【完結】自己肯定感ゼロのボクっ子陰キャちゃんを全肯定してみたら激重ヤンデレになりました   作:崖の上のジェントルメン

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68.動物園デート(1/3)

 

……2025年12月14日、日曜日。この日、僕は黒影さんと動物園に来ていた。

 

僕たちは二人とも、お揃いの白いマフラーと手袋をしていた。

 

「いらっしゃいませ~、笹原動物園へようこそ~」

 

「学生二人です」

 

「はい、学生様お二人ですね~。どうぞご入園ください~」

 

支払いと受付を済ませ、チケットと園内地図を貰った。

 

地図は三折りにされていて、それを開くとA3サイズくらいに拡がった。

 

「ドキドキするね、白坂くん」

 

「そうだね、黒影さん」

 

彼女は僕の左肩に身体を寄せて、ニコニコと笑っていた。

 

(よかった、今日はご機嫌のようだ)

 

彼女の様子にほっと安堵しつつ、僕たちは二人で動物園を巡るのだった。

 

「あ!ほら見て白坂くん、このトラ大きいね!」

 

「おー!迫力満点だね!えーと……種類はスマトラトラで、ニックネームは『ミャウくん』だって」

 

「う、うーん……こんなに大きいと、ミャウくんではない気が……」

 

「ははは、本当だね。小さい頃はよほど可愛かったんだろうね。あっ、ほら黒影さん、あっちにはナマケモノがいるよ」

 

「ほんとだ!ボク、ナマケモノは生で見るの初めて!」

 

「ナマケモノって、ご飯を食べ過ぎると消化が間に合わなくて、餓死することもあるんだって」

 

「えー!?い、いっぱい食べてても餓死するって、相当消化が遅いんだね……」

 

「興味深いよね~!動物の生体って面白いな~!」

 

僕も黒影さんも、知的好奇心が強いタイプらしく、動物の説明文をくまなく読み、二人で「へー!」「おー!」と感嘆の声をあげていた。この辺は、僕も彼女も調べたがりなオタク気質が現れていると思う。

 

また、ここは魚類も飼育しているらしく、小規模な水族館のような場所もあった。

 

ぷかりぷかりと浮かぶクラゲを、黒影さんはガラス越しにじっと見つめていた。

 

「ほら白坂くん観て。クラゲ綺麗~」

 

「うん、ほんとだ。優雅だな~」

 

「クラゲって、確か死なない種族もいるらしいね」

 

「え?死なないってどういうこと?」

 

「えーと、ベニクラゲ?っていう種族は、寿命が来たら一回若返るらしいよ。だから事実上、死なないクラゲって言われてるんだって」

 

「へー!面白いね!なんか、漫画の悪役とかがそのクラゲを見たら、不老不死になるために食べたりしてそうじゃない?」

 

「うんうん、やってそうやってそう。鬼殺の刀の無念様とかが必死に探してそう」

 

「ははは、分かる分かる」

 

「あっ、観てみて白坂くん。クラゲって海の月って書いて海月(クラゲ)って読むんだね。ボク初めて知ったよ」

 

「海の月っていいね、なんだか幻想的だ」

 

「ボクも彩月って名前だから、ちょっと親近感沸いちゃうかも」

 

「ははは!なるほど、月繋がりでね」

 

「………………」

 

「……?どうかした?」

 

黒影さんは、クラゲへと向けていた視線を、僕の方に移した。

 

頬を赤らめて、何やら緊張した様子だった。ゆっくりと口を開けるけど、そこから言葉が出ることはなく、また静かに閉じられる。そんな行動が何回か続いた。

 

「……ゆう」

 

そして、四回目のチャレンジの時に、やっとそこまでは言葉になった。

 

でも結局、そこから先へは繋がらず、また口を閉ざしてしまうのだった。

 

「……?ゆう……なに?」

 

「し、白坂くん、えっと、そろそろ先に進もうか」

 

「?うん」

 

なんのことやらよく分からなかったけど、とりあえず深掘りはせず、そのまま彼女と園内を観て廻った。

 

 

 

 

 

 

 

「……えーと、この和風ハンバーグランチセットと、ラザニアランチセットをひとつずつお願いします」

 

「はい、かしこまりました」

 

ボクと黒影さんは、園内にあるレストランへと入店していた。

 

外観やメニューは、一般のファミレスとほとんど大差ないが、模したカレーライスのメニューがあったりと、動物園ならではのデザインも施されていた。

 

「いやー、やっぱり楽しいね、動物園は」

 

「うん、ボクも楽しい。白坂くんと一緒だから、もっと楽しい」

 

「ははは、ありがとう。僕も君と一緒だから、楽しいよ」

 

「へへへ」

 

僕たちは今日で、付き合ってから1ヶ月ちょっとになる。付き合いたてがどこまでの期間をさすのか分からないけど、僕と彼女は付き合いたてホヤホヤのカップルらしいやり取りをしていた。

 

「そう言えば黒影さん、確かこの動物園ってペンギンの園内散歩があるんだよね?」

 

「そうそう、ボクそれが楽しみなんだ」

 

「うん、僕も黒影さんからそのイベントの話聴いて、見たくなったんだよね。何時から散歩が始まるんだろう?」

 

僕は園内地図を取り出して、情報を確認してみた。その地図にはイベントの開催時間も書いてあるので、きっとペンギンの散歩についてもあるだろうと思われた。

 

「あれ?」

 

しかし、開催時間どころか、そもそも散歩についてどこにも触れられていなかった。

 

「おかしいな……ペンギンの散歩、無さそうだよ」

 

「え?ほんと?」

 

「ほら」

 

僕が黒影さんへ地図を渡すと、彼女は目を皿にして隅々をチェックした。

 

「……ほんとだ、確かに無い」

 

「でしょ?」

 

「ええ、やだな……。ボク、ホームページ見てみるよ」

 

「そうだね、何かお知らせがあるかもしれない」

黒影さんはスマホを取り出して、この動物園のホームページを確認した。

 

「わっ!?無、無くなってる!」

 

「え!?」

 

「『当園のペンギンの散歩は、2023年8月15日を持って終了いたします』……だって」

 

「2023年……2年前ってことか」

 

「え~~~!もうなんで~~~!?」

 

黒影さんは、本当に心底残念そうに嘆いていた。

 

「もう今日は、それを見に来たと言っても過言じゃないのに……」

 

「そうだね、僕も楽しみだったんだけど……」

 

「なんか調べてみたら、ペンギンにイタズラをするお客さんが増えたんだって。驚かせたりとか、変なもの食べさせたりとか。酷いのだと蹴ったりする人もいたんだって。それで、もうやらなくなったみたいだよ」

 

「ええ?それは最悪だね……。マナーのない客のせいで、せっかくの催しが無くなるなんて」

 

「ほんと、死ねばいいのに」

 

その時、僕は少しドキッとした。黒影さんの物言いが、あまりにも冷徹だったからだ。

 

(く、黒影さんって、こういうこと言う人だったっけ……?)

 

ここまで言葉に刺を感じたのは、初めてだった。

 

もちろん、これだけ楽しみにしていた催しを潰されて怒るのはごもっともだと思う。事実、僕もペンギンをいじめた客たちには怒りを覚えるし、因果応報を受ければいいとも思う。

 

それでも、普段の温厚な彼女とのギャップがありすぎて、僕はしばし面食らっていた。

 

「お待たせしました。和風ハンバーグランチセットと、ラザニアランチセットです」

 

そうこうしている内に、店員さんが僕らの頼んだランチを運んできてくれた。ハンバーグが僕の前に、ラザニアが黒影さんの前に置かれた。

 

「まあ、無くなってしまったものは仕方ないね。今動物園が出してくれるイベントを楽しもうよ」

 

「うう……そうだけど……」

 

「さ、とりあえずご飯を食べて、元気出そう?あったかいうちに食べなきゃね」

 

「うん……」

 

そうして僕たちは、早速その料理にありつけた。

 

「ん!このハンバーグ美味しいな!凄く肉厚で、食べごたえがあるよ!」

 

「……ん、ラザニアも美味しい。チーズの香りがよくて、濃厚な感じ」

 

「わあ、それはいいね!よかったら、一口ずつ交換しない?」

 

「うん、いいよ」

 

僕はフォークにハンバーグを刺して彼女へ与え、逆に彼女はスプーンでラザニアを掬って僕に渡した。

 

「あーほんとだ!ラザニアも美味しいなあ~!」

 

「うんうん、ハンバーグも美味しい」

 

僕たちはそうして、二人で微笑みあった。

 

ああよかった、しょんぼりしてた黒影さんも、少しずつまた笑ってくれるようになった。

 

やっぱり、こうして二人でいられる時間は、本当に幸せだなあ。

 

「あ……て、ていうか、あれだったね」

 

黒影さんは、何やらハッとした様子で、僕の渡したフォークを見つめていた。

 

その頬はほんのり紅潮していて、もじもじと気恥ずかしそうにしていた。

 

「どうしたの?黒影さん」

 

「ほ、ほら、そっちのスプーンと、ボクのフォーク……」

 

「……?」

 

「か、間接キス、だったね」

 

「!?あ、ああ!ほ、ほんとだね」

 

「え、えへへ」

 

「は、ははは」

 

僕たちは、二人揃って顔を真っ赤にして、またフォークとスプーンを交換した。

 

その後は、お互いに照れ臭くて、あまり会話は弾まなかった。でも、それもまたいい思い出になったと思う。

 

 

 

 

 

 

 

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