【完結】自己肯定感ゼロのボクっ子陰キャちゃんを全肯定してみたら激重ヤンデレになりました   作:崖の上のジェントルメン

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7.僕とボク(2/2)

……放課後になり、クラスメイトたちは雪崩のように教室から出ていく。

 

ボクは席に座りながら、全員がいなくなるのをじっと待っていた。 そして、隣にいる白坂くんへ、今日は日直であることを告げようと、心の準備を始めていた。

 

(と、とりあえず、何も話さないで恨まれる方が怖いから、ちゃんと話はしよう……)

 

ボクは緊張で落ち着かない手をぎゅっと握り締め、小さな勇気を振り絞って、彼に声をかけようとした。

 

「あ、あ、あの、し、白坂く……」

 

だけど、ボクのタイミングが悪かったらしく、もう白坂くんは席を立って、教室から出ようとしていた。

 

「あ、あ……」

 

なんとか声を出そうとしたけど、出てくるのは情けない掠れ声。ただただボクは、白坂くんの背中が遠退いていくのを見ている他なかった。

 

「………………」

 

気がつくと、教室の中は誰もいなかった。さっきまでの喧騒が嘘のように、辺りはしんと静まり返っていた。

 

「……はあ」

 

ボクの小さなため息が、教室の中に木霊した。

 

一人でのろのろと、日直の仕事をこなしていく。 黒板の日付を変え、黒板消しをはたいて汚れを落とし、日誌を記録する……。

 

「……結局、ボクは一人になる運命なんだなあ」

 

独り言が、ボクの口から無意識の内に漏れていた。

 

そうだ、ボクという人間は、なんにつけても上手くいかない。 やりたいことも満足にできず、いつまでも独りぼっちだ。

 

(……ああ、もしかしたら白坂くんは、ボクと一緒にいるのが嫌で……日直の仕事をせず、帰ったのかも知れない)

 

ボクが何か怒らせてしまうことをして、彼を幻滅させてしまったんだ。きっとそうに違いない。

 

さっき声をかけた時も、本当は彼に声は届いていて、その上で無視されたんだ。

 

「ありがとう」とまともに言えない。自分が何度の熱だったか満足に答えられない。そんなボクと一緒にいたいはずがない……。

 

次、風邪をひいたとしても、彼はもう、差し入れをくれないだろう。いやひょっとしたら、明日から挨拶もしてくれないかも知れない。

 

白坂くんがどういう人なのか、ボクにはまだ全然分からないけど、きっと彼も……他のみんなと同じで……。

 

ボクの元から、すぐに離れていってしまうんだろう。

 

「………………」

 

 

 

「黒影さん、何書いてるの?」

 

 

 

その時だった。

 

ボクは真横から、突然声をかけられた。

 

それは、白坂くんだった。

 

完全に一人だと思い込んでいたボクは、思わず「きゃっ!?」と声を上げた。

 

「し、白坂くん……い、いつの間に……」

 

「ごめんごめん、ちょっと忘れ物をしてて、取りに来てたんだ」

 

「あ、ああ……そういうこと……」

 

「黒影さん、まだ帰らないの?何か書いてるみたいだけど」

 

「あ……えーと……」

 

ボクが彼にどう話せばいいか迷っていると、白坂くんは「あっ!?」と大きな声を出して、ボクのことをじっと見た。

 

「うわー!黒影さん、ごめん!日直のこと、すっかり忘れてた!」

 

「あ、いや……ぜ、全然、大丈夫」

 

「もしかして、他の仕事も全部終わっちゃった?黒板の日付とか、黒板消しを掃除するとか……」

 

「う、うん……」

 

「あちゃ~!ほんとごめんね!全然頭になかったよ……」

 

白坂くんは申し訳なさそうに眉をひそめて、ボクに謝ってきた。

 

……この様子から考えると、忘れていたのは本当っぽい。

 

ああ、安心した。嫌われたせいで仕事を押し付けられたとか、そういうものでなくてよかった。

 

「黒影さん、何か好きなジュースとかある?僕、お詫びにそれ奢るよ」

 

「い、いや、大丈夫だから……。ボクは、き、気にして、ないから。だ、だって昨日、白坂くんから……その、さ、差し入れ貰ったし……。そのお返しって、ことで……」

 

「ええ?ほんとにいいの?」

 

「う、うん……。ボクはほんとに、気にしてないから……」

 

「ほんとにごめん、黒影さん」

 

白坂くんはふっと表情を緩めると、目を細めて……ボクにこう言った。

 

 

 

「代わりにやってくれて、ありがとうね」

 

 

 

「………………」

 

この時のボクの気持ちを……上手く言葉にすることができない。

 

なんて言えばいいのだろう?とても不思議な感覚だった。

 

(……白坂くんって、なんだか、綺麗な人)

 

そう、綺麗だなと思った。白坂くんの笑顔は、まるで明るい太陽のようで、それを見ているとあたたかい気持ちになる……。

 

思い返せば、他人からお礼を言われたのは、初めてかも知れない。

 

こんな風に、誰かに「ありがとう」と言われた経験がほとんどない。

 

いや、もしかしたらあったのかも知れないけど、今はもう記憶にない。 だから……彼の笑顔が、綺麗に見えるのだろうか。

 

「もし今度、何か困ったことがあったら、僕に言ってよ。なんでも手伝うから」

 

「い、いや、そんな、ボ、ボクなんかに、そこまで、気を……使わなくて……」

 

と、そこまで言葉を口にした時に、ボクはようやく……自分の失態に気がついた。

 

 

 

……一人称を、“ボク”のままにしてしまっていた。

 

 

 

これは、昔好きな漫画のキャラに憧れて、ボクという一人称にしたのだった。

 

でも、クラスメイトや家族から笑われて……人前では“私”と言うように気をつけていた。

 

ただ、あまりにも人と話すのが久しぶり過ぎて、つい“ボク”と言ってしまった。

 

(や、やばい、どうしよう、絶対また笑われる……)

 

『ねえ、黒影さんってなんか漫画みたいな喋り方じゃない?』

 

『わかるー!あれちょっとイタいよね~。オタク過ぎて気持ち悪い~』

 

あの時のトラウマが、脳裏に浮かぶ。全身から血の気が引いていくのが、感覚的に分かる。

 

「……?ど、どうしたの?黒影さん」

 

白坂くんはボクの異変に気がついたみたいで、怪訝な顔をしながらそう尋ねてきた。

 

ボクは「あ、いや、えっと……」と言葉を濁しつつ、必死に言い訳を考えていた。

 

(い、一人称が……ボクでも大丈夫な理由……。なにか、なにか……)

 

「ち、違う、その、ちょっと……今のは、違くて……」

 

「違う?何が違うの?」

 

「え、えっと、だから……ボ……あの、普段は、“私”って言うんだよ?“ボク”じゃなくて、“私”って」

 

「……?あ、もしかして一人称のこと?」

 

「う、うん、そう……。い、今は、と、友だちと、一人称を変えようって遊びをしてて、そ、それで、今は“ボク”って言ってるだけで……。ほ、ほんとは違うからね?」

 

「ああ、そういうことなんだね」

 

「う、うん……」

 

よ、よかった……。

 

なんとか白坂くんに納得してもらえた。

 

ああ、でも……なんて情けない言い訳だろう。友だちなんて一人もいないのに、さも友だちがいるかのように振る舞って……。見栄を張って嘘をついて……。

 

自分のダサさ加減に、つくづく嫌気がさす。うっかり気を抜いたら、泣いてしまいそうになる。

 

「ふふふ、いいねその遊び。楽しそうだね」

 

そんなボクの気持ちなんて知らない白坂くんは、にこにこと笑いながら、こんな冗談を言ってきた。

 

「僕も……いや、“それがし”もやってみようかな?なんて!はははは!」

 

「……は、はあ……」

 

ボクはなんて返していいか分からなくて、気の抜けた返事をする他なかった。

 

ああ、やっぱりこの人は、ボクなんかとは違う。 明るくて、元気で、笑顔が眩しい人だ。日向に住める人だ。

 

そんな人が、なんでボクなんかを構うんだろう?昨日もボクのために差し入れをくれたし、何かと気にかけてくる。そんなことをしても、全然メリットなんてないのに。

 

(白坂くんって……なんだか、不思議な人)

 

ボクは頭の片隅でそんなことを考えながら、彼のことを見つめていた。

 

 

 

 

 

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