マキナ・ファンタズマ   作:阿久間嬉嬉(新)

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募集場所はここになります。

超が付くほど久しぶり、かつ実質的に初投稿な今作。どうにか第一章部分を書き終えるか、せめて集まるキャラ達を全員少しでも顔出しさせられればと思いつつ、不定期に執筆していきます。


何時もの風景

 水たまりまばらな荒野の中を走る、一つの軽トラック。

運転手は禿頭の男。褐色肌で筋骨隆々、身の丈目算2m代。かけたサングラスが良く似合う。

荷台に乗るは長身の女。キャップスリーブパーカーを着こむ。表情は冷ややか。ティールブルーのロングウルフ(ながいかみ)と共に、血濡れの包帯が風になびく。

 

 遠間に謎の『高い外壁のようなもの』を望みながら、時折泥をはね上げながら、快晴の元を駆け抜ける。乗員こそ穏やかでないとはいえ、そしてのどかとは言えぬ景色とて、しかし急ぐことも無かろうこの昼間に……急かされるが如く唸りを上げて、猛スピードで走っている。

 

「どうだスマイリー! 振り切れたか!」

「ええフォボス! 見事に!」

「そりゃ何より――」

「――レイダー(バカ共)だけが!」

「オイ待て今の間は要らねぇだろ!?」

 

 わざとなのか天然なのか。女・スマイリーのいっそ悪意のある返しに男・フォボスは怒鳴り声を上げつつよりアクセルを踏み込んだ。

タイヤの音はいっそう荒々しく変わり、叩きつける風も心なしか強くなる。

 

「事前発生は潰してんじゃなかったのかよ! クソったれ!」

「正論で返しても!?」

「確認してくれてありがとよ! ……要らねえよただの愚痴だ!」

「でしょうね!」

 

 しかして夫婦漫才のようなやり取りとは裏腹に、事態は危険の一言だ。

なにせ、走行中の向かい風の中声を張り上げつつ言葉をかわす彼女達の目線の先には、『本来ならば』急ぐ必要のない旅路を急かす要因が、アギトをむいて迫っているのだから。

 

 空気を振るわせて吠えながら追跡してくるそいつら(・・・・)は、なんと青い炎をまとう狼。決して錯覚などでは無く、時折足を突っ込まれた水たまりから上がる蒸気が実態を如実に伝えて来る。

 

幻獣鬼(ファンタズマ)ですが雑兵の部類ですね!」

「逆に言うと数は多いんだろ! ジャンク・シティのちゃちいバリアラインに着くまでもうちょいかかるぞ!」

 

 

 ―――幻獣鬼(ファンタズマ)―――

 

 まさしく幻想の中から『恐怖を持たせるような力と姿』を持ち、現実へ飛び出て来たようなそれら怪異と化物は、既存の兵器をあざ笑うような性質を持って瞬く間に既存の文明を喰らい、壊した。

 やつらの脅威から逃れるために、人々はコロニーと呼ばれる生活圏を新たに作り出し、社会形態を一新させなければいけなくなったのだ

 

 幸いにして上層部や軍事帰還の対応は早く、目に見えた“荒廃”の状態まではいかなかったものの……それでも現状はご覧のとおり、こうしてトラックを走らせるだけでどこでも危険が味わえてしまう。

 そして対応が早かったことは災いももたらし、スマイリーが口にしていたレイダーこと盗賊の跋扈も許してしまっている。繋がりがあるようでどこか限定的、内に籠るなと外に出ればあれよあれよと無法のお祭り、『安定』を得るにも一苦労なのである。

 

「ちくしょう! コロニーへの居住権があればなぁ!」

「残念ながらもう捨てました! ドミニアでしたよ、私はね!」

「さらっと自慢してんじゃねぇよ!!」

 

 やいのやいのと言い合っている間にも炎狼型幻獣鬼は迫っており、あと少し近寄れば跳躍して飛び乗ってしまいそうだ。もはや速度だけで逃げ切るのは不可能だと、スマイリーもフォボスも悟る。……否、それ自体は既に悟っていた(・・・・・・・・・・・・)

 

 だからこれらの言い合いは敵と相対する、その前の一種の発破かけ。ついでもついでの景気付けに過ぎない。

 

「オイルもバリアのバッテリー代も安値(タダ)じゃねえんだぞクソったれぇ!!」

「ワタシの弾丸は0G(タダ)ですけれどもね!」

「一々うるせぇなオイ!?」

 

 言いながらも笑っているフォボスは車内に突き刺さる見慣れない白のレバーに手をかけ、テンションとは裏腹に表情はいたって冷静よりなスマイリーもまた真っ白な散弾銃(ショットガン)剣鉈(マチェット)を取った、瞬間……双方の白に幾何学的なラインが走り、ひどく強烈なのに眩くもなく、何も照らさない異様な光がほとばしる。

 

 ――これこそが幻獣鬼への唯一の対抗策、素早い対応によりもたらされた恩恵、そしてだからこそ悪意と無法が跳梁跋扈することとなった原因。

 名を【リュミエールウェポン】。幻獣鬼の、そしてある不可思議な領域の力を解析した事により生まれし人類の新たな光の牙だ。

 

「っし……展開した! やっちまえスマイリー!」

「ええ!」

 

 軽トラック全体に小さく、稲妻のようなものが走ったのを見届けたのとほぼ同時に踊りかかってきた炎狼の1頭めがけ、スマイリーは遠慮なく散弾銃をぶっ放す。もろに直撃した炎狼が断末魔を上げて転がり、遠ざかるのに構わず立て直される前に3度の連射。続けて左右に回ろうとしたやつらへも2度、素早い動きで切り返し、撃つ。

 

「甘い」

 

 誰にともなく呟かれた言葉と、被せるように振り切られた剣鉈。その一閃上には不意打ちを仕掛けたらしい炎狼がおり、強引に叩き斬られて吹き飛んだ。やつの残骸は他の仲間達を妨害し、それで手をこまねいている間に装填し終わったらしいショットガンからまたもシェルが飛ぶ。

 

 だが射撃をどうにか回避した1頭がまたもや迫ってアギトを……開いた中央へ剣鉈がぶっ刺さり、ハンマーよろしく振り回されて、続きかけたさらなる追撃は見事に阻止された。突き刺さった個体を投げ捨てることで追い打ちをかねるオマケつきだ。

 

「ひゅぅ♪」

 

 景気よく口笛を吹くフォボスも白いハンドガンの様な武器を手に持ち、負けじとノールックで後方へ発砲。それは抜け出しかかっていた1頭の脚に命中し、他の個体を巻き込み転がり遠ざかっていく。とても順調の一言でこのままいけば……と思われたが。

 

「……! 巨大な……!」

 

 されど獲物を逃がしてなるものかよと、幻獣鬼側も一筋縄ではいかない、やらせない。なんと数頭を残して合体を行い、巨大な1頭へと変貌を遂げたではないか。

 

「今回はそう言う変形の型かよ!? シンプルイズベスト気取ってんじゃねえ!!」

「ですがシンプルゆえに分かりやすい(・・・・・・)……!」

 

 後方に陣取りスマイリーの目をくぎ付けにさせた小型を追い越して、大型が爆走する軽トラックの前方へ回る。このままでは衝突し、下手をせずとも横転してしまうだろう。そうなれば速度で負ける彼女らは一巻の終わりだ。

 

「さて大丈夫でしょうかこのトラックは!」

「旧式だがすこぶる頑丈! その上バリアは最新式! 信じろ!」

「つまり一か八か!」

「ドライバーが信用ならねぇってか!?」

 

 なのに、勝利を確信するのはこちらだと言うのに、緊張感なくバカなやり取りをかわすスマイリーたちに屈辱を覚えたか。怒りを込めて唸った大型は勢いよく炎を噴き上げ、それを加速に用いて遠慮容赦なく全力で突っ込む―――。

 

 直前、爆ぜるトラップの音。

 転びかけでぶつかり、跳ね上げられるは大型。

 その視界の中。

 ハンドルを握り直しつつ、興奮により頬を吊り上げるフォボスがおり。

 意地悪く、しかし獰猛に、スマイリーも笑んでいて。

 

「すみませんが」

 

 手早く数頭を射撃で仕留め。

 

「何も変形するのは」

 

 今の炎狼を仕留めるには足らなすぎる剣鉈を構えた、刹那……スマイリーの腕がねじ曲がり、伸びる“何か”に機械と骨肉入り混じり、接続されたリュミエールウェポンを食らい尽して、それは具現した。

 不揃いな3枚刃の、廃材と骨で作られた異形の、赤錆まとう青黒き巨大鉈が。

 

オマエ達(ケモノ共)だけじゃないんですよ?」

 

 触れても居ないのに巨体を削り、火花の如く体を散らせて。

 身をよじったとほぼ同時に狼の頭蓋へ食い込んで、内部から破壊を巻き散らし。

 軽トラックすら余波の【破片】で削りながら。

 斬るでも割るでも裂くでもなく、抉り進んで引きちぎり。巨大な体躯の芯を捕え。

 

 ――血肉巻き散らし、二つに変えた。

 

 だが往生際悪く、合体を解いて残った分で再び群れを成したのも束の間。今度は散弾銃の方が一瞬だけ変容したかと思えば間、髪おかずに火をふく射撃ならぬ砲撃。あらぬところまで破壊をもたらしめくり上げたそれは悪あがきの反撃すら許さず、とうとう炎狼達を散らし尽す。

 

「はっはぁ!! ざまぁーみろぉ!!!」

 

 そんなフォボスの雄叫びと同時に安全区域へ到達し、スマイリーたちは今回の突発的な戦いに、見事勝利を収めた。

 

 

 幻獣鬼への対抗策、それは何もリュミエールウェポンだけではない。されども頼れるこの力は、被排斥の証と同列であり、誰も彼もが疎み、妬む。ともすれば幻獣鬼の新種、同類とすらいえよう異能。天からの恵みには違反する、怪異を借りた野蛮なる武器。

 その名機怪蛮能(イヴィルマキナ)

 

 悪意の別名には事欠かぬ、禁忌と呼ばれた力である。

 

 そんな力を振るった異常なる彼女(スマイリー)は……。

 

「お腹が空きました」

 

 ……何とも日常的な気の抜けた感想を口にするのであった。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 見捨てられた街、ジャンク・シティ。

コロニーに属さぬ者達が暮らす場所、否、暮らすしかない(・・・・)場所。

 

 当然ながらコロニーより設備も安全も何もかもが劣る、いっそ仮初扱いでも過言ではない生活圏の一つ。その一角のとある【カフェ】にフォボスは車を付けて、止まるのを待たずスマイリーが飛び降りた。

 

「到着ぅ。【歓楽街】様々だな、お陰でこのへんだとコロニーばりに店をやれるぜ」

 

 今フォボスが口にした【歓楽街】は、ジャンク・シティの常識に囚われぬ数少ない生活圏の一つ。コロニー形成にあたって最低限のインフラを残して見捨てられたのがジャンク・シティではあるものの、当然ながら例外はあり、それこそが【歓楽街】だ。

 

「取り立てを叩き潰せる分だけ上等というべきでしょうね」

「また来てたのかよ、止めろって上に言われてる筈なのになぁ。ちなみにいつだ?」

「三日前、今回の荷運びとついでの仕入れに行く前です。ついででワタシを買おうとしてました」

 

 さらっとこぼれた人身売買の話にフォボスは肩を竦めてスマイリーから目線を外す。

 

「そいつはまた、素寒貧好きで命知らずな奴が来たもんだぜ」

「ええ、罪な女を所望するとは」

「言葉の使い所おかしくすんじゃねえよ」

 

 少なく無い荷物を運びながら、先とは違う状況で似たような言葉を交わす二人。荷物はざっと見る限り、どうやら保存食や“コーヒー”、そして武器の手入れ道具やバッテリーのような物品が殆どらしい。一応パン類もあるがこちらも此方で保存が利く固いタイプ、つまり嗜好品とは程遠い。

 

「暫くは営業できますか」

「だなぁ」

 

 ――先ほど説明したように、人々は皆コロニーという生活圏に基本籠っている。そして荒廃こそ防いで安定こそ手に入れたものの、まだ潤沢とは言い難い。フォボスの車についていたバリアー、その『超』強化&高価バージョンにより安全は確保されているがこれにも不安は残っている。

 内部ですらそうなのだ……スマイリーたち外の住人がどうなのかは最早言うまでもないだろう。

 

「?」

 

 と、そこで何やらスマイリーが、彼女にとっては『見慣れないもの』を見かけた様子。

 

「これは……“オチャ”ですか?」

「そう! 荷運びの例にってな、偶然あまってた物を貰った! 気前が良いもんだ!」

「ああ、そう言えば今回の荷運びのお客の提携先は」

「『護刃の衆』のコロニーだ。あそこは珍しいもんも扱ってるからよ」

 

 久方振りかつ無料で手に入れた嗜好品ゆえかウキウキでしまいに行くフォボスの背を、何とも言えない顔で眺めつつ残った荷物を搬送するスマイリー。程なくして荷物を全て降ろし終え、つつがなく休憩タイムへと移行した。……ちなみにオチャはまだ発酵云々とかで飲むのは早いらしく、代わりにコーヒーが淹れられている。

 

 漸くひと段落、とカウンター席に座ったスマイリーはコーヒーの煙をくゆらせ、電子端末で何やら情報をたぐり始める。フォボスはどう見ても手作り感が否めないタバコに火をつけ、ちゃんとそっぽを向いてからゆっくり紫煙を吐いた。

 

「ざっくり1時間半後だ。今夜もウェイトレスよろしく」

「ええ、まあ雇われの身なので」

「不服かこのやろう」

「おっと看板娘に何を言いますか、このドサンピンカフェの看板娘に」

「二度言った挙句貶してんじゃねえよ!?」

 

 一見するとスマイリーの方が振り回している様に見える会話は、しかし唐突に声も無く雰囲気で打ち切られて。

 

「……なんでドミニア抜けたんだ。異名を付けられてて実力だけなら黄金上位も行けてと充実してんだろ、それこそこんなドサンピンカフェ(・・・・・・・・)に居るよりかは」

「以前も申し上げました通りですよフォボス、ひどくつまらなかったからです。ワタシはワタシのままに、自由に足掻き合いたかったので」

 

 心なしか話を打ち切りたいようなスマイリーを、されど彼は許さない。

 

「コロニーごと抜けちまう必要はあったのかっつう話だ。イヴィルだって隠しゃあ良かったろ」

「自分の好みか否かはそれ以上に優先される事柄ですよ? まさかオチャに喜んでいたアナタが解せぬわけは無いですよね」

「また屁理屈を……絶対に聞き出してやるからな」

 

 何かを言いかけた彼女の口を長々紫煙を吐く動作で留めたフォボスが、どこか寂しそうに呟く。

 

「お節介は止めねえからな。それが親友のバカ娘(・・・)でもよ」

「……どうぞお好きに」

 

 そんな言葉を交わしたのちに、彼女が電子端末を翻したことで三度空気は切り替わった。

 

「で、何見てたんだよ」

「どうやら中堅コロニー間で要らぬ競争が発生しているようです。何でもレイダーを利用したとかなんとか」

「まぁたか。以前からそうだが対幻獣鬼はどこへ行ったのやら」

「ええ以前は良かったのに」

「今の時代しか知らねぇ小娘が何言ってやがる……」

 

 彼と彼女の様子を見るに、軽口をかわせる程度には他人事で、しかして嫌な顔をするぐらいには影響がある、そんな事柄らしい。……実のところ幻獣鬼に対処出来てしまった弊害は何もレイダーだけではなく、こういった内部と“内部同士”での人対人も含んでいるのだ。そもそも貧富の差も如実にあり、本来起き得なかったところにまで格差が生じている有様。

 

 強引に決着させれば全て幻獣鬼が悪いと言えるのだが、さりとても欲は尽きまじ、とはよく言ったものである。

 

「こちらにまで波及しなければ良いのですが」

「何とも言えねぇなぁ、【歓楽街】に逃げ込むしかねぇ」

「愛想は無いんですけれどね」

「どういう働き口を想定してんだ耳年増」

 

 そんな事を口にしながらフォボスと共に情報を流しつつ、今日も今日とてスマイリーにとって『当たり前』の夕方が訪れていくのであった。

 

 

 

「…………」

 

 視界内に流れるいくつかのニュースに一抹の不安を感じながら。




試運転と文章説明も兼ねて今回はここまで。
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