【完結】自己肯定感ゼロのボクっ子陰キャちゃんを全肯定してみたら激重ヤンデレになりました   作:崖の上のジェントルメン

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15.彼のいない日(1/3)

 

 

 

……白坂くんとLimeの連絡先を交換したことで、彼と話す頻度がさらに多くなった。

 

『黒影さん、この漫画アニメ化されるみたいだよ!』

 

家にいる時も、彼と漫画やアニメについて好きなだけ喋れるなんて、夢のようだった。

 

『ほんとだね、もうPV出てるんだ』

 

『うん!僕、この漫画は是非アニメで観たかったから、凄く楽しみだよ!』

 

『そうだね、ボクも楽しみ』

 

本当はすぐに返信したいんだけど、あまりにも早すぎると「四六時中、僕のLimeを観てるんじゃ?」って思われて、白坂くんに気持ち悪がられる気がして、わざと返信を遅くしてる。

 

だいたいいつも、30分以上は開けてから、返信するようにしている。

 

そして彼からの返信を、ドキドキしながら待ち続ける。

 

学校で話す時とはまた違った楽しさがあって、僕は家の中でも彼のことで頭がいっぱいだった。

 

 

 

「……よし」

 

とある日の夜。ボクは彼へLimeの返信を終えた後、お風呂に入ることにした。

 

もちろん、脱衣場にはスマホを置いている。通知音も最大にして、お風呂に入っていても聞こえるようにしている。

 

 

……ザザザーーー

 

 

湯船にあるお湯を、風呂桶を使って掬い上げて、自分の身体にかけた。

 

そして右足の爪先から、ゆっくりと身体を湯船の中に入れていった。

 

「ふ~~~……」

 

身体の奥底に固まっていた空気を、解しながら息として吐いた。強張っていた身体を、ようやく脱力させることができた。

 

湯気が立つお湯に肩まで浸かり、全身を温もらせる。今日は雨で外が冷えていたから、余計にお風呂が染みる……。

 

「………………」

 

ボクは、水面がゆらゆらと動く様を見つめながら……白坂くんのことを考えていた。

 

 

 

『へへへ、ごめん。あれ嘘なんだ』

 

『今日は黒影さんが教室にいるからさ。せっかくだし黒影さんと話したいなって』

 

 

 

「……白坂、くん」

 

彼の名を呟くと、なんだか胸の奥がそわそわして、かゆくなってしまった。

 

白坂くんは、本当に不思議な人。一緒にいて安心できる男子がいるなんて、想像もできなかった。しかも、連絡先まで交換しちゃったし。

 

正直言って、白坂くんがいてくれるから……学校にも行こうって思える。苦手な体育があったりしても、白坂くんと学校で喋るために、頑張って登校している。

 

 

ピロリロリン

 

 

「!」

 

脱衣場の方から、通知の音が聞こえてきた。

 

ボクはすぐに湯船から上がって、脱衣場に出た。身体から湯気が立っていて、肌寒かった。

 

恐る恐るスマホを手に取った。ボクの濡れた髪から水が滴って、画面にぽたりと落ちた。

 

トーク画面を開くと既読がついてしまうので、まだそれは開かず、ただ返信があったかどうかだけを確認した。

 

(やった……!また白坂くんから来てる……!)

 

ボクは思わず口許を緩ませながら、またスマホを脱衣場に置き、お風呂場へと帰った。

 

そして、湯船に浸かりながら、どんな返信が来ているか、いろいろと想像を膨らませた。

 

「………………」

 

でも、正直ちょっと……まどろっこしいと思っているところはある。

 

やっぱり、会って話せる方が楽しい。会話もぽんぽん弾むし、何より……彼の顔が見れるから。

 

(ふふふ、なんだかボク、陽キャみたいなこと考えてるなあ)

 

自分の心境の変化に驚きつつも、それを嬉しいと思っていた。

 

明日もまた、学校へ行こう。

 

また白坂くんに、会いに行こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……翌日の、6月27日金曜日。今日もいつも通りの朝が始まろうとしていた。

 

バスに乗って通学路を行き、学校へと到着する。

 

 

ザーーーーーー!!

 

 

この日は、とんでもない豪雨だった。

 

手垢のついた表現だけど、バケツをひっくり返したような大雨というのは、まさしくこれのことを言うんだろうなと思った。

 

湿気を含んだ重たい空気にやられて、微かに頭痛がする。

 

(白坂くんは、先に着いてるかな?)

 

下駄箱で彼の靴があるか確認してみたが、まだそこにはなかった。

 

(仕方ないか、この大雨だもんね)

 

教室で彼のことを待とうと思ったボクは、廊下を真っ直ぐに進んで行った。

 

「黒影さん、おはよう」

 

その時、背後から声をかけられた。女の子の声だった。

 

誰だろう?と思って後ろを振り返ると、そこにいたのは委員長の西川さんだった。

 

彼女の左脇には、何十冊ものノートが抱えられていた。

 

「あ、ど、どうも、おはようございます……」

 

ボクは吃りながら、彼女へそう挨拶を返した。どうしよう、白坂くん以外と話すの久しぶりだから、緊張する……。

 

西川さんは、ボクがお休みの日とかに、プリントを持ってきてくれたり、連絡事を教えてくれたりすることがあった。そういう意味では、白坂くんの次に喋る相手になるのかも知れない。

 

「はい、これ。黒影さんの数学のノート」

 

西川さんはそう言って、脇に挟んでいた何十冊もある内の一冊を、ボクへ差し出してきた。

 

「……?えっと、数学の、ノート?」

 

「ほら、この前先生に提出してたでしょ?それが返ってきたの」

 

「あ、ああ、そっか。あ、あり、ありがとう……」

 

「うん。あ、あと中にね、来週ある期末テストの範囲が書かれたプリントを挟んであるから」

 

「う、うん、分かりました……」

 

ボクはそう言って、ノートを受け取った。

 

ところどころ敬語だったりタメ語だったりと、変な答え方をしてしまった。まだまだボクは、全然人と話せないなあ。

 

「………………」

 

西川さんは、なぜかじーっとボクのことを見つめていた。

 

ボクは、なんで見られているのかよく分からず、ただその視線を受けていた。ここで「どうしたの?」と一言尋ねられたらいいんだろうけど、なかなかそれが口に出せなかった。

 

「……黒影さん、ってさ」

 

「え?」

 

「最近、隣の席の白坂くんと仲良いよね」

 

「……ま、まあ、うん。仲良く……させて、もらってます」

 

「………………」

 

ボクの言葉を受けて、西川さんは「そっか」と言って、微かに笑った。

 

「じゃあ、黒影さん。白坂くんの分もお願いしていいかな?」

 

「白坂くんの分?」

 

「ほら、このノート。黒影さんから白坂くんに渡してあげて」

 

そうして、西川さんは白坂くんのノートも手渡してきた。

 

「わ、分かった。渡して……おきます」

 

「うん、お願いね」

 

西川さんはボクへ軽く手を振って、スタスタと教室へ向かって行った。

 

 

 

 

 

「………………」

 

ボクは自分の席に座って、白坂くんのことを待った。

 

彼が隣の席にやって来るのを、今か今かと待ち続けた。

 

しかし、今日に限って彼は一向に来なかった。

 

今まで彼は、遅刻とかしたことのないのに。もうあと、数分もしない内に朝のホームルームが始まってしまう。

 

(ど、どうしたのかな……?何かあったのかな……?)

 

ボクは不安になりながら、外の土砂降りを眺める。

 

考えられる可能性としては、この大雨に足止めされているのこも知れない。

 

事実、ボクが乗ってきたバスも、渋滞でかなり遅れていた。車内は大勢の人でぎゅうぎゅうになっていて、押しくら饅頭の状態だった。

 

白坂くんは以前、雨の日は自転車じゃなくて、バスで来るようにしていると教えてくれたことがある。だからきっと、そのせいで遅刻してるのだろうとは思うけど……。

 

(も、もし……事故とかだったらどうしよう……?)

 

ボクの心臓はとても臆病で、可能性が低いはずのことまで心配になってしまう。

 

(もし、万が一自転車に乗ってて、雨で道が滑って転んで……。そして、も、もし、車にでも……轢かれたりしたら……)

 

じっとりと、額に汗が滲んできた。

 

胸の中にいる大量の虫が、ざわざわと蠢くような気持ち悪さを感じていた。

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 

ついに、朝のチャイムが鳴ってしまった。

 

「よーし、じゃあ朝のホームルームを始めるぞー」

担任の先生が教卓の前に立って、ボクたち生徒を見渡しながら、朝の連絡事項を説明し始めた。

 

(ど、どうしよう……。白坂くん……)

 

不安の波が最高潮まで達していたその時、担任の先生が、白坂くんのことについてこう話した。

 

「今日は白坂が体調不良らしくてな、1日休みだ」

 

そのことが聞けたボクは、ほっと安堵のため息をついた。

 

(た、体調不良……。そっか、事故とかじゃないんだ)

 

ここで安心するのもどうかと思うけど、とりあえず現状が分かったことに対して、ボクは胸を撫で下ろしていた。

 

「……………………」

 

……でも、その次にやって来たのは、言葉にし難い虚無感だった。

 

今日は、白坂くんがいない。

 

明るくて元気な、優しい彼がいない。

 

その事実が、ボクの胸にぽっかりと……黒い穴を空けていた。

 

「ねーねー!英語って宿題あったっけー?」

 

「えー?忘れたー。なかったんじゃねー?」

 

クラスメイトたちは今日も楽しげに、近くにいる友だちと談笑していた。

 

ボクは一言も口を開かずに、隣の空席を見つめていた。

 

 

 

 

 

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