スレッタとシャディクの会話が続く。
「お久しぶりです、シャディクさん。」
「ふふ、水星ちゃん、雰囲気変わったね。今ではベネリットグループの総裁か。人間みんな、生きていると変化するものだ。」
スレッタが昔を懐かしむように言う。
「17年ぶり、ですか。あなたは、グラスレー寮寮長として学園内での決闘を取り仕切りながら、裏ではフォルドの夜明けや議会連合と繋がり、後にクワイエットゼロ事変と呼ばれる戦線の、最初の火蓋となった事件である、プラント・クエタ襲撃事件を策謀した。
しかし、事変が終結すると、あなたはプラント・クエタのみならず、クワイエットゼロ製造の罪まで、全て一人で被った。あなたのその行動のおかげで、私の母は、罪を問われることなく、今でも静かな余生を過ごせています。
━━かなり遅くなってしまいましたが、あなたの名誉ある行動に、感謝致します。」
シャディクも、当時の思いを口にする。
「全て俺が罪を引き受けてやった、なんてかっこいいことを言うつもりはない。
ただ俺は、シャディク・ゼネリという男の人生の終着点として、そこに一つ見出していたものがあった。俺が成し遂げたかったことは、結果的に君やミオリネが、全て達成させてくれていたから」
「・・・・・・」
スレッタも、ただ切なそうに、シャディクを見つめる。
しばらく時間が経ち、シャディクが本題に入る。
「それで?こんな俺を、わざわざ牢から出したのは、なんでなんだい?」
するとスレッタは、一枚の写真をシャディクに見せた。
そこには、先日スレッタ達の自宅を襲撃したモビルスーツが写っていた。
「元グラスレー社跡目だったあなたなら、何かご存じかと思って。この機種に心当たりはありませんか?」
シャディクは写真をじっと見る。
「なるほど、たしかにこの機体は、グラスレー社のベギルペンデの改修型のようだが・・・・・・」
しばらく考えこんだ後、しかし首を横に振る。
「残念ながら、覚えがない。お役に立てなくてすまないね。」
「そうですか。」
スレッタは特に残念そうな素振りも見せず、すぐ席を立った。
「用件は以上です。それでは。」
立ち去ろうとするスレッタを、シャディクは引き留める。
「そういえば・・・・・・ミオリネは元気かい?」
すると、スレッタは振り向き、一言口にする。
「ええ。17年前と変わらず、私のすぐ隣に。」
一瞬、スレッタとシャディクの間に、電撃が走る。
だがすぐに、シャディクは微笑んだ。
「それなら、良かった。」
私はアイリスに搭乗し、プラントを飛び出た。
周囲には、アサルト軍の最新鋭機であるエアルが20機展開されており、プラントの周囲を取り囲んでいた。
…いや、多ッ!
こいつら全員、狙いは私のアイリスか。
部隊のうちの一機には、例のガンダム、ルブリス・イブも混じっていた。
一方で、ルブリス・アダムの方はどこにも見当たらないなあ・・・・・・一体どこへ?
しかしそんなことを気にしている場合ではない。
敵モビルスーツ全機が、私の機体を捕捉した。
私は即座に、ガンビットを展開した。
激しい戦闘の━━幕が開けた。
ミランダの出撃を見送ったエリとザイリは、自身のジンクオにて待機する。エリの機体は実戦使用だが、ザイリのはいつも通り、決闘用のままだ。
そこへ、ウノ・ハルキが駆る、ルブリス・アダムが侵入してきた。
エリがすぐさま視認する。
「来たわね!」
「クッ」
ザイリも一歩遅れて反応、同時にビームライフルで、アダムを迎撃する。
だが、アダムには攻撃は当たらない。
「オラオラ、ここにはザコ機体しかいねーのか?」
ウノは余裕の表情でエリ達の攻撃を交わす。
「チッ」
エリは忌々しく顔を歪ませるが、結局防戦一方を迫られることになった。
アイリスのガンビットが、エアル部隊に対して攻撃を加える。
私はなるべく、敵モビルスーツの四肢を狙い、コックピットにはビームを当てないように応戦する。これは、ママの教えだ。
ママの言葉が脳裏に蘇る。
━ミランダ、たしかにアイリスは、決闘用のレギュレーションを外せば、敵のモビルスーツを撃墜させることができる。でも、たとえ実戦でも、なるべくコックピットを狙うことはしないでほしい。アイリスはあくまで、人を殺す兵器じゃなくて、惑星開発事業の促進を促すために作られた機体だから。だけど、もしミランダ自身や、仲間の身に危険が及ぶことがあれば、その時は・・・・・・━
今はその時じゃない!
だから‼私はママの教えを守る。
と、そこに、他とは違い、機体色が黒のエアルが、アイリスに接近する。
「へぇ、さすがはガンダム、そして英雄の娘!雑兵では話にならんか。
━━ならばその機体、私が討ち取る‼」
この機体、他とはスピードが段違いだ‼隊長機か?
私はビームサーベルを抜き、応戦する。
同時に周囲にガンビットを展開、その一機だけを狙う!
しかし、ビームはまったく当たらない‼
さらに・・・・・・
「ふ、そちらがガンビットなら、私も使わせてもらう‼
パーメットスコア、3‼」
な⁉黒エアルの周囲に、ガンビットが展開した!!?
両者、互いにガンビットの撃ち合いになる。
時折、ビームサーベルでの斬り合いにもなる。
と、敵ガンビットのうち一つの攻撃が、アイリスの右足に被弾してしまう。
途端、アイリス右下半身の機能が停止してしまう。
「な、スタン効果の電磁ビーム⁉」
私は少し動揺、そして動きが悪くなるアイリスに対し、黒エアルが迫る。
「もらったッ‼」
クッ
私は咄嗟に、全ガンビットを集合させ、前面にシールドを作る。
「チッ、防がれたか・・・・・・だが!
今だ、やれ、メメ!素人共‼」
アイリスに、ビームの攻撃が集中する。
私は、右足以外の機動力と、ガンビットの防御で、なんとか敵の攻撃を回避しようとする。
だが、目の前はビームの蜂の巣、避けきれない!
ああ、やられる・・・・・・
と、その時、包囲網の一角が撃ち落とされる。
このビーム、この射撃は⁉
「ッ⁉」
敵も動揺したのか、一瞬動きを止める。
「スレッタ・マーキュリーか⁉」
エアリアルは、ガンビットを展開、すぐさまエアル部隊を一掃した。
そして、アイリスと黒エアルの間に割って入る。
「大丈夫、ミランダ⁉」
「ママ‼」
絶望から歓喜へと、内心が一瞬で塗り替えられた。
さすがママ、格が違う。
「ミランダは、ルブリス・イブの方を相手して。私はこの特化型エアルを迎え撃つ‼」
「分かった、その特化型、かなり厄介だから、気をつけて‼」
私は注意を促しつつ、ルブリス・イブの方へ矛先を変えた。
同時に、エアリアルと黒エアルの戦闘が開始される。
エアリアルと黒エアルのビームサーベルが交わる。
「さすがは英雄、なかなかやるな!」
「くぅ・・・・・・」
ディスはそう言いながらも、ガンビット━━マクロ━━で少しずつエアリアルを追い詰めていく。
『気をつけてスレッタ!この相手、かなり手強い‼』
エリクトも警告を発する。
「分かってる、でもなんとかして押さえ込まないと・・・・・・」
そう言いながら、スレッタもガンビットを展開、黒エアルを攪乱する。
その間、エアリアルはやや距離を取ろうとするが、ディスはガンビットをものともせず、さらに接近、ビームサーベルを切りつけた。
「くッ!」
スレッタは衝撃に揺られながらも、黒エアルの右腕を切断、再び距離を取る。
だがそれでも、ディスは余裕の表情だ。
「さすがじゃないか。だが、まだ終わりではないぞ‼
とくと見るがいい、我が奥義‼━━パーメットスコア、6‼」
ディスの叫びと共に、突如その場に、データストーム空間が現れる。
『な、これは‼』
「エリクト‼」
さすがのエリクトも驚愕する。未だかつて、同様のことができたモビルスーツは、この世にたった一機しか存在しない。そう、ちょうど今自身の意識を移している、愛機・エアリアルだ。
しかし、今この瞬間、その事実は塗り替えられた。相対する黒エアルもまた、データストームを空間化させたのだ。
この状況が何を意味するか。そう、ディス・マジェスティック大佐の能力は、エリクトに迫るものがあるということだ。
な⁉データストーム空間が出現??
ルブリス・イブとの交戦を続けていた私であったが、アイリスのアラートが鳴り、思わずエアリアルと黒エアルの方を向いてしまう。
「よそ見なんか!」
咄嗟にルブリス・イブが襲いかかってくる。なんとか避ける。
あっぶね。
だがこの状況、さすがにママの方が気になるよう‼
データストーム空間を作ったのはエリクトさん?・・・・・・いや、違う、え、敵の方⁉
そんな馬鹿な、あり得ない、だってあれは・・・・・・
私は途端に、ママが心配になる。
だが、すぐに思い直す。
いや、ママは英雄と呼ばれし者だ。どんな状況でも、必ず勝利してきた。
だから今回も、絶対になんとかしてくる!
私は、今目の前の戦闘に集中しなきゃ‼
私はそう思い、改めてルブリス・イブの方を注視した。
敵も同様の思いのようだ。
「ガンダム、ここで決着をつける‼」
黒エアルが、エアリアルをオーバーライドしようと試みる。
『うわあ‼』
エリクトが思わず悲鳴を上げる。自身の意識に別の拡張意識が侵入し、混濁を起こしたのだ。
「エリクト‼」
スレッタは心配そうに、声をあげる。
だが、エリクトの目は、鋭く光が走っていた。
『こんな・・・・・・こんなところで・・・・・・やられるもんか!このボクが、データストームとの共存を果たしたこのボクが‼』
エリクトが全力で、意識介入を阻害する。
エアリアルは、白い光を放つ。
パーメットスコア、8。
エリクトは強引に、黒エアルのオーバーライドを、さらに上からねじ伏せたのだ。
まさに、最強。エリクト以外では成せない荒技だ。
さすがのディスも驚愕する。
「そんな、この私のパーメットスコアを超えるとは。スレッタ・マーキュリー・・・・・・いや違う、あそこにはもう一人いる‼」
ディスは、エリクトの存在をやや関知し始めた。
それは、エリクトに取って望ましいことではない。
『スレッタ!敵の支配は断ち切った。一気に留めを‼』
「了解‼」
スレッタは合図と共に、エアリアルの周りにガンビットを浮遊させ、黒エアルに照準、ビームライフルと合わせ、同時に放った。
ディスはなんとかその攻撃を避けるも、引き際を誤る人間ではない。
「さすがに分が悪い・・・・・・メメ!ウノ!撤退だ、アルデウスにて合流を‼」
そして自身も、後退した。
エリとザイリは変わらず苦戦を強いられていた。
特に、ザイリの方のジンクオは、左足を被弾し、その場を動けなくなっていた。
エリのジンクオ・シグマはまだ善戦するものの、ルブリス・アダムを追い返すことはできず、せいぜい時間稼ぎが精一杯であった。
そして先ほどの、ディスからの撤退命令。
ウノはそれを聞き、不満顔になる。
「はあ~、今いいところだってのに。
ディスのやつ、しくじりやがったな。」
そして、改めて太刀を構え直す。
「すぐに勝負をつけてやる、こいつだけでも墜とす‼」
そう言うと、ザイリのジンクオを目がけて突進する。
「くそッ」
エリはビームライフルを連射する。
しかし、全てかわされる。
「ここまでかッ‼」
ザイリは覚悟を決め、目を閉じる。
コックピットの目の前に、太刀が迫る。
━━しかし‼
寸でのところで、ジンクオとアダムの前に、一機のモビルスーツが割って入る。
そのモビルスーツは、そのまま太刀を両肩の盾で防御した。
「な⁉」
「この機体は・・・・・・!?」
ザイリもエリも、突然の出来事に驚く。
そのモビルスーツの機体色は赤。右手にビームショットライフル、両肩にはシールド型防御用ドローン「ダヤ・アンビカー」を装備していた。
そして機体名は━━『MD0064 ダリルバルデ』
現在のジェターク社の量産型モビルスーツ・ダリルバルの元になった機体で、同時に、ジェターク社前CEO、グエル・ジェタークの愛機であった。
そしてその機体に現在搭乗するのは・・・・・・なんと先ほどの喫茶店の店主こと、ボブ・カマーンであった‼
ボブは複雑そうな顔をする。
「くそ、今更横やり入れて来やがって、誰だテメエ⁉」
ウノは激昂する。しかし当然のことながら、返答はない。
「ええい。ならまずは、お前から殺す!」
アダムの矛先が、ダリルバルデへと向く。
そしてそのまま急速接近、一気に両断しようとする。
しかしダリルバルデは動かない。
「おい!」
「旧式が前面に出て何を⁉」
ザイリとエリがそれぞれ叫ぶ。
だが彼らは知らなかった。ダリルバルデの機動性、スピード、運動性は、全て量産型のダリルバルと同様であるが、ただ一つ、量産型には実装されなかった装備があったことを・・・・・・
それが・・・・・・
突如として、ルブリス・アダムの右腕と左足が切り落とされた。
「な、おのれぇ・・・‼」
そう、これこそがダリルバルデオリジナルの装備、攻撃用ドローン「グスサー・イーシュヴァラ」である。
イーシュヴァラは、アダム攻撃後、さらに周囲を飛び回った。
それを見て、ウノも状況を理解した。
深追いをせず、一目散に後退、プラントを後にした。
「「・・・・・・」」
エリとザイリは、ただ呆然と、ダリルバルデを見つめていた。
プラント・カオティック。
半日前、スレッタと会った時に見せられた写真に写っていたモビルスーツについて、その時は見覚えがないと言い放ったシャディク・ゼネリであったが、しかし実は少し心当たりがあり、蟠りを解消するため、このプラントに潜入していた。
誰もいない兵器工場の廊下。
そこをシャディクは、おそるおそる進む。
だが。
パンッ!
「うっ」
シャディクは思わずうめき声を上げる。
左肩を確認すると、撃たれていた。
「さすがは元グラスレー社の御曹司。よもやここを突き止められるとは。」
シャディクの背後に、サングラスをかけた、黒装束の男が立つ。その左右には、同じ格好の男達が並ぶ。彼らの服装は、スレッタ達の自宅を襲った襲撃者と同じものだ。
シャディクは後ろを向き、肩を竦める。
「・・・・・・やはり、あなた達でしたか。」
銃を持った中央の男は、鼻で笑う。
「シャディク・ゼネリ、あなたにはここで消えていただく。」
シャディクはやれやれと目を閉じる。
「━━ここが人生の終着点か・・・・・・まあ、悪くないな。」
次の瞬間、銃弾が眉間に撃ち込まれた。
無言で崩れ落ちる。
これが、シャディク・ゼネリの最期であった。
銃を懐にしまった男は、そのまま端末で何者かに連絡を取る。
「拝命通り、目標を始末しました。━━はい、証拠を抹消し、直ちにこの場を去ります。」