【完結】自己肯定感ゼロのボクっ子陰キャちゃんを全肯定してみたら激重ヤンデレになりました   作:崖の上のジェントルメン

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48.彼氏のおうち(1/3)

 

 

 

……ピンポーン、ピンポーン

 

 

11月23日、日曜日。午後14時。

 

ボクは、白坂くんの家のインターホンを鳴らしていた。

 

以前、彼が風邪を引いてしまった時に、差し入れを持ってきたことがあったから、ここへ来るのは二度目だった。

 

でも、今回は彼女として……恋人として、このおうちを訪ねている。しかも、今度は家の中に入らせてもらう。

 

かつてないほどの緊張とドキドキで、ボクの胸はいっぱいいっぱいだった。

 

 

ガチャリ

 

 

玄関の扉が開いた。満面の笑みを浮かべる白坂くんが、ボクを出迎えてくれた。

 

「やあ、黒影さん!どうぞいらっしゃい!」

 

「お、お邪魔します……」

 

肩を縮こませて、ボクはいそいそと玄関を上がらせてもらった。

 

古びた木造建築ならではの、年季の入った木の匂いが、田舎のおばあちゃん家を思い出させた。

 

「こっちだよ、黒影さん」

 

「あ、うん」

 

ボクは玄関で靴を揃えて、白坂くんに案内されるまま、リビングへと向かっていった。

 

畳の床に、丸テーブルがどんと置かれてあり、その周りに座布団が三つ敷かれていた。

 

部屋の角にはテレビがあり、付近にはゴルフの雑誌料理本が積まれていた。

 

「どうぞ黒影さん、好きに座ってよ」

 

「う、うん、失礼します」

 

丸テーブルの周りにある三つ座布団のうち一つに、ボクはゆっくりと正座した。白坂くんのおうちの人に見られるかも知れないので、まだ足を崩すのは怖かった。

 

「黒影さんは、オレンジジュースと麦茶、どっちがいい?」

 

「あ、え、えーと、じゃあ麦茶……いいかな?」

 

「うん、分かった。それじゃあ注いでくるよ」

 

「あ、白坂くん、ボクも手伝うよ」

 

「いいっていいって。黒影さんはゆっくりくつろいでて」

 

そうして、彼は台所の方へと向かって行った。

 

白坂くんから制止されたボクは、言われた通りにその場に留まることにした。しかし、くつろげと言われても、なかなかそれは難しい。何せ、他人の家に招かれること自体初めてなんだから……。

 

(と、とにかく、粗相のないようにしないと……)

 

白坂くんのご両親に、ボクはちゃんと気に入ってもらえるだろうか?

 

白坂くんの家族だから、きっとみんなお優しいとは思うけど……。

 

「………………」

 

しかし、しばらくこのリビングにいる間に、ボクは妙なことに気がついた。

 

この家には、ボクと白坂くん以外の気配がない。白坂くんが台所で飲み物の準備をしている音が聞こえてくるだけで、それ以外はまるっきり静かだった。

 

(……?お出かけされてるのかな?)

 

「どうぞ、麦茶お待たせー」

 

「あ、ありがとう」

 

ボクに飲み物を持ってきてくれた白坂くんへ、おうちの人について尋ねてみることにした。

 

「あの、白坂くん。今日はおうちの人いないのかな?」

 

「あー、うん。みんな今でかけてるよ」

 

「そ、そっか……」

 

それを聞いてホッとしたボクは、少しだけ足を崩した。

 

「ははは、もしかして黒影さん、緊張してた?」

 

「ま、まあ、さすがにね」

 

「大丈夫大丈夫。自分の家だと思って、ゆっくりしてね」

 

「うん、ありがとう」

 

そうして白坂くんはテレビのリモコンを手にし、「それじゃあ、早速観ますか?」と言って口角を上げた。

 

「うん!」

 

ボクと白坂くんは並んで体育座りをし、ついに待望のダーク・ブルーのアニメを視聴するのだった。

 

 

 

……ダーク・ブルーは、神様を殺す物語だった。

 

この世界では神様によって厳しい規律や罰則がしかれてしまい、人々は常に監視され、自由を失っていた。そんな世界を変えるために、主人公たちは神様を倒す冒険に出かけるのだった。

 

主人公はリゲルという、悲しい過去を背負う少年だった。

 

彼の母親はパン1個を盗んだことを罪に問われ、正視できないほどの壮絶な拷問を受け、果ては国民の前で生首を晒されてしまう。

 

しかも母親がパンを盗んだのは、貧しくてお腹を空かせている息子リゲルへ与えるためのものだった。しかし、そんな事情を鑑みてもらえることもできず、ただ非情に罰を与えられてしまった。

 

『罪人め!恥を知れ!』

 

晒された母親の生首に、道行く人たちが石を投げる。リゲルはもう、どうしようもなく悔しくて、激しい怒りに燃えていた。

 

『僕たちは爪の先まで正しくなければ、生きる価値などないのか!?正しさの檻に囚われる、家畜のような存在なのか!?』

 

『そんなことあってたまるか!!僕は、神を殺す!!こんな世の中、変えてやる!!』

 

母親の首を抱き締めながら、リゲルは神への復讐を誓う、お腹にズシンとくるダークファンタジーだ。

 

旅の途中で、彼は様々な仲間と出会う。ボクの最推しであるレインも、その一人だった。

 

『やあこんにちは、ボクの名前はレイン。君が例の……神に牙を向いた愚か者、リゲルだね?』

 

「わっ!で、出た!レイン!レイン!」

 

アニメで彼女が初登場した時、ボクはもう堪らなく興奮して、テレビに釘付けになっていた。

 

『レインさん、どうか僕の仲間になってください。あなたの力が必要なんです』

 

レインは風を操ることができる魔法使いで、人間界でも随一の強さを誇っていた。神を倒すためにも、リゲルは彼女の力を頼りたかった。

 

しかし……。

 

『すまないけど、お断りだね。ボクの素晴らしき才能は、ボクのためだけに使いたいのさ。それに、神に反逆するなんて……そんな無謀なことでボクの大事な人生を棒に振りたくないね。すまないけど、お引き取り願おうか』

 

結局そうして、彼女は彼の申し出を断ってしまう。

 

(ああ!原作通り!最初はレインも、いか好けないキャラだったんだもんね!うーん!声もイメージしてた感じのまんま!凄い!嬉しい~~~!)

 

漫画や小説が映像化するに当たって、必ずしも自分の想い描く通りになるとは限らない。中には出来が悪くてファンから反感を買ってしまう作品だってある。

 

だからボクは、このダーク・ブルーがアニメ化すると決まった時、嬉しい半分、不安半分だった。

 

緻密な世界観と心理描写が省略されてしまうかも……。下手したら何人かキャラクターを減らされてしまうかも……。

 

そして、本当に本当に考えたくないけど、レインの登場までも削られてしまうかも……と、そんな不安がずっと胸の中に巣くっていた。

 

何せ、ボクをオタクの沼へと引きずり込み、あまつさえ一人称を真似するほど影響を受けている作品だ。どうしてもアニメ化には期待してしまう。その期待が裏切られてしまったらと……本当に気が気ではなかった。

 

でも、今その不安は、風のように綺麗さっぱり消え去った。むしろ不安があった反動で、喜びが2倍にも3倍にも膨れ上がった。

 

「いやー、やっぱり面白いね!ダーク・ブルー!」

 

白坂くんも満足しているらしく、微笑みながらうんうんと頷いていた。

 

「うん!ほんとに最高!作画も綺麗だし、声優さんもみんな上手だし!何より、描写のエグさが原作通りで、ほんと凄いよ!」

 

「ふふふ、そうだね」

 

白坂くんは、またいつぞやのように、“妹を見守るお兄ちゃん”のような優しい眼差しをボクに向けていた。

 

(うう、なんかちょっと、恥ずかしいかも……)

 

微笑ましく見てくれるのは嬉しいけど、なんだか胸の奥がくすぐったくて仕方なかった。

 

「あ、そうだ。白坂くん、アニメは何話まで録画してあるの?」

 

「えっとね、3話までかな?4話以降は来週だね」

 

「3話か~、ボクの好きなシーン出てくるかなー?」

 

「あー、もしかしてレインのシーンかな?」

 

「そうそう!あそこまで観れるといいな~」

 

「楽しみだね」

 

「うん!」

 

そうして、ボクは彼と肩を寄せ合いながら、アニメの続きを観ていった。

 

 

 

 

 

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