【完結】自己肯定感ゼロのボクっ子陰キャちゃんを全肯定してみたら激重ヤンデレになりました   作:崖の上のジェントルメン

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12.ともだち(1/2)

 

「そんでさー!優樹!あーしさ、肉ダイエットってのやろーと思うんだー!」

 

金森さんはいつものように、元気ハツラツな声で僕にそう言った。

 

「肉ダイエット?なんだい、それ?」

 

「最近SNSでバズってたんだけどー、肉だけ食べて痩せるってやつなの!あーし肉好きだし、これ超いいじゃん!と思って!」

 

「に、肉だけ食べるの?それって本当に効果あるのかな?」

 

「えー?たぶんあると思うよー?ていうか、このダイエットじゃないとあーしやりたくないもーん」

 

「もう~。本当は、金森さんがお肉食べたいだけなんじゃないのー?」

 

「きゃははは!バレちゃったー!」

 

金森さんは目を細め、口を大きく開けて笑った。

 

彼女とは、実は一年生の頃に同じクラスだった。

 

家庭科の授業の時にたまたま同じ班になって、その時に仲良くなれた。

 

今は別のクラスだけど、たまにばったり会った時は、こうして雑談を交わすことがあった。

 

底抜けに明るい人だから、男女問わず人気があった。彼氏がいるかどうかは知らないけれど、凄くモテるという話はよく耳にする。

 

「んじゃ、またねー優樹ー!ばいばーい!」

金森さんは、自分のクラスである2年1組の入り口前に立って、僕に手を振った。

 

そして、「みんなおはよー!」と元気な声で、教室の中にいる人たちへ挨拶をしていた。

 

僕はそんな彼女を見送ってから、自分の教室である3組へと入っていった。

 

「ふー……」

 

息を吐いて、席に着く。窓の外では雨が続いていて、どんよりと暗くなっていた。

 

ガタッ、ガタガタ

 

その時、隣の席に黒影さんがやって来た。

 

彼女は机の上に鞄を下ろして、ゆっくりと椅子に腰かけた。

 

そうだ、今日は黒影さんからダーク・ブルーを借してもらう約束をしてたんだ。楽しみだなあ、黒影さんがあれだけ熱弁するんだから、きっと凄く面白いに違いないぞ。

 

「黒影さん、おはよ!」

 

僕がそう言って挨拶すると、彼女はこちらへ顔を向けた。

 

「あ、う、うん……。お、おはよ……」

 

その時の黒影さんは、なぜか……異様に曇った表情だった。

 

目線も泳いでいて、妙に落ち着かない様子だった。

 

(……なんだろう?何かあったのかな)

 

僕は彼女の顔を覗き込みながら、「大丈夫?」と尋ねてみた。

 

「もしかして、どこか具合でも悪い?」

 

「え?あ、い、いや、全然……へ、平気」

 

「そう?それにしては……顔色がよくないけど」

 

「ほ、ほんとに平気、だから……。し、心配させて、ごめんなさい……」

 

そう言って、黒影さんは僕から顔を逸らしてしまった。

 

僕は結局、それ以上追及することができなかった。

 

 

 

……その日、僕は一度も黒影さんと話すことができなかった。

 

あからさまに嫌な顔をされたとか、「話しかけないで」と言われたとか、そういう明確な拒絶はなかった。

 

ただ、目に見えない透明な壁が……僕と彼女の間にあるような感覚だった。黒影さんと初めて出会った頃に感じていた「仲良くなるのに難航しそうな雰囲気」が、また戻ってきたような様子だった。

 

いつもは授業の合間の休み時間になったら、楽しく漫画の話ができていたのに、今日はもう、目を合わせることさえない……。

 

(何か嫌なことでもあったのかな?それとも、僕が……何かしてしまったのかな?)

 

いろいろと、頭の中でぐるぐると考え込んでしまう。

 

とにかく、放課後にでも話しかけてみよう。僕のせいなら、ちゃんと謝ろう。

 

それが今の僕にできる、最善だと思うから。

 

 

 

……キーンコーンカーンコーン

 

 

放課後を知らせるチャイムが鳴った。

 

クラスメイトたちが我先にと教室を出ていく中、僕はごくりと唾を飲んで……隣にいる黒影さんへ話しかけてみた。

 

「あ、あの……黒影さん」

 

彼女はびくっと肩を震わせて、恐る恐るこちらへ目を向けた。ああ、やっぱり……最初に会った時みたいだ。

 

「は、はい……。なに?白坂くん」

 

「今日は、どうかしたの?」

 

「どうかって……?」

 

「いや、ずっと……元気、なさそうだったから」

 

「………………」

 

「もしかして、僕……君に何か、酷いことしちゃったかな?」

 

「……ううん、違う」

 

「違う?」

 

「ちょっと、今日は……熱っぽくて。具合、悪かっただけ、だから」

 

「そうだったの?」

 

「うん」

 

黒影さんは、強張った笑顔でそう答えた。

 

朝方、体調について尋ねた時は、大丈夫だって言ってたけど……。僕に心配かけまいと思って、気を遣っていたのかな。

 

「ボクの……私のせいで、し、白坂くんに、嫌な気持ちにさせちゃったみたいだね。ご、ごめんなさい……」

 

この時、彼女はなぜか一人称を“ボク”から“私”へと変えていた。

 

なぜわざわざ言い直したのか気になりながらも、まだそこを尋ねる勇気はなかった。

 

「大丈夫、僕のことは気にしないでよ。それにしても、休まなくてよかったの?」

 

「うん、だって今日は……白坂くんに、漫画を、貸す日だったから」

 

「そんな……。全然明日でもよかったのに」

 

「………………」

 

黒影さんは、どこか寂しそうに目を伏せていた。

 

気がつくと、教室には誰もいなかった。さっきまで人の体温で暖かったこの部屋も、今はひんやりと冷たい空気が流れていた。

 

 

ザーーーーー……

 

 

外から聞こえる雨の音が、ぼんやりと耳に届いていた。

 

「……とりあえず、これ、渡すね」

 

彼女はそう言って、鞄の中から漫画を取り出し、僕へ手渡した。

 

「……ありがと、黒影さん。わざわざ僕のために、ごめんね」

 

「ううん」

 

「今日は家に帰ったら、ゆっくり休んでね。また熱上がっちゃったら、大変だから」

 

「……うん」

 

「ダーク・ブルー、じっくり読ませてもらうよ。今日貸して貰えるの、すっごく楽しみだったんだ」

 

「……うん、よかった」

 

「いつまでに返せばいい?明日?それとも明後日」

 

「……私は、いつでも、大丈夫だよ。読み終わったらで、構わないから」

 

「そっか、わかった。改めてありがとね、黒影さん」

 

「うん」

 

僕と彼女は、お互いに固い笑みを浮かべた。

 

「………………」

 

「………………」

 

少しだけ、僕らの会話に間が空いた。僕も彼女も視線を下に向けていて、言葉にし難い気まずさがあった。

 

「……えっと、そうだ。黒影さん」

 

場を解したいと思った僕は、彼女へ聞きたかったことを尋ねてみることにした。

 

黒影さんは顔を上げて、「な、なに?」と、小さく返事をした。

 

「一人称、“私”に戻したんだね」

 

「え?」

 

「いや、ほら、“ボク”って一人称は、確か友だちとのゲームでやってたんだよね?」

 

「………………」

 

黒影さんはちょっと顔を強張らせた後、「うん」と答えた。

 

「もう、そのゲーム期間が終わって、“私”の方に戻したんだね。なんだかちょっと不思議な感じだよ~。僕は黒影さんと話すようになったのは、君が“ボク”って話し始める時だったから、“私”って言われる方がむしろ違和感覚えちゃって。はははは!」

 

「………………」

 

「黒影さんは、そのゲーム、なんて人とやってたの?」

 

「なんて……名前の?」

 

「うん。ウチのクラスの人?それとも、他のクラス?ほら、もしかしたら、僕も友だちの人かなー?と思ってさ」

 

「………………」

 

黒影さんは、また視線を下に向けて、眉をひそめた。

 

 

 

……そして、ぼろぼろと、泣き始めた。

 

 

 

「……え?」

 

呆気に取られた僕は、思わず身体が固まってしまった。

 

彼女目の端には、大粒の涙がいっぱい浮かんでいた。そしてそれは、次々に頬へと滑っていった。

 

「……う、うう、うう……」

 

「………………」

 

「ぐすっ……。すんすん、うう……」

 

「く、黒影、さん……?」

 

彼女の目は、ウサギのように真っ赤に腫れていた。

 

口もへの字に曲げられていて、下唇が小刻みに震えていた。

 

僕はどうしていいか分からなくて、ただただ呆然としていた。

 

雨の音が、静かに聞こえていた。

 

 

 

 

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