【完結】自己肯定感ゼロのボクっ子陰キャちゃんを全肯定してみたら激重ヤンデレになりました   作:崖の上のジェントルメン

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35.二人目の友だち

 

 

……10月3日、金曜日。

 

この日ボクは千夏さんに誘われて、学校の中庭にある背もたれのないタイプのベンチに座り、一緒にお弁当を食べていた。

 

ボクはいつものように、購買で買ったパンを食べていた。千夏さんの方は太ももの上にお弁当箱を置き、タコさんウインナーを美味しそうに頬張っていた。

 

夏の気配が次第に薄れていき、冷たい風が吹くようになった。うなじにその風が当たって、ボクはぶるっと身体を震わせた。

 

「さっぽんってさ、いつもお昼はパンなのー?」

 

「ええ、そうですね」

 

「ほんとー!?足りなくないの?」

 

「ま、まあ、そうですね。あんまり“私”は、食べることに、そこまで執着なくて……」

 

ボクはパンを齧りながら、彼女へそう答えた。

 

千夏さんへは、まだ自分の一人称を“ボク”であるとは明かしていない。

 

それなりに彼女と仲が深まったとはいえ、ボクにはまだ、それをオープンにする勇気はなかったから。

 

「へー!だからそんな痩せてんだねー!いいなー!羨ましー!」

 

「え?そ、そうですか?」

 

「うん!あーし最近めっちゃ太っちゃってさ~!身体がむっちむちしてきたんだよねー!」

 

千夏さんは唇を尖らせて、自分のほっぺたをつまんでいた。

 

ボクはその時、ふっと視線を落として、彼女の胸の辺りを見つめた。

 

スイカでも入っているのかと思うほどに、彼女の胸は大きい。彼女はボクが痩せてて羨ましいと言うけれど、ボクからしたら……こんなにも女の子の魅力に溢れた千夏さんの身体の方が羨ましかった。

 

「あっ、そうださっぽん!」

 

「はい、なんですか?」

 

「11月の修学旅行さー、もう班って決まっちゃった?」

 

「ボクのですか?いえ、ボクはまだ全然……」

 

「ほんと!?じゃあ、一緒の班にならない!?」

 

「え?い、いいんですか?」

 

「うん!もちろん!あーし、さっぽんと一緒がいいな!」

 

千夏さんは真夏の日差しのように明るい笑みを浮かべて、ボクのことを見つめていた。

 

こうも真っ直ぐに言われると、さすがにボクも照れ臭くなって、思わず彼女から目を逸らしてしまった。

 

「え、えっと、他には……その、どなたがいらっしゃるんですか?」

 

「後はね~、凛も誘ってるよー!」

 

西川さん……か。うん、それなら大丈夫かも。

 

千夏さんの友だちの陽キャグループとかだったら、ボクは絶対耐えられなかったと思う。

 

(班は確か、五人組だったはず……。千夏さんと西川さんがいてくれるなら、他の二人が知らない人でも、なんとかなる……かも)

 

「え、えっと、なら、ボクでよければ……」

 

「やったー!ありがとねさっぽん!」

 

「い、いえ、こちらこそ……」

 

正直、千夏さんからこうして誘ってもらえたのは、ボクとしてもありがたかった。

 

今までのボクだったら、どこの班にも入れずにぽつんとしてしまって、それを見かねた先生がどこかの班に無理やり入れるといったことが起きていた。

 

そうして、誰とも喋ることができずに、他の班員たちが楽しそうにしているのを、隣で静かに眺めていた。そういう経験を、小、中としてきた。

 

もしかしたら、今年の修学旅行は……ボクにも、楽しいものになるかも知れない。それを思うと、ボクは珍しく、少しだけワクワクするのだった。

 

「なあ、金森」

 

ふと気がつくと、ボクたちのすぐ近くに、見知らぬ男子生徒が一人立っていた。

髪を茶色に染めて、ワックスでピンッと立ている、まさしくチャラそうな人だった。言わずもがな、ボクの一番苦手なタイプだった。

 

「んー!リュウセイじゃん!お久ー!」

 

そんな彼へ、千夏さんは物怖じすることなく、朗らかに挨拶を交わした。

 

「あのさ、ちょっと……話あんだけど」

 

彼はなんだか口をもごもごさせながら、千夏さんにそう頼んでいた。

 

「話ー?別にいいけど、なんなのー?」

 

「いや、なんつーか、ここじゃなんだからさ。ちょっとこっち来いよ」

 

「???まあ、いいけど」

 

千夏さんはそう言って、彼とともにしばらくの間、席を外していた。

 

ボクはぽつんと、中庭で一人取り残された。

 

(……な、なんなんだろう?一体)

 

あの人、「ちょっと来いよ」だなんて上から目線で、なんか圧のある感じだった。

 

ヤンキーとまではいかないけれど、かと言って近寄りたくはないタイプだ。あんな人に呼ばれて、千夏さん大丈夫だろうか……。

 

「………………」

 

無用なお節介かも知れないけど、千夏さんのことが心配になったボクは、食べかけのパンをベンチに置いて、千夏さんたちの様子を伺うことにした。

 

二人にバレないよう、こっそり物陰からついていった。

 

スパイや忍者のような気分になりながら、足音を立てないように気を配った。

 

二人がやって来たのは、体育館の校舎裏だった。

 

ボクはその建物の影に隠れて、二人の会話に耳をすませた。

 

顔を出すとバレてしまう気がして、ボクは二人の声だけを聞くことにしていた。

 

(な、なんか、緊張する……。部外者のボクが緊張してどうすんだって感じだけど……)

 

リズムが早くなる鼓動を手で押さえて、ボクはごくりと唾を飲んだ。

 

「……あー、もしかして、そういう系?」

 

何かを察したように、千夏さんが呟いた。するとチャラ男の方が「まあ、そういうこと」と答えていた。

 

「なあ金森、俺と付き合おうや」

 

チャラ男は「今日飯でも食いに行こうぜ」というくらいの気楽さで、千夏さんに告白していた。

 

(え、ええ!?こ、告白の場面に!立ち会っちゃった!)

 

一番外野であるはずのボクが、一番狼狽えていた。当然だ、今までボクとは縁のない出来事で、どこか漫画やアニメの中だけしかないと思い込んでいたから。

 

そうなると、少しばかり罪悪感が沸いてきてしまった。人の告白するところを覗き見するなんて、なんだかはしたないような気がしてきた。

 

「お前、今は確かフリーだべ?」

 

「まあ、うん。今は彼氏いないけど……」

 

「ならいいじゃん。付き合おうぜ」

 

「………………」

 

「なあ、おいって」

 

「……ん~~~」

 

二人の会話が、秋の風に乗って耳へと届く。

 

チャラ男のピリッとした言い方に、ボクは少し怖くなって、肩を小さくすくめる。

 

「……うん、ごめん!あーし、リュウセイとは友だちがいいかな」

 

千夏さんは朗らかな声で、告白を断っていた。

 

「はあ?なんだよそれ。俺の何が悪いんだよ」

 

「別に、リュウセイが嫌いなわけじゃないよ?でも、今は彼氏とかつくる気ないし、友だちがいいなって思ってさ」

 

「いや、そんなのつまんねえって。嫌いじゃねえってことは、好きってことだろ?」

 

「友だちとしてはね?」

「だったら、付き合えよ。俺のこと、好きにさせてやるから」

 

「んー……」

 

なかなか納得しない男に、千夏さんは明らかに困っている様子だった。声だけでも、そのことがはっきりと伺えた。

 

ボクはその辺りから、壁に隠れながら二人のことを覗いていた。

 

男は距離を詰めようと一歩前に出た。それに合わせて、千夏さんは一歩後ろに下がった。

 

「おいって!俺の何が不満なんだよ!」

 

「いやだから、別に不満とかじゃなくてさ。あーしは今、彼氏とかはつくる気ないだけで」

 

「だからさ!そんなくらいなら、付き合えばいいだろ!?俺が好きにさせてやるって言ってんだよ!」

 

次第に男は、声を張り上げるようになっていった。

 

千夏さんの腕を掴んで、逃げられないようにしていた。

 

「ちょ、ちょっと!離してよ!」

 

さすがに千夏さんも、これには嫌がる様子を見せていた。腕を振り払おうとするけど、相手はがたいのいい男だ、女の子の千夏さんじゃどうしようもない。

 

(こ、これは……もう、止めないと)

 

ボクはそう思いながら、ごくりと唾を飲んだ。

 

(で、でも、ボクが出ていったところで、返り討ちにされるのがオチ……)

 

気弱で、体力もなくて、威厳も権力もないぺらぺらなボクでは、彼女を助けられない。

 

ボクはきょろきょろと、辺りを見渡した。他の誰かに、助けを求めたかった。

 

しかし、そう都合よく誰かが周りにいてくれるわけがなかった。話し声ひとつ、聞こえてくることはなかった。

 

(う、ううう!仕方ない、もう……これしか!)

 

ボクはその場にしゃがみこんで、壁にもたれかかった。そして、目をぎゅっと瞑り……できる限りの大声を、喉の奥から絞り出した。

 

「だ、誰かーーーーー!!助けてくださーーーーーい!!女の子が襲われてまーーーす!!」

 

それを聞いた男は、「なんだ!?」と驚いた声を漏らしていた。

 

声を出した主であるボクを探していたけど、ボクはなんとか壁に隠れて、男からは見えないように努めた。

 

「早くーーーー!!誰かーーー!!あっ!鬼塚先生ーーー!!こっち来てくださーーーーーい!!」

 

ボクはこの時、ちょっとした小芝居を打っていた。

 

周りにはもちろん、誰もいない。でも、さも今先生を見つけたかのような言い方をすれば、少し臨場感が出る気がした。

 

それに、呼んでいるのは生徒に厳しい鬼塚先生。さすがにあのチャラ男も、鬼塚先生に見つかるのは嫌だろうと思ったのだった。

 

演技力もへったくれもない大根役者だったけど、とにかく必死に、ボクは声を張り上げた。

 

「ああ!?ったく!クソがよ!なんで俺が襲ってることになんだよ!」

 

男は悪態をつきながら、千夏さんから手を離し、足早にその場を去っていった。

 

「は、はあーーー……。よ、よかった……」

 

男が完全にいなくなったことを確認して、ボクは安堵のため息をついた。

 

「……さっぽん?」

 

その時、千夏さんがボクの名前を呼んだ。

 

びくっ!と肩を震わせて、またもや唾を飲んだ。

 

「さ、さっぽん、そこにいるの?」

 

「………………」

 

ボクはゆっくりと立ち上がり、おそるおそる、千夏さんの前に姿を現した。

 

「ご、ごめんなさい、千夏さん……」

 

「え?」

 

「か、勝手に、ついて来ちゃって……。こ、告白するところを見るなんて、最低なのは分かってるんですけど、でも……ちょっと、千夏さんが心配で……」

 

「さっぽーん!」

 

「え?」

 

気がつくと、ボクは千夏さんに思い切り抱き締められていた。

 

「ありがとー!ほんと助かったー!さっぽんいなかったらヤバかったよー!」

 

「は、ははは……。よ、よかったです」

 

てっきり彼女からは、告白を覗き見してたことを怒られると思っていたので、ボクはほっと一安心した。

 

「はー、マジめんどかった~!」

 

千夏さんはボクから離れると、顔をしかめてそうぼやいていた。

口をタコのように尖らせて、眉間にシワを寄せていた。

 

「リュウセイってさー、いつも上から目線な感じで、もともとちょっと苦手だったんだけど、あそこまで酷いとは思わなかったー!」

 

「そ、そうですね……。ボクもなんとなく、それが気がかりで……影から様子を伺ってました」

 

「んー!マジさっぽん、ナイス!ありがとねほんとにー!」

 

千夏さんはボクの両手を取って、ぶんぶんと縦に振った。

 

「まあでも、どっちにしても、リュウセイとは付き合う気なかったんだけどね~」

 

「彼氏つくる気ないって、言われてましたもんね」

 

「あ、えっとね、それはちょっと建前でさ。本当は、チカちゃんがリュウセイのこと好きだから、断ったんだよね」

 

「チ、チカちゃん?」

 

「あ、チカちゃんってね、あーしのクラスにいる友だちなの。その子がリュウセイのこと好きだからさ。それでね、断った」

 

「はあ、なるほど……」

 

「中学ん時もねー、似たようなのあったんだ~。友だちの好きだった人とあーしが付き合っちゃって、それで修羅場になってさ~」

 

「そうだったんですか……」

 

「そうそう。あーし、その友だちが彼のこと好きだったの知らなくて、ごめんねって言ったんだけど、『私が最初に好きだったのに!』って言われて、そっから……絶交されちゃった」

 

「………………」

 

「へへへ、恋愛って、ムズカシーよね」

 

千夏さんは薄く微笑みを浮かべていたけれど、その眼差しは、どこか寂しそうだった。

 

秋の風が仄かに吹いて、ボクたちの髪を音もなく揺らしていた。

 

「……んっ!なんか、湿っぽい話しちゃってごめんね!」

 

「あ、い、いえ、そんな……。わ、私でよければ、いつでも話、聞きますから」

 

「へへへ、やっぱりさっぽんは、優ぴだね!ほんとありがとねー!」

 

千夏さんは「さっぽん大好き!」と言いながら、またもやボクを抱き締めた。

 

さっきよりも強く抱かれているので、ボクの顔は、彼女の大きな胸によって押し潰されてしまった。

 

「む、むぐっ!ひ、ひなふはん、くうひいでふ~!」

 

窒息寸前になっているボクのくぐもった声が、乾いた空に小さく木霊していた。

 

 

 

 

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