小型の輸送船が一隻、コロニーから逃げるように、全速力で前進していた。
その輸送船には、ジェターク社のエンブレム、獅子が描かれていた・・・・・・
ひととおり、私達の無事を祝福されたのち、私はママの仕事場━━総裁室に呼ばれた。
そこには、中央デスクの椅子に座るママと、前に立つ私、ママの左後ろに立つお母さんだけ部屋の中に入っていて、ゴドイさんなど、他の人には部屋の外で待機とされていた。
そこで私は、エリの出自について、一通り説明する。
話が終わったあと、ママは静かに息を吐いて言った。
「なるほど、ヴァナディース機関、ね・・・・・・」
「数十年も前のことだから、ママに聞けば、確実だと思って。」
しかし、ママも首を横に振った。
「ううん・・・・・・ヴァナディース事変は、ママが生まれるよりも、前のことだから・・・・・・あらましは聞いたことがあるけど、詳しいことはママもよく知らない。」
そうか、残念・・・・・・
「でも、お母さん━━ミランダのおばあちゃんに聞けば、何か分かるかも知れない。何せおばあちゃんは、元ヴァナディース機関の一員だったから。」
ええ⁉初めて聞いたんだけど、そんなこと‼
でも、おばあちゃんか・・・・・・なかなか情報は得るのが難しいかもしれない。
プロスペラおばあちゃん、最近体調があまり優れないって聞くし。
続いてお母さんが口を開く。
「とりあえず、エリって子からは目を離さないようにしなさい。あんたがうちの寮に入れたんだから、ちゃんと責任を持って警戒するのよ。」
「もう、ミオリネさんは厳しいなあ。そりゃ出自に疑問はあるけど、ミランダにとってはただの友達なんですから。」
「あんたが優しすぎるのよッ‼」
フフフ、相変わらずママとお母さんは、仲良しそうでよかった。
しばらくママとお母さんは言い合ったあと、(はたから見るとイチャイチャしてるようにしか見えない)、ママは私の方を向いて、呟くように言った。
「ありがとう、ミランダ。」
ジェターク・ヘビー・マシーナリー本社、L3コロニー・プラントレオにて。
社長室で書類仕事をしていたラウダの元に、緊急の要件であるのか、ドタバタと部下が一人、報告にやってくる。
「どうした?」
怪訝そうな顔をするラウダに対し、その部下は、小声で耳元に囁いた。
それを聞いたラウダは、思わず立ち上がった。
「なんだと⁉それは本当か!⁉」
「間違いありません、情報部からの正確な報告です。」
ラウダがかなり深刻そうな顔になった。
「あー?何があったってんだよ?」
社長室にはもう一人、人間がいた。それは、ジェターク社監査人、チュアチュリー・パンランチ(通称チュチュ)であった。
ベネリットグループ再建後、総裁となったスレッタは、監視のため、株式会社ガンダムから各社へ、監査人を派遣した。もう二度と、クワイエットゼロ事変のような悲劇を繰り返さないために、各社の状況を把握し、謀略を行わせないように取り締まっているのだ。
つまりグループ傘下全社の経営状況・技術情報は、全てガンダム社に筒抜けなのである。
監査人には、ガンダム社の中堅幹部が、それぞれ各社に派遣された。しかし、ジェターク社のみ、先代御三家からの続投であり、ガンダム社に継ぐ巨大企業であるため、監査人には、ガンダム社の初期メンバーにして、現在の最高幹部の一人である、チュチュが選ばれたのだ。
ラウダは一旦、チュチュを無視し、部下に命ずる。
「社用旗艦・グリフォンの発進準備を急げ!俺もすぐさま向かう!!」
「は!」
部下は敬礼し、早々と部屋を出て行く。
続いてラウダは、チュチュの方を見る。
「厄介なことになった・・・・・・」
「はあ?」
「ストライキだ。」
ジェターク社旗艦・グリフォン。先代のワームブロッドの後継艦で、MSを13機まで搭載可能と、かなり大型の戦艦となっている。
ストライキの現場に向かう途中、ラウダは部下達に、現在起こっている事案について説明する。
いわく、ジェターク社は近々、ダリルバルやジンクオの登場に伴い旧式化した、ディランザ・ソルの廃棄処分を検討していた。昔は、旧式化した機体は地球の民間企業に売りさばいていたのだが、20年前にそれらの機体をテロリストに使用されるという事件が起こったため、以後、旧式機体は廃棄処分と決められていた。
しかし、そのために集めていたディランザ・ソルの在庫を一式、ストライキを行っている労働者に盗まれたのだ。そしてその労働者達は、ジェターク社の地方工場の一つを占拠し、立てこもっているというのだ。
「はあ~~~?」
チュチュは呆れて言葉が出ない。
ラウダは無視して話を続ける。
「ベネリットグループ御三家の一角である我らジェターク社にとって、この事態が明るみになることは決して許されない。そのため、内々で対処を行う。相手に悟られる前に、やつらの占領しているコロニーまで接近し、非武装のダリルバルで取り囲むのだ。さすがに相手も、MSで反撃、とまではしてこないだろうからな。その後、占領者達に対して降伏勧告を行う。この際、くれぐれも相手に被害を出してはならない。ストライキの勢力を死傷させたとなれば、グループ内で問題になるからな。各員、慎重に事に当たれ!!」
「は!!」
ジェターク社の部下達は、若干作戦に不満そうな顔をしながらも、ラウダの言葉に従い、MSの発進準備を行うため、MSハンガーに向かう。
続いてラウダは、チュチュの方へ向き直る。
「チュアチュリー、お前には、MS隊の指揮をお願いしたい。いいか?」
「ま、いいけどよ。労働者達、素直に降伏してくるとは思えねーぜ。」
「・・・・・・」
そう言いながら、チュチュもMSハンガーに向かう。
チュチュのジンクオ一機と、ダリルバル10機が、占領コロニーまで向かう。
チュチュのジンクオのみ、大口径ビームライフルを装備、ただし実戦用ではなく、照準もコックピットを外すようにプログラムされている。
残りのダリルバルは非武装、MS身一つで、後に続く。
・・・と、その時。
「な⁉ぐわぁ―――‼」
一機のダリルバルのコックピットにビームが貫通し、撃墜した。
「ま、まさか・・・・・・」
嫌な予感が当たり、チュチュは辺りを見渡す。
MS隊は、20機のディランザ・ソルによって、取り囲まれていた。
「クッ、散開!!」
チュチュが他のダリルバルのパイロット達に指示を出すが、その場には、ビームの嵐が降り注ぐ。さすがのチュチュは全弾避けるも、ダリルバルがさらに二、三機撃墜される。
チュチュはグリフォンのブリッジに通信を繋げる。
「ラウダ!」
「ああ、状況は理解した。まさか奴ら、ここまでしてくるとは・・・・・・
MS隊全機に告ぐ!一時その場より退避、撤退しろ!!」
ラウダは部隊に指示を出した後、チュチュに聞く。
「ダリルバルは全機後退させる。チュアチュリー、しばらくお前一人で耐えられるか?」
「ふざけんな!無理に決まってんだろッ!!」
「僕もすぐに出る、それまで何とか持ちこたえろ!!」
「・・・ああ、分あーたよ、応援は早めに頼むぜ。」
通信が終わると、ラウダはブリッジを出て行こうとする。
グリフォンの艦長が尋ねる。
「ラウダ・ニールCEO、どちらへ?」
「ジンクオを出せ。僕が乗る。」
「は、は!いや、しかし・・・・・・」
「命令だ!いいから準備を急げ‼」
それだけ命じると、ラウダはMSハンガーへ向かった。
青のパイロットスーツを着たラウダが、水色に塗装したジンクオ・シグマに搭乗し、MSの発進体勢に移行する。ラウダのジンクオは、通常装備に加え、ツインヒートアックスを装備していた。
艦長がラウダに通信を繋ぐ。
「戦闘は依然継続中、パンランチ監査人がなんとか一機で戦線を維持しています。」
「グリフォンは現宙域にて待機。後退してきたダイルバルの収容作業に入れ。」
「・・・ご武運を。」
こうして通信が切れる。
「ジンクオ・シグマ、出るぞ。」
ラウダの機体が発進し、戦場の方へ向かった。
チュチュのジンクオは、迫り来るディランザに対し、四方八方にビームライフルを乱射し、牽制する。しかし当然のことながら、こちらは実戦用装備でないため、苦戦を強いられる。
っと、一筋のビームが戦場に届く。ラウダのジンクオ・シグマが駆けつけたのだ。
「遅せえぞ!」
「悪い、だがあとは任せろ。ヤツらを無力化させるから、支援を頼む。」
「分ーったよッ‼」
「それではいくぞ‼」
チュチュのジンクオは一旦離脱する。変わりにラウダがディランザ達に割って入り、四肢を切り落としていく。同時にチュチュの支援砲撃が、ラウダをサポートする。
さすがのコンビネーション、20年前にはあり得なかった光景が、その場で繰り広げられた。
ディランザのパイロット達も想定外だったのが、顔を歪ませる。
「なんだ、コイツら・・・・・・強い‼」
「まさか、先の大戦の生き残りか?」
そのパイロットの発言は、的をえていた。
そしてついに、全てのディランザ・ソルが完全に無力化された。
ラウダは、各機体とコロニーに通信を繋ぐ。
「ジェターク社CEO、ラウダ・ニールだ。これ以上の抵抗は止めて、降伏せよ。当方はお前達を厳罰に処すつもりはない。本社フロントに帰還の後、そちらの意見も徴収しようとも考えている。」
すると、コロニーから、一隻の輸送船が発進し、白旗が出された。
「降伏を確認した。では、全MS収容後、指定座標にて、本社旗艦・グリフォンと合流せよ。本社フロントに移送を━━」
━━とここで、機体のアラートが鳴った。
現宙域に、所属不明のMSが接近していたのだ。
そしてそれは、学園を襲ったガンダム、ルブリス・アダムとルブリス・イブ、さらにその母艦である、戦艦・アルデウスであった・・・
「おいあれ!学園を襲ったテロリストじゃねーのか⁉」
チュチュが慌てたようにラウダに聞く。
対してラウダは冷静に答える。
「ああ・・・・・・だがこれは逆にチャンスだ。コイツらも捕らえてグループ本部に連行できれば、大きな手柄になるぞ。」
ラウダのジンクオが、アダム・イブの方へ先行する。
「ちょ、おい!」
チュチュもまた、それを追いかけるように後へ続く。
一方のアダムとイブのパイロット、ウノとメメは、ディスから指示を受けていた。
「目標は青の方のモビルスーツだ。捕らえれば人質として使える、しくじるなよ!」
『copy!』
アダム・イブは、ラウダのジンクオに襲いかかる。
ラウダは、見事な手捌きで、二機同時に応戦する。
「チッ」
とはいえ、相手は最新鋭のガンダム、ラウダの方が、部が悪い。
ジンクオ・シグマはミサイルを発射するが、アダムはスナイパーライフルで、イブはビームマシンガンで、それぞれ全弾迎撃する。
っと、少し離れて支援砲撃を行っていたチュチュから警告がかかる。
「ラウダ!コイツら、お前を狙ってるぞ‼ここは一旦引いた方がいいんじゃねーか?」
「しかし・・・・・・!」
「お前がやられる方がヤベーだろ!あーしも手伝うから、早くこっから離脱するぞ‼」
「・・・クソッ‼」
と、ここで、別方向からのビームが、ルブリス・アダムに被弾する。
それはジェターク社側の援軍―もう一機のジンクオであった。
「ご無事ですか、ラウダCEO!・・・・・・っと、ポンポン頭⁉」
「ああ。助かった、フェルシー。」
「あ━━⁉誰がポンポン頭だよ‼」
それは、ラウダの学園時代の後輩にして、現在のジェターク社の幹部兼エースパイロット、フェルシー・ロロであった。
フェルシーのジンクオも、実戦装備ではなかったものの、ビームライフルを装着していた。
ちなみに、今のチュチュの髪型だが、学園時代のように左右シニヨンにはしておらず、後ろで小さく括るようになっていたが、フェルシーにとっては学園時代の印象が強く、変わらずその呼び名で、チュチュのことを呼んでいた。
フェルシーは無視して続ける。
「機体の調整に手間取ってすいませんッス!それで、状況は⁉」
「ああ、ヤツらの標的はどうやら僕のようだ。僕が敵を引きつけるから、フェルシーは遊撃、チュチュは引き続き支援を頼む‼」
「了解ッス‼」
「ああ、やられんなよ、ラウダ。」
フェルシーの登場によって、数で有利になっただけでなく、ジェターク側の空気感も明るくなった。
一方のウノとメメは、敵戦力増加に伴い、顔を顰める。
「敵の数が増えた・・・・・・ウノ!このままじゃ、こっちが不利に・・・・・・‼」
「あー?こっちはガンダムだぞ⁉それよりも・・・・・・なんなんだ、こいつ、強い‼」
ラウダの勢いに飲まれ、ルブリス・アダムは防戦一方となる。
ツインヒートアックスの攻撃を、太刀で受け止めるので精一杯だ。
メメがウノを援護しようとするも、ルブリス・イブの背後には、フェルシーのジンクオが回りこみ、イブの腰部にビームを当てる。
「あ━━ッ‼」
メメが叫び、フェルシーのジンクオの方を向く。
そこに、チュチュの支援砲撃が・・・・・・
まさに、戦役を生き抜いた、見事なコンビネーションであった。
「腕は鈍ってねーな、ポンポン頭!」
「お前こそ、スペーシアンのくせにやるじゃねーか!」
チュチュとフェルシーは、学園時代に戻ったように軽口を言いつつ、意気投合する。
ラウダ、チュチュ、フェルシーの連携に、メメは唸り、母艦に通信を繋ぐ。
「ディス大佐、これ以上は無理です!撤退のご指示を‼」
「・・・・・・」
ディスはしばらく思案する。
一方のウノは、メメの進言に激昂する。
「何を!俺はやれる、コイツを倒す‼」
ルブリス・アダムが、ラウダのジンクオに斬りかかる。
しかしラウダは、この攻撃を軽くいなす。
一連の戦況を見て、ディスは判断する。
「よし、ミヤシラの進言を良しとする。煙幕弾発射!ウノとメメは下がれ。」
同時に母艦から煙幕弾が発射され、辺りが霧に包まれる。
その間に、アダムとイブは撤退、そのまま戦艦は跡形を消した。
「チッ、逃がしたか。」
「あいつら・・・・・・一体何者なんすかねー?」
「おい、今はそれより、コイツらの収容が先だろ!」
チュチュが指差した先には、先ほどラウダが無力化した、ディランザ・ソルが浮いていた。
戦艦アルデウスにて。
ルブリス・アダムとルブリス・イブを収容した後、180度回頭して即座に離脱し撤退していたが、その中でブリッジにいたディスは不満げに呟く。
「まったく、前回敵方のガンダムに敗北を喫したと思えば、今回は量産型に負けたか。本当に使いものにならん、あの二人は。」
艦長のザットは何とかディスを宥めようとする。
「しかし・・・・・・相手もグループトップのMS企業の新型、しかもパイロットは前大戦の生き残りですから、決して易しい相手ではありませんぞ。」
「そうは言ってもな・・・これなら、やはり私が出れば良かった。」
「いえいえ、大佐は指揮官であらせられるのですから、そういうわけには参りません。」
「・・・・・・」
ディスは黙って、ブリッジを出て行く。
ディスが出て行ったのを確かめると、ザットは小さくため息をついた。