エリとの決闘から数日後。
ようやくエリの体調が回復し、本日退院だった。
私は、ガンダム寮の寮長として、また先の決闘相手だった者として、そして何よりも友人として、エリを迎えに上がる。
アスティカシアの医務室から出てくるエリを見て、私は思わず駆け寄り、抱きしめる。
エリは苦笑した。
「まったく、ミランダったら///
でも、心配かけたわね。もう大丈夫だから、ありがとう。」
「もう!二度とこんなことはしちゃ駄目だよ‼」
私はやや涙を浮かべながら、エリに向かって釘をさした。
そしてお互いに微笑み合った。
ともかく、私達は一度、ガンダム寮へ帰ることにした。
ガンダム寮寮長室。
そこで私とエリは、改めてお互いに面と向って話し合った。
議題は、前の決闘条件で私が賭けた、「ヴァナディース機関についての情報」だ。
エリは決闘に負けた以上、話す義務がある。
彼女は何もつつみ隠そうとせず、話し始めた。
「40年前に起こったヴァナディース事変については知ってるわよね。学園の宇宙史でも習うけれど、ヴァナディース機関はもともと、GUND-医療を推進する研究機関だった。そして、そこの博士だったのが、私の祖母である、カルド・ナボ。しかしある時、兵器製造企業であるオックス・アース社が買収、GUND-フォーマットがモビルスーツへ軍事転用され、データストームの問題が発生した。それをよく思わなかった各企業の合同会合であるモビルスーツ開発評議会がカテドラルを設立、その責任者となったデリング・レンブランと、その手先であるドミニコス隊により、ヴァナディースは奇襲を受けた。そして機関は・・・壊滅した。
ここまでは誰でも知るヴァナディース事変のあらましね。ここからが本題。ヴァナディース機関の構成員は一人残らず抹殺された、と思われていたんだけど、実はそこに、一人生き残りがいた。それが、私の母よ。とはいえ、母一人では機関の立て直しは不可能。地球各地や辺境フロントを転々としながら、母は仲間や物資を集めた。そして・・・クワイエットゼロ事変でベネリットグループが窮地に立たされているその裏で、母はヴァナディース機関を再興。しかし、当時の情勢を鑑みて、このことは秘密裏に進められた。そして、十数年が経った今日(こんにち)、ついにその事実を明かした、ということよ。」
・・・・・・
なるほど。まさか、歴史の裏でそんなことが起こっていようとは。
「それで、学園に入学して、またガンダム寮に入ったのも、ヴァナディース機関の存在を広めるため、というところね?」
「ええ、そんな感じよ。」
エリは私の心情を探るように見つめた。
「・・・怒った?」
「?どうして?」
「私があなたに近づいたのが、あなたを利用するためだということに、今の話だとなるから。」
私は少し考え、首を横に振る。
「ううん。エリも、そのお母様も、会社を発展させるために努力してるってことでしょ?それも、人々を救う、医療技術を研究するため。それなら、同業のガンダム社所属の私が、怒る理由はないよ。」
エリは安心したように、胸をなで下ろした。
「ありがとう。それにあと一つ、あなたに興味を惹かれたということは嘘じゃない。それだけは、忘れないで。」
「ちょ、もう照れるな~」
私は、エリの想いを受け止め、恥ずかしさを誤魔化すように微笑んだ。
と、私の端末が振動する。
?誰からだろう?
━━って、ママからじゃん!
私は勢いよく、電話に出る。
『もしもしミランダ、あれから変わりない?元気にしてる?』
「ママ⁉どうしたの急に?珍しいね、いつも忙しくしてるのに。」
『ミランダに伝えたいことがあったの。急なことなんだけど、明日、久々に地球へ降りることになったから、お母さんのお見舞いにも行こうかなって。ミランダも、一緒にどう?』
プロスペラおばあちゃんのところへ⁉
そんなのもちろん!行くに決まってる‼
私が答える前に、ママは私の雰囲気を察したのか、苦笑する。
『ミランダならそう言うと思ったわ。それじゃあ明日、軌道エレベーターのところで待ち合わせね。後からミオリネお母さんも来るから。』
「お母さんも⁉分かった、楽しみにしてる!」
こうして、ママとの通話は終えた。
私はすぐに行動へ移す。
「エリ!そういうわけで、私は明日から数日間、学園の授業は休んで地球まで行ってくるから。私がいない間、ガンダム寮を頼むわね。」
「分かったわ。こちらは私に任せて。」
エリは笑みを深めて言った。
翌日、私は輸送艇に乗りこみ、地球の軌道エレベーターまで向った。
向った先で、ママと合流する。
「ママ━━!」
「ミランダ!」
いつものハグ。
傍に控えていたゴドイさんは、やれやれとため息をついていた。
そうか、今日の護衛は、ゴドイさん一人だけなのか。
珍しく少ないな。
一連の儀式を終え、私達はそのまま軌道エレベーターを降り、その後は車に乗り込み、おばあちゃんの住んでる地区まで走った。
「よく来たわね、エリクト、スレッタ、ミランダ。」
おばあちゃんのお家まで着くと、笑顔で歓迎してくれた。
おばあちゃん、最近体調が優れないって聞いてたけど、今日は私達が来たからか、どこか元気に見えた。
でもまあ・・・・・・ゴドイさんもいたのだが、そっちは無視されていた。
あ、エリクトさんって言うのは、ママの持っているキーホルダー、「ホッツさん」の中に入っている意識体で、その正体は、ママのお姉さんにあたる人物なんだ。だから、私からすると、おばさん、に当たるのかな?
「お母さんも、元気そうで安心したよ。
ごめんなさい、グループの方の仕事が忙しくて、なかなかこっち、帰ってこれなくて。」
「いいのよ。今やスレッタは、ベネリットグループの総裁。スレッタになら、この世界の命運を任せられそうだわ。」
「・・・もう!大袈裟だってお母さん~、私はあくまで、大企業グループの舵取りに過ぎないんだから。」
当然のことながら、ママはおばあちゃんにもプライベートな口調で話す。
でもまあ、私はあくまで養子だから敬語だ。
「ご無沙汰しています、おばあちゃん。」
「あら、あんなに小さくて可愛いかったミランダちゃんが、もうこんなに大きくなるなんて。」
おばあちゃんは、義孫の私にも、優しくしてくれる。
もう、こんな穏やかなおばあちゃんが、クワイエットゼロ事変を引き起こしたなんて、信じらんないよ!
私とママは、おばあちゃんのお家で一緒に夕食を取りながら、他愛もない雑談をする。
しかし、話しがいろいろと盛り上がっていく中で、ふとエリの話になった。
その話になると、おばあちゃんの顔がやや曇ったような気がする。
「・・・先生・・・」
しばらくすると、おばあちゃんが語り出した。
「・・・でも、やっぱりそれはあり得ないわ。たしかに先生には、一人娘がいた。でも、彼女もヴァナディース事変で命を落としたはずよ。もっとも、私は先生と同じ、フォールクヴァング所属で、娘さんは別のラボにいたから、私が直接、彼女の遺体を目にしたわけではないんだけれど。でも、当時魔女狩り部隊は、オックス・アースの全支部に同時侵攻を行った。だから、その追っ手から逃げることなどできなかったはずよ。」
食卓の空気が少し重くなる。
「やっぱりそうだね。それに、カルド・ナボ博士の娘さんだとして、今機関の名を公表した理由も分からない。」
ちょっとちょっと。
あまりに二人が否定的だから、私は思わず声をあげる。
「エリが嘘ついてるって言うの⁉」
するとおばあちゃんは、優しげな笑みに戻り、私を宥めるように言った。
「そうは言ってないわ。エリちゃんはミランダの、大切な友達なんでしょ?そんな彼女が、あなたを騙すなんてこと・・・・・・
だから、エリちゃん自身も、母親からそう聞かされていて、実際は事実と違う、ということなんじゃない?」
ママがため息をついた後、頷く。
「やっぱり今回現れた、『ヴァナディース機関』については、より詳しい調査が必要だね。ベネリットの情報部に探りを入れさせることにしよう。」
━━と、そこに、遅れてきた客が現着する。
それは・・・
「ミオリネさん!」
「お母さん‼」
私とママは、満面の笑みを浮かべる。
一方、おばあちゃんの目は妖しく光る。
「あらあら、こんなに立派な夫を待たせるなんて、奥さんとしてなってないわねぇ~」
お母さんはそのいびりをひらりと交わす。
「いえいえ、お義母さんこそ、昔と比べ随分と穏やかになったもので。」
おばあちゃんとお母さんの間で、目線に火花が散る。
「アハハハ・・・・・・」
ママは困ったように二人を宥める。
まったく、なぜだか知らないんだけど、お母さんとおばあちゃんって、仲悪いんだよね。
これが嫁姑問題ってヤツか・・・
お母さんが来てしばらく経った後、私達は、おばあちゃんのお家を後にする。
「ミランダ、また時間ができたら、いつでも来ていいからね。」
おばあちゃんは、私には優しく接してくれる。
「フン」
お母さんは顔をそっぽに向ける。
やれやれ・・・・・・
私達は、ゴドイさんが運転する、行きと同じ車に乗りこみ、軌道エレベーターまで向った。
そして、そこに着くと、そのまま輸送船に乗り込んだんだけど・・・・・・
そこでお母さんが、ママに今日の仕事の報告をしていた。
「それで、議会連合との接触の件だけど、思ったより事態は深刻かもしれないわ。」
「・・・・・・」
ママは顔をしかめながら、続きを促す。
「そもそも、議会連合の本部への立ち入りを許されなかった。こんなこと、クワイエットゼロ事変以来初めてよ。
そこで私は、査察官のグストンを呼び出して、事情を聞いたんだけど・・・・・・」
お母さんは、さらに顔色を悪くした。
「どうやら、議会連合の一部の過激派が、ベネリットグループへの強制介入を画策しているって。16年前、クワイエットゼロに向けて放たれた惑星間レーザー装置、それを開発し、発射を裏で指示したのも、その過激派『アサルト』だということよ。」
「・・・・・・」
すると、ママは私の方を向いた。
「聞いて、ミランダ・・・・・・」
え?急にどうしたの?そんな辛そうな顔をして・・・・・・・・・
「さっき聞いてたように、今、議会連合と我々ベネリットグループとの関係はよろしくない。再び勢力を拡大しつつあるベネリットを、良く思っていないってこと。今後も私達は交渉を続けるけど、最悪の場合・・・・・・戦争もあり得るかもしれない。」
―ッ!
そんな、そこまで事態は切迫していたなんて・・・・・・
だが、ママの話は終わっていなかった。
「そして、その場合、ミランダにはアイリスで、出撃してもらうことになる。・・・勝つためじゃなくて、護るために。」
お母さんも、こちらの方を向く。
「できれば私達も、あなたを戦いには巻き込みたくない。でも現状、被害を最小限に抑えるためには、アイリスを出すしか。・・・・・・そしてその操縦は、あなたにしかできない。」
そう言った後、お母さんは黙って私を抱きしめた。
私は・・・しばらく考えた後、答えた。
「やるよ。━━怖いけど、戦いたくはないけど・・・・・・でもそれで、みんなの命を守れるならッ‼」
するとママも、涙ぐんで、私を抱きしめた。