【完結】自己肯定感ゼロのボクっ子陰キャちゃんを全肯定してみたら激重ヤンデレになりました   作:崖の上のジェントルメン

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2.独りぼっちの女の子

……黒影さんは、いつも独りぼっちだった。

 

朝の挨拶の時は、僕が声をかける以外は、誰も彼女と挨拶を交わさない。

 

彼女が声を発する機会は、先生から問題を当てられて、それに答える時だけで、それ以外で彼女の声を聞くことはない。

 

いや、もしかしたら他のクラスに友だちがいるのかも知れないが、とにかく僕が確認できる範囲では、彼女が誰かと親しくしている姿は見たことない。

 

いつも肩を縮こませて、小動物のように隠れていた。

 

もちろん、一人でいること自体が、悪いわけではないと思う。一人でいる方が気楽な人だっているし、それで楽しくしているのであれば、僕も「黒影さんは一人が好きな人なんだな」と思って、全然気にならなかったはず。

 

僕が彼女のことがずっと気になるのは、どこか……寂しそうだったから。

 

なんの起伏も見えない表情だけど、言葉にしがたい影が……彼女の顔に降りている気がした。

 

そんな彼女を見ていると、いつも胸がちくっと痛む。心配というほど明確に彼女を意識していたわけじゃないけど……どことなくいつも、目の端には彼女の姿があった。

 

しかしかと言って、あれやこれやと黒影さんに話しかけるのも、それはそれで彼女は嫌がりそうだなと思っていた。

 

僕が毎朝挨拶する時も、目線は僕から外して、黙ったまま会釈する。とても好感触とは言えない雰囲気で、話しかけにくく感じていた。

 

(このまま2ヶ月、黒影さんと全然話せないまま、隣の席でいることになるのかなあ……)

 

僕は横目で彼女のことを見つめながら、なんとも言えない気持ちを抱えていた。

 

 

 

 

 

……事が起きたのは、6月11日の水曜日だった。

 

キーンコーンカーンコーン

 

朝の一発目のチャイムが、校内に鳴り響く。各クラスでホームルームが始まり、1日のスタートを切る瞬間だった。

 

しかし、この日はそんな時間になっても、まだ黒影さんが来ていなかった。

 

(あれ、どうしたんだろう?いつもは10分前くらいには席に着いているのに……。遅刻するなんて珍しいな)

 

僕は黒影さんが先生に怒られやしないか不安に思いながら、隣の空席を見つめていた。

 

「よーし、今日から体育は水泳が始まるからな。みんな、指定の水着を忘れんなよー」

 

担任の石田先生が教卓の前に立ち、今日のお知らせを話していく。

 

「それと、今日は山本が発熱してな、1日休みになるそうだ」

 

そう言われて、僕はクラスメイトの山本くんの席へ眼をやった。教室の中央付近に彼の席はあって、確かにそこも空席になっている。

 

「えー?今日山ちゃん休みかよー!」

 

「発熱って、どんくらいなんだろーな?ちょっと具合大丈夫かLimeしてみよーぜ」

 

彼の友人であるクラスメイトたちは、山本くんが休みであることをとても残念そうにしていた。

 

(そうか、もしかしたら黒影さんも、山本くんと同じで具合悪くして、学校休みなのかな?)

 

もしそうだとしたら、また先生がそのことについて説明するだろうと思って、僕は先生の次の言葉を待った。

 

「よし、それじゃあ、朝のホームルームはこれで終わりだ」

 

だが先生は、黒影さんのことには一切触れず、もうホームルームを終わらせてしまった。

 

(あ、あれ?)

 

先生はスタスタと教室の扉に手をかけて、今にも出ていこうとしていた。

 

「あのー!先生!」

 

僕は思わず手を上げて、先生に向かって叫んだ。先生はこっちを振り向いて、「どうした白坂?」と聞き返した。

 

「黒影さんって、今日はお休みなんですか?」

 

「うん?黒影?黒影は……あれ?なんだったか?」

 

先生はしばらく怪訝な顔をした後、「ああ、そうだ」と呟いてから、僕たち生徒にこう告げた。

 

「すまんすまん、今日は黒影も体調不良で、1日休みになるからなー」

 

そうして先生は、足早に教室から出ていった。

 

「なあなあ、一時間目の国語って宿題あったっけ?」

 

「俺も知らね~。まあ、なんかあっても忘れたフリしようぜ」

 

「ねえ見てみてー!今日ちょっとだけネイル塗ってみたんだよねー!」

 

「えー!すごーい!めっちゃ綺麗じゃんこれー!」

 

黒影さんが休みであることについては、あの山本くんの時とは違って、残念がる声はひとつも出なかった。

 

彼女の話題はどこにも上がらず、「黒影さん」という言葉すら出ず、いつもと同じ毎日が始まった。

 

「………………」

 

ぽつんと残されている机と椅子が、じっとそこに佇んでいた。

 

 

 

 

……静かな時間が過ぎ去っていった。

 

授業を終え、清掃を終え、気がつくと1日が終わっていた。

 

「よし、後ろの席まで全員プリントもらったかー?」

 

この日は帰りのホームルームで、担任の石田先生が、僕たち生徒に重要なプリントを配った。

 

それは、今年の10月に予定されている、修学旅行についてのお知らせだった。

 

「いいなー?このプリントは必ず親に見せるんだぞ~。旅費の支払い期日とか書いてあるからなー」

 

先生がそう言い終えた瞬間、ホームルームの終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。それを聞いたクラスメイトたちは、蜘蛛の子を散らすように教室から出ていった。

 

「ねーねー!今日部活って監督来るっけー?」

 

「広瀬ー!カラオケ行こうやー!」

 

「そう言えばさあ、利香んちって結構学校から近かったよねー?今度遊び行っていいー?」

 

ガヤガヤざわざわとクラスメイトたちの声で溢れ返る中、僕も鞄を背負って、みんなとともに教室を出ようとしていた。

 

「白坂くん、ちょっといい?」

 

その時、僕は後ろから声をかけられた。振り返ってみると、そこには一人の女の子が立っていた。

 

長い髪を後ろで結んでいて、キリッと切れ長で精悍な眼を持っている人だった。

 

学級委員長の、西川 凛さんだった。

 

「西川さん、どうしたの?」

 

「白坂くんって、黒影さんと仲いい?」

 

「黒影さんと?」

 

「うん」

 

「……いや、まあ……どうだろう?朝の挨拶はするくらいかな」

 

「あー、うーんそっか……」

 

「……?」

 

彼女の質問の意図が分からなかった僕は、首を傾げて彼女の言葉を待っていた。

 

「いや実はね、このプリントを、今日お休みしてる黒影さんに届けなきゃいけなくて」

 

西川さんはそう言って、さっき先生が配っていたプリントを俺へ見せてきた。

 

「いつもは学級委員長の私が持っていってるんだけど、今日は私、どうしても早く帰らないといけないくて……。それで、他の誰かに頼みたかったの」

 

「なるほど……」

 

「黒影さんも女の子だし、家へ持っていくのは女の子の方がいいと思うんだけど……みんな、用事やらなんやらで断られちゃって」

「…………………」

 

「それで、まあ……男子ではあるけど、白坂くんだったら隣の席だし、お願いしやすいかなって思ったの」

 

「……山本くんは」

 

「え?」

 

「山本くんのは、どうしたの?ほら、彼もお休みだったでしょ?」

 

「ああ、山本くんの友だちに頼んだから、大丈夫だよ。黒影さんのだけお願いできれば」

 

「………………」

 

ここまで話を聞いて、なぜ西川さんが僕へ「黒影さんと仲がいいのか?」と問いかけてきたのか、ようやく理解できた。

 

家までプリントを届けるというのは、わりと面倒な仕事だ。それなりに仲がいい人のところでないと、行きたくないと思うのが普通だ。

 

だから、断った女の子たちのことを悪く言うつもりはない。彼女たちの気持ちも十分に理解できる。だが、黒影さんのことを思うと、僕はきゅーっと……胸が締めつけられるような寂しさを覚えてしまった。

 

「……………………」

 

僕はもう一度、黒影さんの机へ目を向けた。誰もいないその席に、彼女の幻が朧気に見えた気がした。

 

「……わかった。いいよ、僕でよければ持っていくよ」

 

「本当?ありがとうー!すごく助かるよ!」

 

西川さんは心底安堵した様子で、目を細めて笑っていた。

 

「それじゃあ、西川さん。黒影さんの家を教えてもらえるかな」

 

「うん、Limeに場所を送っておくね」

 

「うん、わかった」

 

「ごめんね、白波くん。いきなりこんな頼み事して。今度何か、ジュースでも奢るから」

 

「いいよいいよ、気にしないで」

 

「ほんとにごめんね。あ、白坂くん、今Limeで送ったよ」

 

「うん、ありがとう」

 

彼女はスマホの画面を俺へ見せてきた。確かに彼女の言うとおり、僕のLimeへ黒影さんの家の地図が送られていた。

 

……僕の家とは、反対方向だな。学校から自転車で約20分くらい。彼女の家から僕の家へ帰るには、40分くらいかかっちゃうな……。

 

いや、仕方ない。ここはもう、快く引き受けよう。

 

「それじゃあ、行ってくるね」

 

「うん、お願い」

 

そうして僕は、西川さんからプリントを受け取り、黒影さんの家へ向かうことにした。

 

 

 

 

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