【完結】自己肯定感ゼロのボクっ子陰キャちゃんを全肯定してみたら激重ヤンデレになりました   作:崖の上のジェントルメン

79 / 92
79.災害時の日常

 

 

 

「くしゅっ」

 

千夏は鼻に両手を当てて、小さなくしゃみをひとつした。

 

「大丈夫?千夏」

 

「うう、さっぱ教室で寝んのって寒いね~」

 

千夏は肩からかけているコートをぎゅっと掴んで、鼻をすすった。

 

避難所として開設された私たちの高校には、たくさんの避難者が集まって、本来避難スペースとして設けられていた体育館がすべて埋まってしまった。そのため、急遽教室も避難所として開放されたのだった。

 

机と椅子はすべて教室の後ろに下げられ、広々とした空間ができていた。

 

私たちは二年三組の教室に寝泊まりすることにし、毛布やジャンパー、コートなんかの上着を布団代わりにしていた。

 

今は私、西川 凛と千夏、小岩瀬さんの三人だけが残っていた。でもきっと、これからもっと避難者が増えてくるだろう。

 

 

ガララッ

 

 

「遅くなって申し訳ありません、食料を貰ってきました」

 

教室の扉を開けて入ってきたのは、二階堂さんだった。その右手にはビニール袋を持っていた。

 

「ああ!みーちゃんありがとー!」

 

「それと、カイロも一緒に貰ってきました。一人ひとつずつになりますよ」

 

二階堂さんはまず、カイロをそれぞれに渡してくれた。それから鯖の味噌煮の缶詰めとアルファ米、そして割り箸を配ってくれた。

 

「あ~!あったかーい!」

 

千夏は貰ったカイロを両手でスリスリと擦り、それを頬やおでこに当てていた。

 

「ああ、やっと食べれる……」

 

よほどお腹空いていたらしい小岩瀬さんは、げっそりした様子で缶詰めとアルファ米を開けていた。

 

アルファ米というのは、乾燥されたお米のことで、こういう非常時に活用される。真空の袋詰めにされており、カップラーメンのようにお湯や水を入れることで食べれるようになる。

 

こういうものがあると知識では知っていたけど、まさか自分たちが使うことになるとは思いもよらなかった。

 

「えーと、水を線まで入れて……はっ!?60分!?」

 

小岩瀬さんは、アルファ米の作り方を読みながら、目を白黒させていた。

 

隣にいた二階堂さんが横から覗いて、「あー、お湯だと15分ですけど、お水だと60分かかるみたいですね」と告げた。

 

「もーーー!ちょっと待ってよーーー!鯖缶開けたってばーーー!」

 

小岩瀬さんは子どものように拗ねて、床に大の字に寝転んでしまった。

 

「もうキツいって!お腹と背中がくっつきそうだってのー!」

 

「まあまあ、仕方ありませんよ瑠花さん。食べれるだけ恵まれてますよ」

 

「いやそうだけどさー!ねえ、誰かお湯持ってない!?お湯ならまだ早いからさー!」

 

「停電してますから、お湯を湧かすポットが動かないんですよ」

 

「もーーー!マジ最悪ーーー!あーー!腹空いたーーー!」

 

「小岩瀬さん、よかったら私の乾パン食べる?」

 

「え!?いいの凛!?」

 

私の提案を聞いた小岩瀬さんは、反射的に上半身を起こして、目を爛々と輝かせていた。

 

「うん、ちょっとしかないから、物足りないかもしんないけど」

 

「あ、ありがと!ちょっとでいいからちょうだい!」

 

彼女は両手を前に出して、受け皿のようにした。そこの上に、乾パンを何枚か乗せてあげた。

 

「んんん!う、美味すぎ……!乾パンがこんな美味く感じる時が来るとか、思わんかった……」

 

一枚一枚を少しずつ齧り、大事そうに食べながら、感動にうち震えていた。

 

「あーやば、ぐすっ、めちゃうま……」

 

あまりの感動ゆえか、小岩瀬さんはとうとう涙まで浮かべてしまった。当然二階堂さんは、それに目ざとく気がついていた。

 

「ふふふ、相変わらず瑠花さんは可愛いですね。乾パンで泣くだなんて」

 

「はあっ!?な、泣いてないし!」

 

指摘されたことが相当恥ずかしかったのか、小岩瀬さんは顔を赤らめて、目を思い切りごしごしと擦った。

 

小岩瀬さんと二階堂さんのやり取りは、いつもの日常と変わらなかった。そのお陰で、私は少しホッとした。

 

「てかさ、学校っていつから再開すんのかな?」

 

小岩瀬さんは教室の黒板に書かれている日付に目をやりながら、そう言った。私も唇を固く結びながら、「うーん……」と唸っていた。

 

「学校そのものが避難所になってるから、なかなか再開するのは難しいんじゃない?」

 

「ってことは、しばらく休みってこと?」

 

「たぶんね」

 

「まあ、そうだよね。なんか、休みなのはいいけど、こんな感じで休みになんのはめんどいなあ。スマホも充電できないし、家に帰ってもしょうがないし」

 

「うん」

 

私は水筒を手に取って、少しだけ口に含んだ。

 

そして、壁にかけられている時計へ目を向けた。

 

「14時か……。もう一回電話してみようかな」

 

私の呟きを聞いて、千夏が「それって優樹に?」と訊いてきた。

 

「そうそう、ちょっとかけてみるね」

 

 

プルルルル、プルルルル

 

プルルルル、プルルルル……

 

 

昨夜と同じように、長くコールが続く。

 

(……あれだけの地震だし、スマホが壊れちゃった可能性もあるけど、でも……)

 

なかなか不安と心配が拭えずに、私はごくりと固唾を飲んで待っていた。

 

 

プルルルル、プル……

 

 

『あっ、もしもし?』

 

「!」

 

だけど、今回は出てくれた。私は「し、白坂くん!?」と前のめりになって声を張り上げてしまった。

 

その瞬間、他の三人が一斉に私の方へ目を向けた。

 

『うん、そうだよ』

 

「あ、ああ、よかったよ、連絡できて。心配してたの」

 

『ごめんごめん、ちょっといろいろあって。あっ、昨日も連絡くれてたんだね。今気づいたよ』

 

「いやいや、大丈夫。とにかく無事でよかった」

 

『ありがとう。西川さんの方も無事?』

 

「うん、無事だよ。今、千夏と小岩瀬さんと、二階堂さんの三人といるよ」

 

この辺りから、私はスマホを耳から話し、スピーカー設定に変え、みんなに話が聞き取りやすいようにした。

 

『そっかそっか、みんな無事なんだね、よかったよ』

 

「そっちは……その、黒影さんも一緒にいるの?」

 

『うん、今隣にいるよ』

 

「そ、そっか。黒影さんも、無事に怪我なくいるんだね?」

 

『うん、大丈夫』

 

それを聞いた私たち四人は、同時に胸を撫で下ろした。白坂くんに聞こえないように声量は抑えているけど、みんな安堵のため息をついていた。

 

「ああ、よかった、さっぽん……」

 

千夏に到っては、少し涙ぐんでさえいた。

 

「白坂くんたちは、今どこにいるの?」

 

『えーとね、山ノ内小学校だよ』

 

「そっか、そっちの方が白坂くんの家から近かったよね?」

 

『うん、そうそう。西川さんたちはどこにいるの?』

 

「自分たちの学校にいるよ。私らは学校の近くで地震前まで喋ってたから、学校の方が近かったの」

 

『ああ、なるほどね』

 

「とにかく、二人が無事でよかった」

 

『うん、西川さんたちも』

 

「ごめんね、いきなり電話して」

 

『いいよいいよ、大丈夫』

 

「じゃあ、またね。あ、黒影さんにもよろしく言っておいて」

 

『うん、分かった。またねー』

 

 

ピッ

 

 

そうして、私と白坂くんの電話は終わった。

 

「全く、黒影のやつ、心配ばっかかけるんだから」

 

小岩瀬さんは腕組みをしながら、唇を尖らせていた。

 

「とにかく、二人の安否が確認できて何よりでしたね」

 

「うん、避難も済んでるみたいだし、ひとまず肩の荷が降りたね」

 

「あ~、よかった~!あーし、ほんと昨日寝つけなくてさあ……。心配で心配で……」

 

どうやら強張っていた身体の力が抜けたらしく、千夏は私の肩にだらんと寄りかかってきた。

 

(白坂くんと一緒なら、きっと……大丈夫だよね)

 

私も天井を見上げながら、ようやく安らいだ気持ちになれた。

 

そうなると、途端にお腹が空いてきた。身体が食べ物を欲してることを、今さら気がついたみたいだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……今のは、西川さんから?」

 

ボクがそう訊くと、優樹くんは「うん」と答えて、スマホをポケットにしまった。

 

「金森さん、小岩瀬さん、二階堂さんたちも一緒だって。みんな無事みたいだよ。それに、君もことも心配してた」

 

「………………」

 

ボクはうつむきながら、掠れるような声で「そっか」とだけ答えた。

 

ボクたちはこの時、避難所の近くにある公園にいた。

 

お昼を過ぎてからさらに避難者が増えてきて、さすがに人混みがキツくなってきたボクたちは、ゆっくりできる場所を探してここに来たのだった。

 

広々とした芝生に、ベンチが点々としている公園だった。遠くの方で、家族連れがサッカーをして遊んでいる姿も見かけた。

 

「やあ、彩月さんご覧よ。楽しそうだね」

 

「うん」

 

「なんだか、和むね。こんな状況でも、人は笑っていられるんだ」

 

優樹くんは目尻を下げて、穏やかな微笑みを浮かべていた。

 

「………………」

 

なんだか、不思議な気持ちだった。

 

妙に落ち着いた感覚というか、心の枷が取れている感じというか……。

 

西川さんや千夏さんたちが無事だったのを聴いて、安心したのもあるかも知れない。考えないようにしていたけど、結局ボクは、みんなのことが心配だったんだ。

 

ああ、そうか。この心地よさは、自分の気持ちが少し理解できたからかもしれない。

 

「………………」

 

冷たいそよ風が吹いていた。

 

その風に紛れて、ボクは自然と、他愛もない会話をするかのように、こう言った。

 

 

 

「ボクね、死のうと思ってたんだ」

 

 

 

「………………」

 

優樹くんの顔が、みるみる強張っていった。

 

ボクの方へ顔を向けて、目を大きく見開いていた。

 

「そ、それは……いつ?」

 

「え?」

 

「死のうとしたのって、いつの話?」

 

「うーんと、地震が起きる前」

 

「………………」

 

「でも、死ねなかった。怖くて、結局何もできなかった。中途半端な気持ちのまま、ボクは今ここにいる」

 

「………………」

 

しばらくの間、ボクたちに会話はなかった。

 

さすがの優樹くんも、これには上手く言葉を返せないでいるようだった。

 

(ああ、彼を困らせちゃったな……)

 

自分から話を切り出したのに、この時ボクはどこか他人事のように感じていた。

 

「……どうして、死のうと思ったの?」

 

「………………」

 

「衝動的に、そう、しようと思ったの?」

 

「……あー、うん。そうかも知れない」

 

「………………」

 

「ごめんね、優樹くんは全然悪くないの。ただ、ボクがボクのこと、好きになれないから」

 

「……彩月さん」

 

「いつまでもうじうじして、自信がなくて、人を妬んでばかりで性格が悪くて……。こんなボクのことを、優樹くんがいつか見捨てるんじゃないかって不安で」

 

「……そっか」

 

ボクの言葉を聞いた優樹くんは、眉をひそめて悲しそうにうつむいてしまった。

 

「僕が、君のことを安心させられなかったんだね」

 

「え?」

 

「ごめんよ、これは僕のせいでもあるね」

 

「ち、違うよ。ホントに違う。優樹くんのことは信じてるけど、ボクがボクのことを、信じられないだけで……」

 

ああ、もう。優樹くんのことを、傷つけたいわけじゃないのに。

 

本当にボクは、いつまで経っても成長しない。

 

「……自分を好きになれない、か。確かに、難しい話だね」

 

「………………」

 

「僕がどれだけ君のことが好きだと伝えても、君が自分のことを好きじゃないと、きっとそれも届かない。いや、むしろ不安が強くなるだけなんだね。自分がそんなに好かれる理由が分からなくて、怖くなるから」

 

「……うん」

 

「………………」

 

優樹くんは、突然不意に空を見上げた。

 

そして、一度深呼吸をした後、「うん」と呟いてから、ボクへこう言った。

 

「ねえ彩月さん、よかったら少し、ボクの話をしてもいいかい?」

 

「優樹くんの話?」

 

「そう。厳密には、五年前に亡くなった……僕の家族の話を」

 

「………………」

 

彼は空を見上げたまま、独り言のようにぽつりぽつりと、ボクへ話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。