【完結】自己肯定感ゼロのボクっ子陰キャちゃんを全肯定してみたら激重ヤンデレになりました   作:崖の上のジェントルメン

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30.嫉妬(前編)

 

 

 

……あの日以来、ボクは金森さんから話しかけられるようになってしまった。

 

下駄箱、廊下、学校の入り口……。ボクの姿が目についた瞬間に、彼女は素早くやって来る。

 

「さっぽん、おはよー!」

 

彼女の声は本当に大きくて、どんなに遠くにいても、すぐ耳元で声をかけられたかのように聞こえる。

 

その度に、ボクはびくっ!と肩を震わせて驚く。そして、弱々しく「お、おはよう、ございます……」と返す。これがもう習慣になってしまった。

 

「ねーねーさっぽん聞いてよー!この前ね、ミッチーとストバ行ったんだけどさー!」

 

「は、はい」

 

今日も今日とて、金森さんに捕まってしまった。朝のホームルーム前の、教室に向かう廊下で、ボクは金森さんの話を無理やり聞かされていた。

 

「あーしね、『いつもカプチーノだし、今日は絶対フラペチーノ買う!』って決めてたのに、なんでか分かんないんだけど、気がついたらカプチーノ買ってたんだよねー!」

 

「は、はあ……」

 

「そんでね!ミッチーが『なんでフラペチーノじゃないの?』って言ってきて、『あっ!やばー!』ってなって!二人でマジウケたんだよねー!」

 

「は、ははは……」

 

金森さんは、口を開くと止めどなくお喋りが繰り出される。マシンガントークという比喩があるけれど、彼女のはまさにそれだと思う。ダダダダッ!と、身体を蜂の巣にされたかのような、そんなインパクトを食らう。

 

そして、これは本当にぶっちゃけた話になるけれど、金森さんはいつも何を言ってるのかさっぱりだった。

 

まず、登場人物から躓いてしまう。『ミッチーとねー』と言われても、そのミッチーが誰なのか分からない。当たり前のように話されるけど、ボクはそのミッチーさんと面識がない。

 

さらに、笑いどころが全然分からない。欲しかったものと違うものを買ってしまったという話の筋のは分かるんだけど、そんな些細なことでなぜこんなにも笑えるんだろう?

 

そして何より困るのが、だいたいの話にオチがない。『これこれこうだった』という状況だけ話されて、おしまい。なのでこっちもなんて反応を返せばいいのか分からなくて、困惑してしまう。

 

共感しようにも、どこをどう共感すればいいのか分からない。

 

(正直、ボクには話しかけないで欲しいなあ……。陽キャのノリなんて、分かんないんだし。金森さんは人気者で、ボク以外にも話相手なんてたくさんいるんだから、わざわざボクに声かける必要なんかないじゃないか……)

 

彼女の話を遮って、「もう話さないで」と何度言いたかったか。でも、陰キャのボクにはそんなこと言えるわけもなく、ただ静かに聞く他なかった。

 

そしてこれが、思いの外、ボクのストレスになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……どうかしたの?黒影さん」

 

白坂くんにそう尋ねられたのは、三時間目と四時間目の間にある中休みの時だった。

 

彼はなんだか心配そうに、ボクの顔を覗き込んでいた。

 

「え、えっと、何が?」

 

質問の意図がよく分からなかったボクは、彼へそう聞き返した。

 

「いや、なんだか今日の黒影さん、いつもより表情が険しい気がして」

 

「険しい?」

 

「うん。何か……嫌なことでもあった?」

 

「……………」

 

ボクは机の中から、四時間目の数学で使うノートを取り出した。そして、それをパタンと机の上に置いてから、ぼそっと一言、こう告げた。

 

「……嫌なことって、ほどじゃないんだけど」

 

「うん?」

 

「………………」

 

「ほどじゃないんだけど……何かな?」

 

「……金森さんの、ことなんだけど」

 

「金森さん?」

 

「うん」

 

「そう言えば、最近二人、仲良くしてるもんね。話してるところ、たまに見かけるし」

 

「………………」

 

「その金森さんが、どうかしたの?」

 

「………………」

 

ボクはうつむきながら、胸の内を話し始めた。

 

「……何て言うのかな、ちょっとボク、疲れちゃってて」

 

「疲れてる?」

 

「ボクはさ、ああいうタイプの人、苦手なの。ぐいぐい来られるのが、好きじゃ、なくて」

 

「え?」

 

「陽キャ特有の明るいノリ出されても、そんなの、分かるわけないし、正直……鬱陶しいんだよね」

 

「………………」

 

この時のボクは、自分でも珍しいと思うほどに饒舌で、なおかつ毒舌だった。

 

自分が思っている以上に、金森さんに対しての苛立ちが募っていたのだろう。口を開けば、溢れるように金森さんの悪口が出てくる。

 

そして、今にして思えば……ボクはこの時、白坂くんに”甘えて“いたんだと思う。

 

白坂くんなら、ボクの話を肯定してくれる。

 

どんな悪口も、「うんうん、そうだよね。黒影さんの言う通りだよ」と言って、聞いてくれる。

 

そんな風な期待が、心の奥にあったんだろう。だから本来、途中で止めるはずのブレーキが効かなくって……どんどんと、悪口が過激になっていった。

 

「ボクさ、金森さんって頭悪いと思うんだよね」

 

「………………」

 

「人が嫌がってることに気がつくような、察する力がないんだと思う。もしかしたら、本当は金森さん、嫌われてるんじゃないかな」

 

「……黒影さんは、そう思う?」

 

「うん、そうだね。人気者っぽく見えるけど、本当はきっと裏で……」

 

と、そこまで口に出してから、ボクは固まった。

 

 

 

……白坂くんは、凄く寂しそうな顔をしていた。

 

 

 

口許にはうっすらと笑みが浮かんでいるけど、その伏せられた眼はあまりにも悲哀の色が現れていて……思わず、何も言えなくなってしまった。

 

(あ、ああ、し、しまった……)

 

ボクはこの時、一番大事なことを忘れていた。

 

白坂くんと金森さんは仲がいい。となれば、金森さんの悪口なんか聞きたいはずがない。

 

それなのにボクは、自分の感情に任せて、延々と金森さんの悪口を……。

 

「………………」

 

血の気が、さあっ……と引いた。さっきまで熱くなっていた身体が、冷や水を浴びせられたように寒くなってしまった。

 

「あ、あの、ごめん、し、白坂、くん……」

 

「うん?」

 

「そ、その、何て言うか、頭が悪いっていうのは、こ、言葉の綾で、つまり、えっと……」

 

無様にも、ボクは白坂くんへ弁解をしようとした。白坂くんからの評価を落としたくなくて、必死になった。

 

でも、どんなに頭を振り絞っても、金森さんを庇う言葉が出てこにない。吐いた唾は飲めないということもあるが、それと同時に、例え建前でも……金森さんのことを肯定的に捉えたくなかったのかも知れない。

 

「……まあ、何て言うのかな。人それぞれ考え方があるから、黒影さんが金森さんのことを苦手でも、僕は仕方ないと思うよ」

 

ボクが逡巡している間に、白坂くんからフォローの言葉を投げ掛けられた。

 

「……ごめん、白坂くん」

 

「いや、いいんだよ。黒影さんがそう思うんなら、それでいいんだ」

 

「………………」

 

そうして、ボクたちの会話は終わってしまった。

 

ああ、どうしよう。白坂くんに、嫌われてしまったかも知れない。

 

少しずつ積み重ねた信頼が、壊れてしまったかも知れない。

 

(うう、どうしよう。どうしたら……いいの?)

 

ボクはぎゅっと唇を噛み締めて、口をつきそうになる弱音を無理やり飲み込むのだった。

 

冷たくて嫌な汗が、じっとりと背中を濡らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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