【完結】自己肯定感ゼロのボクっ子陰キャちゃんを全肯定してみたら激重ヤンデレになりました   作:崖の上のジェントルメン

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66.グレープフルーツみたいな

 

 

「………………」

 

下駄箱へ向かうと、廊下に千夏が一人ぽつんと立って、私を待っていた。

 

足音で気がついたのか、千夏はふいっと私の方へ目を向けた。

 

彼女が「さっぽんは?」と言うので、首を横に振ると、悲しそうに目を伏せてしまった。

 

「仕方ないよ、スタートダッシュはこんなものだって」

 

「………………」

 

「さっきも言ったように、すぐすぐ解決する問題じゃないしさ。気長に頑張るしかないよ」

 

「……あーしが、声かけるべきなのかな?凛にお願いするんじゃなくて、あーしが直接言わないと、さっぽんも納得しないんじゃ……」

 

「いや、千夏が出たら余計話してくれないと思うよ」

 

「………………」

 

「黒影さんはきっと、千夏に嫌われてしまったって思ってるはず。だから、会うのが怖いんだと思う」

 

「……そっか、そうだよね」

 

「とりあえず、今日のところは諦めよう。新しい方法を考えなきゃ」

 

「……さっぽん」

 

千夏は、唇をきゅっと噛み締めながら、拳を強く握っていた。

 

「どうかしたの?二人とも」

 

その時、幸か不幸か、白坂くんが私たちの元にやって来た。

 

「白坂くん……」

 

「やけに暗い顔してるけど、何かトラブルでもあったの?西川さん」

 

「………………」

 

私は反応を伺うために、千夏の横顔を見つめた。彼女は眉をしかめて、苦々しく口をへの字に曲げていた。

 

「……あの、優樹」

 

「うん?」

 

「よかったら、ちょっと……話、してもいい?」

 

「?うん、僕は構わないけど……あっ」

 

白坂くんは、何かを察したような表情を浮かべた。そして、少し辺りをキョロキョロしてから、声をひそめて「もしかして、黒影さんのこと?」と訊いてきた。

 

ああ、そっか。白坂くんは千夏と黒影さんに何かがあったことは朧気に分かってたもんね。話があるって言われると、大方そのことだろうって勘づけるんだ。

 

千夏がこくんと頷くと、白坂くんは「わかった」と言って、ポケットからスマホを出した。

 

「それじゃあ黒影さんには、先に帰って貰うようLimeしておくよ」

 

「え?」

 

「僕、いつも彼女と待ち合わせしてから、一緒に帰ってるんだ。でも用事のある日とかは、こうして別々になるけどね」

 

「あ、ああ……そう、だよね」

 

付き合ってるもんね、と、千夏は本当に小さな声で呟いた。

 

「ち、千夏、もう白坂くんに話して大丈夫なの?」

 

「……さっぽんの方が今ダメなら、せめて優樹だけにも伝えたくて」

 

「………………」

確かに、千夏の言う通りかも知れない。

 

黒影さんが千夏を拒んでいることは、お昼休みとさっきのでよく分かった。溝ができてしまった以上、なかなかそれを埋めることは難しい。

 

となれば、外堀から埋めていくのが正解かも知れない。

 

千夏と黒影さんの橋渡しができるのは、きっと白坂くんしかいない。

 

(でも、それはつまり……今、白坂くんへ恋心を伝えてしまうということ)

 

脈のない恋とはいえ、こんな形で打ち明けるのは、本来千夏も不本意なはず。

 

それでも言おうとしているのは、千夏にとって……恋よりも友情の方が、大切だからかも知れない。

 

そんな千夏の心境を考えると、私は胸が痛くて堪らなかった。

 

「……千夏。私、いない方がいいかな?」

 

「ううん、大丈夫。むしろ……居て欲しいかも」

 

「………………」

 

「よし、金森さんごめんね、黒影さんへ先に帰るよう伝えておいたよ」

 

「うん、ありがと優樹。じゃあちょっと……ここで話すのはなんだし、どっか場所変えない?」

 

千夏は精一杯笑顔を作りながら、彼へそう告げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……私たち三人は学校を出て、とある公園へと来ていた。

 

そこは、遊具が鉄棒とブランコしかないような、小ぢんまりとした公園だった。

 

その敷地内へと入った私たちは、座る場所もなく、ぶらぶらと立ったまま話し始めた。

 

「二人の間に何かがあったってことは、なんとなく分かってたよ」

 

白坂くんは千夏の目を真っ直ぐに見つめながら、そう言った。

 

「でもさすがに、どういうことがあったのかまでは分からなかった。今回は、その話をしてくれるってことだね?」

 

「………………」

 

千夏は、白坂くんからの問いかけには答えず、どこか遠くの方を見つめていた。

 

そして突然、くるりと彼へ背を向けた。

 

「……?金森さん?」

 

「……優樹に慰めて貰ったのも、今くらいの季節だったかなあ」

 

「え?」

 

「あーしが落ち込んでて、どーしよーもなくて。そんな時、優樹が助けてくれたっけ」

 

「………………」

「なんか、よく分かんなかった。別にさ、それ以上の関係になりたいとか、その先どうしたいとか、そーゆーのはあんまなくて。とにかく、なんか喋れる時間があるのが、あーしには楽しかった」

 

「……金森さん」

 

「千夏……」

 

「………………」

 

 

ひゅうううう……。

 

 

冷たくて乾いた風が、私たち三人の間を吹き抜けた。

 

千夏の長い金髪が、それに煽られてふわりと揺れた。

 

「なんかさあ、恋って、グレープフルーツみたいだなーって思ったよ」

 

「恋がグレープフルーツ?」

 

「甘くて、酸っぱくて、苦い」

 

「……それって、どういう」

 

「………………」

 

千夏は、しばらく沈黙を貫いた。いろいろな想いが、きっと胸の中で渦巻いているんだろう。

 

いつも明るく元気な彼女の背中は、いつになく小さく見えた。

 

白坂くんも何かを察しているのか、じっと黙って、千夏の言葉を待っていた。

 

「……あのね、優樹」

 

千夏は絞り出すような声で、ぽつりと言った。

 

 

 

「……好きだったよ」

 

 

 

「………………」

 

「一年前から、好きだったよ、優樹」

 

「………………」

 

「さっぽんの彼氏だから、もう……諦めるけど」

 

「……か、金森、さん」

 

白坂くんは千夏の背中を、目を大きく見開いて、じっと見つめていた。

 

右手を顔に持っていって、口を手の平で覆っていた。

 

「……あ、ああ、そうか」

 

「………………」

 

「……それで、それで二人は溝ができちゃったって……こと?」

 

「………………」

 

「く、黒影さんも、金森さんも、僕へ想いを寄せていてくれたから……」

 

千夏は何も言わずに、ただ黙ってこくりと頷いた。

 

さすがの白坂くんもこれには驚いた様子で、顔を真っ赤にして、冷や汗を垂らしていた。

 

「い、いや、ごめん、こ、これはちょっと気がつかなかった……。黒影さんから矢印を向けられてるのは、付き合う前からもなんとなく分かってたけど、か、金森さんもだったなんて……」

 

混乱していた白坂くんに対し、私が千夏に代わって状況を補足した。

 

「……修学旅行の時に、みんなで好きな人を言い合おうって話になって」

 

「………………」

 

「それで、まあ、白坂くんの察する通り、二人が喧……気まずくなっちゃったの」

 

「……なるほど、これで全部合点がいったよ。これは確かに、おいそれと僕へ話せない内容だ、慎重になるのも当然だと思う」

 

白坂くんは拳をぎゅっと握り、精悍な顔つきで、千夏にこう言った。

 

「……ありがとう、千夏さん。僕のこと、好きでいてくれて」

 

「………………」

 

「君の気持ちに応えられなくてごめん。でも、本当に嬉しかったよ」

 

「……ほんと?」

 

「うん」

 

「……じゃあ、もし」

 

「うん?」

 

「さっぽんより早くコクってたら、あーしと付き合ってくれた?」

 

「!」

 

白坂くんは眉間にしわを寄せて、考え込んでしまった。

 

そのことを察したのか、千夏は背中を向けたまま、「ごめんね」と言って謝った。

 

「優樹は、さっぽんの彼氏。きっとそれは、あーしが早くても一緒だった。そんな気がするなあ」

 

「……金森さん、ごめん。僕は……」

 

「ううん、だいじょーぶ。優樹は、そのまんまでいて欲しいな」

 

「………………」

 

千夏は天を仰いで、大きく息を吸い、「はあ~~~……」と、溜まっていた何かを全て出すように、息を吐いた。

 

「金森さん、ありがとう」

 

「うん?」

 

「この告白は、黒影さんのためだよね?」

 

「………………」

 

「君と黒影さんのいざこざの原因が、僕だった。それを教えるためには、君が僕に想いを寄せていたことを話さなきゃいけない」

 

「……うん」

 

「普通、こんなところで話したくないはずだ。友情のためとは言え、秘めてた気持ちを表に出すのは、とても勇気がいることだと思う」

 

「………………」

 

「だから、ありがとう。金森さんは本当に、優しい人だね」

 

「………………」

 

千夏は、ゆっくりと……振り返った。

 

風によって、ゆらゆらと髪がなびいていた。

 

「………………」

 

千夏は、泣いていた。

 

泣きながら、笑っていた。

 

大きな涙の粒が、揺れる髪とともに風に煽られて、ぽろぽろと飛んでいた。

 

でも、口元にはいつもの千夏の……明るくて元気な笑みが浮かんでいた。

 

親友の私も見惚れるくらいに……彼女は可愛くて、優しい眼差しを持っていた。

 

風の音だけが、口笛のように聞こえていた。

 

 

 

 

 

 

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