【完結】自己肯定感ゼロのボクっ子陰キャちゃんを全肯定してみたら激重ヤンデレになりました   作:崖の上のジェントルメン

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65.拒絶

 

 

 

……それから私と千夏は、どういうタイミングと場所で黒影さんに謝るか考えた。

 

「あーし、明日のお昼休みにでも、さっぽんへ話しかけてみる。二人でお弁当食べる時はいつも中庭だったから、そこに来てもらおうかな」

 

千夏の言葉に、私は「うん」と答えた。

 

「なるべく早い方がいいに越したことはないね。こういうのは、時間が経つほどすれ違っちゃうし」

 

「だね」

 

「白坂くんへはどうする?白坂くんも心配してたから、事情を話せるところだけ話してあげた方がいいかなと思ってるんだけど……」

 

「………………」

 

「ま、まあでも、さすがにまだ止めとこうか。千夏の気持ちを明かしちゃうことになるし、白坂くんへは事が全部片付いてから話しても……」

 

「……う~ん」

 

千夏はしばらく苦々しい顔をしていたけど、タピオカミルクティーに口をつけて、一息間を開けてから、こう言った。

 

「いや、やっぱ話す。あーしから話すよ」

 

「千夏から?」

 

「優樹が……好きだったことも、全部話す」

 

「!」

 

「さっぽんに悪いことしちゃったし、これくらいはあーしがやらないと、いけないって思う」

 

「……そっか」

 

千夏は、凄いな。

 

私だったら、たとえ罪悪感を抱えていたとしても、好きな人に自分の好意を伝えるのは、本当に難しいと思う。

 

実らない恋だからこそ、それは普通、閉まっておきたいと考えるもの。でも、千夏はそうしなかった。

 

素直で真っ直ぐな千夏だからこそ、できること。

 

「ねえ千夏、もしよかったら、黒影さんと白坂くんへ話す時、私が間に入ろうか?」

 

「凛が間に?」

 

「うん。マンツーマンだと、さすがに千夏も緊張するでしょ。千夏が上手く話せない時は、私がフォローするから」

 

「あ、ありがとー!めっちゃ助かる~!」

 

千夏はそう言って、私にしがみついてきた。

 

「ごめんね凛~!バカなあーしのことに巻き込んじゃって~!」

 

「何言ってんの、これくらいのことで」

 

私は薄く微笑みながら、千夏の背中をとんとんと軽く叩いていた。

 

膠着していた問題に、ようやく光明が差したところだった。

 

 

 

 

 

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 

……翌日の、水曜日。

 

私はお昼のチャイムが鳴ったと同時に、黒影さんの席へと向かった。

 

彼女はちょうど、焼きそばパンと牛乳を持って、席を立とうとしていたところだった。

 

黒影さんと話すのは修学旅行以来だったので、若干緊張しつつも、私は足を一歩踏み出した。

 

「黒影さん、ちょっとごめんね」

 

私がそう声をかけると、彼女はびくっ!と身体を震わせて、おそるおそる私の方を見た。

 

ああ、そうだ。まだ仲良くなかった頃は、こうしていつも警戒されてたっけ。

 

「あの、もし黒影さんがよかったら、今から少しだけ時間貰えないかな?」

 

「……時間、ですか?」

 

「うん。少しだけ、お話ししたいことがあって。お昼前にごめんね、本当に少しだから」

 

「………………」

 

黒影さんは訝しげな顔をしていたけど、最終的にはパンと牛乳を机の上に置いて、「分かりました」と答えてくれた。

 

私は心の中でガッツポーズをして、黒影さんを中庭まで連れて行った。

 

 

かつん、かつん、かつん

 

 

廊下に、二人分の足音が響いていた。

 

私と彼女には微妙な距離感があり、私の三歩ほど後ろを、黒影さんが後を追ってくるという形だった。

 

「……話って、なんなんですか?」

 

「えーとね、話があるのは私じゃなくて、千夏の方なの」

 

「……千夏さん?」

 

「うん。この前のことで、話したいことがあるって」

 

「………………」

 

「黒影さん、千夏とはいろいろすれ違っちゃったところもあるけど、でも千夏はね、本当にいい人だから……」

 

と、そこまで言いかけたところで、私は少し違和感を覚えた。

 

後ろから来ているはずの黒影さんの足音が、ぴたりと止んでしまったからだ。

 

私は一旦、後ろを振り向いて、彼女の姿を確認した。

 

黒影さんは、5メートルほど後方で、じっと立ち止まっていた。

 

顔をうつむかせて、額に脂汗を滲ませていた。

 

「く、黒影さん、大丈夫。千夏はあなたを責めるつもりはなくて、ただ謝り……」

 

私が言い終わる直前に、彼女はくるりと背中を向け、来た道を真っ直ぐに引き返してしまった。

 

「黒影さん!」

 

私は急いで追いかけたけど、途中の角を曲がったところで、姿を見失ってしまった。

 

「あ、あれ?一体どこに……。うーん、困ったなあ。まさか逃げられるなんて」

 

黒影さんが、心中で千夏にどういう感情を向けているのか、私は“分かった気になってた”のかも知れない。

 

単に千夏に対して気まずいだけならいいけど、もしかしたら……私が測りかねる心情が彼女にはあるのかも。

 

「はあ……どうしたものかな」

 

私は静かに腕を組んで、誰もいない廊下をじっと眺めていた。

 

 

 

 

 

 

「……さっぽんが、いなくなった?」

 

取り敢えず私は、中庭で黒影さんを待つ千夏に事の顛末を話した。

 

「千夏の名前を出した途端に、走って逃げちゃって……。まだ、心の整理ができていないのかも」

 

「………………」

 

「教室に戻ってるかもと思って、一旦帰ってみたんだけど、そこにもいなかった。パンと牛乳もなくなってたから、どこかで食べてはいるんだと思う」

 

「………………」

 

千夏は今にも泣きそうな顔で、顔をうつむかせてしまった。

 

そうだよね、友だちから拒絶されて、悲しくないはずがない。千夏にある程度非があるとは言え、私はあまり彼女を責める気にはなれなかった。

 

「とりあえず、放課後にもう一度、声をかけてみる。それでダメだったら、一旦諦めよう」

 

「………………」

 

「もともと、一朝一夕でどうにかなる問題でもないし、ゆっくり進めるしかないよ」

 

「……そう、だよね」

 

苦々しく唇を噛み締めながらも、千夏はこくりと頷いた。

 

「それじゃあ、凛。ごめんけどお願い」

 

「分かった。じゃあ、また放課後に」

 

私の言葉を受けて、千夏はもう一度頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それではみなさん、さようなら」

 

「「さようなら!!」」

 

帰りのホームルームが終わると、クラスメイトたちの緊張が一気に溶け、すぐに雑談と笑い声が響き渡った。

 

「あー!マジ腹減ったー!飯食い行こうぜー!」

 

「ねえねえ、今日アヤカたちと行くのってどこだっけ?ストバ?」

 

「ふあぁ……。帰って寝るかあ……」

 

雪崩のように、大勢が教室から出ていこうとして、廊下はごったがえしていた。

 

「黒影さん」

そんな中、私はまた黒影さんの元へと駆けつけた。彼女は他のクラスメイトたちと同じく、既に鞄を背負っていて、まさしく教室から出ようとしているところだった。

 

「お昼休みの時は、無理に誘ってごめんね。でも、どうか一回でいいから、千夏と会ってあげて欲しいの」

 

「………………」

 

黒影さんは、恐らく意図的に私の方を見なかった。何の表情も浮かんでいなくて、ただ自分の足元だけを凝視していた。

 

「帰る前で悪いんだけど、少しだけでいいから、今から時間……貰えないかな?」

 

「……ごめんなさい。用事、あるので」

 

「あ、そ、そっか。ごめんね」

 

「………………」

 

「えっと、それじゃあ、いつなら大丈夫?黒影さんの都合に合わせるから、その日に会えないかな?あ、もちろん、明日明後日すぐにってわけじゃないよ。いつでも大丈夫だから」

 

「………………」

 

「……あの」

 

「西川さん、ごめんなさい」

 

黒影さんは、苦しそうに顔を歪ませていた。そして、私にさっと背を向けて、そのまま去って行った。

 

「あ、黒影さ……」

 

追いかけようとしたけど、彼女は他のクラスメイトたちの人混みに隠れてしまって、もう見つけられなかった。またしても逃げられてしまった。

 

「……いや、仕方ない。これ以上強引に誘っても、溝が深まるだけだよね。今日できるのは、ここまでだ」

 

私はふうとため息をつきながら、腰に両手を当てた。

 

「やっぱり、黒影さんを動かせるのは、一人しかいないかもなあ……」

 

 

 

 

 

 

 

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