、この声は…!」
拳を遮った声に円堂は真っ先に反応する。何故なら円堂は雷門の中でその声に最も馴染みがあるからだ。
「…ヤッホー…、グラン。」
音もなく現れた赤髪の少年の正体はエイリア学園最後にして最強のチーム・ジェネシスのキャプテンであるグランだった。
「残念だよ、まさか君まで負けちゃうなんて。
「雷牙の“最強”がボクの“最強”に勝った…、ただそれだけのことさ。消すならさっさとしてほしいな、どーせ追放されるならこの気持ちのまま追放されたい。」
ライトはグランに対してどことなく悪意の混ざった返答を行った瞬間、グランはライトの首を掴み持ち上げた。
「何故だ…!?何故俺達を
「ガハッ…!へ…へへへ…、や、やっぱりバレちゃってたか…。」
「ライトがエイリア学園を裏切った…?どういうことだよヒロト!?」
「…いいよ、特別に教えてあげるよ。アケボシはマスターランクでありながら君達の仲間に情報を漏らしていたんだ。だろ?アケボシ?」
「へ…へへ…、ノーコメント…。」
「ふざけるなよアケボシ。俺がその気になればいつでもお前を消せるんだぞ?」
黙秘を貫き通すライトを脅すグランの目はこれまで何度も彼を見た事のあるチームレグルスのメンバーすらも見た事がないほど冷たく、そして殺意の籠った瞳だった。
恐らくグランは本気でライトを殺すつもりなのだろう。
兄の命の危機に対して雷牙は居ても立っても居られず、ライト救出の為に気を高めるが既に体力も気も底をつき、身体に力が入らない。
「ざけんなよ…!これ以上…家族を失ってたまるかァァァァァ!!!」
それでも雷牙に“諦める”という選択肢はなかった。
雷牙は円堂と鬼道を吹き飛ばしグランに襲い掛かる。
「だ、ダメだ…!雷牙…!」
「ハァ…、君は俺が今まで見てきた人間の中で2番目に愚かだ。」
グランはライトの首を離すと目にも止まらぬ速さで雷牙の攻撃を躱し彼の鳩尾に蹴りを1発お見舞いする。
「グハッ…!!!」
「雷牙ァァァァァ!!!」
蹴りを入れられた雷牙の肉体は遂に限界を迎え気を失ってしまった。
まるで片翼をもがれた鳥の如く地面に落ちる弟の姿にライトは絶叫する。
「よ、よくも雷牙を…!グハッ…!」
「それはこっち台詞だよアケボシ。エイリア学園は裏切り者を許さない、たとえ親友であっても。」
グランは再びライトの首を持ち上げ今度こそライトを殺すつもりだ。
(や、やばい…。意識がなくなってきた…。ま、またボク死んじゃうのかなぁ…、もっと…雷牙と一緒にサッカーしたかったなぁ…。)
ライトは自身の死を受け入れてそっと目を閉じる。その様子を見たグランはほんの一瞬だけ悲しそうな表情になると、すぐに怒りの形相へと変貌しライトの首の骨をへし折らんと力を最大まで引き上げた。
「じゃあね…、
だが…
「やめなさいっ!ヒロトっ!!!」
ライトの首がへし折られる寸前。彼の凶行を止めたのは1人の女性の声だった。
「…なんだよ。
グランの腕を握っていたのは現雷門の監督・瞳子だった。
「お、おい…、聞いたか…?今のグランの言葉…?」
「姉さんだと…!?てことは瞳子監督はもしかして…!?」
「エイリア側だったのか…!?」
グランの一言によって雷門全員に衝撃が走る。“姉”という言葉は地球では親族を除けば余程親しい相手としか使わない。
宇宙人でありながらも地球…しかも日本の言語を操るエイリア学園であってもその使用用法は同じだろう。
「…もうやめて。アケボシは…ライトは貴方の親友でしょう…?」
瞳子の声は震えていた。だがそれはグランへの恐怖によるものではなく、彼女が初めて皆の前に見せた“哀”の感情によるものだった。
「…久しぶりに見たな、姉さんが泣いている姿…。」
「この際体面なんてどうでもいいわ…、ライトを離して。貴方も彼を殺す事を望んでない筈よ…。」
「…確かに俺はアケボシを殺す事を望んでない。でも父さんは望んでる…、父さんは裏切り者を絶対に許さない。」
「ヒロト…!」
瞳子の涙の懇願も虚しくグランの意志は揺るがない。彼にとって父の思想は自身の思想であり、父の命令は世界の真理なのだ。
「ならば私達の命との等価交換は如何でしょうかグラン様?」」
「…何だと?」
「み、みんな…?」
瞳子ですらも止められないグランの前に最後に立ちはだかったのはライトの仲間であり友達でもあるチームレグルスのメンバー達だった。
「図に乗るなよ?君達は所詮セカンドランクにもファーストランクのスタメンにもなれなかった落ちこぼれの集まりなんだ。マスターランクチームを名乗るのに及第点レベルの実力は身につけたようだけど所詮はアケボシに頼りきりの凡人達の命が彼の命と釣り合うとは到底思えないね。」
「それでもお願いします。私達はアケボシに救われなければ遅かれ早かれエイリア学園を追放されていた身。このご恩を今ここで返したいのです。」
「…駄目だ。アケボシは今ここで処刑を… ッ!?正気ですか父さん!?」
ケイワクの提案を突っぱねる途中、突如グランは動揺し父の名を呼ぶ。どうやら父からの命令が新たに入ったようだ。
「…分かりました。父さんのお望み通りに…。」
グランはライトの首を離し気絶している弟の側に投げ捨てるとレグルス達に視線を移す。
「…喜べ。父さんはお前達の提案を了承した…、エイリア学園にて処刑を行うそうだ…。付いてこい…。」
「エイリア皇帝陛下の慈悲の感謝致します。」
チームレグルス達は皆覚悟を決めた表情でグランに従う。
「ガハッ…!だ、ダメだよみんな…!ボクのことはいいから逃げて…!」
「…アケボシ。私達はレグルスを結成した時から心に決めていたのです。この命はエイリア学園ではなく貴方の為に使うと。それが今なのです。」
「…じゃあねアケボシ。」
グランはボール型のデバイスを操作する眩い光が彼らを包み込み一瞬にしてその場から消え去る。
ライトはその光景をただ見ているだけしかできなかった。
「みんな…!ごめん…!本当に…!ごめん…!」
ライトの目から大粒の涙が溢れ自身の身代わりとなってくれた仲間に対して懺悔の言葉を何度も繰り返す。
その姿はあまりにも痛々しく周囲の人間は誰も直視出来なかった。
「…お前さんの気持ちは痛いほど分かるが署にご同行願おうか?」
万が一の時に備えて完全武装した特殊警察隊を引き連れて待機していた鬼瓦が数人の警察と共にライトを取り囲む。
「…分かりました。でも…1つお願いがあります…。」
「…なんだ?」
「雷牙には…ボクのことを黙っていてください…。ボクはもうグランに処刑されたって伝えてください…。」
「…分かった。」
鬼瓦はライトの要求を飲み彼を警察車両に乗せられ、雷牙は救急車両に運ばれる。
「…なあ鬼道。」
「…どうした円堂?」
「やっぱり間違ってるよな…。サッカーを…こんな酷いことに利用するエイリア学園は…!」
「…ああ。俺も今同じ事を考えていた…!」
あれだけ誇り高い名勝負を繰り広げたにもかかわらず、あまりに救いようのないレグルスの末路に円堂達はエイリア学園に対して激しい怒りを覚え再び打倒エイリアへの意志を固める。
「だがその前に確認しなければならない事がある。」
「えっ?確認しなくちゃいけないことってなんだよ鬼道?」
鬼道はやや怒りが籠った足取りで歩き始めるとある人物の前で止まる。
「…俺が確認したいのは貴方です…。
瞳子監督。」
瞳子は観念した表情で頷き口を開く。
「…ええ分かったわ鬼道君。でも私からも1つ言わせてちょうだい。」
「…はい。」
「…不動君と“雷帝”はどこに行ったのかしら?」
♢♢♢
雷門イレブンが彼らの行方を探している時点で既に“雷帝”と不動はグラウンドを抜け出し“雷帝”自らが運転する車にて帰路に付いていた。
「よかったのかい?瞳子女史ならば君を助っ人に迎えたと思うが?エイリアを崩壊させて英雄になれれば君の
「ケッ、あんな甘ちゃんどもと一緒にいたら俺まで腑抜けちまう。俺はあんな甘ったるいサッカーは二度とごめんだね。」
「でも楽しかっただろ?」
「……ヘッ、ノーコメントだ。ここで降ろしてくれ、それとバイト代はちゃんと指定の口座に振り込んどけよ。」
不動はぶっきらぼうに“雷帝”の言葉に答え適当な場所で車を降りる。だが“雷帝”の言葉に答える際の不動の表情はどことなく嬉しそうに見えた。
「ハァ…、全く素直じゃないなーアッキーは。まっ、今回は彼の活躍も中々のものだったしバイト代は弾んでおこうかな。」
不動が下車し車内1人になった“雷帝”は鼻歌を口ずさみながら
すると車内にスマホの着信音が鳴り響き、“雷帝”はハンドルを操作し電話に出る。
「もしもーし、何のご用ですかな
『…
電話の先にいたのは行方不明になっている筈の影山零治その人だった。だがその声は普段よりも苛立っており、“雷帝”に対して何らかの不満を抱いている様子だ。
「なんの事だか。私は精一杯やりましたよ、稲魂クンの心の病を完治させましたし、アケボシの正体も引き出せましたし。」
『惚けるな。貴様がその気になれば
「ハァ〜…、それはあくまで理論上の話ですよ影山さん。稲魂クンが再起不能になりかけてようやく交渉の場に立てたんです。普通だったら彼らは絶対に
『詭弁を、サッカーチームにおいての最高権力者は監督だ。選手など駒にすぎん。』
「詭弁で結構。私はリアリストの貴方と違ってロマンチストなんもんでねぇ。でも、選手を完璧な駒にするのは不可能だと貴方が一番分かっている筈では?」
『……チッ、少し喋りすぎた。
更に不機嫌になった影山は一方的に会話を打ち切るとその場にいるもう1人の人間にスマホを渡す。
『もしもーし?
電話から聞こえる声は可愛らしい少女の声だった。娘の声を聞いた“雷帝”は頬の筋肉を緩め返事をする。
「ハッハッハ!聞こえるよー!こーんにーちはー!
『もう最っ悪!聞いてよパパー!そこにいるサングラスのおじさん酷いんだよー!急にやってきたと思ったら私のプレーに事ある事にケチつけるしさー!「もっと落ち着いてプレーしろ」とか「私の命令に口答えするな」とかさー!なーんでこんな人が監督なのかなー!』
電話の先の少女はプリプリと怒りながら影山に対する愚痴を父にぶちまける。
「ハッハッハ!それは酷いねぇ!でも影山サンは君のタメを思って敢えて厳しい言葉で指導してくださっているんだよ?
“
『うぐぐ〜!でも私はもっと自由にサッカーがしたいのー!おじさんの束縛サッカーなんて嫌だもーん!!!」
本格的に駄々を捏ね出した娘に父は小さく溜め息を吐くと交渉もここまでかとこれ以上の説得を諦める。
「あ〜…、聞いてたでしょ?影山サン?次の資金上げてもらうようにオーナーに頼むからもう少し指導をお手柔らかに頼みますよ。」
『…チッ、考えておこう。』
「ハハ、ありがとうごさいまーす!それじゃ私はラボに着いたんでここらでドロンさせてもらいまーす!それじゃ鬼乃子バイバーイ!」
『バイバーイ!パパー!』
ピッ
「…チッ、うるさい親子だ。」
要件を言い終えた影山は眉間に皺を寄せながら電話切り、目の前にモニターに集中する。
そこには今回の総力戦で得た雷門イレブン達のデータが映し出されていた。
「フン…、だが全く運命とは本当に一筋縄ではいかないものだ。それほどまでにサッカーを愛していながらもサッカーに
イナモンから帰ってくるとアッチとの温度差に風邪ひきそうっす。なんだよサッカーを題材にした作品で私達の命を持ってけって。