機動戦士ガンダム 水星の魔女ダークネス   作:零月隼人

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第5章 開戦前夜

エリとの決闘から数日後。

ようやくエリの体調が回復し、本日退院だった。

私は、ガンダム寮の寮長として、また先の決闘相手だった者として、そして何よりも友人として、エリを迎えに上がる。

アスティカシアの医務室から出てくるエリを見て、私は思わず駆け寄り、抱きしめる。

エリは苦笑した。

「まったく、ミランダったら///

でも、心配かけたわね。もう大丈夫だから、ありがとう。」

「もう!二度とこんなことはしちゃ駄目だよ‼」

私はやや涙を浮かべながら、エリに向かって釘をさした。

そしてお互いに微笑み合った。

ともかく、私達は一度、ガンダム寮へ帰ることにした。

 

ガンダム寮寮長室。

そこで私とエリは、改めてお互いに面と向って話し合った。

議題は、前の決闘条件で私が賭けた、「ヴァナディース機関についての情報」だ。

エリは決闘に負けた以上、話す義務がある。

彼女は何もつつみ隠そうとせず、話し始めた。

「40年前に起こったヴァナディース事変については知ってるわよね。学園の宇宙史でも習うけれど、ヴァナディース機関はもともと、GUND-医療を推進する研究機関だった。そして、そこの博士だったのが、私の祖母である、カルド・ナボ。しかしある時、兵器製造企業であるオックス・アース社が買収、GUND-フォーマットがモビルスーツへ軍事転用され、データストームの問題が発生した。それをよく思わなかった各企業の合同会合であるモビルスーツ開発評議会がカテドラルを設立、その責任者となったデリング・レンブランと、その手先であるドミニコス隊により、ヴァナディースは奇襲を受けた。そして機関は・・・壊滅した。

ここまでは誰でも知るヴァナディース事変のあらましね。ここからが本題。ヴァナディース機関の構成員は一人残らず抹殺された、と思われていたんだけど、実はそこに、一人生き残りがいた。それが、私の母よ。とはいえ、母一人では機関の立て直しは不可能。地球各地や辺境フロントを転々としながら、母は仲間や物資を集めた。そして・・・クワイエットゼロ事変でベネリットグループが窮地に立たされているその裏で、母はヴァナディース機関を再興。しかし、当時の情勢を鑑みて、このことは秘密裏に進められた。そして、十数年が経った今日(こんにち)、ついにその事実を明かした、ということよ。」

・・・・・・

なるほど。まさか、歴史の裏でそんなことが起こっていようとは。

「それで、学園に入学して、またガンダム寮に入ったのも、ヴァナディース機関の存在を広めるため、というところね?」

「ええ、そんな感じよ。」

エリは私の心情を探るように見つめた。

「・・・怒った?」

「?どうして?」

「私があなたに近づいたのが、あなたを利用するためだということに、今の話だとなるから。」

私は少し考え、首を横に振る。

「ううん。エリも、そのお母様も、会社を発展させるために努力してるってことでしょ?それも、人々を救う、医療技術を研究するため。それなら、同業のガンダム社所属の私が、怒る理由はないよ。」

エリは安心したように、胸をなで下ろした。

「ありがとう。それにあと一つ、あなたに興味を惹かれたということは嘘じゃない。それだけは、忘れないで。」

「ちょ、もう照れるな~」

私は、エリの想いを受け止め、恥ずかしさを誤魔化すように微笑んだ。

 

と、私の端末が振動する。

?誰からだろう?

━━って、ママからじゃん!

私は勢いよく、電話に出る。

『もしもしミランダ、あれから変わりない?元気にしてる?』

「ママ⁉どうしたの急に?珍しいね、いつも忙しくしてるのに。」

『ミランダに伝えたいことがあったの。急なことなんだけど、明日、久々に地球へ降りることになったから、お母さんのお見舞いにも行こうかなって。ミランダも、一緒にどう?』

プロスペラおばあちゃんのところへ⁉

そんなのもちろん!行くに決まってる‼

私が答える前に、ママは私の雰囲気を察したのか、苦笑する。

『ミランダならそう言うと思ったわ。それじゃあ明日、軌道エレベーターのところで待ち合わせね。後からミオリネお母さんも来るから。』

「お母さんも⁉分かった、楽しみにしてる!」

こうして、ママとの通話は終えた。

私はすぐに行動へ移す。

「エリ!そういうわけで、私は明日から数日間、学園の授業は休んで地球まで行ってくるから。私がいない間、ガンダム寮を頼むわね。」

「分かったわ。こちらは私に任せて。」

エリは笑みを深めて言った。

 

翌日、私は輸送艇に乗りこみ、地球の軌道エレベーターまで向った。

向った先で、ママと合流する。

「ママ━━!」

「ミランダ!」

いつものハグ。

傍に控えていたゴドイさんは、やれやれとため息をついていた。

そうか、今日の護衛は、ゴドイさん一人だけなのか。

珍しく少ないな。

一連の儀式を終え、私達はそのまま軌道エレベーターを降り、その後は車に乗り込み、おばあちゃんの住んでる地区まで走った。

 

「よく来たわね、エリクト、スレッタ、ミランダ。」

おばあちゃんのお家まで着くと、笑顔で歓迎してくれた。

おばあちゃん、最近体調が優れないって聞いてたけど、今日は私達が来たからか、どこか元気に見えた。

でもまあ・・・・・・ゴドイさんもいたのだが、そっちは無視されていた。

あ、エリクトさんって言うのは、ママの持っているキーホルダー、「ホッツさん」の中に入っている意識体で、その正体は、ママのお姉さんにあたる人物なんだ。だから、私からすると、おばさん、に当たるのかな?

「お母さんも、元気そうで安心したよ。

ごめんなさい、グループの方の仕事が忙しくて、なかなかこっち、帰ってこれなくて。」

「いいのよ。今やスレッタは、ベネリットグループの総裁。スレッタになら、この世界の命運を任せられそうだわ。」

「・・・もう!大袈裟だってお母さん~、私はあくまで、大企業グループの舵取りに過ぎないんだから。」

当然のことながら、ママはおばあちゃんにもプライベートな口調で話す。

でもまあ、私はあくまで養子だから敬語だ。

「ご無沙汰しています、おばあちゃん。」

「あら、あんなに小さくて可愛いかったミランダちゃんが、もうこんなに大きくなるなんて。」

おばあちゃんは、義孫の私にも、優しくしてくれる。

もう、こんな穏やかなおばあちゃんが、クワイエットゼロ事変を引き起こしたなんて、信じらんないよ!

 

私とママは、おばあちゃんのお家で一緒に夕食を取りながら、他愛もない雑談をする。

しかし、話しがいろいろと盛り上がっていく中で、ふとエリの話になった。

その話になると、おばあちゃんの顔がやや曇ったような気がする。

「・・・先生・・・」

しばらくすると、おばあちゃんが語り出した。

「・・・でも、やっぱりそれはあり得ないわ。たしかに先生には、一人娘がいた。でも、彼女もヴァナディース事変で命を落としたはずよ。もっとも、私は先生と同じ、フォールクヴァング所属で、娘さんは別のラボにいたから、私が直接、彼女の遺体を目にしたわけではないんだけれど。でも、当時魔女狩り部隊は、オックス・アースの全支部に同時侵攻を行った。だから、その追っ手から逃げることなどできなかったはずよ。」

食卓の空気が少し重くなる。

「やっぱりそうだね。それに、カルド・ナボ博士の娘さんだとして、今機関の名を公表した理由も分からない。」

ちょっとちょっと。

あまりに二人が否定的だから、私は思わず声をあげる。

「エリが嘘ついてるって言うの⁉」

するとおばあちゃんは、優しげな笑みに戻り、私を宥めるように言った。

「そうは言ってないわ。エリちゃんはミランダの、大切な友達なんでしょ?そんな彼女が、あなたを騙すなんてこと・・・・・・

だから、エリちゃん自身も、母親からそう聞かされていて、実際は事実と違う、ということなんじゃない?」

ママがため息をついた後、頷く。

「やっぱり今回現れた、『ヴァナディース機関』については、より詳しい調査が必要だね。ベネリットの情報部に探りを入れさせることにしよう。」

━━と、そこに、遅れてきた客が現着する。

それは・・・

「ミオリネさん!」

「お母さん‼」

私とママは、満面の笑みを浮かべる。

一方、おばあちゃんの目は妖しく光る。

「あらあら、こんなに立派な夫を待たせるなんて、奥さんとしてなってないわねぇ~」

お母さんはそのいびりをひらりと交わす。

「いえいえ、お義母さんこそ、昔と比べ随分と穏やかになったもので。」

おばあちゃんとお母さんの間で、目線に火花が散る。

「アハハハ・・・・・・」

ママは困ったように二人を宥める。

まったく、なぜだか知らないんだけど、お母さんとおばあちゃんって、仲悪いんだよね。

これが嫁姑問題ってヤツか・・・

 

お母さんが来てしばらく経った後、私達は、おばあちゃんのお家を後にする。

「ミランダ、また時間ができたら、いつでも来ていいからね。」

おばあちゃんは、私には優しく接してくれる。

「フン」

お母さんは顔をそっぽに向ける。

やれやれ・・・・・・

私達は、ゴドイさんが運転する、行きと同じ車に乗りこみ、軌道エレベーターまで向った。

そして、そこに着くと、そのまま輸送船に乗り込んだんだけど・・・・・・

そこでお母さんが、ママに今日の仕事の報告をしていた。

「それで、議会連合との接触の件だけど、思ったより事態は深刻かもしれないわ。」

「・・・・・・」

ママは顔をしかめながら、続きを促す。

「そもそも、議会連合の本部への立ち入りを許されなかった。こんなこと、クワイエットゼロ事変以来初めてよ。

そこで私は、査察官のグストンを呼び出して、事情を聞いたんだけど・・・・・・」

お母さんは、さらに顔色を悪くした。

「どうやら、議会連合の一部の過激派が、ベネリットグループへの強制介入を画策しているって。16年前、クワイエットゼロに向けて放たれた惑星間レーザー装置、それを開発し、発射を裏で指示したのも、その過激派『アサルト』だということよ。」

「・・・・・・」

すると、ママは私の方を向いた。

「聞いて、ミランダ・・・・・・」

え?急にどうしたの?そんな辛そうな顔をして・・・・・・・・・

「さっき聞いてたように、今、議会連合と我々ベネリットグループとの関係はよろしくない。再び勢力を拡大しつつあるベネリットを、良く思っていないってこと。今後も私達は交渉を続けるけど、最悪の場合・・・・・・戦争もあり得るかもしれない。」

―ッ!

そんな、そこまで事態は切迫していたなんて・・・・・・

だが、ママの話は終わっていなかった。

「そして、その場合、ミランダにはアイリスで、出撃してもらうことになる。・・・勝つためじゃなくて、護るために。」

お母さんも、こちらの方を向く。

「できれば私達も、あなたを戦いには巻き込みたくない。でも現状、被害を最小限に抑えるためには、アイリスを出すしか。・・・・・・そしてその操縦は、あなたにしかできない。」

そう言った後、お母さんは黙って私を抱きしめた。

私は・・・しばらく考えた後、答えた。

「やるよ。━━怖いけど、戦いたくはないけど・・・・・・でもそれで、みんなの命を守れるならッ‼」

するとママも、涙ぐんで、私を抱きしめた。

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