【完結】自己肯定感ゼロのボクっ子陰キャちゃんを全肯定してみたら激重ヤンデレになりました   作:崖の上のジェントルメン

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87.もう大丈夫

 

 

……ボクが眼を覚ましたのは、その日の夕方のことだった。

 

真っ先に視界に入ったのは、白い天井だった。背中の感触からして、ベッドに横たわっていることだけは分かった。

 

(ここは……どこだろう?)

 

ゆっくりと上半身を起こして、ボクは辺りを見渡した。

 

それは、学校の保健室だった。

 

壁に貼り付けられているお知らせにひらがなが多いことから、恐らく小学校なんだろうなと分かった。

 

ボク以外には誰もおらず、しーんとした空気の中、夕暮れの赤い日射しが窓から入り込んでいた。

 

「うっ、いてて……」

 

全身が鈍く痛かった。筋肉痛のような感じで、身体全部が強張っていた。

 

右腕を上へ伸ばすと、背中からぱきっと乾いた音が鳴った。

 

「優樹くんは……どうなったんだろう?」

 

千夏さんたちと会えたところまでは覚えているけど、それからここへたどり着いた記憶がない。

 

ボクがここにいるってことは、たぶん彼も助かったんだろうけど……。

 

 

ガララッ

 

 

その時、保健室の扉が開いた。やって来たのは、千夏さんたち四人組だった。

 

「あっ!さっぽんが起きてる!」

 

千夏さんがボクを見てそう叫ぶと、西川さん、二階堂さん、小岩瀬さんも、直ぐ様ボクへ眼を向けた。

 

「黒影さん!」

 

「彩月さん!」

 

「黒影!」

 

「さっぽーん!」

 

四人は一斉にボクの元へと駆け寄り、ベッドの周りに集まった。

 

「大丈夫?黒影さん。具合は悪くない?」

 

「彩月さんたちの近くでは土砂崩れがあったと聞いてましたが、大丈夫でしたか?」

 

「もー!あんたって奴はほんとに!心配かけないでよねー!まったくー!」

 

「さっぽん!お腹空いてない!?これあーしらが持ってたお菓子なんだけど、どれか食べる!?」

 

「わわわっ!?」

 

怒涛の勢いで矢継ぎ早に喋りかけられたボクは、思わず身体を仰け反らせた。

 

でも、それもなんだか嬉しかった。みんなが変わらずに友だちでいてくれているのを肌で感じられて、思わず口が緩んでしまった。

 

「もう、みんな落ち着いて。ボクは聖徳太子じゃないんだから」

 

ボクがそう言うと、千夏さんが「あっ、ごめーん」と言って笑った。

 

「千夏さん、お菓子って何がある?」

 

「あっ、えーとね、カロリーメートと、乾パンと、あとゼリーかな」

 

「じゃあ、カロリーメート貰える?」

 

「うん!」

 

そうしてボクは彼女からそれを受け取り、ひとつ口に頬張るのだった。

 

ああ、美味しい。なんだか久しぶりに、モノを食べて美味しいと感じたかもしれない。

 

「あの、優樹くんって今どこにいるの?」

 

ボクの問いかけに、西川さんが答えてくれた。

 

「白坂くんは、今両足を骨折しちゃってるから、ついさっき総合病院に行ってもらったよ」

 

「え?優樹くん一人で?」

 

「ううん、救急車を呼んで。彼のおじいちゃんおばあちゃんも付き添いでいるよ」

 

「そっか、よかった……」

 

彼の安否を確認できたボクは、ひとまずほっと胸を撫で下ろした。

 

「それにしても黒影、あんたよく彼氏をおぶって来れたね」

 

「ええ、本当に驚きました。正直なところ、私は黒影さんの体力では彼を背負って歩くのは難しいと考えていましたから」

 

「うん、ボクも実際、最初はそう思ってたよ。でもまあ、気合いでなんとかなったけど」

 

「き、気合いって……。あんま無茶しないでよね」

 

「ははは、そうだね。でも、あそこで無茶しなかったら、ボクは一生、後悔すると思ったから」

 

「「………………」」

 

「……?な、なに?みんな?」

 

不思議な視線だった。

 

みんな、静かに押し黙ったまま、ボクへと目を向けていた。それは、何か珍しいものを見るかのような、じっと観察されているような、そういう感触の視線だった。

 

「なんか……黒影、雰囲気変わった?」

 

「え?」

 

「うんうん。さっぽん、ちょっと大人っぽくなってない?」

 

「ええ?うーん、そうかな?」

 

と、みんなにはそう答えつつも、実は自分の中で心境の変化が起こっていることに気がついていた。

 

自分の身体が、ストンと地に足をつけた感覚だった。

 

前よりも狼狽えることなく、何かどっしりと構えられるようになった気がする。心が安定していて、多少のことではさざ波が立たないような、そういう落ち着きがあった。

 

「んー、大人っぽいっていうか、なんかもっと分かりやすく違和感があるっていうか……」

 

小岩瀬さんは目を皿のように細め、怪訝な顔をしながらボクを見つめていた。

 

「ボク、そんなに変わってるかな?」

 

「……あっ!ちょっと待って。あんた今日、自分のこと“ボク”って言ってない?」

 

「!」

 

「ああ、本当ですね。確かに一人称がボクになっています」

 

「なになに?黒影、いきなり今日からボクっ子キャラ?」

 

「………………」

 

ボクはすっと、千夏さんの方へ眼を向けた。

 

彼女は静かに黙っていたけど、ボクのことを心配してくれていることは、その眼が語っていた。

 

『大丈夫?みんなの前でボクって言ってよかったの?』と、そう告げている眼だった。

 

ボクはそんな彼女へ少しだけ微笑むと、みんなに向かってこう言った。

 

「ううん、違うよ。ボクは、前からボクだったんだ」

 

「ええ?そうだったっけ?」

 

「確か黒影さんは、私って言ってたような……」

 

「うん、ごめんね。実はボクって言うのを、隠してたんだ」

 

「隠してたんですか?」

 

「うん。バカにされたり、からかわれるのが怖くて」

 

「「………………」」

 

「でも、もう大丈夫。ボクは、ボクって言えるよ」

 

この言葉をみんなに告げた時、ボクはなんでこんなにも落ち着いているのか分かったんだ。

 

 

 

ボクは、自分が少しだけ、好きになれたんだ。

 

 

 

優樹くんのことを、自分は見捨てなかった。好きな人のことを、ちゃんと助けようとした。

 

憧れていたレインのように、ボクは頑張れた。強くなろうって、そう思えた。

 

だから、もう、恥ずかしくないんだ。

 

ボクは、ボク自身のことを、尊敬できる。凄いことをやったんだって、そう褒めてあげられる。

 

自分を、肯定できる。

 

だから、ああ、やっとボクは……ボクって、言えるんだ。

 

「ありがとう、みんな。ボクはもう、大丈夫だよ」

 

「……さっぽん」

 

千夏さんは、目尻に涙を浮かべて、ボクをぎゅっと抱き締めた。

 

彼女のあたたかい人肌が、ボクの心をぬくもらせてくれた。

 

「「………………」」

 

他の三人は、何がなんだかよく分からないという顔をしていたけど、でも、ボクが何か吹っ切れたことを察してくれたみたいだった。

 

「私たちには、事情がよく分からないけど……」

 

「まあでも、黒影がよかったんなら」

 

「きっと、いいことなんですよね?」

 

そんなみんなへ、ボクは「うん」と答えながら、柔らかく微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 




ネオページにて、最終回を公開しました(第92話)。
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