マキナ・ファンタズマ   作:阿久間嬉嬉(新)

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引き続き募集場所を貼りだしておきます。


それでも日常

 さして穏やかでものどかでもなく、しかして緩慢なる流れに包まれていた、朝飯時の廃屋(バラック)地帯に突如起きた騒乱。暴力沙汰などさして珍しくない、無法の場でもなお驚愕を呼ぶ、暗黙の了解を破りし愚行。

 

「ゔるぁああ!!」

「……む」

 

 物理的に火花が散り、受け止めた鎖なにするものぞと剣鉈で強引に削り、返す刀で飛んだ鉄球を蹴りそらしてあらぬ方へ着弾させる。そんな一連のやり取りをした後に、巨漢と対峙していたスマイリーが離れた場所へ着地して振り返る。

 

「そのままダッシュでお願いします」

「言われずともっ!」

 

 促し終えるのも待たず常連客は他の者達同様、必死に範囲外まで走っていく。この場に残るはスマイリーやフォボス、そして腕に覚えのある『報酬』目当ての者たち数名だ。しかし一番距離が近いのは寄りにもよってカフェ二人組……だがそれもそのはず。

 トレーラーがまだ移動しきっていない内に、しかも【歓楽街】の真正面でこんな騒動を起こすとは、事実正気の沙汰じゃない。これなら幻獣鬼の行いの方がまだ弁えていて治安が良いかもしれない、などと心にもないジョークすら飛びそうな異常事態だ。ゆえ、そんな奴相手に少ししり込みしているのである。

 

「おいおい、イカれてんのかよ……!」

 

 あり得るようであり得ない、そんな光景にフォボスは愛用する白き大型拳銃(リュミエールウェポン)の銃口を向けながら引きつった笑みを浮かべた。対してスマイリーは一切表情を変えないまま、純手の剣鉈と逆手のナイフの2刀流状態で微動だにしていない。

 

「ええ、とても狂気的だとは思いますよ」

「そんなもん見りゃあ分かる、今俺だって」

もう死んでいる(・・・・・・・)者を使うとは」

は? ……マジか?」

 

 まさかの言葉に思わず問いかけ、彼女は小さくうなずきを返す。

 

「厳密にはこの戦いの行方がどうなろうと奴は地に伏せる、という事です。オーバードーズに加え、行きがけの駄賃とばかりに何かしら埋め込まれた痕も見えました」

「見て分かるヤクか、じゃあ改悪版のアレだな……ってこたぁ使い捨てじゃねえかよ。飯邪魔しやがっただけじゃ飽き足らずかよトンチキめ、意味ねえだろこんな事してもよ」

 

 砕ける寸前の鉄砲玉をこんな所で暴れさせても、無法騒ぎなど日常茶飯事な【歓楽街】へのダメージにはならないし、どこの誰とも知らないのだから大型コロニーはおろか中堅コロニーですら何の傷ももたらさない。レイダーに八つ当たりするどこぞの誰かが現れるのが精々だろう。

 そのレイダーですら、まだ一か八かでトレーラーもどきを襲った方が旨味はあろうに影も形も見えずじまい、本当に何がしたいのか一切不明なのだ。

 

 だが不明であろうと何だろうと、目の前の巨漢が大暴れしだしたのもまた事実。スマイリーの見解が正しいのなら放置したってかまわなかろうし、血気盛んなハンターが複数この場に集っていて顔見知りの常連客はもう逃げた以上、他の者を助けに入る義理など無い。

 彼女らに限って言えば、金銭も今のところ困ってはいない。……の、だが、ひとつだけ理由があった。

 

「コチラを狙い、投じた分の返礼はしましょうか。それと――」

「――貴重な常連を巻き込みやがったな? タダじゃ置かねえぞ」

 

 ()()()()()()()()()()

 仔細な理由は数多あれ、簡潔に言えばそれだけなのである。

 

「ゔぉぉおおおおおお!!!」

 

 件の巨漢は唸り声をあげ再度、鉄球を振り回し始める。どうやら偶々最初にスマイリー達を狙っただけらしく、今度は違うハンターがガード越しに吹き飛ばされて転がり、さらに別のハンターが隙を見て一撃を加えて裏拳で吹き飛ばされている。ただしダメージは軽微な辺り、本当にただ暴れる以外が出来ない様子。

 

 こと護身用しか持たぬ一般市民に類する者、もしくはそれに毛が生えた程度の者達ならば、バリアーを貫いてダメージを与えられたかもしれない。だが食事時ゆえに最低限とはいえ装備を揃えたハンター相手にこれでは、鉄砲玉としても弱卒に過ぎる。

 同時に、『この場で何かを壊したい、奪いたい』が目的ではないという事が明確になった。

 

「ゔぉらぁああああ!!!」

 

 もはや、単なる孤独な暴徒でしかないことがひけらかされた巨漢は、続けてフォボスへ躍りかかる。

 

「ナイスタイミング、ちょうど俺も叩き込みたかった所でな!」

 

 焦ることなく、そう言いながら足元へ1発。

 衝撃でたたらを踏んだのを逃さずに即座に顔面へ1発。

 巨漢は半ば本能的に鎖を持ちあげ、防御。金属音をあげてそれる弾丸……を壁代わりにして迫る2発目が跳弾(・・)し、肩を抉り飛ばす。

 

「がぁあ゛ああああ!!!」

 

 やられてなるものかと鉄球を振り回すも誰にも当たることはなく、ただ付近を砕くのみ。ことスマイリーにはそればかりか、軽く避けたうえで唸る鉄球を『足場に跳躍』され、踏み台よろしく頭部を蹴られる始末。跳んでから間、髪おかずに迫った彼女の投げナイフはなんとか避ける、がまたもやフォボスの跳弾が襲いかかり、今度は逆の肩が抉られた。

 次いで付近に着地していたスマイリーが足を一閃、これには耐えられず巨漢が片膝をつく。

 

 まるで支えるかの如くその胸元に添えられるのは―――散弾銃(ショットガン)の大口径。

 

「ここならば、余計な破壊など起き得ませんので」

 

 僅かに押し退け、刹那、発砲。

 聞こえるバリアーの破砕音、そして、響き渡る轟音。

 強引に起き上がらせたその巨体を蹴っ飛ばし、追い打ちとばかりにフォボスの射撃が三度命中し、吹き飛んだ巨漢へと他のハンターたちが殺到。我先にと攻撃を叩き込み、あれよあれよという間にリンチが発生する。もはや戦いの内容は誰が先に仕留めるか、そして誰が『もっとも良い身ぐるみを剥ぐか』の競争と化していた。

 

「おうおう、まるでアリンコみてぇじゃねえか」

「虫の方がまだ可愛げもありそうですが」

 

 2人はというと宣言通りに1発ぶち込んで気が済んだようで、他人事みたいにその盗人競争を眺めている。先の食事時の喧嘩騒ぎと何一つ変わらない辺り、もう既に日常の一部に落とし込んでいるらしかった。やりたいこと、もといやられた分をやり返したのだから、本当にこれ以上やることも無いのだろう。

 

 謎の巨漢についての考察、および騒ぎに対応した後々の準備も、今この場でするべきものでは無いのだから。

 

「しっかしどうするよスマイリー。お前、飯をさっきの騒ぎで放り出してたろ」

「サンドイッチを所望します」

「結局作れってかオイ。スクランブルエッグたっぷりにしてやるよ」

「ではついでに香辛料を倍増しのマシマシで」

 

 既にカフェへ帰る事を前提にして言い合いながら、骨が砕けて肉が裂け、血潮が飛び散る音をBGMに帰路へと付いていく。……最中で。

 

「む」

「ん?」

「申し訳ありません、ダッシュいたします。ではお先に」

「何ぃ? あ、おい!」

 

 止める間もなく一目散に駆けていってしまったスマイリーへ、フォボスは伸ばした手を所在なく漂わせた後で後頭部へ持っていった。

 

「ったくそんなに腹が減ってるのか。……冷蔵庫や倉庫、荒らしたりはしねぇよな?」

 

 割とマイペースな看板娘でも流石にそこまで卑しくはなかろう、と思いつつ念には念を入れてということなのか、彼もまた小走りで続いていく。何だか新たな諍いが起きているような、物騒な言い合いを背にしながら。

 

 

「これは、何が起きてたの?」

「ああ。それはよぉ、とある馬鹿が――」

 

 1人のハンターの返答先。

 入れ違う形で駆け付けた、幼い風貌と似合わぬスタイルを持つツインテールの少女の声が。

 2人のどちらの耳にも、届く事は無いままに。

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 巨漢が起こした騒ぎを収めてからカフェに戻り、少し経った頃。

 

「それで、なのですが」

 

 逞しくも有言実行した常連客とのやり取りを終えてクローズの札を掲げ直して、暫し。用意された硬パンのサンドイッチを平らげ、食後のコーヒーを味わっていたスマイリーが、唐突にそう切り出した。

 

「あのデブっつうか起きる影響のことだろ。分かってる」

「カフェは長期休業……は少しばかり厳しいですね」

「おう、なにせ折角仕入れた品だ、ダメにならねえ内に再開はする」

「つまりメインを一時入れ替えると」

「副業をやっておいて良かった、なんて思った日は数知れねぇな……」

 

 ヘビースモーカー、とまではいかないが愛煙家らしいフォボスは、先日も吸っていた煙草を取り出す。慣れっこなのかスマイリーは何も言わず、話の続きを自ら紡いで繋いだ。

 

「巨漢については全てが不明です。どうしてあそこで騒ぎを起こしたのかも、トレーラーが目的なのかも」

「とは言え何もできない訳じゃねえからこその案って事だ、なんぞが起こり得ないとは言い切れねえ訳だからな」

「曖昧内からふたつにひとつを選ぶならば、面倒からの逃走を想定する……まあ自明の理ですね」

 

 破壊するにも中途半端。何らかの妨害にすらなっておらず、どこの組織の仕業かも分からない。中堅コロニーや見知らぬレイダーが【歓楽街】からの因縁を付けられこそすれ、しかしてそれ以上のものは望めない。誰かの無差別な実験なのかと荒唐無稽な想像のひとつでもかき立てられそうだが、生憎とスマイリー達にそんな事をやりそうな奴らなど心当たりがない。

 唯一言えるのは先日の中堅コロニー関連のニュースで動いているだろう、各大組織のメンツが何らかの答えを出すという事だが、そんなもの主の関わりがないフォボスにも捨てたスマイリーにも縁が無い話。

 

 ゆえどれだけ思考を深めようとも、彼と彼女がやるべきことなど、どこまで行っても一択から依然変わらないと言える。

 

 【歓楽街】を逃げ込む先にし辛くなったのは痛かろうが……。

 

「ま、稼ぎ頭が変わるだけか」

「何を言いますか、稼いでいる(ゴールド)では普段からワタシが上。あなたは下です」

「笑顔抜きでドヤ顔すんな、悪かったな貧乏カフェで」

「おっと失礼極まりない。穴場な美味とこの看板娘のお陰で何とか零細とはまだ縁遠いと言うのに」

「褒め言葉と貶しを混ぜるんじゃねえよ! ありがとよ、華添えてくれて!」

 

 双方、表情のどこにも笑顔がなく、なのに険悪さは微塵も無い、いつもの事なのだろうやり取りをかわす。大方、このような「長期休業」をかねた逃走準備などさして珍しい事態でもないことが伺えた。恐らく何度か遠出もしつつ同じ場所にまた戻ってきているのだろう。

 

「では互いにヒモとならぬよう精進して参りましょう」

「このご時世でヒモやれてる奴なんざ大型コロニーの逆玉にも居ねぇだろ」

 

 今後を見据えた小さな会議はここで終わり。

 

 降ろす幕の代わりとばかりにに滑らせるように移動させたカップを手に取って、キッチンで洗うフォボスを見ながら、スマイリーは今日の“仕事”の詳細を確認していた。内容は特になんてことない護衛業の類で、彼女からすれば精々守るべき人数が数人増えて、先日の自家用車(軽トラック)から車種が変わるぐらいか。

 

 そして実のところ先日彼女達がレイダーに、続けて幻獣鬼に襲われたのは道選びが悪かったせいもあるのだ。検問という名の徴収もどきに付き合うのを避けて、取引で時間を食ったので短縮のために進路を変え、【歓楽街】に目を付けられ辛い道にして――とやっていたら順当に襲われたと言うだけ。

 そのうえでこれも想定内だったので悟っていたし、なんなら普通を超えてノリノリで戦ったのである。……気になる点があるとすれば。

 

(落ち合う場所がよりにもよって【歓楽街】外れの南東部ですか。カフェと真反対なのは許容範囲として、近場の南部で悶着様々あったばかりでしょうに)

 

 外側をぐるっと回るのは正直に言って時間がかかる、警備役たちから見てもそちらの方が万倍怪しい。かといって突っ切るにはこれまた面倒が多いうえにそもそも()を取られる。近道こそあるがやっぱりGがと考えれば、どうあっても厄介な要素しか付いて来なかった。

 

(《渡り廊下》を使用しましょうか、それとも大通りの炉端を歩きましょうか、さて……)

 

 それでも依頼のドタキャンで失う信頼の価値の重さと、金銭面の差し引きで考えてなおプラスにはなるからか、嫌な顔をしながらも即座に安全なルートを構築、模索し始めるスマイリー。

 

(……ここは面倒承知で《渡り廊下》が良いでしょうかね。まあ、正直言ってあの人と不意の再会があっては困りますし…………嫌ですし)

 

 選んだのはどうやらより短縮するルート、というよりはどうあっても避けたい(・・・・・・・・・・)その誰かとはち合わずに済むのだろう、恐らく無法者専用らしきルートだった。先にさっさと踵を返して駆けたのも、件の誰かと出合いたくなかったからに違いない。筋金入りだ。

 

(そうと決まれば、少し急ぎますか)

 

 剣鉈の刀身にヒビや欠けが存在しないか、また機能に狂いが無いかの確認。

 散弾銃の弾丸および弾倉替わりとなるバッテリーの入念な状態チェック。

 こちらもまた機能諸々が劣化し、戻ってきていない投げナイフが無いかと丁寧に本数の計算。

 

 楽勝であろうが無かろうが、うっかりが呼ぶリスクを極力避けるべく、他いくつかの武装をひとつひとつ細かく調べていき、常用しているパーカーその他の戦闘服を着直すと、それら全てを装着する。

 傍ら、金銭の確認も忘れずに行っていた。

 

 ―――少しばかり時間は飛び、風景変わって【歓楽街】。

 

 建築物が無規則に乱立するせいか所々薄暗く、ネオンにも似た灯かりがチカチカまたたいては飛び交い、悪趣味な風景を作り出すこの町は見たままな欲望のるつぼに相違なく、随所の店では『特別な布衣』をまとう女性たちが格子の中から客を呼び込み、またそれに誘われて昼間っから入店する輩が後を絶たない。

 

 表や他のジャンク・シティでは珍しき飲食店もあちらこちらに門を構え、複数種類の油っこい匂いが空中でまじりあい何とも言えない、慣れなければ吐きそうな香気を充満させる。店内から怒鳴り合いが聞こえるあたりここも変わらない、かと思いきやそうでもないのか直後に蹴りだされる。

 

 道を行き交い、または端にたむろする連中も、半グレ風情としか言いようのないチンピラから、どう見てもバックに誰かしら付いて居そうな装備の者達、果てはどこかの重役の変装だろう人物まで。店も店なら在する者達すらとてつもなく混沌としていた。

 

(特に変わり映えもせず、と。やはりあの程度は眼中にないのですね)

 

 スマイリーは内心そう独り言ちながらも、いつもは動きやすさのために前を開けたり緩めている服を少ししめ、フードを深くかぶって人相を隠す。それでいて下手に縮こまらず、半端な位置をある程度ながら堂々と歩く。

 完全にかわす事はできずとも、早々絡まれたりもしなかろう、これがこの街を歩く彼女なりのベストなスタイル……なのかもしれない。

 

(即急に《渡り廊下》まで向かいましょう。止まっていても良いコトなど――)

 

 そこで突然に周囲を見回しそうになった彼女はそれを強引に止め、歩行速度を少し早めた。

 

(―――ありませんからね。ええ、本当に)

 

 何故だか自分で自分へ念を押すように胸中で呟いた後、スマイリーはそそくさと言った感じで路地裏の方へと消えていく。視界の端へ、淡い白桜色(・・・・・)の流れを少し捉えたままに。

 

 

 

「あれ、さっきのって……?」




まだまだニアミス。

それではまた次回をお待ちください。
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