【完結】自己肯定感ゼロのボクっ子陰キャちゃんを全肯定してみたら激重ヤンデレになりました   作:崖の上のジェントルメン

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9.奇跡のような偶然(2/2)

 

 

「黒影さんも、漫画買いに来たの?」

 

白坂くんは、ボクのことを真っ直ぐに見つめていた。

 

彼の純粋で綺麗な眼差しに耐え切れなくて、ボクは目線を少し外しながら、「まあ……うん」と曖昧な答えをしていた。

 

「おー!そうなんだ!黒影さん、漫画好きなんだね」

 

「そ、そうだね。それなりには……」

 

「今日はどんな漫画買ったの?」

 

「あ、えーと、その……」

 

口が上手く回らなかったボクは、持っていたダーク・ブルーの13巻を白坂くんに見せた。

 

「ああ!これ、黒影さん好きなんだ!?」

 

「う、うん、一応……」

 

「へー!僕も今、この試し読みで初めて知ったけど、面白いね!」

 

「!ほ、ほんと?」

 

「うん!いやー、続きが気になるなあ」

 

白坂くんはそう言って、ダーク・ブルーの1巻を手に取った。

 

「……あ、あの、白坂くん」

 

「うん?」

 

「あの、今、どこまで読んだの?」

 

「あー、えっとね、レインっていうボクっ子の女の子キャラが出てきたところ」

 

「!そ、そっか……」

 

「僕、結構レイン好きかも。まだ登場したばっかだから、よくはわかんないけど」

 

「!?」

 

その時、ボクはまるで……自分から出たとは思えないほどに大きな声で、彼に尋ねた。

 

「ど、どこがよかった!?」

 

「え?」

 

「レ、レインの、どこがいいと思った!?」

 

「うーんと、そうだなあ。なんていうか、飄々と掴み所のない感じだけど、ちゃんと優しいところもあるみたいな……。中性的な雰囲気なのがカッコいいなって思ったかな」

 

「!!」

 

ボクは、さっきの声を上回る勢いで叫んだ。

 

「ボ、ボクも!ボクもレイン好き!」

 

「え?」

 

「レインって、あの、あんまり女の子っぽくないから、そこまで人気じゃないんだけど、でも、ボク、凄く好きで!えっと、3巻の時なんだけど、レインの意外な一面が分かる描写があって!あ、あんまり言うとネタバレになるから言えないけど、これが、その、凄くよくて!ぜ、ぜひ、それを観て欲しくて!」

 

……ボクは、今まで溜め込んでいたものを吐き出すかのように、矢継ぎ早に言葉を漏らしていた。

 

ボクはとにかく、レインというキャラクターが好きだった。彼女はいつも自信に満ち溢れていて、自分の生き方に信念を持っている……。そんな彼女のようになりたかった。

 

まさしくボクの、憧れのキャラクターだった。彼女に影響されて、髪も短くしてるし、“ボク”っていう一人称を使うようになった。

 

そんなレインの話ができることが、ボクはもう堪らなく嬉しかった。

 

「………………」

 

だけど、白坂くんが目をまん丸にして驚いている顔を見て、ボクの上がっていたテンションはだんだんと下がっていった。

 

代わりに、言い様のない不安と焦燥感が沸き上がってきた。

 

ああ、また失敗した。

 

オタクの一番嫌われるところが出てしまった。

 

相手のことを考えず、自分の話したいことばかり話してしまう。気持ちばかりが先走って、言葉にならない言葉を発してしまう……。

 

これで今まで、何回失敗してきたことか。

 

 

『黒影さんってさ、自分の好きなことしか話さないよね』

 

『そうそう、しかも話してる内容もよく分かんないし……。正直、めんどくさいよね』

 

 

かつて陰口を言われていた時のことを思い出して、胸がきゅっと痛くなった。

 

「あ、あの、白坂くん、ごめん……。いきなり喋りまくって、キ、キモかった……よね」

 

ボクは絞り出すような声で、彼にそう謝った。

 

気を抜くと、涙がぽろっと溢れそうになるほどに……ボクの心は今、罪悪感に蝕まれていた。

 

ああ、やっぱりボクは、上手く人と話せないんだ。

 

白坂くんがいなくなるまで、待つべきだったんだ。

 

(ボクのバカ、ボクのバカ、ボクのバカ……)

 

真っ黒な霧が、ボクの胸の中を覆っていった。

 

痛いほどの虚無感が、全身を襲っていた。

 

 

 

「ははは!いいよ黒影さん、全然気にしないで」

 

 

 

「……え?」

 

そんな霧を、白坂くんの笑い声があっさりと払った。

 

「確かにちょっとびっくりしたけど、僕は黒影さんの好きなことが知れて、嬉しかったよ!」

 

「………………」

 

「僕、この漫画読み進めてみるよ。黒影さんの好きなところ、観てみたい!」

 

「ほ、ほん、と?」

 

「うん!」

 

 

白坂くんは、目を糸のように細めて、眩しいほどにニッコリと笑ってくれた。

 

「………………」

 

「優樹ー!そろそろ行くよー!」

 

遠くの方で、白坂くんのことを呼ぶ声が聞こえた。白坂くんは「はーい!今行くよー!」と叫んでそれに答えた。

 

「それじゃ黒影さん、また明日、学校でね」

 

「あ、う、うん……」

 

白坂くんはボクに手を振って、小走りをしながらその場を去っていった。

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

夕方の街を、ボクは一人歩いている。

 

黒い影が長く地面に伸びていて、それをぼんやりと見つめている。

 

 

『僕は黒影さんの好きなことが知れて、嬉しかったよ!』

 

『僕、この漫画読み進めてみるよ。黒影さんの好きなところ、観てみたい!』

 

 

頭の中で、白坂くんから言われた言葉が反響する。

 

それを思い出す度に、ボクはなんだか胸がむずむずして、落ち着かなくなる。

 

それは、決して嫌な感情じゃなかった。むしろ、ボクの冷えていた心臓を……ほんのりとあたたかくしてくれた。

 

(あんなこと言ってくれた人、初めてかも……)

 

 

『それじゃ黒影さん、また明日、学校でね』

 

 

「………………」

 

……明日、学校で会った時に、また改めて漫画の感想、聞いてみようかな。

 

ダーク・ブルーの話を、もうちょっとだけ詳しくしてみようかな。

 

 

 

──明日は白坂くんに、話しかけてみようかな。

 

 

 

……これが、いろんな偶然によって起きた出来事。

 

ボクが初めて、人と話してて楽しいと思えた、奇跡のような出来事だった。

 

 

 

 

 

 

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