ニャアンは走っていた…、ハァハァと息を切らしながらも、その行く先は決まっていた。
地下への道を通りその場所へと急ぐ。
彼女が何故走っているのか、それは1つのメールが切っ掛けであった。
仕事用のスマホを片手に、マチュの試合を観ようとした矢先それに気が付いたのだ。
それはコンチからの緊急のものであったからか、彼女は格納庫から出撃していったマチュに了承を取らず一目散に走り出したのだ。
次第にその場所へと近づいていく、急がなければクラバが始まってしまう。
そうなれば、最悪の場合違約金を支払わせられるだけでなく、マチュにまで被害がでてしまうのだ。
マチュは知らないだろうが、ニャアンは知っている。クラバはあまりにも危険な遊びだ。
少しの行き違いがあればそれは直ぐに、死に直結するほどに。だから急いでシュウジの場所まで駆ける。
カンカンカンと小気味の良い音が何処からか響いてくると、その音の主が底に横たわっていた。
「シュウちゃん!………?何してるの?」
本来ならばガンダムがある場所の中にいるはずのこの男が、どうしてこんな何もない外にいるのだろうか?
そして、どうしてか顔の色が良くないのだろうか?
「休ませて貰ってる……。」
ピーガガとコンチが何かを指差しながら、シュウジが返答する。指さす方向はエアロック…、普段シュウジが暮らしているそこで有る。
そこには有るはずの物が無い、それは異様な物だった。
「ガンダム…、誰が乗ってるの!」
どうしてガンダムが無いのか、誰が乗っているのか?そしてその人はクラバに出るのか?そんな考えが頭の中を過ると、今更ながらニャアンはマチュに何か有るかも知れないと心配になった。
「君のおじさん…」
「え…?」
君のおじさん、その答えは意外なものだった。自分のおじさん…、それがいったい誰であるのか?該当者はたった2人、血縁は無いけれど自分の保護者になっている2人。
「風邪ならここで休んでろって、言われた。だからここにいる。」
「そうじゃなくて、そのおじさんってどんな見た目だったの?」
彼から帰ってくる答えは単純なものだった。
それはニャアンが思い違いとそう想いたかった事象であり、同時にそれに恐怖を覚えた。と同時にシュウジのところから離れることを決意する。
駆け出そうとする彼女を、彼が手で引っ張る。意外なほどに強い力だった。
「行っちゃ駄目」
「なんで!クラバは危険だって知ってるでしょ?」
抗議するニャアンに、コンチとシュウジはそれを止めその瞳の強さに彼女は気圧された。
「大丈夫……君のおじさんは強いから…。」
……
戦闘開始時間になんとか間に合い、マチュは急いで僚機である赤いガンダムを…シュウジを探す。
だが、彼の気配がないことに少しの戸惑いを覚えるとともに、見知った嫌な感覚がガンダムから発せられている事に気が付いた。
「……なっ!なんでアンタが乗ってるの!!それはシュウジの」
「彼が風邪気味だから代打だよ。」
マイク越しから聞こえてくる声は、聞き知った友人の保護者の声である。
特に意味もわからない状況の中、そんな彼は非常に冷静に物事を見ていた。
特にマチュの困惑も無理もないとし、この幼気な少女がどうしてこの様な場所にいるのだろうか?という、ある種の親心とも取れる物を抱きながらも、大人として対応すべきだろうと考えた。
対してマチュは、彼のその様な考えに対して何かしらの嫌なものを感じ取ったのだろう。忌避していた物をより感覚的に覚えていた。
特にそれは、お母さんがマチュに対して干渉する時のそれとよく似ていた。
「私とシュウジの間だけなのに…」
「傲慢だな…、いや年相応とでもいえば良いのかな?君くらいならそれくらいは考えるんだろうな。」
キラキラから感じるそれは、人と人の心を通わせたそれであるがシュウジの持っているそれよりも遥かに深い、ある種の深淵を思わせるようなこの男にマチュは嫌味をこぼす。彼の過去はまるで靄がかかったかのように見えない、まるで心を閉ざすかのように。
対して彼はそんなもの意にも介していない。
寧ろマチュがどういう子供であるのか、直ぐに見抜いていた。
「子供扱いして!!」
「君は立派に子供だよ。ほらッ来るぞ!」
無駄な話をしている間に開始時刻となった。
そしてその戦闘に際し、アムロは少し灸を据えようと言う考えのもと、戦闘方法を考えた。
そして、その目論見通りに2機のリック・ドムは、マチュのジークアクスだけを狙いに定め、真っ先に刈り取る為に行動に映した。
マチュは正真正銘、ニュータイプであるだろう。だが、ニュータイプの全てが戦闘においてエキスパートであるとは言えない。
例えば、マチュと共にいるこのアムロという男に関しては、ニュータイプ能力を戦闘という面に最適化する事により、人外の領域にまで視野を拡げた存在である。
逆に言えば、ニュータイプという本来の意味合いでは、アムロはしっかりと衰えているだろうが、ニュータイプ能力を使用するという意味ではもはや彼を上回るものはいないだろう。
そもそも、衰えというのが例えとしては曖昧で、彼の場合は当に戦闘者であるだろう。故に、余計な私情を捨てされるのだ。
対してマチュはどうかと言えば、未だに青い果実でありその力に戸惑いを覚え、力に使われているとすら言える。
そもそも、キラキラに執着するというのは若さ故の興味から来るものであった。日常にない刺激というものだ。
だからこそ、初見の動きにマチュが対応するにはそれを目にする必要がある。
急速に近づいてくるリック・ドムが、機体の目の前に来たとき待っていましたとばかりに胸部の拡散ビームが彼女の視力を奪う。
勿論、驚異的な空間認識によってその後の行動は分かるのだが、だからといってそれを一人の人間をみるだけでなく、二人目を見ろと言われれば堪らない。
後ろにいた機体の攻撃を逸らそうとすれば、どうなるだろうか?ジークアクスにそれだけの無理をさせることが、マチュにはできるのだろうか?
ヒートサーベルが眼前に迫る、がそれが到達する前にビームサーベルがその攻撃を拒む様に、カメラの眼前に伸びてくる。
間一髪、攻撃は停められたが、果たしてその後直ぐに安心して良いものか?
リック・ドムの機動は一貫して一撃離脱に特化したものだった。ジャイアントバズを片手に持ちつつ、二撃目を行う為に離れていく。
それに釣られて行こうとするマチュに対して、アムロは制するように前に出た。
「何するんだよ!さっさと終わらせないと!」
「君がやられても別に構わないが、みすみす敵の思惑に乗せられるのを、黙ってみている様な大人ではないからな。」
マチュはシュウジの事が心配だった。というよりも、早くこのおっさんとのMAVなんてやりたくない、と言うのが本音だった。
一々説教臭いし、感応する度に自分の親の事がどうとかそういう事を言われて腹が立つのだ。
思春期特有の反抗する意思が、目の前の大人を鬱陶しいとそう言う。
そんな2人はお世辞にも連携というものがなっているとは言えず、幼子であるジークアクスをまるで親鳥のように、赤いガンダムが援護している姿は、さながら介護である。
だが、そんな動きですらニュータイプと言うものは恐ろしい事に、連携しているように見えるのだから腹が立つだろう。特に黒い三連星と呼ばれた事もある彼等なら、その連携の穴を突こうとする。
「今日の赤いガンダムの動きは恐ろしい程だ。」
ギリギリとかかる慣性によるG、それを苦も無く耐えきる2人は流石のエースパイロットと言うものだろう。
そんな2人は余裕もなく、目の前にあるガンダムと言う存在に対して、畏怖を感じながらもある種の感激を覚えていた。
「あの動き…戦い方、まるで赤い彗星を相手にしているみたいだ…いや…、更に上手いか!!」
「オルテガ!ジェットストリームアタックをかけるぞ!」
2人の脳裏にはあの日の戦場がある。多くの同胞と共に駆け抜けたあの日々が蘇り、そして同時に自分達を置いていったあの憎々しい仮面の男を見ているようで、だからこそ本気で戦いたくなった。
今の遊びではない、それは戦場を駆ける戦士としての誇りをかけて。
「おう!狙いは……!」
「「ガンダム!」」
そんな二人の思念に対して、ジークアクスのマチュは自分に向いていた針の様に刺す感覚が消えた事に困惑を覚え、アムロはその殺気の方向が自分に向いた事に理解を示した。
だからこそ加減を間違えないようにと、自らに言い聞かせるように口にその事実を漏らす。
「殺気が変わった…?そうか、この感覚はあの三人組か…。」
図らずも嘗て戦った相手が今、目の前にいる。
それも、嘗ての初恋の日々とは裏腹に今の彼等との蟠りは欠片も無いという事実とともに。
「戦い方を見せよう。」
「なんで?」
マチュには理解し難かった。それが、戦場に生きた者同士の共感と敬意と、何よりも次代への橋渡しと言うものであるということを。
まだまだ子供である彼女に、戦争の事など分かるわけもなく…。ただ、勝とうと言う意思しか今の彼女には読み取れない。
ジェットストリームアタック…、それは嘗て1年戦争において猛威を振るった三機一組のエース達の技。
ただ、今はその内の2機しかいない。
もはや、黒い三連星の二人にはガンダムを撃つこと以外考えられず、ガンダムもまたそれに応えるように真っ向からそれを迎え撃つ。
両者が交差する瞬間、ドムの拡散ビームが目眩ましのように機体眼前で発光し、その一瞬で斬りつけるようにヒートサーベルを展開する。
それを僅かに機体を動かすと、ガイアのドムを足蹴にし、僅かに軌道からズレたオルテガのバズーカを反らした盾で殴りつけその射線を逸らすと、本来いるであろう3機目に対してサーベルを突き刺すような動作をする。
その動きに対して無意味だと思う物もいた事だろう、だがその動きを知っているものからすれば、それの意味も直ぐに見て取れた。
「今のは…!!俺達が負けたのか!!!」
ガイアは衝撃を受けた。彼には見えたのだ、3機目のドムが全ての攻撃を逸らしたガンダムに落とされるその光景が、そして理解したのだ。自分達が手加減されている事実を!!
「おのれぇ!!!ガンダム!!」
頭に血がのぼると共に一瞬の冷静さが脳裏を過ぎる。今戦っているのは一人ではない、そう目の前のガンダムのMAVが居るのだと!!
ハッ!
そして、ガイアはそれを目にしたとき自分達の敗北を意識した。そう、眼前にヒートホークが投げつけられたと言うその事実が。
「ガイア…俺たちの負けだ…。」
「戦いの中で戦場を忘れるとはな…。」
対してマチュは…、汗を流しながら肩で息を切っていた。
彼女のその判断は的確で、同時に素晴らしい程に相手に合わせると言う、行為そのものであった。
マチュは、敵とあの男が勝手に戦闘を始めたとき直ぐに理解したのだ。
目の前のこの男は、決して相手を落とそうとはしない。相手の幻影たる3機目を徹底して落とすだけの戦いをするのだろうと、そんな有りもしない答えが脳裏を駆けた。
と同時に理解したのだ、このままではこの戦闘は引き分けになる事を。
つまり、ヒートホークでの一撃はマチュの勝手な行動ではあるものの、結果彼女は男の意図したように動かされた。
それが良い悪い関係なく、彼女が一番大嫌いだった相手に合わせて動くという、そんな行為を目の前の男はさせたのだ。
それは現実を突きつけられたのと同じ事だった。
自分は特別なものではない
マチュはこの事実に、胸が痛くなる。自分はジークアクスを操縦できる。そして、シュウジとキラキラの中で一緒に過ごすのは、とても特別を感じていた。
だが、目の前の男とのキラキラはシュウジのそれとは違うが、同じ様な事をしたのだ。
と同時に、そんなキラキラも結局は2人だけの世界ではなく、色々な人も持っているのではないか?と言う、あの大嫌いな普通と言うものになってしまうのではという恐怖の対象であった。
そして、最終的には男に合わせるような動きをさせられる…。
それは嫌悪を持って男を見るには充分なものだった。
だが、同時に思うのだ。
果たして、今の自分はシュウジに相応しいのだろうかと。もしシュウジがいて、自分がこの戦いをしていたら果たしてこんな結果になっていたのだろうか?と。
実際、今の自分が足手纏であると言う事実は身を持って実感するには充分な出来事であった。何より、恐怖というものを感じたことの無い彼女がそれを理解するには、あまりにもこの事実は受け入れ難いものだった。
自分は足手纏でシュウジの足枷で、尚且つ要らない存在なのではないかと言う、そんな妄想を彼女は感じていた。
そう、普通に生きるという母親の願いが彼女にとってどれだけ似合っているのかと、それを考えさせられるには十分に足りえた。
だからこそ嫌なのだ…、そんな事を受け入れるのが。
今はただ、ポメラニアンズ勝利と言う言葉だけが宇宙を漂った。
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