【完結】自己肯定感ゼロのボクっ子陰キャちゃんを全肯定してみたら激重ヤンデレになりました   作:崖の上のジェントルメン

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6.僕とボク(1/2)

……翌日の6月12日。

 

ボクはこの日、微妙に熱があったけれど、2日連続で休むとお母さんから叱られそうだと思い、無理して学校へと来ていた。

 

「けほっ、けほっ」

 

乾いた咳が喉をつく。ボクは口に手を当てて、音がなるべく小さくなるようにしていた。 どんよりと曇った空が、一面に広がっていた。

 

「おはよー」

 

「おー、おっすー」

 

クラスメイトたちが朝の挨拶を交わしているのを横で聞きながら、ボクは自分の席へと向かう。

 

「………………」

 

ボクの隣の席である白坂くんは、ボクより先に来ていたようで、既に席に着いている彼の姿があった。

 

(……ど、どうしよう、怖い……)

 

昨日の件から考えると、たぶん白坂くんから「具合はどう?治った?」っていう風に質問されるはず。翌日になって登校してきているのだから、そういう話題の振り方は自然な流れだと思う。

 

これが、ボクには堪らなく怖かった。

 

なぜなら、声をかけられるという出来事自体が、ボクにとっては凄まじくストレスだったから。

 

もし、回答を言い淀んでしまったらどうしよう? もし、気に障る態度を取ってしまったらどうしよう? 人と話すというだけで、数え切れないほどの不安を抱えてしまう。

 

他人からは気にしなくていいのにと笑われることかも知れないけど、ボクにとっては一大事だった。

 

特に、この白坂くんという人について、ボクはまだなんにも分かっていない。このこともボクを悩ませる要因になっていた。

 

彼がなんで、ボクなんかのために差し入れをしたりしたのか、検討がつかない。彼のボクに対する評価が不透明で、そこも怖い。下手な受け答えをして、彼の機嫌を損ねるのが不安で仕方ない。

 

(でも……隣の席だから、逃げようがない……よね)

 

うだうだと悩み込んだけれど、結局ボクは弱々しく自分の席へと着いた。

 

『体調はどう?』

 

『うん、なんとか治ったよ』

 

『そっか、よかったね』

 

『心配かけてごめんなさい』

 

緊張を和らげるために、自分の頭の中で、ある程度会話のシュミレーションをしておく。

 

何も話しかけられないのが一番だけど、でも……白坂くんの場合は、それも望み薄かも知れない。

 

「おはよう、黒影さん」

 

白坂くんはいつものように、ボクへ挨拶をしてきた。ボクは「お、おは、よう」と、震える声で返事をした。

 

「どう?今日の体調は?無事に治ったかな?」

 

ああ、やっぱり訊かれた。予想していた通りだ。

 

「あ、う、うん、なんとか……治りました。し、心配かけて、ごめんなさい……」

 

ボクはひとまず、シュミレーション通りに答えた。ただ、あまりにも緊張し過ぎて、つい敬語になってしまった。

 

すると白坂くんも、「いやいや、無事に治ったなら何よりだよ」と、ここも想像していたのに近い回答をくれた。

 

よかった、無事に会話を終わることができそう。これでようやく、ボクも落ち着くことが……。

 

「昨日はずいぶん具合悪そうだったけど、熱も出たりしたの?」

 

その時、白坂くんはボクの想定してなかった質問を投げかけてきた。

 

「う、うん……」

 

ボクは内心かなりびくついていたけど、とりあえずは相づちでなんとか返せた。このくらいの質問なら、まだどうにか対応が……。

 

「それは大変だったね。何度くらい?」

 

「え?あ、えーと……」

 

(ええ?そ、そんなところまで聞くの?)

 

ボクはさらなる追撃に面食らって、狼狽えてしまった。

 

(ね、熱は、何度だったっけ?確かお母さんに見せたはずだから、えーと、えーと……)

 

白坂くんの眼が、ボクの回答を待っている。は、早く答えなきゃ。でも、えっと、なんだっけ。熱は、いくつ出たんだっけ?

 

心臓がばくばくと動いて、冷汗が止まらない。どうしよう、こんな簡単な質問にすらまともに答えられないんだって、白坂くんから思われてしまう。

 

ちゃんと答えなきゃ、ちゃんと答えなきゃ、ちゃんと答えなきゃ……。

 

「……38度とか、それくらいかな?」

 

白坂くんは怪訝な顔をしながら、さらに言葉を追加してきた。そうだ、38度だった、言われて思い出した。

 

「あ、う、うん、そのくらい……」

 

ボクがそう答えると、白坂くんは顔をしかめて、「うーん、38度は結構な高熱だね」と呟いた。

 

「もう今は、熱は下がったの?」

 

「う、うん……」

 

本当はまだ37度くらいあるけど、また心配されるのも怖かったから、そう言って嘘をついた。白坂くんはにっこり笑って、「そっか、下がってるならよかったね」と言った。

 

ボクが「ど、どうも……」と答えると、彼はボクから視線を外し、顔を前へと向けた。

 

(あ、ああ……。よかった、やっと話が終わった)

 

ボクは彼に気づかれないよう、静かにため息をついた。

 

ど、どう思われたんだろう。やっぱりレスポンスが悪いって思われたのかな。ボクと話してて、つまんないと思われたかな。 こんなやつ、心配する価値もない。心配なんかしなければよかったって……思われたかな。

 

そ、そうだ、最後の答え方……。熱が下がってよかったねと言われて、ボクは「どうも……」と返したけど……あれは、「ありがとう」の方がよかったんじゃないか?

 

うわあ、し、失敗した。まともに感謝もできない人間なんだって、思われてしまったかも知れない。

 

(うう、ダメだ……やっぱりボクはダメなんだ……)

 

胸がきゅーっと詰まるような思いを抱えながら、浅くなった呼吸を整えるために、深く息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

「つまり、円柱の体積を求める方程式は……」

 

数学の授業中。ボクは先生が板書したことを、必死になってノートにまとめていた。

 

昨日休んだツケのせいで、今やっている授業が難しく感じる。教科書を前のページから何度か確認しながら、ボクは今習っているところを理解しようともがいていた。

 

(えーと……つまり、公式がこうだから……)

 

じーっと黒板を睨み付けるようにして、ボクは目を細める。

 

その時に、ふっと黒板の左端にある……日直の名前が目に入った。

 

「6月12日 日直:白坂 優樹 黒影 彩月」

 

(あ……今日、ボク日直だ)

 

帰りのホームルームが終わったら、仕事をしないといけない。

 

別にそれ自体は苦ではなかった。ただ、この仕事を白坂くんと一緒にしないといけないのが……一番の難関だった。

 

これは別に、白坂くんに限った話じゃない。誰かと二人きりで仕事をしなきゃいけないというのが、ボクにとって苦痛だった。

 

(そうだ、そもそも白坂くんは……今日自分が日直だって、知ってるかな?)

 

ボクも今になって気がついたのだから、もしかしたら白坂くんも知れない可能性がある。

 

「………………」

 

ボクはちらりと、横にいる白坂くんの方へ目を向けた。

 

どうしよう、ちゃんと確認した方がいいよね……?今日は日直なんだよって。 で、でも、何て言って話しかければいいのか分からない……。

 

どのタイミングで、どういうトーンで言うのが正解なのか、検討がつかない。

 

だいたい、白坂くんはボクと違って、ちゃんと日直であることを分かってる可能性だってある。そうなったら、「ちゃんと分かってるに決まってるじゃん。そんな当たり前のことを訊くなんて、僕のことバカにしてるの?」って、気分を害してしまうかも知れない……。

 

なら、いっそ言わない方がいいのでは……?もし万が一、白坂くんが忘れてて、日直の仕事をすっぽかしたとしても、ボクは一人で仕事ができるし、却って気楽かも。

 

ああ、だけど……後日、何かの拍子に白坂くんがこの日は日直だったことを知って、「黒影さん!なんで日直だったこと教えてくれなかったの!?」「ちゃんと話してくれないなんて最低!」って、そ、そんな風に怒られるかも……。

 

(ううう、どうしたらいいんだろう……?)

 

あれやこれやと、矢継ぎ早に不安が頭の中に沸いて出てくる。 こんな単純なことさえも、まともにできない自分に……腹が立って仕方ない。

 

「………………」

 

その時、不意に白坂くんがこちらへ目を向けた。

 

「!?」

 

驚いたボクは、反射的に黒板の方へ目を逸らした。

 

(見、見てたの気がつかれたかな……?)

 

バクバクと心臓が鳴っている。それは、不安であるがゆえの鼓動だった。

 

(自分のこと見てきて、キ、キモいって思われたかも……。)

 

またもや頭の中に、悩みの種が植えられる。

 

四六時中、忙しく……ボクの脳内は、ボクをいじめることに尽力していた。

 

 

 

 

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