【完結】自己肯定感ゼロのボクっ子陰キャちゃんを全肯定してみたら激重ヤンデレになりました   作:崖の上のジェントルメン

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16.彼のいない日(2/3)

 

 

……こんなにも、違うものなのか。

 

白坂くんと出会う前は、これが普通だったはずなのに、今は……耐えきれないほど寂しい。

 

湿気た教室に、大勢の人たちが押し込められているから、気温は高いはずなのに……ボクの心は真冬のように、痛いくらいに凍えていた。

 

「『気がつく』は、observe。bとvが混じっているから、綴りに気をつけて」

 

先生が、いつものように授業を進めている。クラスメイトたちも、何も変わらずにノートを取っている。

 

でもボクは、昨日とはまるで違う。ショッピングモールで親とはぐれた子どものような……どうしたらいいか分からない不安が、ずーっと押し寄せてくる。

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 

ようやく、一時間目が終わった。

 

ああ、授業というのは、こんなにも長かっただろうか。もう肩が凝って、身体が強張ってしまった。

 

「ねえねえ、次の社会って、小テストあったよね?」

 

「違うよ、小テストは物理だよ」

 

「なあなあ!今度バスケ部に新しくマネージャー入るらしいぜ!」

 

「な!俺も聞いたよ!一年の子なんだろ?」

 

次の授業が始まるまで、また楽しそうに談笑を始めた。

 

いいな、羨ましい。ボクも……白坂くんと話したいのに。

 

どうしよう、もう本当にここにいたくない。こんな学校に居たって、意味はない。ここにボクの居場所はない。

 

こんなことなら、学校なんて来なければよかった。

 

「………………」

 

いや、待って。そうだ、そうだよ。

 

早退しちゃえばいいんだ。

 

ボクも具合が悪くなったことにして、ここを出よう。そして、白坂くんのおうちに行こう。

 

そして、差し入れを渡そう。

 

以前ボクは、休みの日に白坂くんから差し入れを貰ったことがある。今回は、そのお返しをするいいチャンスじゃないか。

 

うん、そうしよう。きっとそうするのが一番だ。

 

「………………」

 

ボクは、こっそりと机の中のものを全部鞄に入れて、音を立てないように教室を出た。

 

そして、誰にも見つからないように気をつけながら、学校の外へと出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

ザーーーーー!!

 

大雨が降る街中を、ボクは一人で歩いている。

 

さしている傘に向かって、ダダダダダ!と、銃声のように雨粒が当たる音がする。

 

(えっと……そうだ、まずは白坂くんに具合を訊いてみないと)

 

ボクは一旦コンビニへ行き、そのトイレの中に入って、スマホを取り出した。

 

(えーと、まずは白坂くんにLimeをしようかな。白坂くんのおうちの住所を、教えてもらわないといけないし)

 

そう考えたボクは、文面を途中まで作ってみた。

 

まずは、『白坂くん、具合大丈夫?』という入りから。この挨拶が最初にないといけないのは、陰キャのボクでもさすがに分かった。

 

それに続いて、『これからそっちにお見舞いに行こうと思うんだけど、家の住所を』……と、そこまで書いた辺りで、ボクは手が止まった。

 

(……こんな時間に訪ねに行ったら、嫌がられないかな?)

 

時刻は、午前10時25分。昨日までは元気そうだったから、今日の朝に具合が悪くなった可能性が高い。となると、今はまさに具合の悪さがピークの時間帯かも知れない。

 

そんな時にボクがひょこひょこ訪ねに行っても、失礼に……ならないかな?

 

そうだ、そもそもボクがやろうとしていることは、彼からしたら余計なお節介かも知れない。

 

もしそれで彼の機嫌を損ねてしまったら……どうしよう。

 

困った、お節介になる可能性を少しも考えてなかったから、頭の中が真っ白になってしまった。

 

かと言って、このまま学校へ戻るなんて、ボクにはできない。居場所のない学校になんて、帰りたくない。

 

(というか、よく考えたら……白坂くんがもし寝てたら、Lime返せないよね?うーん、ど、どうしよう……)

 

ボクはその場でうんうんと唸りながら、とりあえず1つの答えを導き出した。

 

まず、一回白坂くんへ電話をかけてみる。Limeでなく電話なのは、彼が寝ているかどうかの確認をするため。もし寝ていたら電話には出れないから、Limeだけ送っておき、返信が来るのを待つ。

 

そして、差し入れをしたいけどいい?と尋ねてみて、白坂くんが欲しいと言われたら、差し入れの準備をして、白坂くんのおうちに行く。

 

(よし、じゃあ……早速、電話、してみようかな)

 

意を決したボクは、震える手で白坂くんへ電話をかけてみた。自分から電話をするのは、初めての経験だった。

 

 

プルルルル、プルルルル

 

 

バクバクと鳴る心臓を押さえながら、ボクはごくりと唾を飲んだ。

 

 

プルルルル、プルルルル

 

プルルルル、プルルルル

 

プルルルル、プルルルル

 

 

『……はい、もしもし』

 

ようやく電話に出たのは、ぐったりとした声色の白坂くんだった。

 

「し、白坂くん、大丈夫……?」

 

『ああ、黒影さん。心配かけてごめんよ……。ちょっと……熱が出ちゃってさ』

 

「な、何度あるの?」

 

『38.6かな……』

 

「け、結構高いね……」

 

『うん、だからちょっと……今日は学校無理かなって……』

 

「あ、あの、差し入れ、今から持っていくから、よ、よかったら、家の場所を……教えてくれない、かな?」

 

『ええ?い、今から?学校はいいの?黒影さん』

 

「あ、え、えっと……。う、うん……白坂くんが、心配だから」

 

『いいよ、僕のことは気にしないで……。寝てたら治るからさ。僕のせいで学校休ませちゃうのも、申し訳ないし……』

 

「で、でも……」

 

『それに、今日も結構雨降ってるでしょ?こんな雨の中、来て貰うのも大変だから……。気持ちだけ貰っておくよ』

 

「………………」

 

……もちろん、断られることも想定はしていた。

 

気遣い屋さんな彼のことだから、「大丈夫だよ」と言われるかも知れないと……ある程度は考えていた。

 

だけど、いざこうして断られると……なんだか、しゅんとしてしまった。

 

いつも白坂くんには、優しくしてもらっている。だから、何かお返しがしたいってずっと思ってた。

 

だからボク……ちょっとワガママかも知れないけど、白坂くんのために、頑張って何かしたかった。

 

(でも、どうしよう……。いらないって言われてるのに、どうやって了承してもらえたら……)

 

あまり賢くない頭で、なんとかアイディアを捻ろうと奮闘する。

 

(なんか、学校のお知らせとかあったらいいけど……。それなら、学校帰りにでも寄るねって言いやすいし……)

 

 

 

──じゃあ、黒影さん。白坂くんの分もお願いしていいかな?

 

 

 

「………………」

 

その時、ボクの脳裏に浮かんだのは、西川さんから預かった白坂くんのノートだった。

 

そうだ、このノートの中には期末テストの範囲が記載されているプリントが挟んである。これを渡しに行くってことなら、白坂くんの家に行きやすい。

 

「……えと、じゃあ、白坂くん」

 

ボクはようやく沈黙を破って、白坂くんにこう言った。

 

「学校終わってから、そっち……寄ってもいい?た、たぶんその時間帯なら……雨も止んでると思うから」

 

『ほ、本当?大丈夫?』

 

「うん、どっちにしろ白坂くんに……その、渡さないといけないものがあって。す、数学のノートと、テスト範囲のプリント……。ほ、ほら、明日から土日になっちゃうし……今日の内に渡しておかないといけないから……」

 

『そっか……分かった。ごめん、じゃあ黒影さんの都合のいい時間に、来て貰えると嬉しいな』

 

「うん、分かった。あ、そうだ。お、あうちの住所を教えてくれないかな?」

 

『ああ、そうだね。Limeの方に送っておくから、それを見て貰えると』

 

「うん」

 

『ごめんね黒影さん、ありがとう』

 

「ううん。だ、大丈夫。気にしないで」

 

そうして、 ボクたちは電話を終えた。

 

(よ、よかった。偶然が味方してくれた……)

 

明日から休みになること、そして来週から期末テストが始まるという偶然が、白坂くんの家へ行きやすい口実を作ってくれた。

 

「ふう……」

 

ボクはスマホを胸に抱いて、ふう と息を吐いた。

 

よし、それじゃあ学校が終わる時間くらいまでは、図書館で時間を潰そう。そして、いいタイミングになったら、買い出しに行こう。

 

待っててね、白坂くん。

 

ボク、たくさん差し入れ、買ってくるから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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