【完結】自己肯定感ゼロのボクっ子陰キャちゃんを全肯定してみたら激重ヤンデレになりました   作:崖の上のジェントルメン

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69.動物園デート(2/3)

 

 

その後も、僕と彼女はのんびりと動物園を巡っていた。

 

こうしてまじまじと動物を観察してみると、みな性格に差があって面白い。ぐうたらするのが好きなライオンもいれば、動き廻るのが楽しいカバもいた。

 

自分の中にあった動物のイメージは、案外偏った印象だったんだなあと、そんなことを思いながら歩いていた。

 

「……ああ、もうこんな時間だね」

 

気がつくと、既に16時半を迎えていた。

 

『当園は、夕方5時をもって閉園いたします。みなさま、またのお越しをお待ちしております』

 

園内に、職員からのアナウンスが木霊した。

 

中を賑わしていた家族連れやカップルたちの姿も、次第に少なくなっていき、夕暮れ時の寂しい空気感が漂っていた。

 

「僕たちも、そろそろ帰ろうか」

 

「うん、そうだね。じゃあ、ボク少しトイレに行ってきてもいい?」

 

「うん、いいよ」

 

黒影さんは小走りで女子トイレへと向かって行った。

 

僕は最後に、フラミンゴたちの優雅な姿をぼんやりと眺めながら、彼女のことを待っていた。

 

「………………」

 

今日辺り……金森さんのこと、話せそうだろうか。

 

たぶん晩御飯も一緒になるだろうから、そこで少し、触りだけでも話してみようかな。

 

今日は黒影さんも精神的に安定してそうだし、内容自体も「金森さんは仲直りしたがってるよ」っていう前向きなものだから、変に身構えず、むしろ朗報として教えるくらいの心構えでいいかも知れない。

 

 

『ほんと、死ねばいいのに』

 

 

……ただ、少しだけ引っかかることがある。

 

あんな風な言葉遣いは、今までの黒影さんには見られなかった。言葉のトーン以上に、暗い怒りを抱えているような気がした。

 

だから、変に今彼女を刺激するのは、なんとなく……怖いと思っている。

 

金森さんへ怒っているかどうかは分からないが、地雷を踏み抜く危険性はある。

 

(……ちょっと訊いてみようかな。何か嫌なことでもあった?って)

 

 

プルルルル、プルルルル

 

 

その時、僕のスマホに着信が入った。それは西川さんからだった。

 

「はい、もしもし」

 

『あ、もしもし、白坂くん?今時間大丈夫かな?』

 

「えっとね、今出かけてるから、後からかけ直してもいいかい?」

 

『ほんと?じゃあ待ってるね』

 

「ごめんね。黒影さんと金森さんのことかな?」

 

『うん、またちょっと訊きたいことがあって』

 

「おっけー、全然いいよ」

 

『ごめんね白坂くん、ありがとう』

 

「いいよいいよ。あ、それって緊急のことだったりする?」

 

『ううん、全然いつでも大丈夫』

 

「分かった、それじゃあまたね西川さん」

 

『うん、またね』

 

 

ピッ

 

 

そうして僕は、西川さんとの電話を終えた。

 

(訊きたいことか。一体、なんなんだろう)

 

「……白坂くん」

 

ふと見ると、黒影さんがトイレから戻っていた。僕は「ああ、お帰り」と答えながら、僕はスマホをポケットにしまった。

 

「………………」

 

「……ん?どうしたの?黒影さん」

 

彼女の様子が、どこかおかしかった。何か悲しいような、怒っているような……言い様のない表情を浮かべていた。

 

視線を落としていて、僕の胸の辺りを凝視していた。僕はその目線に合わせるために、少し膝を屈ませて、もう一度「どうしたの?何かあった?」と訊いてみた。

 

すると黒影さんは、僕に目を合わせてから、ぽつりとこう言った。

 

「……白坂くん、今のって誰?」

 

「今の?今のっていうのは、電話の相手のこと?」

 

「………………」

 

黒影さんの眼差しは、とても不安そうだった。

 

目は口ほどに物を言うというけれど、こんなにまざまざと不安を感じる瞳は初めてだった。

 

(……これは、変に誤魔化さない方がいいな)

 

もしここできちんと答えないと、逆に彼女の逆鱗に触れる気がする。

 

おそらく黒影さんは、僕が誰と話していたか分かっている。今彼女との距離は半歩分もないくらい近い。トイレからこちらへやって来る最中に僕の会話が聞こえていた可能性は、十分にあり得る。

 

つまり、彼女は僕の反応を伺っているんだ。僕がここで誤魔化すかどうか……誠実であるかどうかを試されているんだ。

 

「……西川さんから、だよ」

 

「………………」

 

「訊きたいことがあるって言われたけど、今は出かけてるからまたかけ直してって言ったんだ」

 

「なんの用事だったの?」

 

「………………」

 

僕は、ごくりと生唾を飲んでから……石を吐き出すようにして告げた。

 

「……金森さんの、ことだってさ」

 

「………………」

 

「黒影さんが金森さんと喧嘩しちゃった話は、僕も心配だったから。西川さんにそのことを訊いていたんだよ。それに関連する話みたいでね?」

 

「……!」

 

黒影さんは、眼を大きく見開いていた。

 

そして、さらに僕へ近より、詰め寄るようにしてこう言った。

 

「それじゃあ、聴いたの?」

 

「聴いた?」

 

「……千夏さんが、白坂くんのこと、好きだって」

 

「………………」

 

「……聴いたんだね」

 

「……うん、確かに聴いた。『さっぽんと付き合ってるから諦める』と言ってたのも、一緒に聴いたよ」

 

「………………」

 

「黒影さん、金森さんはね、君と仲直りしたがってたよ」

 

「………………」

 

「西川さんも、二人の間を取り持ちたいと思ってる。みんなでまた、遊びに行きたいみたいだよ」

 

夕日がどんどんと沈んで、僕たちの影を長く伸ばしていた。

 

「楽しかったね~!」

 

「また一緒に来ようね~!」

 

遠くの方で、小さな女の子二人が手を繋ぎ、スキップしながら笑いあっていた。

 

「……もう、いいよ」

 

「うん?」

 

「千夏さんも、西川さんも、もういい」

 

「………………」

 

「傷つくくらいなら、初めから仲良くならなきゃよかったんだ。だからボクは、もう、初めから全部なかったことにしたい」

 

「……黒影さん」

 

彼女の言葉は、かなり投げやりだった。自暴自棄で、苛立っていて、何もかもどうでもいいという様子だった。

 

何かの本で読んだことがあるけど、対人関係が苦手な人の特徴に、『リセット癖』というのがあるらしい。

 

少しでも拗れたな、気まずいなと思ったら、一気に関係を絶ち切って、完全にシャットダウンしてしまう。黒影さんも、もしかしたらそのタイプかも知れない。

 

「ねえ、白坂くん。ボクね、もう金森さんと西川さんの連絡先、消してるの」

 

「え?」

 

「ボクにはもう、白坂くんしかいないから。白坂くんだけいてくれたらいいから」

 

黒影さんはポケットからスマホを取り出すと、僕へLimeの連絡先一覧を見せてきた。

 

そこには、本当に僕だけしかいなかった。金森さんや西川さんだけでなく、自分の親のものや公式アカウントさえも消してあった。

 

「ボクのこと裏切らないでいてくれるのは、白坂くんだけ。白坂くんだけは、いつも本当のことを教えてくれるし、白坂くんしか……もう信じられない」

 

「……黒影さん」

 

「白坂くんは、ちゃんと西川さんと電話してたって教えてくれた。女の子と電話してるのを、隠さないでいてくれた」

 

「!」

 

や、やっぱりあれは、僕の予想通り試されてたんだ。

 

よかった……もしあそこではぐらかしてたら、黒影さんを傷つけるところだったし、今頃どうなっていたか……。

 

「白坂くん、ありがとう」

 

彼女はまたスマホをポケットへ仕舞うと、僕の胸の辺りに両手を置いて、ぎゅっと服を掴んできた。

 

上目遣いで、濡れた瞳を僕へ向けながら、今にも壊れそうなほどに繊細な声で……僕にすがりついた。

 

「白坂くんは、いつだって、ボクと一緒にいてくれる」

 

「………………」

 

「ボクのこと、全部肯定してくれる。ボクがここにいてもいいよって、そう言ってくれる」

 

「……そ、そんなの、当たり前だよ。僕だって君が好きなんだから」

 

「うん、ありがとう。白坂くんの彼女でいられて、ボク……嬉しい」

 

「……うん、僕だって嬉しいよ。でもね、君が僕以外と関係を絶つのは、寂しく思……」

 

僕の言葉を遮るように、彼女は僕の胸に寄りかかってきた。

 

「好き」

 

「………………」

 

「白坂くん、大好き」

 

「………………」

 

「もう二度と、白坂くん以外とは喋らない。白坂くんとしか一緒にいない」

 

「そ、それは……」

 

「いいの、ボクはそれでいい」

 

寄りかかってることで、僕は彼女の体重を直に感じている。

 

物理的には、彼女はかなり軽い。細く華奢な体型ゆえに、体重そのものは心配になるくらい軽かった。

 

でも僕は……何か、言い様のない重さがあった。

 

黒影さんの背負っている想いが、体重以上に重さを乗せている気がした。

 

「そうだ、いっそ二人で、山奥に住もうよ。誰もいないところで、二人だけで暮らそうよ」

 

「ふ、二人だけで?」

 

「そう。静かに川がせせらぐ場所でさ、朝は鳥の鳴き声に起こされるんだ。そしてボクたちは、そこで誰にも邪魔されずに、幸せに暮らすの……」

 

「………………」

 

黒影さんは顔を上げて、僕のことを見つめた。

 

そして、やりきれなくなるほど切なく笑って、こう言った。

 

 

 

「“優樹”くん、愛してる」

 

 

 

 

 

 

 

 

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