突然ビックリ♀蜥蜴人ちゃん生活!?   作:4645 (ケモ系大量生産クリーチャー)

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目隠しの男

 

 

 

 

 

 ともあれ、もうちょっとは生き足掻いてみよう。

 

 メイス、カンテラ、油、着火装置、食料、水筒。その他諸々の7つ道具は、有り難い事に全て揃っている。

 

 どうやら、これから1人になる彼女()を気遣った仲間達が、出口の大扉の横に必要になる物をまとめておいてくれていたようだ。

 

 普段、このような品々の運搬は、隊列中央の輜重兵に任せていたので、彼女は自身で荷物を持つこと自体が新鮮であった。

 

 四角く膨れた背嚢を背に、先程とは打って変わってどこか浮かれた気分の彼女は、長く(いかめ)しい印象を持たせる尻尾を振り振りに、テクテクと歩き出した。

 

 

 それからしばらくの間は、彼女の当てのない旅路は、まさしく順調そのものであった。

 

 目覚めた石の大広間を出た後、微かな記憶を辿って、行きに通った道を何となくなぞり、時に暗い天井を星空の様に覆い尽くす青い発光菌類に見惚れながら、彼女はその日の内に(体感で)安全そうな場所に行き着くことができた。

 

 この迷宮は、入り口から最深部まで、おおよそ四十里(160キロメートル)あるとされている。

 

 迷宮と言っても、ただ奥行きが物凄くあり、資源と危険に溢れる遺構だらけの巨大な洞窟のようなものなので、進むこと自体はそんなに難しくなかった。

 

 

 だが、進むこと以外は到底簡単ではない。

 

 

 

「…あァ?

一丁前に武装なんかしやがって、

なんでこんなとこに鍋敷きが一匹でいやがんだ?」

 

 

 

 このような回避不能の危機が、時に降りかかる為だ。

 

 声色からして、明らかに友好的ではない。

 

 鍋敷きとは、蜥蜴人への蔑称である。

 

 彼らの鱗皮を加工した際、余った屑皮でキッチン用の鍋敷きを作ることが多いからだ。

 

 浅学の彼女ですら知っているような、割とよくある呼び方だが、その声音には本物の侮蔑が含まれていた。

 

 

 唐突に背後から聞こえてきた声を聞いた瞬間、彼女は驚くと同時に、背筋に怖気が走ったのを感じた。

 

 人生で初めて自分を人ではなく、畜生として見ている者の声を聞いたからだ。

 

 彼女は声すら発さず速やかに背嚢を部屋の隅に放ると、メイスの柄を首に載せるように、釣り竿を振る際に近い臨戦体制を取った。

 

 そして次の瞬間、いつのまにか目の前まで接近していた謎の男は、全く躊躇せずに彼女の首を刃こぼれした短剣で切り付けようとしてきた。

 

 狙ってきた部位からして、彼女は悟った。

 

 この男は、こちらの皮を出来るだけ傷付けずに殺そうとしているのだ。

 

 意思疎通を図る時間すら与えて貰えなかったのは想定外だが、こうなっては応戦する他ない。

 

 一瞬で覚悟を決めた彼女は、危なげなく後方に飛び退いて剣筋を避けると、自身の得物の大ぶりなメイスを力強く握り直した。

 

 

 

「ちッ、避けるなよ…」

 

 

 

 男は心底面倒臭そうに毒づく。

 

 口元をへの字に曲げたその男は、自身の両目を巨大な眼の紋様が描かれた目隠しで覆っており、自らその視界を封じているようだ。

 

 どうやら1人で行動しているようだし、殊更に奇妙な男である。

 

 男は彼女と相対してからもずっと背負っていた巨大な探索バッグをドンと床に放ると、ようやく本気を出したかのようにこちらに向き直る。

 

 衝撃に少し蓋が開いて、中身の素材がいくらか床に溢れ出るのを見るに、こちらと同じ単独の探索者のようだ。

 

 

 

「…シッ!」

 

 

 

 彼女のターンが回ってきた。

 

 彼女は右手に握ったメイスで、男の側頭部を振り抜くように、力強く殴りかかった。

 

 目論見通り、男は短剣の鍔でメイスの柄を受け止める。

 

 そして彼女は、防御に集中している男の首を、あらかじめ空いた左手に握り込んでおいた小型ナイフで刺し貫こうとした。

 

 彼女が彼だったころからのお得意の対人戦術だ。

 

 だが、あっさりと防がれてしまった。

 

 

 彼女の切り札のナイフは、男の皮の腕甲に綺麗に受け止められ、男の右耳を直撃する軌道だったはずのメイスは、男に短剣ごと手首を思い切り捻られた事により、床に取り落としてしまっていた。

 

 さっきまで呑気にお散歩気分だったはずが、急速に「詰み」の二文字が走り寄って来ている。

 

 ゾワッ と、彼女は爬虫類の瞳孔を収縮させた。

 

 明らかに適当な攻撃を選択してしまった事に対するツケだ。

 

 男は無言で彼女を突き飛ばすと、彼女の胸骨の中心を思い切り殴りつけた。

 

 

 

「げはッ」

 

 

 

 男の容赦ない攻撃に、彼女は潰された家畜のような嗚咽を漏らし、心臓の動きを乱された。

 

 ドッ、ドドッ、と、下手くそな手拍子のように自身の脈が暴れるのを感じる。

 

 思わず両手で胸を押さえて地面をのたうち回ってしまう。

 

 長い尾が、痛みに痙攣するようにびくついているのが分かる。

 

 せめて、高かったあの鎧(男物の)を着ることができていれば。

 

 まだ何もしていないのにも関わらず、彼女には早くも死がにじり寄っていた。

 

 人間ではないものに対する人間の厳しさを、彼女はまだ知らなかった。

 

 

 

 





 
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