閃光が駆ける…、1機のMSに対して2機のMSがそれを追う。ザクを改修し、作業用とした機体を完全武装したザクが追う。
宇宙空間に漂う残骸の中を、ノズルからの光源を発しながら三機のMSが静かな戦闘を行っていた。
2機は1機を追い込むようにダダダとマシンガンを撃つと、1機はそれをスルリと避けまた別の方向へと逃げ続ける。
有る地点を越えたとき、追っていた筈の2機のうち1機が何者かによる攻撃を受け、そのまま爆発する。
同じく追っ手である機体はそれを目にして一目散に逃げようとするが、既に周囲を多くのザクに囲まれ身動きが取れない内にそのまま拿捕された。
その後のその機体と、パイロットの運命がどうなるかは…言い訳の付き方によるものの、大概の場合は良くないことになる。
だが幸運な事かな?そのパイロットが襲撃した者達は、ジャンク屋の中でも比較的に潤った者達であった。
「武器を捨てて投降しろ、さもなくば撃墜する。こちらは6機いる、逃げられないぞ?」
隊長機であろうその機体は、右肩の盾の辺りに何やら三角形のようなエンブレムを付けていて、優しげな声とは裏腹に、その警告文をサラリと言う辺り場馴れしていた。
それを見て、そのザクのパイロットはマシンガンを手放し両手を上げて大人しく投降する。
「よし、そのままコックピットから出るんだ。悪いようにはしない。アマダ、ザクを曳航しておいてくれ。皆は作業に戻るように。」
そのまま各々の持ち場へと戻る彼等は、戦闘と作業の切り替えをすぐに行い手にしていた武装を腰部背面や側面に収納し、同じ場所に着けていたものと交換して、作業へと戻る。
それは、日常の一幕であった。
地球を中心とした所謂地球圏と呼ばれる範囲には、地球と月との重力的安定点、
これは、所謂三体問題とも呼ばれるものの平衡解の位置に相当する場所であり、この場所は安定的に物体が留まるところである。
サイド6はこのうち、L4と呼ばれる5つの安定点のうちの一つにあり、その点を中心として本来であれば近郊部に双子とも言えるコロニー郡が存在した。
その名は、サイド2ハッテ嘗て1年戦争において、ジオンと連邦の大艦隊が激突した所謂ルウム戦役の舞台であり、今はもはや残骸が残るだけの文明の名残しか無い。
ジャンク屋は、宇宙空間の残骸を漁る宇宙のハイエナのようなものであるが、こうした残骸から鉄資源や水資源を取り出しスクラップとすることで、その資源を売りつける。
そう言った物を生業にする存在である。
ここに一隻の船が有る
それなりに大型の部類に当たる輸送船であり、ジャンク屋源平に所属する武装商船である。
商船でありながらその実態は、余剰となったコロンブス級と旧式艦であるサラミス級巡洋艦を3個1した船である。
何故武装を施さなければならないのか?それは、このサイド2の残骸たる所謂暗礁宙域と呼ばれるココは、非常に治安の悪い場所となっているからであった。
そもそもが暗礁宙域と呼ばれる程に、その残骸の量は当時の戦争の悲惨さを物語る一方で、資源としての量は1つのサイドで消費し切れるものではない。
従って、ジャンク屋の良き資金源となっているのだが、彼等もまた動物と同じ様に縄張りを持っている。
フリーのジャンク屋とサイド6公認のジャンク屋の主な違いは、最低限の買取価格が保証され、尚且つ政府公認での武装所持を行えるか否かの違いであろうか?
その為、ジャンク屋にもランクと言う物が存在し、そのランクでも下位のグループには、保証されていない買取価格からか宇宙海賊を行っている者も少なからずいた。
今回の件も当にそれであり、株式公司である源平は大口のジャンク屋であった。
自前の圧縮機を搭載した大型の武装商船は、宙域から資源を拾い上げるとその場で加工し、そのままサイド6に存在する公用溶鉱炉の方へと持ち込まれる。
昨今、金属資源は高騰し、名なしのジャンク屋が多くいるためその日のその場所は大渋滞となっていた。
「おお…長蛇の列って奴ですな、金目当てに良くやりますよ。」
「そうだな…、優先的にやらせてもらっているコッチは恨まれても仕方ないかも知れないな。」
船橋では、MSパイロットの長であるユウキ…アムロと船長であるガデムは談笑しながら作業を続けていた。
ジャンク船シャンプランの内部にコレまでか、というほどに詰め込まれたスクラップを、危なげなく運び出す者達がいる一方で、1機だけヨタヨタとしながら作業している物がいた。
「おい、ニャアン。スラスターは微調整だけに使えば良い、慣れるまではそんなもんだ。」
ニャアンはこのコロニーに住んでから初めてのコロニー外での仕事をしていた。皆に操縦を習って危険が少ない作業からと、機体を借りて練習がてらやらせてもらっている。
MSへの免許などあって無い様なものだから、証明書等に記載された内容に彼女は一応所属のパイロットとして登録された。
難民ではあるものの、彼女の身分はコレによって少し安定した物になるだろう。
必死になっている彼女とは裏腹に、他の人達はテキパキと作業を続けていた。
ガクン、プシュー
という音を立てながらザクのコックピットが開くと、パイロットスーツのヘルメットに手を掛けて、それをゆっくりと取り去る。
「ふぅ……、疲れたぁ…こんなの久しぶりだよ。」
ニャアンはそんな言葉を呟きながら、そのくせ顔は少しニヤケながらも何処か楽しげにしていた。
「おい、終わったんなら早く出ろよ。それと着替える前に、水分を取ってからにしろ?その後その格好で数分待つんだ、スーツを脱いだ時に脱水して倒れる奴もいるからな。」
「わかった…、ありがとう。」
早く出ろと言うのは、この機体の整備を担当している整備士である。彼等はこの仕事において、尤も重要なポジションに立っていると言って良い。
彼等が失敗すれば生命にも関わる事態があるのだから、その心境は重い物が有るだろう。
そんな彼等であるが、ニャアンの誠実な感謝の言葉を聞いてニヤニヤとしていた。
顔は怖いし無骨な者達であるが、根は優しく少し下品なオッサン達である。
確かに皆20代30代が多いが、そんな中に紅一点がいればそうもなろう。士気はそれなりに高かった。
……
「ったくよ〜、なんだよこの列は。」
「金属の相場が高騰してるんだ、金目当ての列だ。」
恰幅が良く強面で、何より気性の荒そうな2人…ガイアとオルテガは辟易した様子で、船を高炉へと移動させていた。
ジオン軍で腕を慣らしたこの二人は嘗て、黒い三連星
と呼ばれたエースパイロットであった。
彼等は戦後の不況と、財政難に喘ぐジオン軍から半ば放逐されるように退役させられたのだ。
最後の乗機たるリック・ドムからゲルググへの機種転換に失敗し、彼等の得意とする戦術も今では無いものとされていた。
そんな古強者であったが、三連星という名の通り本来は3人組であった。だが、1人抜け駆けのようにその場にはいなかった。
新聞記事に載る、見知っているはずの知らない顔…それがかつての戦友だとは想いたくはなかった。
「そういやよぉ、スカウトの件…どうすんだ?」
「あの企業からのか?俺等よりも腕が立つパイロットがいれば考えてやらんでもないって、そう思っていてな。クラバでもやってやるか?ハハハ。」
確かに今はひもじい想いをしていて、嘗ての栄光も無くその日暮らしが続いている。
もしジオンでパイロットを続けていればこの様なことも無かっただろうが、それは今更というものだった。
自分達で選んだ道なのだから、自分達で何とかする。それが彼等のモットー。
どれだけ維持費がキツくとも、いつかいつかは帰ってくるだろう3人目、マッシュを待ちながら維持費を捻出する為に、今日も二人はジャンクを漁る。
……
アンキー等カネバン公司の事務所にて、1人の男がふらりと現れた。周辺住民からすれば見慣れない顔ではあるが、この周辺のジャンク屋にしてみれば、目の敵のような男。
金髪に、サングラスをかけルックスも悪くないどころか綺麗どころだろう。
「この前は会社を空けていたので代理のものがこちらへご挨拶に向かったようですが、改めましてクワトロ・バジーナと言うものです。」
株式公司源平の代表取締役社長であるその男は、その大きな会社を経営しているところもさることながら、人望が厚いのだろう。
ここいら一体のジャンク屋に知らないものはいない、寧ろこの会社経由でザクを仕入れたり、借入れしていたりもする等、仲介会社の面もあるのだから侮れない。
「こちらこそ、いつも機体の整備をお願いしているのに態々そちらから出向いてくださるのは、どういったご要件で?」
「いえ、少し我々が手を貸している会社が、どういったものなのか目にしてみたいとそう想いましてね。事情はお聞きしていますが、守秘義務は厳守していますよ。
人は隠し事の1つや2つある事ですから…。」
アンキーからしてみれば、その言葉は脅しともとれるものであった。要するにお前らの事等、すぐに突き出せるのだぞ?と言っているようなものなのだ。
実際これほどまでに大きな相手であれば、カネバンなど一捻りで潰されてしまうだろう。
難民街にあるということは、法的措置の適応外でもあるという現れなのだから、もはやヤクザのシノギであった。
「お互いにそういったところはあるかと、それでこの紙切れはいったいどういう意味が?」
机の前に差し出された紙切れには、カネバンが現在協力関係となっているガンダム関連の記事が書かれている。
赤いガンダム、それには懸賞金が賭けられていてそれを、どうこうするという話になるのか、と。
「我々は彼の居場所を特定したが、君はどうかね?という事だよ…。」
「売り渡せと…そういう事ですか。」
その言葉に、クワトロはニヤリと口を歪ませる。どうやら正解のようだ。
「君等には荷が重すぎる爆弾だと思うのだがね?無論、懸賞金はいらない。譲渡しろとも言わない、ただ君等の用が済めば我々の庇護下に置かせてもらいたいと、そう思っているだけだよ。」
相手を見透かすような瞳が彼女を捉えている、アンキーの背中には静かに汗が流れていた。
そして何より、その男の顔に若干の見覚えがあったがそれはあまりにも信じ難いものであり、理解を拒んでいた。
金髪に仮面を被れば、顎の形も耳もあの男、赤い彗星のシャアに良く似ていると。
……
その日エグザべは、イズマコロニー内の地下鉄に乗車し何処かへと移動していた。
彼の目的は表向きは、ジークアクスの足取りと情報を辿る事であるが、実際の彼の目的は別にあった。
電車には季節とはまるで関係のない様な服装をした、歳を取った男が座っていたが、その隣に彼はやって来て幾つかの情報をやり取りした後、電車を降りる。
それが彼の本来の目的であり、諜報員達との情報交換こそが彼の本分。
キシリア隷下の部隊である所謂キシリア機関の構成員であり、彼は要するにソドン内部に巣食う不穏分子…、または1人の男の監視のため送り込まれたのだ。
送り込まれたのだが、直接の上司という立場に落ち着いているその監視対象、彼の手腕によってその側から一定の距離を離されていた。
今日もまた、連絡をした帰り道駅の構内を歩いていると、何処からか口論が聞こえてきた。
「お前、難民だろ。」
2人の女の子、1人は黒髪1人はピンク髪。
エグザベには1人、見覚えのある人物だと言う確信があった。
ココは恩を売っておいた方が、後々良い事があるだろうと言う打算と、目の前のジークアクス奪取の一番の容疑者がいると言う事実が、一瞬にして脳裏を駆け巡る。
「だから…なんですか!!」
黒髪の女の子が声を大きくして、恫喝する警邏に抗議する。
それを横目に見ていたピンク髪の少女が、驚いて目を見開いているのを見るに、普段はそんな態度をとる子では無いのだろう。
「ほう…嫌に強気に出るな難民の癖に…。」
「私だって…私だってしっかりと働いて税金だって払ってる!!」
バッと取り出したのは、数日前行ったMSでの作業とその行為に対する給料明細だ。
頭ごなしに言ってくる相手に、彼女は正面から切り抜けようとした。
「ちょっと…辞めてくださいよ友達なんですから。」
ピンク髪の少女がそう言って庇う。警邏はその制服を見て、何処の人間であるのか分かったのか、学生証を見せろという。
渋々と言った具合でそれを見せると、偽造がないか照らし合わせ本物だと気づく。
「難民とつるむとはな、最近の学生はそんな火遊びが好きなのか?」
ムッとする彼女は、それに対して更に顰めっ面をくだす。
「あの………、その子達の知り合いなんだけどそろそろ良いですか?」
エグザべは意を決して警邏に声を掛けると、ピンクの少女はその顔を見て目を丸くした。
どうやら覚えていたらしい…。
「なんだぁ…?お前は……、何処かで見た気がするが…部外者が首を突っ込むんじゃない!!我々は仕事をしているだけだ!」
ピリピリとした空気が辺りを締める、エグザべが矢面に立った隙を突きマチュはニャアンを連れてその場を走る走る。
急がなければ、クラバに間に合わなくなってしまうから。
何より…キラキラをもっとと、…シュウジに、嫌われたくないとマチュは思っていた。
……
放棄されたエアロック、その中でラッカーを使って芸術的なキラキラの絵を描く。
それが彼の日課であり、彼の使用する機体から彼が観ることが出来る、彼等の宇宙がそこにはあった。
そんな壁画を描いている張本人であるシュウジは、現在身体が火照って仕方がなかった。
所謂風邪というものをこじらせ、暑い中頭がボーッとしていたのだ。普段から何を考えているか分からない彼であるが、この時ばかりは本当の意味で頭が良くなかった。
その日もマチュとニャアンが彼への差し入れとして、リンゴや食べ物をくれる。
それを、少しでも良いからと食べて何とか治らないかと、ボーッとしている頭で考えていると
キー……
という音が空間内に広がった。
そこから現れた人物を、シュウジは知らない。が見知った様な顔をしている。
それは互いの存在を知りながら、話を始めた。
「こんなところに住んでいるとはな、懸賞金が賭けられているなんてそんなことも思い浮かばないのかい?」
天然パーマの男が何の断りもなく勝手に彼のテリトリーに侵入したのだから、本来は迎撃しなければならないところにあるが、どうにも身体が動かなかった。
「いや…大丈夫か?顔色が悪いぞ?すぐにでも病院に行くべきだと思うが…?無理かな?」
そもそも身分の保障すら無いのならそれすらも出来ないだろう。だからこうして、地下にいるのだから。
「駄目…、クラバに出なきゃ…違約金なんて払えない。」
「そうかい…。案外まじめなんだな、いや目的の為なら何だってするって感じだな。」
男はそう言うと、徐ろにガンダムの方へと歩いて行く。それを見たシュウジは驚きつつも、一言言う。
「ありがとう……と、ガンダムが言っている。」
「ガンダムはそんな事言っちゃいない、君がそう思っているだけさ。リンゴは摩り下ろしてから食べたほうが風邪に効くからな、皮ごと食べられる。今は休んでいろ。」
そういうが早いか、ガンダムのコックピットは開き男は何も語らずその中へと入っていく。
男…アムロ・レイは、ガンダムへと乗り込み内部をぐるりと一瞥すると、ある種の郷愁を感じていた。
赤いガンダムがその身を確かに動かし始めた。
こんな展開になっちまうんです。
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