CODE ~コードが交わるこの世界で~   作:熊手 久万

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記憶

 

今、私の目の前に、あの日、助けてくれた憧れがいた。

 

 

 

 

 

忘れもしない4年前。私がコートラウル学園を卒業する年のことでした。

その日は、クラスのみんなと戦線に赴き、実際の戦場の空気を体感するという演習に参加していました。この演習では、学生が訪れるのは、もちろん最前線などではなく、戦術的な観点から重要度が低い拠点となっていました。

拠点に訪れた私たちは、引率してくださるユニオンの方々と共に、拠点内のパトロールを行っていました。

 

「なあ、この演習が終われば、入隊試験だけど、お前らはもうどこに行くのかきめたかよ?」

「私は、研究系のユニオンに入って、マナの研究したいなぁ。目指せ、ワールドベルノ―賞!」

「似たような感じだけど僕は、マナ機械系のユニオンで、皆をサポートしていきたいと思ってるよ。」

「なんだよ。野心がねぇなぁ。俺は戦場でバンバン戦果を挙げて、自分のユニオンを作り上げてやるぜ!!」

「はいはい、ガンバレガンバレ。それよりパトラは?あなたの程の成績優秀者ならどこからでも、引っ張りだこなんじゃない?」

「うーんと、今考えているのはやはり、一番はローズ・シエスタ隊長のユニオンですかね。」

 

そんな風に私を含めた学生たちは、それぞれの将来について、笑いあいながら、喋っていました。

何度も経験している演習の中でも、低難易度のものであったことから、精神的な余裕が、私たちにはあったのです。

しかし、ここは戦場。いつ何があるかわからない。そのことを気が緩んでいた私たちは、すっかりと失念していたのです。

 

 

ドォン!ドォン!ドォン!

 

 

けたたましい衝撃音がそう遠くない位置から鳴り響く

 

「うおっ!なんだよ、この音。いつもよりも大きくないか?」

「そんなレベルじゃないよ!この辺にまで、音が響くなんてよっぽど近くに敵が―――!」

 

何事かと慌てふためく私たちを横目に、引率を担当していたユニオンの方が、通信機で状況を確認すると、その報告に、厳しい顔をしていました。

 

「部隊長!どうされましたか!?」

「落ち着いて、よく聞け。今この拠点に向かって、敵兵約五千が接近しているのが確認された!」

「ご、五千ですか!?」

「ああ、そうだ。敵はここへ向けて二方向から、挟み込むような形で来ている。現在ここの場にいる戦力では、ここを守り切ることは難しい。しかし、ただでここを明け渡すわけにもいかん!」

「では、どうするのですか!?」

「我々は、ここで敵の気を引きながら、仲間の撤退をサポートするんだ!その時には、少しでも、多くの敵を葬ってやれ!」

「「了解っ!!」

 

ニヤッと、笑いながら、指示をする部隊長の方。それと同じように笑う隊員の方々。しかし、その額には、冷汗が浮かび、中には、手をきつく握りしめ、ブルブルと震わせている方もいました。

厳しい戦いになることは容易に想像が出来、私たちはおもいがけない敵の大攻勢に巻き込まれてしまったのです。

 

 

「君たちは、このまま撤退をするんだ。私たちが、君たちの撤退を援護する!」

引率していたユニオンの方々はそのまま戦線へと参加していかれましたが、学生の私たちには慎重に撤退するようにという命令がされました。

学生30人ほどいましたが、みな卒業間近ということもあり、スムーズに撤退をすることが出来ていました。

駐屯地までもう少しといったところで、この先には、遮蔽物が一切なく、開けた野原になっていることに、気づいてしまいました。

こんなところを走ったところでハチの巣にされてしまうだけ。

 

「どうする!?まだ距離があるのに身をさらすなんて自殺行為だぞ!」

 

「いったん落ち着いて。いったんこの場にとどまって機会を待つのはどう?」

 

「いや、迂回路を探して―—―――」

 

「ッ!!みんな伏せてッ!!」

 

私たち学生の間でどうするか話し込んでいましたが、敵はそんな様子を待ってくれませんでした。

敵の攻撃によって、凄まじい爆風が発生したのです。

 

「きゃあ!」「うおっ!?」「ぐうぅぅ!」「イヤッ!」

 

その爆風が障害物に、身を隠していた私たちを押し出してしまい、身をさらけ出してしまったのです。

爆風は直撃はしませんでしたが、それでもその余波によって怪我をしてしまった人が何人かいました。

慌てて、身を隠すも、きずかれてしまったようで、敵がこちらに少しずつ近寄って来るのでした。

 

「クッソ!やつらこっちに来てやがる!どうするここで迎え撃つか!?」

「無理だよ!人数では、圧倒的に相手のほうが多いのに!何より、僕たちの装備は、旧式の支給品だから、複雑なコードは組めないよ!」

「じゃあ、どうするんだよ!このままおめおめやられろってか?!」

「だから、今どうするのか考えているんだろ!」

「もう帰りたいよぉぉ!!」

 

考えれば考えるほどに、絶望的な状況の中で、皆の冷静さは徐々になくなっていくのでした。

皆と生きて帰るにはどうすればいいか。

私の中で、答えは決まっていました。

 

「みんな、作戦があるので聞いてほしいんですが。」

「アアン?こんな状況で作戦もあるかよ。早く迎え撃つ準備を―――」

「私が囮になります。」

「ッ!?なにいってるんだ!?」

 

先ほどまで、様々な声が飛び交っていましたが、私の言った作戦に、周囲もシーンとし始めました。みんなが落ち着いてきたところで、私はもう一度作戦内容を伝えるのでした。

 

「私が囮になっている間に、みんなが逃げる。そういっているのです。」

「馬鹿か!敵はざっと見ても100人はいるんだぞ。その数相手にどうやってお前ひとりで、注意を引き付けるんだ!もし、引き付けられたとしても、そのままお前はやられちまうんだぞ!俺は仲間を見殺しにするつもりはねえぞ!」

 

そうだそうだと同調する周囲。仲間を大切に思うその姿勢は、すごく好感がもてますが、今は、そんな甘いことを気にしていられません。私の作戦を、否定してきた彼の胸倉をつかみ、引き寄せると、

 

「ここで、籠城したところで、生き残れる保証はどこにもないでしょう?なら、少しでも生き残れる確率をあげることが一番です。敵の戦力を分断することで、一人でも多くのものが助かることが、国のためになるのだと思いませんか?」

「ぐっ、な、なら、その役目は俺がやってやるよ!この中なら、一番敵の注意を惹くことができる!」

「あなたじゃ無理ですよ。注意を引き付けることが出来ても、すぐに撃たれて、死ぬのが目に見えてます。大丈夫ですよ。私だって、死ぬのはイヤですからね。ちゃんと作戦がありますよ。」

 

少しばかり、強くいってしまいましたが、これ以上、時間を無駄にはできません。強引にでも、納得させるしかありません。彼も、時間がないことはわかっているのか、少し考えた後、「・・・わかった。」といい、了承してくれました。

彼に、先導を頼み、私はみんなから離れました。その際に「死ぬんじゃねーぞ」といわれ、私も「ええ、そちらも。」と笑いながら言い合うのでした。

私は、準備を整えると、深く深呼吸をして、覚悟を決めると、走り始めました!

もちろん、ただ走るのではなく、自分の目の前に、発煙筒を投げ、少しでも、銃弾をかわせるようにします。そして、走りながら、後ろに対して、攻撃をすることで、こちらに対する警戒度をあげて、少しでも多くの敵がこちらに来るように

そうして、注意を集めてながらみんなとは逆方向に駆け出しました。

 

 

 

バババババッ!!バンッ!バンッ!

 

「ハア、ハア、!あっちだ!」

 

銃弾が頬をかすめながら、住宅街に逃げ込み、そこで何とか身を隠すことはできました。

みんなからはそこそこ離れることが出来ましたが、逃げることに夢中で駐屯地からも離れてしまい、助けを期待することは難しい状況になったのです。

孤立無援となった私は、建物の陰で息をひそめていると、敵の声が聞こえてきました。。

 

「おい、いたか?」

「いや、こっちにはいなかった。ただあの様子ならそこまで遠くにはいってないはずだ。」

「なら、時間の問題だな。」

 

だんだんと周りには敵の数が増えていき、敵の包囲網が完成していくのを感じ、その場から逃げられないことを悟りました。

残っている武器は、小銃が一丁とナイフ一本。

せめて最後に一矢報いようと、意を決して飛び出しました。

まず、先ほどの二人組の片方を音が出ないように、ナイフで首を一閃。続けざまに、隣の男も、狙いましたが、振りかぶったナイフを抑えられ、組み合うような形に。力では敵わず、どんどん押さえつけられてしまい、仕方なく、肩から下げた小銃の銃口を横腹へと押し当て、その引き金を夢中で引くのでした。

不意を突いたことで一人二人と倒しましたが、発砲音によって他の敵兵にきずかれてしまい、通りの奥から敵が現れ、撃ってきました。逃げようとしましたが運悪く、足に銃弾を受けてしまい、大きく転倒。足からはドクドクと血が流れ、その場から動くことが出来なくなってしまいました。

 

「うぐぅ!」

「手こずらせてくれたなぁ、このガキ」

 

うずくまっていると敵がすぐそばまで近寄ってきており、ゴリッと頭に銃を突き付けていました。

周りは敵に囲まれており、武器も心もとない。

できることはなにもない。

 

(ああ、この先はよくて捕虜ですかね。あとは殺されちゃうかの二択しかないですよねぇ。)

 

心の中には、そんな諦めの感情が支配していました。みんなは逃げ切れてればいいなぁと、現実逃避のように考えていると、足の傷を思い切り踏みつけてきたのです。

 

「ひぐぅ!!ああ!痛い!!痛いッ!!」

「よくも仲間を殺してくれたなぁ。俺らは共和国の連中みたいに甘くねぇからよぉ。楽には殺さねぇよ?」

 

痛みから、意識が覚醒し、アドレナリンも切れたのか痛みがどんどんひどくなっていきました。

冷や汗がとまらない。気づくと目から出る涙も止まらない。止まらない血のせいでどんどん体温が下がっていく感じがする。

 

 

 

死が近づいてる。

 

私はこんなところで私は終わってしまうの?

 

嫌だ、嫌だ、イヤだ、ヤダヤダヤダヤダァ!!!

 

まだ生きたいです!死にたくないです!

 

誰か、だれか、だれかぁ、助けてくださいぃ!

 

 

 

仲間のために囮になった戦士も、人間。死ぬのが、怖いのは他の人と変わらない

死にたくない、誰かたすけてと情けないことを思いながら、震えることしかできませんでした。

あきらめかけていたその時、

 

 

 

ビュオンッッ!

 

 

 

風を切る音が聞こえたのです。

 

銃声とは違うその音に恐る恐る目を開けると、目の前の敵兵士はいつの間にか事切れてしまっていました。

 

私はさっきの音が攻撃で会ったことに今更気づきました。

 

「打たれたぞぉ!総員、警戒し、ガァ!!」

 

「隊長!くそ、どこにいr—――」

 

私の周りに集まってきていた兵士たちは次々と倒れていった。ただ私を助けてくれている味方の姿は私にも一向に見えなかった。いたぶられたその体を無理やりおこそうとしていると通信が入ってきました。

 

「あー聞こえるか。学園の生徒だな、良く一人で持ちこたえてくれた。そのまま戦線を離脱しろ。俺が狙撃で援護する。」

 

!?ありえないです!

 

ここは住宅街で遮蔽物も多い。それなのに狙撃で相手を制圧していくことなんてできるわけがない!

しかし、銃弾が来た方向を見るとその方角の空にきらりと何かが光っている。

およそ、一キロ。

そのありえ無さか血が足りていないから頭がクラクラするのかわからず、茫然としていると、また通信が入ってきました。

 

「おい、どうした?早く撤退しろ。」

 

「す、すいません。足を負傷してしまい、移動が困難です。」

 

「・・・なるほど。わかった。そのまま近くの建物に入って、手当てをしながら救援を待ってろ。その時間くらいは俺が稼いでおく。」

 

そう言い残すと通信は切れてしまった。

通信が切れた後、私は痛む足を引きずりながら、屋内に入り、止血を施す。血は不足しているものの、致死量ではなさそうでした。いたぶられた場所はジンジンと痛んでいるが、それほどではない。

助けてくれた方だけに警戒をさせるわけにはいかないと思い、窓付近で警戒はしていましたが、そんなのは何も意味をありませんでした。

 

近づいてくる敵がすべて倒され行くのだから。

何人かの敵兵は、私の視界内にも入りました。

しかし、次の瞬間には、風を切るあの音が響き、撃ち抜かれていた。

その卓越した技術に、「アハハハ…」と乾いた笑いしか、出てきませんでした。

安心して、気が緩んだ私は、ゆっくりと意識がおちていくのでした・・・。

 

 

 

「もう大丈夫だ。救援があと五分ほどで到着する。警戒は解いてもいいぞ。この辺りは制圧したから―—―!?おい!しっかりしろ!おいっ!!」

 

 

 

次に、目を覚ました時、私は病院のベッドの上でした。

目を覚ますと、横には母がおり、目には涙が溜まっていたのでした。

あの日から、三日が経過していたのでした。

私が、意識をなくした後。その場を制圧した彼に、救護班のところまで運んでくれたとのことです。

目を覚ましたということは、すぐに学園にも伝わったようで、たくさんの人がお見舞いに来てくれました。

 

「よかったよ~。」「助けてくれて本当にありがとう!」「生きてやがったのかよ」「そんなこと言って~、一番心配していたくせにぃ」「ち、ちげーよ、ちがうからな!?」

 

その日は、仲間のみんなとそのご両親からも感謝の言葉をたくさん言われました。

面会時間が終わり、学校のみんなも、母もいなくなると、急に病室は静かになりました。

病室のベットの上で、天井を見上げていると、不思議な気持ちが胸の中でいっぱいになっていました。

 

 

信じられない気分でした。

 

間違いなくあの瞬間の私の目の前には死という絶望があり、諦めと後悔で心が埋め尽くされていました。

 

思い出すだけで、心が冷えていくあの感覚。

 

しかし、彼がすべてを変えた。

 

風をきりさくあの音がすべてを吹き飛ばしてくれた。

 

その衝撃が、私の心に焼き付いて、離れないのです。

 

 

実は、運ばれてる際に覚えていることがあり、朦朧とする意識のなかで、撫でられような感触と

 

「よく頑張ったな」

 

と励ましてくれたその声が記憶にハッキリと残っているのです。

 

 

 

 

 

 

 

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