マキナ・ファンタズマ   作:阿久間嬉嬉(新)

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例によって募集場所を貼りだしておきます。

あと一つ報告というか方針の話になるのですが、既に送ってくださった方を優先するので『○○人揃うまで待つ』ということはまずしない、と心得てください。


去らぬは一難

 何者かの気配をかわして、《渡り廊下》を利用するために薄暗い通りよりもさらに陰った裏道を行き、依頼者の元へと歩みを進めるスマイリーは、今。

 

(まさかのまさかでしたね。ただ予想は出来て……強がりはやめましょう。ただむなしい)

 

 ……大通り近くのまだ表の灯かり指す路地を転々としながら歩いていた。

 

 

 

 

 

 ―――ではこうなった経緯を少し細かく説明しよう。

 まずスマイリーは《渡り廊下》へ何事もなく辿り着きはしたし、順調にいけばそのまま利用して、【歓楽街】外れの南東部まですんなりと向かうことが出来たはずだったのである。

 

 そもそも彼女が、そして街の者達が《渡り廊下》と呼ぶそれの正体は何てことない、要は日替わりで順路の変わる有料近道のようなもの。設置された経緯も別段善意などではなく、本来は金を払うことと来たものを記載することにより防御性と秘匿性をあげる(・・・・・・・・・・・)ことが目的であった。

 なので信用さえ得ていれば、逆に特に何も抱えないなんてことないうえで()を持った住民であるならば。ファミリーの者達が通る時間でさえなければ無問題であったのだ。

 

 では何故駄目だったのか? それはあくまで理由の一つではあるが、彼女らにとっても新しい出来事……そう、例の巨漢騒ぎである。

 あまりにも行動が杜撰が過ぎるゆえに決められた捜索。および他コロニーをかわす為のセキュリティ強化。そして傘下で何度も似たような事例があったらしいことも理由のひとつ。一応最後に関してはそれとなく隠してはいたようだが、スマイリーは口ぶりからそこに気付いた。

 

 されども気付いたからと言って何が出来るわけもない。今の彼女は大型コロニー所属でもなければドミニア機関の『騎士』でもなく、ただ《渡り廊下》を通る分だけの金を持った傭兵に過ぎないのだ。結果として金銭は残ったものの、あまり通りたくない場所を時間をかけて通過せねばならなくなったのも事実。

 

「よう。おめぇさん隠してるが女うげぅ!

「分かってんだ、遊……えっばふ

「なな何だ!? おい、こんな所でそんなギャグやめろよ!?」

(隠したくとも嗅ぎ付ける者はいますが、これ以上のものは奇怪と化すのが悩ましいところ……)

 

 わざわざお約束に付き合う気は無いとばかりに武器を持ったチンピラどもを、残像すら見えないレベルの瞬で殴り倒し、人ごみをスクリーンにして紛れる形で向こうに影も追わせない。

 

「麒麟児ちゃんはまだ居るのか? ガキみたいに頑固だなぁ、聞いた通りだぜぇ」

「彼女の噂は音に聞こえてやすからね。しかし眉唾物だった足癖が悪いとかなんとかがまさか」

「くひひっ、事実。確かに悪かったなぁ、ありゃぁよぉ」

(あれはファミリーの幹部、しかも武闘派ですか。明らかに誰かを探している? ……まあ、あまり見るものでは無いでしょう)

 

 聞かせる形で喋っているあたり、情報の報酬目当てて近寄る者の情報も当てにしているのだろうか。だがスマイリーに関わる気も暇もなく、そんな途中で見かけた厄介ごとの種もどうにか避けて、本来ならば通れていただろう《渡り廊下》の付近に差し掛かる。

 

(ああ、いますね(・・・・)?)

 

 そこでも何かを察知したスマイリーは少し目を閉じ。

 

(事この状況においては僥倖と言うべきでしょう。元々実質『赤銅』なのでワタシのイヴィル発覚(コロニーばなれ)は広まっていませんし、個人的に少し気まずいですから)

 

 あからさまに避けている理由だろうことを内心でそっとこぼしながら、南東ゲートへと歩みを進めていった。

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 ――同時刻・《渡り廊下》某出入り口、そこから少し進んだ“関所”の付近。

 

(居たって思ったんだけどなぁ)

 

 動作はこそこそと、胸元は目立つほどたわわに、しかし気配や音の消し方は完璧という、ややミスマッチな者が居た。……それが見間違えでなければ、先に【歓楽街】を牛耳るファミリーの一人と向かい合っていたツインテールの少女に相違なく、青天を思わせる色彩の瞳をあちらこちらへ傾けている。

 

 東洋風のデザインに仕立てられた黒いスーツは影の中では見えづらく、外腿や肩や脇が露出したデザインで無ければ、そしてある要素さえなければもっと発見しづらかっただろう。

 その要素とはずばり『髪色』。ツートンカラーとでもいうべきか、白に桃色が混ざったその髪はわずかな光でも艶やかにきらめくのである。おまけに髪形は先にも言った通りツインテール、それも膝までありそうなロングなのだ。結ばれた桜色のリボンと共に、尾のように振れては流れるのだから、視界に入れば否応にも注目してしまう。

 

 しかしその背にある交差された2振りの太刀が、可憐な外見に誘われたまま侮ってはいけない、ということを如実に教えている。そもそも名のある幹部と、スマイリーが『武闘派』と呼んだ男と面と向かって言い合い、蹴りまで入れていたのだから実力は推して知るべしと言うところかもしれない。

 

(フードで見えづらかったけど確かにあの人だった。なんで逃げるんだろ……私、そんなに嫌われたかなぁ?)

 

 そんな侮れない少女はというと――先までの剣呑さはどこへやら、外見通りのおっとり穏やかな雰囲気で首をかしげている。恐らく素はこちらなのだろうが、仮にも【歓楽街】という無法の場でこの余裕、実力を除いてもある意味タダモノではなかった。

 

 されども解決策が浮かぶかどうかは別であり、最終的には諦めたのかすごすごと帰っていく少女は、うねった階段を下って細い路地裏をするりと抜けて、轟音が届く前に言い合いを繰り広げた大通りまで戻ってくる。

 

(ここから先は見た感じ、許可制のドアか多方向へ出入り口のしかない。気配も少ないからあの人も多分いないよね……う~、どうしよ……ファミリーの幹部の人に聞いてもなぁ)

 

 ひとまずと言った感じで雑踏から距離を取ると、たわわな果実の下で腕を組み、けれども所作は大げさかつ子供っぽく体ごと首を傾げた。

 

(『鈍牙(にびきば)黝騎士(くろきし)』なのは間違いないと思うんだよね。協力してほしかったんだけどな……素行不良~って言われてたから融通も利くかもだし)

 

 自分は囮のようなものだからこそ出来ることは限られる、ならば増やしてから全部やりたい、そんな思いのままツインテールの少女は二度、三度と大きく、誰にともなく頷く。

 ひとつひとつの動作があまりにも隙だらけ。もし見かけた者が居たのならば、背の刀も構わずホイホイ近寄ったかもしれないレベルだ。……囮に選ばれた理由はこれなのだろうか? などと推測してしまう程である。

 

 もっとも彼女は真剣も真剣。チャンスをわざと作っていると言う風でもなく、元から子供ぽいのかもしれない。武闘派幹部にも“麒麟児ちゃん”と呼ばれていたことを踏まえると、それほどに無邪気よりな性格をしていると見受けられる。

 

(う~……もう倒されてた変なおっきい人と言い、何かあると思うんだけどな……でも私の役目は陽動みたいなものだって思われてる(・・・・・)から変に動くとほんとに探ってる護刃の衆(みんな)に迷惑が掛かるかも……)

 

 どうやら先の廃屋地帯にも駆けつけていたらしく、そして幹部の男が言っていたことは半分ばかり外れていた様子。厳密には何の任務でもなく、本当に偶々【歓楽街】に居ただけらしい。何しに来たのか、と言えば。

 

(ここのお抹茶(まっちゃ)は美味しいんだよね……立場は分かってるし、場所が場所だからって戦闘服で来たら怪しむだろうけどさ。偶の趣味すら許されないの? まったくもう)

 

 なんとまあ気の抜ける理由であった。プライベートで来ていたら予想以上の事に巻き込まれたのだから、むしろあの場でああも言い返せたのは大したものだと言う他無い。逆に言うと探りに来ている仲間の存在を明確にしてしまったわけでもあるのだが、ただただタイミングが悪かっただけゆえに何とも言えなかろう。

 

(旅中でフリーだからってプラベ優先の、うきうきのままに伝達の確認を後回しにしちゃったのは痛かったなぁ)

 

 ――訂正、多分半分ぐらいは彼女に非がある。あまりにも自由人、もとい行動まで天真爛漫がすぎていた。

 

 だがこれで彼女が見かけた『鈍牙の黝騎士』という存在に協力を求めた理由がよりはっきりしたと言えよう。そりゃあ私情優先していた矢先の予想外の事態なのだ。最低限の情報共有に収めると言うのならば、上の命令に忠実な1兵卒よりも、素行不良の異名持ちの方がまだ信頼できるというものである。

 元より主となるのは中堅コロニー間であり、大型コロニー間の話とはまた別と言うのも少女が手助けを望む理由の一端……なのかもしれない。

 

 あるいはもしかすると少女にとって、「上への報告」と言うのは守るべきルールとしての話であり、それはそれでコロニー関係無く協力できると思っているのかもしれないが、真相は不明だ。

 

(素行不良というのなら【歓楽街】の事情にも詳しそうだしまずは……あっ、でも魔鋼騎士団に迷惑がかかるかも……けどこのまま帰っても余計に波及するし、示しも付かないし……やっぱり彼女を探そう!)

「次期頭領候補だもん、頑張れるよね、ユウカ!」

 

 グッと力強く両拳を握った少女は徐に天を仰ぎ、決意も新たに一歩を踏み出した。

 

「ど・ち・ら・に・し・よ・う・か・な」

 

 盛大なるあてずっぽうと共に……。

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 ある1人の少女が運を天に任せていたころ。

 

 

 どうやら無事に大通りを抜けてここまでたどり着いたようで、スマイリーは【歓楽街】外れの南東部にて依頼者やそのキャラバンと顔を合わせていた。

 彼女とフォボスこそたった2人で長距離を行き来していただけであり、普通はこのように徒党を組むのが常識。まあ集団という安心感だけでなく、もっと色々と、それこそ腹黒い理由も兼ねていたりするためある意味“一筋縄ではいかない”のだが。

 

 そんな行きずりかも分からぬキャラバンの代表者とスマイリーが、小さなボードを手に向かい合って依頼について話していた。

 

「では、内容は変わらず幻獣鬼(ファンタズマ)および盗賊ども(レイダー)からの護衛、片道切符。ということでよろしいでしょうか?」

「はい、お願いします!」

「依頼開始ぴったりだな、すまないね。こっちの準備の方が間に合わなかったよ」」

「いいえ、ワタシの性分ゆえです。お気になさらず」

 

 最終確認の傍らで彼女は悟られぬように客たちを見回す。わざわざここ最近きな臭い南東部を選んだものにしては、かなり普通の装いでしかない。護身用の武器も拳銃やナイフ、それもフォボスのような疑似ハンドキャノンでもスマイリーのような骨斬りに特化したものでもない、プレーンなもの。バリアー発生装置こと超簡易版パワードスーツも市販品、【歓楽街】はおろか流通の多いジャンク・シティでも買える安価なもの。

 護衛を頼むのが当たり前な装いは、怪しく無さすぎて、逆に怪しい。

 

 無論、護衛業も客商売なのでそんな事を一々スマイリーも聞いたりはしない。今の確認もせいぜいが己の身の安全のためと、客たちが自力でどこまで対応できるか……すなわち持てる余裕の度合いの把握であり、つまり極論いつもの事だったりするのだ。

 

 依頼者達の“怪しさ”もいわば現状が現状だからこそのもの。中堅コロニーのニュースが出た矢先の事件、不明瞭で不可解な巨漢の暴走。普段ならさして気にも留めず、流してしまうのが常であろうことがどうにも気になってしまうのであろう。現にスマイリーもそう思っているらしく。

 

(ひとまず帰りのルートを絞っておきましょう、ワタシ1人ですし。三度厄介ごとが飛び込んでくるなどゴメンですからね)

 

 内心ボヤきながらも目の前の依頼に集中し、依頼者キャラバンの出立まで少し離れて待機する。

 荷運びに参加しないのは理由さまざまあるのだが、自分の立場はあくまで“傭兵”であり今この時も警戒をすべきだということや、キャラバン外の人間に大事な荷物へ手を付けられたく無かろうこと、そしてサボれるときはサボッておきたいと言う彼女自身のあんまりな怠惰が、今の主な理由だった。……3番目が大部分を占めていそうなのは置いておこう。

 

(! ……人はいませんが、あれは“協会”の……)

 

 と、そこで先までの視界の中には入らない遠間、そして死角あたりに、スマイリーはあるものを見つける。今彼女が内心呟いたように、“協会”こと鉄輝協会のマークがついた乗り物だ。しかもかなり小回りが利き、狭い荷台含めて3人乗せられればやっとという完全に個人用の超小型乗用車。

 

 いったい誰が、と考えかけた彼女の思考は、キャラバンの呼び声により打ち切られる。

 

「センセイ! ではこちらによろしくおねげぇします!」

「…………了解いたしました」

 

 どうして先生なのでしょうか。

 

 めちゃめちゃツッコミたげな雰囲気を隠しもせず、フォボスの軽トラとは比べ物にならないサイズの荷台を持ち、しかしフォボスのものよりも若干古い型な車の荷台へスマイリーはひょいと飛び乗った。そのまま改めて点呼をした後、【歓楽街】外れ南東からさらに同南東方面へ向けてキャラバンは出立した。

 

 

 ―――揺られること暫し。

 

 

「そう言えばなんですが、その、貴女も最近の事件について知っていたり?」

「ええ野次馬(ぶがいしゃ)として。しかし無計画での傍迷惑な破壊行動とは、やれ呆れたものです」

 

 特に幻獣鬼やレイダーと言った脅威も観られないからか、依頼人はふと思い出したようにスマイリーへ話題を振る。対し彼女は顔を遠ざかる後方へ向けたまま言葉だけで答を返す。

 

「噂ではオーバードーズや改造痕もあったとか……似たような事件が頻発したりしてて、【歓楽街】関係のコロニーもなんかあったりで、こう、怖いですよね」

「しかし対処は、全くの不可能でもありません。下手に立ち向かわずできる事をやれば生活は確保可能ですし」

「依頼受けてくれるセンセイぐれぇ強くてもダメなもんはダメなんか、やっぱ恐ろしいなぁ」

 

 キャラバンの他メンバーも会話に加わるがそこを気にすることもなく、自分の実力に対しての評価へも特に反応せず、ただ後方と左右だけを警戒し続けるスマイリー。地味に剣鉈の柄へ常に手が乗っているあたり、警戒はなにも視界だけの話じゃないことが伺えた。

 

 が、そんな彼女もぴくりと反応せざるを得ないものへ、話題は移り変わる。

 

「なんでも一説には機怪蛮能(イヴィルマキナ)持ちが関わってるとか、居ないとか言われてたりで」

「関わっててもおかしくないわ、、だってやつらならそれぐらい出来る力はあるもの。あたし見たんだから、マシンガンと腕がぐちゃぐちゃに組み合わさって、その弾丸がさぁ」

「おれも見た、あんなちっさい刃からバケモンみてぇな……つうか幻獣鬼を呼ぶ原因ってのもまだ否定されてないんだろ?」

「なるべく近寄って欲しくないなぁ、それがジャンク・シティであってもさ」

 

 先の逃走戦でスマイリーが見せた【機怪蛮能(イヴィルマキナ)】は、なにも強力なだけの力ではない。むしろリスクの方が大きいと言える。そのひとつがご覧の通りの爪弾き者あつかい。明かされれば最後コロニーからは追放され、ジャンク・シティですら一般市民は露骨に避けるのだ。【歓楽街】も中は兎も角その外部、集まった町々では最悪排斥の対象ともなる。

 

 一方、“バレなければ”と言う前提さえ守られれば、コロニーの最重要戦力として保持されるために、一般市民が思っているほど根から遠ざけられているわけでは無い。もっと言えば制御技術や模倣技術の存在をちらつかせてカモフラージュとし、コロニー追放に処しているのは暴走したり規律を放り出したものということにしたり(・・・・・・・・・)と、一般市民の方も全てにおいて何も知らないという訳では無い。

 

 つまり彼らが嫌う【機怪蛮能】は一重に誰の為にも戦わない、ある種遠ざけられて当然な者達の事であり、ただそれが真実とは限らぬうえで、それこそが余計な排斥を生む原因にもなっている……と中々に複雑なのだ。

 

「センセイもそう思うべな! あんな奴らどっかいっちまうのが良いんだ!」

「まあ、そうですね。そう認識して然るべき、ゆえ正しいでしょう」

「! ええ! やっぱりそう思いますよね!」

「天からの恵みであるリュミエールウェポンを禍々しく変え、捻じ曲げる。節理の混沌を許しちゃならん」

 

 白々しいまでに素直な同意を返したスマイリーに、護ってくれる存在の同意を得られて協力関係を強固に出来たと認識したからか、少し浮足立ったように喜びの色を見せる。何やら協会にでも所属していそうなことを呟く者も居るのだが、彼女はやはり反応を返さなかった。

 

「中堅コロニー間の競争の、レイダー関与の疑いだっけ? にも実際関わってたんだろ?」

「うん、流石に何でもかんでもって思ってたけど、どうもデマじゃないのよね」

「やっぱり居ちゃダメだわ! アイツら!」

「いっそレイダーみたく倒して良しになればと思うけどなぁ」

「そりゃ無理だって、強いんだぞ? レイダーに味方されたらおしまいだ」

 

(さて、使用出来る札がここで少し減りましたね。簡潔に練り直すとしましょうか)

 

 明確な格差や安定の維持など、日頃様々なストレスにさらされているゆえに、恨み辛みをぶつけられる対象が現れれば立て板に水、愚痴も割る口も止まらない。半ば勢いで、鬱憤(うっぷん)をどうにか吐き出す為に口走っている者も多いのだろうが、それはそれでこれはこれ。

 念の為を考える事に念を入れたスマイリーは、それでも少し溜息を吐いた。

 

「その、知らずの内に抜けてる人もいるらしいですからね、最近は」

「センセイも気を付けて下さい! すぐそばにこそ脅威がありやすんでね!」

「肝に銘じておきましょう」

 

 言いながらスマイリーはおもむろに立ち上がり、2、3度ばかり腕を回す。体をほぐしているのだろう、と思いきや散弾銃まで抜き放ち、くるくると回してもてあそび始めた。

 

 表情は冷徹なまま一切変わらず、静かながらに血気盛んというミスマッチな雰囲気をかもし出しながら、キャラバン員達がちょっと会話の音量を落とすのも構わず、前へ着きつけた銃身沿いに遠間を見やる。何をしているのか……誰かがそう聞こうとした、瞬間。

 

 ――唐突な銃声をつんざき、重ねて、ネズミのような鳴き声が聞こえた。

 

「脅威は、すぐそばにありますからね」

「!! は、早く前方へ! 後方はセンセイが請け負うから! 早くーっ!!!」

「なんだあれは!? この行路のやつって……!」

 

 ほとんどオウム返しでつげたスマイリーの言葉を皮切りに、キャラバンは全体速度を上げてやってきた羽根ネズミ型幻獣鬼から距離を取る。彼らの慌てぶりとは対照的な冷静さで彼女は襲撃者を睨んだ。

 

(幸いにして飛行能力があること、群れることと……もうひとつ以外は無問題のパターン。ならば“そのまま”蹴散らしましょう)

 

 思考しながらナイフを右、左、前方へ次々投擲し、空中でバランスを崩しもんどりうった羽根ネズミは先の炎狼の如く、他の個体を巻き込んで後方へ吹き飛んでいく。『戻ってきた』ナイフを手に取りながら体をねじり、続けて肩へ担ぐようにして後方に銃口を向け、散弾銃を発砲。

 反動で前に出ながら突撃してきた個体へ、突き刺し、蹴り飛ばし……たその勢いで回転しながらまたもやナイフを広く投擲。つたない包囲網が崩れたところへ追い打ちの1射(シェル)が飛来、数匹まとめて粉砕する。

 

「ふん」

 

 斜め上から唐突に歯を突き立てようとした羽根ネズミも居た、のだが上あごを貫通するようにナイフを刺されてそのまま鋭く投げられた。抜けなかったのか戻ってくるときもまだ居たものの、それすら利用して鈍器代わりにぶん回す。

 

「……おっと」

 

 途中2匹ばかりに、本当に噛みつかれかけたのを、散弾銃を持ったまま前歯へ裏拳を叩き込むことと、肩で弾くようにしたことで阻止。

 これ以上のお代わりなどもないようで、暫くの警戒の後、キャラバンの運行速度は通常通りに戻された。

 

 ……傍ら、スマイリーは“もうひとつ”について思考する。

 

(幻獣鬼にも生息域が存在する、そしてあれらタイプはこの辺りに分布しない……現に今も聞きましたし。ただもし繋がりがあるのならば、問題は相当根深いのでしょうね)

 

 だがそれでも何も変わらない、スマイリーは最終的に思考をそうしめる。自分がやれるのは日々の仕事とそれによる安定、そしてフォボスのカフェの看板娘なのだと。

 

 幸いにして彼女の懸念と奥底の怠惰を運気が尊重したのか。何事もなく指定の場所まで到着し、スマイリーは荷台から飛び降りた。始まる荷下ろしや点呼をなんと無しに眺めるそんな彼女へ、ひと通り作業を終えてからキャラバンの代表者、依頼人が疲れつつもきちんとした笑顔を浮かべて近寄る。

 

「あの、今日はありがとうございました!」

「依頼ですので。仕事なればこそ努めて遂行いたします」

「センセイはプロフェッショナルだなぁ」

「ほんとに助かったわ、皆無事よ。ありがとう!」

 

 そうやってお礼を言っている女が【機怪蛮能】保持者だと知ったらどう思うのだろう―――などとネガティブなこと考えつつも一切表に出しはせず、頷くだけで返したスマイリー。前払い制のためGは既にもらっている。なのでこのまま帰りの護衛前提な格安便を有料で拾って、とそう考えていた彼女の背中を依頼人は呼び止めた。

 

「すみません! 最後にその、もうひとつだけ、よろしいですか!?」

「どういう要件で?」

「はい! 本当に簡単な事でして……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ここでくたばれ、蛮能保持者(くそおんな)

 

 そして茶目っ気ネガティブの代償とばかりに、多方位から銃と砲が付きつけられた。

 

(ああ……もう……全くもって……)

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

「あの、本当に良いの!?」

「もちろん! 仕事と言うならば力を貸すのはやぶさかでは無いので!」

「ありがとう! これで何とかなるかも……!」

「ではばりばり行きますよぉ、掴まっててくださいね―――捌ノ番『桜姫』さん!」

「了解だよ、恵天派『闘聖』!」




畳みかけて、また畳みかけるスタイル。

それではまた次回。
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