【完結】自己肯定感ゼロのボクっ子陰キャちゃんを全肯定してみたら激重ヤンデレになりました   作:崖の上のジェントルメン

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26.妄想にふける夏休み

 

 

「……さて、明日からいよいよ夏休みだ」

 

教卓の前に立つ担任の先生が、ボクたち生徒の顔を見渡しながら、そう告げる。

 

「くれぐれも、うちの高校の生徒だという自覚を忘れないよう、羽目を外し過ぎないようにしろよ。それと、宿題は必ず提出期日を守れるよう、日頃からコツコツと……」

 

先生はいつも以上に、ボクたちへお小言を告げるが、他のクラスメイトたちはもう浮き足立った状態で、まともに先生の話を聞いていない。

 

隣の人とひそひそ話をしたり、「くすくす」と声をひそめて笑い合ったりしている。

 

夏休みが楽しみだというのは、ボクも共感できる。事実、“去年までのボク”であれば、みんなと同じようにそわそわしたことだろう。

 

……だけど、今年のボクは違った。

 

本当に初めてのことだけど、ボクは今、学校に明日から来れなくなるのが……物凄く寂しかった。

 

それは、白坂くんに会えなくなるから。

 

白坂くんの近くにいられなくなるのが、堪らなく辛かった。

 

しかも、夏休み明けには席替えもある。また白坂くんの隣になれる確率は、とても低い。

 

つまり事実上、今日が最後の隣の席なんだ。

 

(ああ、嫌だなあ……。ずっと白坂くんの隣がいいのに)

 

叶いもしない妄想に、ボクは想いを巡らせていた。

 

 

 

「……それじゃ、みんな、気をつけて帰れよ」

 

そうして帰りのホームルームが終わると、わあっ!!と堰を切ったようにクラスメイトたちが教室からいなくなっていた。

 

「しゃーーー!!おーいお前ら!!早く行こうぜーー!」

 

「ねえねえアカリー!明後日の海さー!水着何着ていくー!?」

 

いつもホームルームが終わる瞬間は騒がしくなるけど、今日は一段と騒がしかった。教室の中はみんなの談笑の声で割れんばかりに反響していて、耳の奥がキーンと痛くなった。

 

ボクの方はというと、なんだか妙な名残惜しさがあって、席を立ったところまでで、鞄すらもまだ肩にかけていなかった。

 

「いよいよ夏休みだねっ、黒影さん」

 

隣の席の白坂くんが、いつもより弾んだ声でボクに話しかけてきた。

 

ボクは短く「うん」とだけ返して、ようやく鞄を肩に担いだ。

 

「黒影さんは、夏休みの間、何かする予定ある?」

 

「う、うーんと、ボクは……たぶん、勉強してるかな」

 

「え!?ほ、ほんと?さすが黒影さん、真面目だな~!」

 

「……白坂くんは、何かするの?」

 

「うん、僕はね、北海道のいとこの家に遊びに行くんだ!うちでは、夏休みはいつもいとこの家に行くって決まってるんだよ!」

 

「へえ……」

 

「明日の朝イチで飛行機に乗るんだ!飛行機も久しぶりだな~!それさえもなんだかドキドキしてきちゃうよ」

 

「………………」

 

この時、ボクの頭に真っ先に過った想いは、いとこの性別がなんなのか?という疑問だった。

 

男だったらいいけれど、女の子だったら……ちょっと、辛い。

 

親戚に恋愛感情を抱くことはないと思うけど、それでも……ボクはそわそわせずにはいられなかった。

 

でも、そんないとこの性別を訊くだなんて、あまりにも変な質問過ぎる。もやもやする想いを抱きながらも、ボクは結局そのことを口にできなかったのだった。

 

(それにしても、北海道……か)

 

さすがにそれだけの距離が離れていたら、夏休みの間は、全く会えなくなってしまう。

 

もちろん、ボクのような陰キャに、白坂くんを遊びに誘う度胸なんてない。

 

だけど、街中でふらりと歩いてたら、ひょっとしたら……とか、白坂くんの方から遊びに誘ってくれるかも……とか、そんな淡い期待も多少あった。実際、以前本屋さんでたまたま会ったこともあったから、余計にそんなことを考えてしまった。

 

でも、そんな受け身の姿勢じゃチャンスが巡るはずもなく、こうして夏休みの期間は全然会えないことが約束されてしまった。

 

(いや、ボクなんかが白坂くんの彼女になれるわけないし、チャンスとかそんなの……考えもしないんだけどね……)

 

「それじゃあ、黒影さん。また、夏休み明けに会おうね!」

 

白坂くんはそう言って、ボクへにこやかに手を振ってくれた。そして、颯爽と風のように去って行ってしまった。

 

ボクはそんな彼の背中を、ただじっと黙って見つめているだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

……ボクの夏休みは、淡々と過ぎていった。

 

1日のほとんどを家から出ることなく、引きこもった生活を送っていた。

 

海だのプールだの、祭りだの花火大会だのといった陽キャ御用達の場所には、一度も行かなかった。一緒に行く友だちもいないし、そもそもああいう騒がしい場所に自分から行くほど、ボクはアクティブじゃない。

 

家の中で勉強したり、読書したり、だらだらと動画観たりと、そんないつもの休日と変わらない生活だった。

 

ただ、唯一違ったのは、白坂くんへの気持ちだった。

 

長過ぎる休み期間のせいで、ボクの心はじりじりと焦らされていた。

 

(白坂くんに……会いたいな)

 

勉強していようが漫画を読んでいようが、そのことだけは、1日中頭から離れなかった。

 

その気持ちが強くなりすぎて、ボクは夏休みの間、時々奇行に走ることがあった。

 

奇行というのは、妄想のことだった。

 

夏休みの宿題も終わって、好きな動画もある程度観てしまって、なんとなく退屈していた時に、ふと「あ、ライトノベルでも書いてみようかな」と思い立ったのが始まりだった。

 

漫画の方が好きなんだけど、ボクに絵心はなかったので、そっちを選んだのだった。

 

自分の勉強机に座り、白紙のノートを使って、ボクと白坂くんをモデルにキャラクターを作り、それをストーリーにしていた。

 

(白坂くんは魔王を倒すために選ばれた伝説の勇者で、ボクはそんな白坂くんに見込まれた最強の魔法使い……。二人は旅路の果てにたくさんの苦難を乗り越えて、恋心が芽生えたりして……)

 

自分の好きなダークファンタジーを土台にして、好き勝手に話を作り上げていった。

 

その世界観に合うように、白坂くんを『アルタイル』、ボクを『ベガ』という名前に変えていた。

 

アルタイルとベガというのは、彦星と織姫のことだった。ファンタジーっぽいし、なんとなくカッコいいからその名前をつけた。

 

(……闇夜を切り裂く閃光が、魔王に向かって放たれた。それは、ベガが繰り出した“辺獄の雷”だった。『ぐ、ぐわああっ!』魔王の慟哭が、暗黒の空に木霊する。『アル!今だ!』ベガがそう叫ぶと、アルタイルは握っていた剣を振り上げて、『うおおおお!』と咆哮しながら、果敢にも魔王へ立ち向かっていった……)

 

これがなかなか、思いの外楽しかった。ずーっと白坂くんとボクの妄想劇を頭の中で繰り広げていて、一時はほとんどこのことばっかり考えていた。

 

(『ベガ、君は僕にとって、なくてはならない存在だ。結婚して欲しい』アルタイルは真っ直ぐな瞳を、ベガへと向けていた。『そんな、何を言うんだアル。ボクなんかが勇者の君と釣り合う訳がない。もっと女の子らしくて可愛い子が……』ベガがそう言って逃げようとするが、アルタイルはそれを許さなかった。ぎゅっと肩を抱き寄せて、ベガに愛を囁いた。『僕には、君しか見えない。ベガ、結婚しよう』)

 

妄想の世界なので、如何様にでもできる。自分の都合のいい世界をひたすらに構築していた。

 

自覚はないけれど、書いている最中は、きっと口許がニヤけていたことだろう。

 

この妄想垂れ流しライトノベルを書くために、時には深夜三時まで起きていたこともあった。

 

机に備え付けてあるスタンドライトを光らせて、しこたまノートに書き連ねる。それが楽しくて仕方なかった。白坂くんに会いたい気持ちを、少しばかり解消することができていた。

 

 

……ちゅん、ちゅんちゅん

 

 

「………………」

 

ある日の朝のこと。小鳥のさえずりが窓の外から聞こえていて、それによって目覚めたボクは、昨日の晩に自分が書いたライトノベルを読み返していた。

 

「……う、うう」

 

ノートを持つ手が、震えた。

 

なんだか突然、ボクは冷静になってしまった。

 

昨日までは狂ったように熱中していたのに、今は憑き物が落ちたかのように、ボクの頭は冷えきっていた。

 

「……は……は、は………」

 

 

 

「恥ずかしーーーーーー!!」

 

 

 

……本当にもう、顔から火が出る想いだった。

 

とんでもない黒歴史を作ってしまった。

 

これぞまさに、夢小説。自分の恥ずかしい妄想を惜しげもなく形にした作品だった。死んでも他人には見せられない代物だった。

 

全部捨ててしまおうかとも思ったけど、ノート二冊も書いてしまった大作を捨てる勇気が、この時のボクにはなかった。

 

(これは、墓場まで持っていこう……)

 

そう胸に誓って、ボクはそのノート二冊を、本棚の奥の方に隠した。

 

ボクの独りぼっちの夏休みは、こうして過ぎていった。

 

 

 

 

 

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