【完結】自己肯定感ゼロのボクっ子陰キャちゃんを全肯定してみたら激重ヤンデレになりました   作:崖の上のジェントルメン

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21.堕ちる(2/3)

 

 

……展示を全て見終えたのは、夕方の5時を過ぎた頃だった。

 

日は既に傾いていて、ビルとビルの間に挟まっていた。

 

黒影さんは展示会にある絵を全て観覧し、その上でイラストが描かれたクリアファイルを二枚と、ポスターカードを三枚買っていた。

 

「たくさん買ったねえ、黒影さん」

 

「う、うん。どれも限定品だったから、逃したくなくて」

 

余すことなく満喫した黒影さんは、展示会で買ったものを胸に抱いて、嬉しそうに頬を緩めていた。

 

「楽しめてよかったね、黒影さん」

 

「う、うん。楽しかった。白坂くんも、楽しめた……かな?」

 

「うん、僕も楽しかったよ!原画を観る機会なんて、今まで全然なかったからさ、刺激的だったよ」

 

「そ、そっか。白坂くんも楽しかったなら、よかった」

 

黒影さんはにっこりと、朗らかに眼を細めて笑った。

 

 

 

(……ああ、なんだか、可愛い人だな)

 

 

 

不意に僕は、そんなことを思った。

 

華やかで眩しい笑顔を持つ人じゃないけれど、穏やかで優しい……月明かりのような笑顔を持つ人だなって、そう感じた。

 

自分の妹と似てる人を可愛いと思うのは、なんだか胸の奥がそわそわしたけど、でもそう感じたのだから仕方ない。

 

黒影さんには、このままずっと……元気でいて欲しいなと、そんな風に願った。

 

「さて黒影さん、そろそろ帰ろうか」

 

「そうだね」

 

「どうする?バスにする?それとも電車?」

 

「ボクは、電車の方が早いかも。白坂くんは?」

 

「んー、僕はどっちでも同じくらいの距離だし、黒影さんと同じ電車に乗ろうかな」

 

「ボ、ボクと同じ?」

 

「うん!一緒に帰ろうよ」

 

「う、うん、分かった……」

 

そうして僕たちは電車のホームへと行き、家へ向かう車両に乗り込むことにした。

 

平日の夕方でラッシュの時間帯であったため、ホームは見渡す限りの人で埋め尽くされていた。

 

電車の乗降口の前には、長蛇の列が並んでいた。

 

「電車、混んでるね~」

 

「うん、そうだね」

 

「黒影さんって、電車よく使う?」

 

「あんまりないかも……。人混み苦手だし、それに……そんな遠出することもないし」

 

「あー、確かに僕も似たような感じかな」

 

僕たちは電車を待つ間、他愛ない雑談に花を咲かせていた。

 

「黒影さんは、今日の天野嘉孝さん……だっけ?あのイラストレーターさんはどうやって知ったの?やっぱり、ファイナル・ファンタジアから?」

 

「えっと、ボクの場合は、小説の挿絵からだったんだ。夢枕漠先生っていう小説家が好きで、その人が書いてる幻龍少年ギマイラって本の挿絵を、天野先生がされてたから、それで……」

 

「へー!小説か~!凄いね黒影さん、読書家だ!」

 

「い、いや、別にボクは……そんな対して読んでないよ。夏目漱岩先生のとか、そういう古典文学はまだまだ知らないし……」

 

淀むことなく、途切れることなく、僕たちの会話は続いていく。まるで随分昔から仲が良かったなと錯覚するほどに。

 

電車に乗り込んで、二人とも座席には座らず、つり革に捕まりながら立っていた。

 

その間も、やっぱり談笑は終わらなかった。なんだか凄く居心地がよくて、僕たちは延々話続けた。

 

(ああ、なんだか嬉しいな)

 

僕は、初めて黒影さんと出会った時のことを思い出していた。

 

当時は眼を合わせてくれることもなく、返事すらまともにしてもらえなかった。

 

でも今は、こうして和気あいあいと話せるし、しかも時々微笑んでくれたりする。

 

漫画の趣味も合うし、一緒に居て疲れない。これからも良い友だちになれそうだなと、そう思った。

 

……そんな時だった。

 

ふと、談笑している途中で、視線を下におろした瞬間があった。ちょうどそれは、黒影さんの背中から足元が見える範囲だった。

 

そこを見ようと思ったのは、別に深い意味はない。ただ単にすっと顔を向けた先が、たまたまそこだった。

 

「………………」

 

スマホが、あった。

 

にゅっと伸びた手がスマホを握っていて、黒影さんのスカートの中を、撮影していたのだ。

 

一瞬、何が起きているのか分からなかった。なんでこんなところにスマホが?という疑問が先に生じて、思考が止まってしまっていた。

 

驚きと戸惑いのせいで、状況を上手く認識できなくて、「あれ?怪奇現象?」とすら思ってしまった。

 

(ちょっと待って、これって……)

 

 

──盗撮?

 

 

その二文字が頭に浮かんだ途端に、僕の思考は一気に加速した。

 

スマホを持つ手の主を、直ぐ様見つけ出した。それは、黒影さんの左側に立つ……スーツを着た若い男の人だった。

 

 

 

「何してるんですか!!」

 

 

 

自分でも珍しいと思うほどに、僕は電車の中で怒鳴った。

 

そして、スマホを持つ手をぎゅっと掴んで、離さないようにした。

 

男はびっくりして、僕の手を引き離そうとしていた。

 

狭苦しい車内で、僕とその男との綱引きが展開された。

 

「し、白坂くん?」

 

黒影さんはきょとんとした顔で、僕のことを見つめていた。

 

「みなさん!この人!痴漢です!今僕の友だちを、盗撮してました!」

 

僕は大声を張り上げて、周りの人たちに助けを求めた。

 

「え?痴漢?」

 

「なになに?今どうなってんの?」

 

遠くの方で、見物人の呟く声がした。

 

「痴漢したのはあんたか!大人しくしなよ!」

 

周りにいた男の人たちが、一斉に盗撮魔に群がって、羽交い締めにした。

 

「ぐっ!ぐうっ……!」

 

さすがの盗撮魔も動けなくなって、持っていたスマホを床に落とした。僕はさっとそれを拾い上げて、画面を確認した。

 

そこには、間違いなく黒影さんのスカートの中が写り込んでいた。

 

それを見た瞬間、僕は久しぶりに、本気で怒っていた。閉じている口の中で、歯を思い切り食い縛っていた。

 

(黒影さんにこんな酷いことをするなんて……。許せない……)

 

「白坂、くん、どうしたの?何があったの?」

 

黒影さんが恐る恐る、僕へそう尋ねてきた。僕は怒りで昂った口調のまま、「盗撮だよ」と答えた。

 

「と、盗撮?」

 

「うん。君の……スカートの中を撮ってたんだ」

 

「え……?」

 

「でも、もう大丈夫。黒影さん、次の駅で降りようか」

 

僕は握り潰すくらいに力を込めながら、盗撮魔のスマホをポケットにしまった。

 

 

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