【完結】自己肯定感ゼロのボクっ子陰キャちゃんを全肯定してみたら激重ヤンデレになりました   作:崖の上のジェントルメン

37 / 92
37.告白(前編)

 

 

……10月30日、木曜日。

 

この日付は、僕にとって……たぶん、一生忘れられない日だと思う。

 

……ザーーーーー

 

この日は、いつぞやのように雨が降りしきる日だった。教室の窓から外を見ると、朝の8時とは思えないほどに空は暗く、どんよりとしていた。

 

僕は頬杖をつきながら、その土砂降りを静かに眺めていた。

 

「………………」

 

視線を、窓の外から黒板の日付へと移す。黒板の端っこには白いチョークで、10月30日と書いてある。

 

うちのクラスは、2ヶ月に一度席替えがある。つまり、この席順なのも明日までなのだ。

 

僕は、まだ登校してきていない黒影さんの席へ目を向ける。空白の席に、黒影さんの輪郭が朧気に見えてくる。

 

 

『うちの学年の女子だったら、お前、誰が一番可愛いと思う?』

 

 

昨日、クラスメイトから問われた言葉が、脳内に響き渡る。

 

「………………」

 

分かりやすい可愛さを持っているのは、金森さんだろう。

 

明るくて元気で、気さくな人。ああいう人は分かりやすく可愛いなとボクも思う。

 

でも僕の胸には、ぎこちなく笑う黒影さんの姿が、ずっと残り続けている。

 

彼女がもし、いつまでも僕の隣で笑ってくれていたら、きっと嬉しいと思える。

 

だから、明日の席替えも、正直凄く……寂しく感じている。彼女が他の誰かの隣にいって、笑っていたとしたら……胸の奥がズキッと痛んでしまう。

 

そういう意味では、昨日クラスメイトたちに黒影さんが可愛いと思ってるのか?と指摘されたのは、間違いじゃない。

 

「………………」

 

だから……。

 

だから僕は、怒ってたのかな。

 

自分で言うのもなんだけど、僕はあまり怒るタイプの人間じゃない。そんな僕が、あんなに人を問い詰めるように怒るのは、珍しいなと思う。

 

こんなに怒ったのは、黒影さんのパンツを盗撮してた人を見つけた時以来だ。

 

黒影さんに嫌なことをしてくる人たちに対して、僕はいつも怒っている。

 

……そうか、それは、それはつまり……。

 

「……そういうこと、なのかも知れないなあ」

 

 

ザーーーーー……

 

 

僕の小さな呟きは、雨音の中に混じって、静かにかき消されていた。

 

ガタガタッ

 

ふと隣を見ると、黒影さんが席に座るところだった。

 

「おはよう、黒影さん」

 

いつものように、僕は彼女へ朝の挨拶をした。

 

「あ、う、うん、おはよう」

 

黒影さんもまた、いつものように挨拶を返してくれた。

 

「……?」

 

ただ、その時何か、妙な違和感を覚えた。彼女の姿を見た途端に、何かがいつもと違うと直感した。

 

その違和感の正体を探るために、僕はじっと彼女のことを観察してみた。

 

(……なんか、今日の黒影さん、いつもより顔が赤い気がする)

 

風邪を引いているんだろうか?もしかしたら熱っぽいのかも知れない。

 

「黒影さん、今日もしかして、具合悪い?」

 

「え?」

 

「いや、顔が赤いからさ、ちょっと心配になって」

 

「え、あ、赤かった……?そ、そっか。えーと、うん、大丈夫。熱は全然ないから」

 

「そう?」

 

「うん。心配かけてごめんね」

 

そうして、彼女は席について、筆記用具を出したり、ノートを出したりと、授業の準備をしていた。

 

まあ、彼女がそう言うなら心配ないかと考え直して、僕もまた、授業の準備を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

……キーンコーンカーンコーン

 

 

いつものように1日の授業が終わり、放課後を告げるチャイムが鳴った。

 

クラスメイトたちがぞろぞろと教室を出ていく中、僕と黒影さんだけは教室に残っていた。

 

それは、日直の仕事をするためだった。

 

黒板消しを掃除し、黒板の日付を変える。そして日誌を記入したら、先生のところへ持っていく。そういう仕事の流れだった。

 

「うっ、けほっけほ」

 

僕は黒板消しを2つ手に持ち、外で互いに叩いて汚れを落とした。空気に舞ったチョークの粉が煙たくて、僕は思わず咳き込んだ。

 

(さて、と。日付を変えなきゃ)

 

白のチョークを1本持ち、黒板の端に書かれている日付を書き変える。

 

(そう言えば、黒影さんと日直になったのは、これが二回目だったかな……)

 

前回は、僕がうっかり日直の仕事を忘れていて、彼女に全部仕事を代わりにしてもらっていた。

 

なんだかそれも懐かしいなと思い、僕はふふっと口角が上がった。

 

「………………」

 

仕事を終えた僕は、自分の席へと戻る。黒影さんは椅子に座って、日誌を黙々と書いていた。

 

隣から覗き込むと、もうあと少しで終わるところまで来ているのが伺えた。僕は何も言わずに、彼女が書き終えるのを待っていた。

 

「………………」

 

全て書き終えると、彼女はシャーペンを筆箱の中に戻した。

 

「もう、終わったかな?」

 

「あ、う、うん、終わったよ」

 

黒影さんはどこか緊張した声色で、僕にそう答えた。呼吸も浅く、「ふー……ふー……」と、口を少し尖らせて苦しそうにしていた。

 

そして、やはり朝方から変わりなく、彼女の顔は赤かった。

「……ねえ黒影さん、本当に大丈夫?」

 

「え?」

 

「いや、やっぱり顔赤いからさ。熱あるんじゃないかな?」

 

「………………」

「よかったら、一度保健室……は、ダメか。もうさすがに放課後だし、先生もいないよね。なら、病院に行った方が……」

 

「白坂、くん」

 

「ん?」

 

「今日……ちょっとだけ、時間、くれない、かな?」

 

「え?う、うん、いいけど……どんな用事かな?」

黒影さんはごくりと生唾を飲んで、がたりと席を立った。

 

「……えっと、あの、その……」

 

何やらもごもごと言いよどむ感じで、彼女はなかなか話そうとしてくれなかった。

 

寒い季節になってきたというのに、額には汗がびっしりついていて、それが頬へと一筋つたっていた。

 

ザーーーーー……

 

外の雨音が、教室の中を満たしていた。

 

黒影さんは震える手で、スカートの裾をぎゅっと掴んでいた。

 

「し、白坂、くん」

 

「う、うん。なにかな?」

 

彼女の緊張感に当てられて、僕も思わずどもってしまった。

 

「白坂くんって、つ、つつ、付き合ってる人……いる?」

 

「付き合ってる人?」

 

「う、うん……」

 

「えっと、いない、けど……」

 

な、なんでそんなこと、訊くんだろう。

 

も、もしかして、告白、とか?

 

付き合ってる人の有無を問うってことは、そういうこと……かな?

 

(ど、どうしよう、僕も緊張してきたぞ……)

 

バクバクと、破裂せんばかりに心臓が脈打つ。身体中が火照って、制服が暑く感じる。

 

「あ、あの、白坂くん」

 

「は、はい」

 

「し、白坂くんは、えっちなこと、好き?」

 

「え?」

 

「お、女の子に、えっちなことしたいって、そ、そ、そういうの、思う?」

 

「………………」

 

黒影さんからの予想だにしない問いかけに、僕はついぽかんとしてしまった。

 

「えっちな、こと……?いや、まあ……そりゃ人並みにはあるよ、そういう欲求は」

 

「ほ、ほんと?ほんとにそう思う?」

 

食い気味にそう確認してくる黒影さんに気圧されながら、僕は「う、うん」と答えた。

 

正直、これを答えるのは照れ臭かったけど、こういう場面で嘘はつきたくないと思い、素直に自分の心境を語った。

 

「よ、よかった。じ、じゃあ……その……」

 

「………………」

 

「……白坂、くん」

 

黒影さんは今までよりもっと顔を赤くしていた。頬はもう茹でたこのようになっていて、耳まで赤く染まっていた。

 

黒影さんの手は、スカートの裾を掴んでいた。シワが寄るくらいにぎゅっと握り締めていて、それをゆっくりとまくり上げた。

 

「……!?」

 

 

彼女は、僕に向かって、自分のパンツを見せたのだった。

 

 

真っ白で無垢なパンツだった。特に施された模様もない、ただただ純白のパンツだった。

 

スカートはお腹の上くらいまでまくられていて、彼女のおへそがちらりと覗いていた。

 

「く、黒影さん!?な、なにしてるの!?」

 

僕は今一度辺りを見渡して、本当に僕らしかいないか確認した。そして、彼女にスカートを元に戻すよう懇願した。

 

「黒影さん!パンツが、み、見えちゃってるよ!ほら!スカート、下ろさないと……!」

 

「……興奮、する?」

 

「え……!?」

 

頬を真っ赤にした黒影さんは、上目遣いをしながら、僕のことをじっと見つめていた。

 

「白坂くんは、ボクのパンツで……興奮、できる?」

 

「な、黒影さん……なにを、言って……」

 

「ボクのこと、女の子として……見て、くれる?」

 

「………………」

 

「ダ、ダメ?ボクじゃ……女の子に、見れない……?」

 

彼女の声が、次第に弱々しくなっていった。黒影さんの持つ不安と緊張が、まるでさざ波のように僕へと伝わっていた。

 

「そ、そんなことないよ。僕は……黒影さんのこと、ちゃんと女の子として見てるよ」

 

僕がそう告げると、黒影さんは口角をひくひくと震わせながら上げていた。そして、漏れ出すように「よ、よかった……」と小さく呟いた。

 

「ね、ねえ、白坂くん……」

 

彼女はごくりと生唾を飲んでから、僕へこう言った。

 

「ボクの、身体、好きにして、いいよ……」

 

「え……?」

 

「ボ、ボクにいっぱい、えっちなこと、して、いいよ……」

 

「………………」

 

「ボ、ボクの身体なんか、他の女の子に比べたら、全然、魅力的じゃないけど、でも、その……し、白坂くん専用の、身体になるから。なんでも、言うこと、聞くから……」

 

「せ、専用って……」

 

「が、学校でもどこでも、白坂くんに求められたら、ちゃんと、応じるよ。好きなだけ、め、命令してくれて、構わないから……」

 

「待ってよ、僕は別にそんな……」

 

「ボ、ボクと付き合って欲しいなんて、そんな、おこがましいこと言わないから。つ、都合のいい奴隷にして、いいから」

 

「ちょ、ちょっと黒影さん、何を言ってるのさ。なんでそこまで僕に……」

 

「………………」

 

不意に、彼女の眼から、音もなく涙が流れた。

 

目の端からぽろぽろと溢れて、それが床に落ちていった。

 

「黒影……さん……?」

 

「ご、ごめんね、白坂くん……。迷惑、だよね。いきなりこんなこと、言われても……」

 

「い、いや……そんな……」

 

「でもね、ボク、もうこうするしかないんだ。白坂くんに振り向いてもらうには、こうするしか……」

 

「………………」

 

「ごめんね、本当にごめんね、白坂くん……」

 

 

 

──ボクなんかが、君のこと好きになって、ごめんね。

 

 

 

……ザーーーーー。

 

外では、雨が絶えず降り続いていた。 教室の中は、秋の肌寒い空気に満ちていた。

 

2025年10月30日の出来事だった。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。