ベネリットグループ役員会。
総会と違い、役員会は参加人数が少なく、場所も小規模の一室で行われる。
参加するのは御三家のみだ。役員会にはスレッタは参加せず、上座にはミオリネ、右座にはラウダとチュチュのジェターク社陣営の二人、左座にはセセリアとロウジのブリオン社陣営の二人が座り、計5名で進められた。
メンバー的に、全員学園時代からの仲であるため、端から見れば同窓会であるが、話されている内容は、グループの重要議題だ。
今回の議題は、先日のテロリストによるラウダ襲撃についてであった。
まずラウダが、事件のあらましを説明する。
「捜査の結果、ストライキを起こした労働者と、そのテログループは繋がっていたことが判明した。テログループの名前は、シャドーアイ。所属ならびに指揮官の名前は不明だそうだ。より正確に言うと、先述の労働者達は、シャドーアイの指揮官に唆されて、今回の計画を立てたと供述している。」
セセリアが茶々を入れる。
「ラウダ・ニールCEO~?ストライキで自社のMSが盗まれるとは、危機管理が足りないんじゃないですかぁ~?」
ラウダはセセリアを一睨みし、あしらう。
「セセリア、今はテログループの件が先決だ。」
セセリアは、面白くなさそうに舌打ちする。
ミオリネが渋い顔をしながら発言する。
「労働者を煽り、クーデターを起こさせてラウダを誘い込む、そして鎮圧させた所でガンダムを持ち出し、ラウダを捕獲しようとしたわけね・・・」
チュチュが補足する。
「連中、決して素人じゃなかったぜ。背後に巨大な組織があるのは確実だろ。」
「間違いなく、議会連合よね・・・」
ミオリネがそれに追随した。
決断したようにミオリネが立つ。
「議会連合に探りを入れるわ。私が本部まで赴く!」
ラウダとセセリアは驚いたように目を見開く。
チュチュは必死に止めようとする。
「やめとけって‼今行ったら、確実に拘束されるぞ⁉」
「議会連合が表だって動いてはいない、ということは相手も謀略を悟られたくないはずよ。そんなやすやすと、副総裁である私を捕まえようとはしてこないはず・・・ッ!」
「けどよ・・・」
チュチュは、なんとかミオリネに思いとどまらせようと、頭を悩ませる。
ベネリットの本部フロントに数日泊った後、なんとか学園も生活できる状態へ整備されたということで、私とエリは学園フロントまで戻ってきた。
そしてそのまま、ガンダム寮へ足を運ぶ。
『お帰りなさいませ、ミランダお嬢‼』
・・・はあ、テロがあったというのに、元気だなあこの人達は。
私の後ろにはエリもいるんだけど、そっちは見えてないかのような様子だった。
「ご無事で何よりでした。」
「聞けば、ガンダムで私達を守ってくださったとか・・・・・・!」
「まさしく、英雄様のお跡継ぎですなあ。」
私を散々褒め称えてくれるけど、正直鬱陶しい。
私だって、あの時とっさに、できることをやっただけだよ、何も賞賛されることではない。
世界を救った、ママや、お母さんのようには・・・・・・なれないよ・・・・・・
ガンダム寮のみんなといると騒々しいので、私は寮長室に籠もった。
校舎などはかなりの被害があったけど、ガンダム寮の建物には被害が軽微であったみたいなので、幸いだった。
寮長室には、エリだけを中に入れる。
「まったく英雄の娘というのも、大変なのね。」
「ほんとだよ、ママやお母さんが両親というのは、たしかに誇らしいことだけど・・・・・・こういうのは正直勘弁かな。」
私はため息をついた後、小さくエリと笑い合った。
しばらくして、エリが口を開いた。
「一つ、お願いがあるのだけど。」
?突然改まって、どうしたんだろう。
「何かな?」
「私と・・・・・・決闘してほしい。」
・・・・・・え?
いわく、ザイリとの決闘やテロリスト達との戦闘を見ていて、ガンダムについて非常に興味を持ったとのこと。
「ガンダムだけじゃない、あなたにもよ、ミランダ。」
///
コホン。
とまあそんな感じで、実際に戦ってみたら、もっと深く知れるんじゃないか、とのことだった。
また、医療機関であるヴァナディース社として、同分野のガンダム社から技術提供を受けたいとして、エリはそれを決闘の条件に掲げた。
一方の私は、エリの出身企業であるヴァナディースについてより深く知りたかったため、その情報を、決闘条件とした。
お互い利害が一致したため、決闘は成立だ。まあ、私に関しては、そもそもホルダーの決闘義務ってのがあるんだけどね。
で、決闘を行うためには宣誓を行う必要がある。そのため私達は、決闘委員会のラウンジまで足を運んでいた。
ラウンジには、ジェターク寮寮長のザイリ、ブリオン寮寮長のコルネリウス、その他の寮代表者が集結していた。ちなみに委員長は私だ。
とはいえ、今回も私は決闘当事者なので、立会人はザイリがしてくれる。
「・・・・・・」
ザイリが、私のことをジト目で睨んでくる。
まあ、この前私に負けたので、思うところがあるのだろう。
ともかく、決闘の宣誓だ。
ラウンジの大きな窓にスモークがかかり、大型スクリーンになった。画面には、学園の紋章と共に「Asticassia School of Technology」の文字がうかびあがる。
スクリーンの前で、私とエリがむかいあって立つ。双方のあいだにザイリが立ち、宣誓の進行をつとめる。
「双方、魂の代償を天秤(リーブラ)に。決闘者はエリ・ナボとミランダ・マーキュリー。場所は戦術試験区域7番。一対一の個人戦を採用。異論はないか。」
「ええ。」エリが短く答える。
「異論はないわ。」私もそれに同調する。
「ミランダ・マーキュリー。君はこの決闘に何を懸ける?」
「エリの出身母体、ヴァナディース機関についての情報を。」
「・・・・・・エリ・ナボ。君はこの決闘に何を懸ける?」
「株式会社ガンダムのGUND医療技術を。」
「・・・・・・ッ!」
どちらの条件も企業情勢を揺るがすような重大情報であったため、ザイリは思わず目を見開く。とはいえ、双方が合意している以上、立会人は決闘を承認しなくてはならない。
ザイリは両手のてのひらを天に向け、ぱんと胸の前で組んだ。
「アーレヤ・ヤクタ・エスト(賽は投げられた)。決闘を承認する」
これで儀礼は完了、ふたたび展望窓の表示が切り替わって遮光が解除されると、学園を一望できるようになった。
って、ザイリがすぐさま、私に歩み寄ってきた。
「おい、同じ寮同士での決闘とは、どういう了見だ?」
私は思わず後退る。
「それは・・・・・・エリが・・・・・・」
するとエリが、口を挟んできた。
「ザイリ・ニール、文句があるなら、あなたとも決闘しましょうか?」
ザイリはエリを睨み、しばらくして舌打ちする。
ザイリだって分かっているのだ。こないだの戦闘を見て、エリが自分よりも実力があるということが。
エリは、そのまま何ごともなかったかのように、私に背を向け、手をひらひらと振って立ち去ろうとした。
その直前、私にポツリと呟く。
「それじゃあ決闘、よろしくね。」
ミランダと分かれたエリ・ナボは、通信端末で誰かと連絡を取る。
「ええ、私よ。計画通り、彼女との決闘は取り付けたわ。モビルスーツの整備、予定通り頼むわね。」
それだけ言うと、エリは端末を切った。
「パーメットリンク、よし。各兵装、よし。」
学園フロントの宇宙港ハンガーでは決闘の準備が着々と進んでいた。アイリスが射出レーンに運ばれ、気密エリアへの扉が開く。そのコックピットの中で、私はアイリスの最終調整を行っていた。いつも通り、パイロットスーツをすでに着ている。
「お嬢、機体の準備バッチリです!」
「ご健闘をお祈りしています‼」
やれやれ、いつも通りガンダム寮は騒がしい。だいたい決闘相手のエリも、ガンダム寮だっての。
私は適当に、手を振っておく。
決闘委員会ラウンジにはメンバーがそろっていた。その中央にいるザイリが口をひらく。
「これより、双方の合意のもと、決闘をとりおこなう。勝敗は通常どおり、相手モビルスーツのブレードアンテナを折った者の勝利とする。立会人はジェターク寮寮長、ザイリ・ニールがつとめる」
決闘場ではコンテナがひらき、私のアイリスが姿を現わす。
ガンダム寮のチーフメカニックから通信が入る。
「お嬢、MSをコンテナから出します。」
「了解、GP001、ミランダ・マーキュリー。━━アイリス、出ます。」
アイリスが発進する。
対面には、エリのモビルスーツも発進した。機種は前回と同じ、グレー色のジンクオ・シグマ。とはいえ、装備はちゃんと、決闘用に直されていた。
「GP087、エリ・ナボ。━━ジンクオ、発進する。」
そしていよいよ、決闘の口上が始まる。
――両者、向顔。
アイリスのコックピットの画面に、エリの顔が映し出される。
まずは私からだ。
「勝敗はモビルスーツの性能のみで決まらず。」
エリがその言葉を引き継ぐ。
「操縦者の技量のみで決まらず。」
そして両者声をそろえて、
「ただ結果のみが真実!」
「決心(フィックス)、解放(リリース)!」
ザイリの宣言と共に、決闘が開始した。
まずはお互い距離を詰めつつ、ビームライフルの撃ち合いから始まった。
エリのジンクオのビームライフルもちゃんと、コックピッドを狙えない設定になっていた。
先に仕掛けてきたのはエリの方だった。
背面のミサイルポッドからミサイルを全弾発射、もちろんそれも決闘用のものだが、それをアイリスの周囲に着弾させようとする。
私は即座に察知して、ガンビットでミサイルを迎撃する。
ミサイルは全弾破壊に成功したが、そのミサイルの中には煙幕が入っていた。
しまった!
私はエリのジンクオの姿を見失う。
しかし、一方のエリは、アイリスの姿を見逃していなかったようで、煙の中でアイリスへ急速接近し、サーベルを抜いて切りつけた!私は何とかビームサーベルでそれをガードするも、防戦に切り替わる。
このままではまずい、私はジンクオの背後にガンビットを回す。
「チッ」
エリはそのまま攻め続けるとガンビットのビームで蜂の巣になるため、一旦下がる。もちろんガンビットからビームが発射されるが、エリは全てかわした。
さすが。今の攻防を見るだけでも、エリの実力はザイリと同じかそれ以上であるように感じられる。
しかしエリは、ここからが本番というように、サーベルを構え直した。
「それじゃあ、そろそろ始めようかしら。」
エリのジンクオの間接部分が、赤く光った‼
「パーメットスコア、3。」
その言葉とともに、エリのジンクオの周囲には、6対のビット兵器が出現し回っている!
って、これってまさか・・・ガンビット⁉
でも、ガンダムでない機体が、なぜ⁉
決闘委員会のラウンジでも、これには動揺が隠せない。
特にザイリは、自社製の新型が勝手に使われていた挙げ句、これだから、溜まったものではない。
「おい、どうなっているんだ!」
ブリオン寮寮長のコルネリウスも同様だ。MS産業グループ内No2の企業として、この事態は見逃せない。
他の寮長達も、各々騒ぎ立てる。
決闘委員会は喧噪と化していた。
そしてこの決闘は、ベネリットグループ本部フロントにて、スレッタとミオリネも映像を観ていた。
想定外の事に、ミオリネは声を上げる。
「どういうことよ?なぜガンダムでもない機体がビット兵器を⁉」
一方スレッタは、手を組んで冷静に思考する。
(たしかエリ・ナボの出身はヴァナディース機関と言っていた。つまりこれは・・・GUND-技術⁉)
コックピッドに映し出されたエリの顔に、赤い紋様が浮かび上がる。
これって・・・・・・ママが前に言ってた、データストームってやつじゃ⁉
私のアイリスも、スコアを上げれば同じことが起こるだろう。しかしそれは、事前設定の段階でロックが掛かっているため、できないようになっている。
でもエリのジンクオには・・・・・・そのストッパーがないのか!
「エリ!今すぐスコアを戻して‼その状態で戦ったら、エリの命が・・・!」
しかしエリは、私の言葉に耳を傾ける様子はない。
「どうして?ガンダムに勝つには、こうするしか。」
「これはただの決闘だよ!?どうしてそこまで・・・・・・」
「言ったでしょ、ガンダムについてよく知りたいって。」
そう言っている間にも、ジンクオのガンビットのビームが、アイリスに向かって降り注ぐ。
私はなんとか避けるも、決して余裕はない。
一方のエリも、データストームの影響で、息が荒くなっている。
このままでは、本当にエリが危ない・・・・・・
私は早急に決闘を終わらせるよう決意した。
射撃戦では、決着に時間がかかる。ならば、一気に接近戦に持ち込む‼
私は、ビームサーベル片手に、ジンクオへ急速接近する。
「―ッ⁉ 猪口才な!」
敵ガンビットのビームが、アイリスの突進を止めようと、動力部を狙ってくる。
しかし!
その攻撃は、ガンビットによって防ぐ。
同時にジンクオに向って、体当たりを仕掛ける。
「「うぅッ⁉」」
互いに衝撃がすごい。思わずのけぞりそうになるが、私は何とか耐える。
一方、ジンクオの体勢は一瞬崩れる。
その瞬間を逃さず、私は両手に持ったビームサーベルを、敵機の両肩関節に突き刺す!
当然、敵ガンビットの攻撃は続いている。可能な限り回避しているが、完全に避けきることはできない。数発被弾し、機体はボロボロだ。
しかし、致命傷は避けている。
そして今は、そんなことよりエリの命の方が優先だ!
「うおおおおおおぉぉぉぉぉ――――――――」
私は、トドメとしてバルムンクを抜き、ジンクオのブレードアンテナを切り裂いた。
「ッ‼」
しかし、エリも負けてはいない。サーベルをアイリスの中央部目がけて振りかぶり━━━━━━━そこで、安全装置が働き、アイリスのコックピットギリギリの所で止まった。
WINNER MIRANDA MERCURY/ IRIS 2win 0loss 0tie
ガンダム寮からは、かなり大きな歓声が上がったようだ。
しかし、私にとってそれは重要ではない。
そんなことよりも・・・・・・
「エリ‼」
私はなり振り構わず、ジンクオの方に駆け寄り、無理やり開ける。
そして、私がそこで見た光景は・・・・・・
エリが意識を失っており・・・・・・その額には、赤い紋様が刻々と刻まれていた・・・・・・