ワールドエネミーのユグドラシル暴食日記   作:リィン教官VSゴミカス蛆虫宮沢鬼龍

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死の支配者実食はひとまずはおあずけ

 マジックアイテムでモモンガが見たのは背中を騎士に切られる一人の少女だった。

 

「誰かが困っているなら助けるのは当たり前」

 

 それが口癖であり、モモンガを助けてくれたたっち・みー、彼への恩を返すために、モモンガはこの村を助ける事を決めていた。

 

 もはや一刻の猶予もないと思いモモンガは〈転移門〉で飛んだ。

 

 〈心臓掌握(グラスプハート)〉第九位階に位置する、対人特化として定評を受けていたその魔法で、モモンガは騎士を殺した。

 

 鈴木悟は温厚な一介のサラリーマンである。当然人殺しの経験など無い。人殺しを喜ぶ趣味も無い。しかし元同族である人間を殺めたのにも関わらず鈴木悟の心は微動だにしなかった。「そうか……やはり体のみならず心まで人間をやめたと言うことか……」モモンガはそう呟いた。人間を辞めたので、元同族を殺しても心が痛まないのは分かる。しかし心が痛まないなら、心の痛みを感じられない事に寂寥感や絶望を感じるだろうと思った。それすらも無かった。

 

 〈心臓掌握(グラスプハート)〉によって騎士が倒れた事で辺りを静寂が支配した。

 

「脆い……こんなものか……」

 

 警戒していた騎士のあまりの戦力の低さに呆れた様な声をモモンガは出した。

 

 そしてアインズは周囲を見渡した。そこにいたのはモモンガが殺したのとは別の、まるで獣に噛みちぎられたかのような噛み跡を喉に残している騎士風の男と、三人の少女だった。うち二人は一般的な村人というべき姿と服装をしていたが、残りが異常だった。姿形はそこまでおかしくはない。

 

 モモンガがこの世界へ転移してきてから初めて見る黒髪黒眼であることとガリガリに痩せ細っている事以外は、一般的な少女の範疇の外見だ。

 

 ただし以下の特徴が無ければ。変だと思ったのはまず服。貧乏な村人でもこれより遥かに上等な服は幾らでも着れるだろう、と思わせてくる程貧相なボロ切れを着ている事がまず奇妙だった。それ以上におかしいのは口を中心としてまだぬらぬらと輝く返り血にまみれていた事。こいつは人間でなく食屍鬼(グール)かとモモンガは思い始めた。

 

 

 一体こいつはなんだ。背中を大きく切りつけられているにも関わらず、あまりそれを気にしている様子が無い。

 

 それに奴がこちらに向ける目……まるで半年お預けをくらった獣が、ご馳走に向けるようなぬらぬらとした粘着質な目線。

 

 これではまるで自身を喰らおうとしてるかのような……

 

「はっ!」

 

 考えすぎだと目モモンガは思った。まず自身は骨しか無い。貪欲の権化たる〈食屍鬼(グール)〉も骨を割って髄を啜ったりはするが骨までは食べる事は無い。

 

 それ以前にアンデッドなんて食えたものでは無い。

 

 腐肉と骨と不浄で構成された種族に食欲を抱くなんて事あるはずが無いからだ。そんなゴキブリ食やスカトロが可愛く思えてくる様な悪食さを持つ暴食者(グラトニー)なんているはずが無い。

 

 それ故気の所為だ。だが……モモンガは魔法の発動を準備する。疑わしきは罰せよ。

 

 〈心臓掌握(グラスプハート)〉如何なる理由か手に伝わる心臓の感触が、その気になれば確実にいつでも容易く握りつぶせるという情報を伝えてきた。その少女が大した戦闘能力を持っていないとモモンガにもはっきりと知覚できた。後は握りつぶすだけだ。

 

 その時何故かたっち・みーの顔がモモンガの脳内にチラついた。

 

「たっちさん……はぁ。分かりました。そうですね。あなたへの恩返しですから、全員助けて見せます」

 

 その時地鳴りのような音がモモンガの耳に届いた。

 

 発生源はなんとなく分かっていたが

 

 疲労感を感じながらも会社員時代に鍛え上げたスルー能力を生かしてモモンガは能力を発動した。

 

 発動した〈特殊能力(スキル)は〉〈中位アンデッド作成〉霧が膨れ上がり騎士に溶け込んでいく。闇が〈エルダーブラックウーズ〉の様に騎士を捕食しアンデッドに作り変えていく。何故か残念そうな顔をしながら指を咥える妙な少女が目に入ったがモモンガはスルーした。

 

 そして死の支配者(オーバーロード)は完成したアンデッド〈死の騎士(デスナイト)〉に命令をする。

 

「この村を襲っている騎士を殺せ」「オオオオオオオオォォォォォ!」

 

 ぼとりと眼球を落としながらも死の騎士(デスナイト)は駆け出した。生者への憎しみと加虐性をその眼窩へ灯しながら。

 

「行っちゃったよ……タンクが召喚者守らなくてどうするよ……」

 

 その時半ば消えかかった転移門(ゲート)から人影が飛び出して来た。

 

 モモンガは漆黒の、それ自体が攻撃力を持ったかのような凶悪な全身鎧によって全身を覆った悪魔というべきか、騎士と言うべきか、ともかく邪悪な騎士と言うべき存在が現れた。

 

 高位の……それこそ人知の及ばない程高位の悪魔が、その邪悪な脳味噌で畏怖と威厳というものを形にしたらこうなるのでは無いだろうか。毒々しい悪趣味な見た目でありながら、どこか芸術品の様な神々しさを、それは振りまいていた。

 

「準備に時間がかかり、申し訳ありませんでした。御身の事を考えれば、例え無武装であっても即座に向かうべきであるにも関わらず……」

「良い、アルベド。私に傷は無く、完全武装のお前がきた。それだけの話だ。私がお前の立場ならそうする。我が身を害せるものに大して非武装で立ち向った所で下手をすれば死体が二つに増えるだけなのだから」

 

 モモンガはアルベドの綺麗な声を聞きそう返した。その直後死体である自分がそういうのも変だったなと思いなおしたが。

 

 アルベド。ナザリック最高のタンク。設定厨のタブラ・スマラグディナさんが、邪悪で病んだ壊れきった精神と、清楚で聖女で淑女な美女の外見を併せ持ったクソ女という己の性癖を満足させるべく作った100レベルNPC。

 

 〈女淫魔(サキュバス)〉という明らかに近接戦に向かない種族でタンクをやるというネタ構成なものの、職業レベルはガチで練られている上に、種族レベルよりも職業レベルで大まかな戦闘能力が決まるというユグドラシルの仕様によりその戦闘能力は決して低くない。

 

 ギルド単位のPVPと鉱石系の敵相手以外ではクソの役にも立たない、対物体特化武器だったとは言え、ワールドアイテムへの耐性をつけるため、ワールドアイテム〈真なる無(ギンヌンガガブ)〉を貸与されていた事からもその愛され具合が伺える。

 

「ありがとうございます、それでその下等生物3匹の扱いはどういたしますか。お手が汚れると言うのなら私が代わりに処理しますが」

「セバスから何を聞いてきた。野々村を助ける。とりあえずの敵はその鎧を着たもの達だ」

 

 

 そして言った。「とりあえずお前達3人は怪我をしているようだな、飲め」

 

 そう言って〈下級治癒薬(マイナーポーション)〉をインベントリからモモンガは取り出した。アンデッドであるアインズには正の力を持ったポーションは毒となるためこれは仲間の為に持っていたものだ。もっともアンデッドで無かったとしても回復量自体がモモンガの膨大なHPからすれば誤差未満であるため使う事は無い。

 

「の、飲みます! だから妹には!」「お姉ちゃん!」二人の村人の様な少女が言った。

 

「何これ、ポーション? チッ! 食べ物じゃ無いのかよっ!」小声でボソリと妙な少女が言った。

 

その瞬間アルベドの殺意が爆発した。

 

「温情によって薬を下賜されたのにも関わらず、下らない文句をつけるとは……下等生物風情が……万死に値する」

 

 アルベドがバルディッシュに力を込めるのがモモンガに伝わってきた。アルベドが人間嫌いなのを差し引いてもこの奇妙な少女への怒りは当然と言ってもいいだろう。

 

 わざわざ危険をおかしてきたのにも関わらず、感謝の素振りも見えない相手に対して怒りを覚えるのは当然だ。殺意にまで発展してもおかしくない。たっち・みーさんへの恩返しと言う目的が無ければモモンガ自身も気分を害し助けずここを去っていたかも知れない。しかしここでこの少女まで殺しては助けに来た意味自体が無くなる。

 

「ま、待て。急ぐな、物事には順序というものがある。武器を降ろせ」

「……かしこまりました。お言葉に従います」

 

 物理的な圧力すら感じさせる濃密な殺意を向けられてもその少女に怯む様子は無い。

 

 それを本当の奇妙だと思いながらもモモンガは問う。

 

「お前達は魔法と言うものを知っているか」「は、はい。村に時々来られる薬師の……私の友人が魔法を使えます」「私も知ってるわ」「そうか、なら話が早い。私は魔法詠唱者だ」

 

 そう言ったモモンガは、2種の魔法をかける。

 

 生命の侵入を拒否する3メートル半の結界を張る〈生命拒否の繭(アンチ・ライフコクーン)

 

 物理的飛び道具の軌道を逸らす〈矢守りの障壁〉

 

 三人の少女にモモンガは簡単な魔法の説明をした。

 

「それと念の為にこれもくれてやる」

 

 そう言ってモモンガは三つのみずぼらしい角笛を出した。

 

「それは小鬼(ゴブリン)将軍の角笛と言うアイテムだ。それを吹けば1グループのゴブリンがお前達の味方になる。」それだけ言ってモモンガは背を向け歩き出す。

 

 しかし数歩も行かないうちにモモンガの背中に声がかかる。「あ、あの助けて下さってありがとうございます!」「ありがとうございます!」「気にするな」「あ、あと厚かましいお願いだとは分かっています! でもあなたしか頼れる人がいないんです! お母さんとお父さんをどうか助けて下さい!」「了解した、生きていれば助けよう」「ありがとうございます、ありがとうございます! ありがとうございます!! そ、それとお名前……お名前はなんとおっしゃるのですか?」

 それに対しモモンガ……いや、アインズは答えた。

「我が名はアインズ・ウール・ゴウン」

 

妙な少女からはついぞ感謝の言葉は無かった。

 

 

 鈴木悟は決して飛び抜けた知恵者では無い。しかし決して愚かではない。今日鈴木悟には何度もグラトニーを殺すチャンスがあった。殺意を持つに値する行動も何度もあった。しかしグラトニーは生き残った。その悪運こそがグラトニーの最大の武器であった。そしてこの怪物、初動で潰さなければ無限に強くなる怪物を殺せなかった事はナザリックとワールドエネミーの対決を産むことになる

────────────

 プレイヤーである骨と私に殺気を向けて来やがった鎧肉共が去った直後、静寂が訪れた。張り詰めた雰囲気は弛緩し村が襲撃されている最中とは思えないどこかホッとした雰囲気が漂う。はぁ。ほんっとあいつら美味しそうだった。見てるだけで溢れ出す涎を抑えるのが大変だったわ。

 

「あ、あなたも助けてくれてありがとうございます。私の名前はエンリ。エンリ・エモットです」

「そう……私はグラ……いいえ、クロエよ。よろしくね」

 

 さてさてこっからどうしましょう。私は落ちていた棍棒を拾い、手でそれを持て遊んだ。これをフルスイングしこの目の前にいる女肉を殺して喰うのは得策じゃないわね。あの超越者が助けにきた庇護対象である以上こいつを喰ってあの超越者と敵対するのはあり得ない選択。少なくとも今は。

 

 それはそれとしてあまりに旨そうな食事を見て荒れ狂ってる腹の虫様をなだめるために何か必要だわ。

 

「はぁ────────────……」

 

 ぎゅるるるるるるるるるるるぐうううううううううぅぅぅぅ

 

「お腹空いた……ねえあなた……エンリだっけ? 何か食べるもの持っていないかしら」

「す……すみません……いま何も無くて」

「使えないわね……私が善意で貴方を助けて上げたのだから貴方も山盛りのご飯という形で即刻山のような食べ物を私に……ん?」

 

 その時私の頭に天才的なアイデアが浮かんだ。

 そして笑みを浮かべて私は言った。

 

「うふふ……エンリ。もし私へ感謝するという人間として当然の誠意があるのなら、私にその角笛くれないかしら?」

 

 そう言って死の騎士の落とした眼球を拾って口に運んだ。くちゃくちゃくちゃ。ごっくん。

 

 〈デスナイト(眼球)完食! EXP500獲得! 〈食いしばり〉〈アブソリュートタウント〉習得! レベル5上昇! 〉

 

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