【完結】自己肯定感ゼロのボクっ子陰キャちゃんを全肯定してみたら激重ヤンデレになりました   作:崖の上のジェントルメン

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13.ともだち(2/2)

 

 

……ボクはもう、感情がいっぱいいっぱいになってしまった。

 

むしゃくしゃする気持ちが一気に押し寄せてきて、それが全て涙に変換されていた。

 

「ううう、ぐう……」

 

ボクの口から、気味の悪い嗚咽が漏れていた。

 

頬はもうびちゃびちゃに塗れていて、気持ち悪かった。

 

「ふぐっ……うう、う……」

 

白坂くんが、あの金森さんっていう女の子と楽しそうにしているところから……ボクの気持ちは荒れてしまった。

 

金森さんと仲良くしている白坂くんを見ていたら、胸が張り裂けるように痛くて、堪らなかった。

 

ボクは、最近ちょっとだけ……白坂くんと仲良くなれたと思っていた。

 

友だちと言える関係性かは分からないけど、少なくともお喋りできる仲だとは思えた。そして、たぶん白坂くんも同じ気持ちだろうと……勝手に思っていた。

 

だけど、そう思っているのは……ボクだけなんじゃないだろうか。白坂くんの方は、ボクのことなんて本当は何とも思ってないんじゃないだろうか。

だって、あの金森さんって人と一緒にいる方が、ずっと楽しいに決まってる。明るくて、可愛くて、ユーモアもあって……。ボクみたいな陰キャとつるむよりも、ああいう人と話している方が、絶対に何倍も楽しい。

 

だから、本当は白坂くんは……我慢しているんじゃないだろうか。

 

ボクが隣の席だから、仕方なく接してるだけで……。本当は金森さんみたいな明るい友だちと一緒にいたいんじゃないか。

 

そういう不安が、一気に芽生えてしまった。

 

それでボクは、白坂くんと話すのが怖くなってしまった。

 

白坂くんからどう思われているのか分からなくなって、内心嫌われていたらどうしようと考えてしまって……。

 

だから、“ボク”と言うのを止めて、“私”と言うようにした。気持ち悪いと思われるであろう要素を少しでも省きたかった。

 

でもそれが……ボクを余計に追い詰めた。

 

 

 

『一人称、“私”に戻したんだね』

 

『“ボク”って一人称は、確か友だちとのゲームでやってたんだよね?』

 

『黒影さんは、そのゲーム、なんて人とやってたの?』

 

 

 

「はあ……っ、はあ……っ、ふう、ふう、ふう……」

 

全身が震えていた。汗ばんだ両手で、スカートの裾をぎゅーっと握り締めていた。

 

「く、黒影さん、どうしたの……?」

 

白坂くんが心配そうに、顔を覗き込んでくる。

 

ボクはしゃくりあげながら、「ごめん、なさい……」と答えた。

 

「私、ほ、ほんとは、友だちなんて、ひっく、い、いなくて……」

 

「え……?」

 

「“ボク”っていうのも、ダ、ダーク・ブルーの、レインの真似、で……。最初から、自分のことは、“ボク”って、言ってて……」

 

「………………」

 

「でも、それだと、し、白坂、くんに、キモいって、漫画のキャラに憧れてるなんて、あ、頭おかしいって、思われるって、思ったから。はあっ、ぐすっ……。だから……だから、友だちとの遊びだって、嘘、ついて……」

 

「………………」

 

「それで、白坂くんから、友だちの名前を訊かれて、こ、答え、られなくて……。それが、うう、それが、ほんとに、恥ずかしくて……。ううう、情けなくて……」

 

「……黒影さん」

 

「うう、ううう……。ごめんなさい、ごめんなさい……」

 

 

 

──気持ち悪くて、ごめんなさい。

 

 

 

視界の先は、もう何も見えなくなっていた。

 

涙で全てが滲んでしまって、景色がぐちゃぐちゃだった。

 

ああ、本当にバカだ、ボクは。

 

こんなこと白坂くんに話したって、どうしようもない。彼が困るだけなのに。

 

きっと、もう白坂くんは、ボクと話してはくれないだろう。こんな面倒臭くて、陰気で、オタクで、気持ち悪いボクなんかと、一緒にいたくないはずだから。

 

しかもボクは、見栄を張ってくだらない嘘までついていた。幻滅されてしまったに違いない。

 

またボクは、友だちができなかった。今度こそ仲良くなれそうだと……そう思える人だったのに。

 

結局ボクは、独りぼっちなんだ。いつまで経っても、ボクは……。

 

ボクは……。

 

「………………」

 

その時、ボクの背中が……ふっと、温かくなった。

 

ちょうど、肩甲骨の真ん中……背骨の辺りに、人肌の温もりが感じられた。

 

白坂くんの手だった。

 

彼がボクの背中を……優しく擦ってくれていた。

 

「………………」

 

ボクは、ゆっくりと顔を上げて、白坂くんを見た。

 

彼は眉をひそめて、少しだけ悲しそうに……微笑んでいた。

 

「そっか、そうだったんだ。漫画のキャラに憧れて、“ボク”って使うようになったんだね」

 

「………………」

 

「ありがとう、黒影さん。そのことを教えてくれて」

 

「え……?」

 

「僕、黒影さんのことが知れて、嬉しいよ」

 

「………………」

 

「ねえ、黒影さん。どうして、漫画のキャラに憧れると、恥ずかしいの?」

 

「だ、だって……。おかしい……でしょ?オ、オタクで、気持ち、悪るくて……」

 

「……誰かに、そう言われたの?」

 

「………………」

 

ボクはこくりと、黙って頷いた。白坂くんは「そっか……」と、小さな声で呟いた。

 

「黒影さんは、どうして……そのキャラに憧れたの?」

 

「……レ、レインは……」

 

「………………」

 

「レインは、凄く、自信満々で……。いつもかっこ良くて……。『ボクは天才だ!』って、簡単に言えるタイプで……。それが、う、羨ましく、て……」

 

「………………」

 

「だ、だから、レインの真似をしたら、ボクも……自信が、持てるんじゃないかって……」

 

「………………」

 

「はあ……はあ……ぐすっ……」

 

「……やっぱり」

 

「え……?」

 

「やっぱり、何も恥ずかしくないよ、黒影さん」

 

「………………」

 

「凄く、素敵なことじゃないか。自信満々な人に憧れて、その真似をするっていうのは」

 

「白坂、くん……」

 

「野球選手に憧れて、野球部に入る人が大勢いるように、漫画のキャラに憧れて、その真似をするのは……何も、恥ずかしいことじゃない。ただ、入り口が違うだけなんだよ」

 

「入り口……?」

 

「そう。野球から入るか、漫画から入るか、その入り口の違いでしかない。でもどっちにしても、『立派な人間になりたい』という目標は変わらないんだ」

 

「………………」

 

「憧れた対象が実際の人物だろうが漫画のキャラだろうが、自分の生きる目標に……生きる糧になるのなら、それでいい。心の支えになったものが、どんなものでも構わない」

 

「………………」

 

「だから僕は、黒影さんが“ボク”と言うことを、何も恥ずかしいと思わないよ」

 

「……どうして」

 

「ん?」

 

「どうして、そんなに……優しく、してくれるの?」

 

「どうしてって、そんなの当たり前だよ」

 

白坂くんは、柔らかな笑顔を浮かべながら、こう言った。

 

 

 

「僕たち、友だちじゃないか」

 

 

 

「………………」

 

……ボクは。

 

ボクはまた、泣いてしまった。

 

今度は、悲しくなかった。

 

涙が凄く熱くて、火傷しそうだった。

 

「白坂、くん……」

 

「なに?黒影さん」

 

「と、友だちで、い、いいの?ボクなんかが、友だちで……」

 

「もちろんだよ。僕は、君と漫画の話ができるの、いつも楽しみにしていたよ」

 

「……うう、うう……」

 

「今度は、僕のオススメの漫画、貸してあげるよ。きっと君も、面白がってくれると思う」

 

「う、ううう、うううう……」

 

「これからも、どうぞよろしくね。黒影さん」

 

ダメ、白坂くん。

 

これ以上、優しくしないで。

 

ほんとに、ほんとに、泣いちゃうから。

 

嬉しくて、泣いちゃうから。

 

「うう、ううう……!」

 

教室の中に、ボクの嗚咽が響き渡った。

 

ひんやりと冷たい空気が漂う中、ボクの背中は温かった。

 

白坂くんの手の平が、ずっとずっと優しかった。

 

外で降っていた雨の音は、いつしか聞こえなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

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