ワールドエネミーのユグドラシル暴食日記   作:リィン教官VSゴミカス蛆虫宮沢鬼龍

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拝啓愛しきご馳走様

 グラトニーは耳に入った悲鳴を聞いて考えた。この先に行くべきかどうかを。目の前にあるのが村である以上、そこにあるのは新鮮な村人()

 

 

 本来なら迷うこと無く向かっていただろう。

 

 しかし軽率で愚かなグラトニーの命を何度も何度も、それこそまだ人間だった頃から守ってきた異常な悪運と、異様に優れた勘が警告する。行ってはならないと。

 

 ワールドエネミーとして猛威を振るっていた時のグラトニーはごく僅かな例外を除き、容易く仕留め、喰らうことができた。

 

 ぶっちぎりの最強種(ワールドエネミー)32体のうち最弱ではあったが、裏を返せば自身より強い存在が31体しかいないと言うことでもある。

 

 少なくともユグドラシル内ではそうであった。

 

 世界級(ワールド)アイテムという規格外のマジックアイテムが絡めば話こそ変わってくるものの、それこそ《世界級(ワールド)チャンピオン》や《世界級(ワールド)ディザスター》といった、プレイヤー最上位の連中やレイドボスですら自分には勝てず結局最後はお腹の中だ。

 

 だが今はどうだ。150あったレベルも、いくつもの凶悪な《特殊能力(スキル)》も失われている。

 

 襲撃者どころか村人でも複数で襲い掛かれば自分を十分過ぎるほどの確率で殺せるだろう。

 

 間違いなく、余計な事に首を突っ込むべきではない。

 

「でもね……」

 

 グラトニーの腹から地鳴りの様な、大気すら震わす重低音が鳴り響いた。

 

 それ以上に恐れるべきは産まれてこの方ほぼ常時自身を苛む飢餓という悪魔だとグラトニーは思った。

 

「ちょっとだけ、ちょっとだけだから……」

 

 勘は行くべきでは無いと警鐘を鳴らすものの、食事を求めて真っすぐ村へと進む歩みが止まることは無かった。手に入るのはまだ見ぬ強者(ご馳走)か、無辜の民()モンスター(ご飯)か。

 

 そう思いながらもグラトニーは村へと入った。

 

 そこでは村人と思わしき質素な服をきた人々に全身鎧をきた騎士風の男達が剣を振るっていた。殺戮。

 

 よく勘違いされるが村人は決して弱者ではない。

 

 長年かけて、社会性を武器として、いくつもの種が滅ぼされた生存競争の淘汰から逃げ切り、同期が次々に滅ぶ中進化し続けた屈指の強種族。怪物に幾度脅かされようと、ついぞ世界の主権を怪物に完全には受け渡さなかった強者。その末席に立つ者たちが、知能と社会性を駆使し、村という巨大なコミュニティを作り外的に立ち向かうのだ。

 

 大概の魔物なら蹂躙できる。いや、できなかった連中はみんな死んでいる。生きているだけで強者である。

 

 しかしその強者も、同種族のさらなる強者には敵わない。

 

 カルネ村が属する王国の敵対国家、バハルス帝国。

 

 その帝国兵の姿をしたもの達が村人を虐殺していた。

 

 武装、鍛錬、才能、殺意、悪意、統率、その全てで、虐殺者達に上回られている以上、この場における村人は弱者だった。

 

 しかし、襲撃者たちもまた、それ以上の暴力にさらされれば容易く蹂躙される弱者となる事からは逃れられない。

 

 そう今から起こる事の様に。

 

 ■■■

 地面に転がってた上半身だけのおじさんの肉を拝借していただいていたけれどなかなかイケるわね。

 

 あむ。むしゃむしゃ。くっちゃくっちゃ。もっきゅもっきゅ。

 

 ごくん。

 

《人間男(上半身)完食! exp97》

 

 さてさてこのまま死体を漁りつつ隙を見て逃げ出しましょうか。鎧肉を仕留めて喰いたかったんだけど今の私では普通に手こずりそう。

 

 レベル3超えの肉がゴロゴロいそうな感じだったしなかなかきつい。

 

 

 

 ああ……生殺しだわ。こーんなに旨そうな食べモノがいっぱいあるのにちょっぴりつまみ食いしただけで終わりだなんて。

 でもでも割とこいつらの戦闘能力は玉石混交。上澄みの連中は10レベルくらい

 

 でもでも雑兵らしきそこまで強く無さそうな連中もいるし、一人二人ならやり方次第で食えそうね。

 

 

 

 しかもフルプレート連中は硬い物に急所を覆われた生物という、私の〈切り札〉の格好の獲物

 

 ちょ―っとつまみ食いしてから逃げましょうか

 

 

 そして私は逃げ、隠れつつ、私は餌を探す。なんで低レベルかつ隠密特殊能力(スキル)も無いのに狭い村の中で逃げられるんだと思われるかも知れないけど、私は子供の頃から人を30人ばかり喰っただけで牢屋に打ち込もうとする血も涙もない連中に理不尽に追いかけ回されて逃げて逃げて逃げていた。

 

 

 この程度の連中との追いかけっこなんて大した事ない。

 そしてバレないように動き回りながら村人の肉や狩れそうな肉を探しているとついに見つけた。

 

 そこにあったのは三つの肉。鎧を着た肉に女の肉、ガキの肉の3種類。女肉はガキ肉の手をつかみながら逃げ、鎧肉はそれを追いかけている。しっかしなんで鎧肉共はこいつらを追いかけているのかしら。食べるためかと思ったけど、何故か私以外の人は人間を食べないのよね。ほんっと変な奴らだわ。

 

 特に女肉が旨そうね、髪は栗毛色で、胸元辺りまでの長さに伸ばした三つ編み。肌は農作業で健康的に日焼けしているわ

 

 あーらら子供肉が転んでそれにつられて女肉も足が止まったわ。

 

 んでそれに鎧肉も剣を振るいますっと。

 

 これはチャンスだわ。

 

 私は棍棒を強く握った。

 

 誰でも獲物を狩ったと思った瞬間には油断するものだわ。

 

 その時になったら後ろからどーんしてその結果私はお肉を三つ手に入れる。

 

 私のご飯収集の手伝いができる女肉も私の栄養になれる鎧肉もお腹ペコペコの私もみんなが幸せになれるとっても良いアイデアだわ。ウフフ。

 

 そう思っていたら女肉が抵抗を始めた。

 

「なめないでよねっ!」

「ぐがっ」

 

 その細腕で思い切り鎧肉の顔面へ正拳突きを繰り出した。

 ゴキリといい音がして鎧肉が怯むが

 女肉もただでは済んでいない。

 

 手から骨が見えるほどに手がぐちゃぐちゃでとっても美味しそう……ゲフンゲフン、痛々しい。

「はやく!」

「うん!」

 そう言って二人は逃げ出そうとするがそうは問屋が卸さない。

 

 瞬く間に体勢を立て直した鎧肉が憤怒の表情で剣を振るう。

 

「くっ……」

「きさまあああ!」

 

 女肉の背中を切りつけた鎧肉がとどめを刺そうとするがその剣が振るわれることは無かった。

 

「ウフフ、こんばんわ」

 

 私が棍棒をフルスイングして、頭に血が登った鎧肉を殴打したからだ。

 

 鎧の隙間から血が噴き出し、喉に何か詰まったような悲鳴が耳へ入ったし結構効いてるようね。

 

 前のめりに倒れてもなお離さなかった剣を蹴り飛ばし再び棍棒を振るおうとするが鎧肉の蹴りでそれがどこかへ言ってしまう。

 

「チッ!」

「殺す!」

 

 鎧肉は憤怒の表情で立ち上がり私に殴打を繰り出してくる。

 

 フルプレートでのパンチとか直撃したら普通に死んじゃうわね。

 厄介だわ。

 

 何とか経験を活かして避けられてるものの当たるのは時間の問題

 

 その上今は頭に血がのぼっているから良いけど冷静になられたら普通に殺されるし増援を呼ばれるのも不味い。

 

 次の瞬間棍棒を拾った女肉が鎧肉の背後へ迫り後頭部へ棍棒を振るうがかわされる。

 

「なんなんだよ! 弱者共が! わらわらたかって来やがって! きっちり痛めつけて殺してやるよ!」

「ネム! 逃げて!」

「ねえそこの女肉……もとい村人さん! 私は味方よ! 協力してこいつを殺しましょう」

「は、はい!」

 

「うっぜえな!」

 

 鎧肉が石を取り女肉へ投げつける

 

 それを女肉は必死で避けようとするが頭にモロにくらい気絶した。

 

「使えない肉ね」

「お前もすぐ死ぬんだよ!」

 

 取っ組み合いになるがこっちは普通の女の子。

 大の男に取っ組み合いで勝てるわけもなくねじ伏せられ押し倒される。

 

 マウントポジションを取ったことで油断した鎧肉の喉笛へ私は噛みつきを繰り出した。鎧肉の目に嘲笑の色が浮かぶ。

 当たり前ね。

 鎧を歯で砕けるわけないのだから。

 

 バリッギリギリボキリッ

 

 私が相手で無ければだけど。

 

「プレートアーマー如きで私の噛みつきが防げると思っちゃった? 残念でしたあ。もむもむ。ごっくん」

 

「ば……バケモノ」

 

 そう言い残して鎧肉は絶命した

 

 前世で弱っちかった時によくやった手だけど硬い物で急所を守ったつもりの相手にはよく効く手だ。

 

 さあてさてさてじゃあお楽しみの

 

「いっただっき……」

「アレックス! クソが!」

 

 そして私も背後から切られた。灼熱が線のようになり私の背を走る。クソッまだ肉がいやがったか。

 

 即座に振り向いて喉笛を噛みちぎろうとするが足に剣を突き刺される。

 

痛っ(つっ)

「お前か? お前がアレックスをやったんだな! 嬲り殺してやる!」

 

 ヤバい殺される。

 殺されるのは嫌だ。

 殺されたらもう何も食べられないじゃない。

「クソがっこっちはまだ全然喰い足りてねえんだよ! ラーメン! ケーキ! ピザ! 肉まん! カレー! ハンバーグ! チャーハン! 餃子! ステーキ! プレイヤー! 竜王! まだまだ食べたいのに! こんな所で死ねるわけ!」 

 

 そう言うと私に剣を振ろうとした男の目が私の後ろに言っていることに気がついた

 

 そこには闇があった。

 

 

 薄っぺらな、どこにあっても終わりがなさそうな深みある漆黒。それが下部を切り取った楕円形状の形で、地面から浮かび上がっていた。

 

 白骨化した頭蓋骨の空虚な眼下には、この世の全ての生を憎むような毒々しい色合いの炎が、本来お肉や皮があるべきその胴体にも四肢には骨だけしかない。死が豪奢なローブを纏って現れたかのような骸骨、それが今現れた。

 

 ヤバい! ヤバい! ヤバい! ヤバい! 

 

 恐らくこいつが表れるのに使ったのは第八位階《転移門(ゲート)

 

 その位階が使える《魔法詠唱者(マジックキャスター)》相手にレベル3しかない今の状態で勝てるはずがない! 

 

 いや、それどころじゃない! 今まで私の命を何度も何度も救った勘が言っている。

 

 こいつはプレイヤーとか言う規格外の強さの肉共の1体であると! 

 

転移門(ゲート)》から出てきたその骸骨は

 何かを握りしめる仕草をする。

 

 恐らく発動したのは十段階ある魔法、一位階から始まり第十位階まである魔法の第九位階に位置する《心臓掌握(グラスプハート)

 

 即死という、格下に強く、格上に弱いというクソみたいな能力系統ながら、この魔法は格上相手にでも有効な選択肢の1つと成りうる。

 

 その理由は抵抗されて失敗した場合朦朧という厄介な状態異常含めたいくつもの状態異常を付与する効果。

 

 その上この追加効果は抵抗する難易度が恐ろしく高くさらに即死付与率を特殊能力(スキル)なりで強化する程朦朧効果も強化される。

 

 単純な即死魔法として見れば七位階の《嘆きの妖精の絶叫(クライオブザバンシー)》にも範囲確率両面で劣るが、朦朧付与魔法に即死がおまけされたものだと考えれば恐ろしく凶悪な部類に位置する魔法だわ。

 

 一見地味ながらも、対人に於いて屈指の性能を誇る魔法を選んだ以上、間違いなくこの魔術詠唱者は戦い慣れてる。

 

 クソッタレ、全盛期なら《聖撃》《清浄投合槍》なりでどうにでも調理できたのに今の搾りかす未満の弱体化ではどうにもならない。

 

 その時私の勘が、何度も私の命を助けて来た勘が再び言った。

 

 目の前のアンデッドは全盛期でも決して容易く勝てる相手ではないと。

 

 言わばこいつは 《超越者(オーバーロード)

 

 ああ! でも……私は胸に手を置いた。胸がドキドキする! ヤバい! めっちゃくちゃ美味しそう。なんで肉も何も無い相手にこんなに胸が高鳴るの? 涎が滝のように溢れ出し胃袋は狂ったように活性化、腹の虫は狂ったように催促音を奏でる。絶対にこいつを喰ってやる。

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