ブピンブピンブピン
連邦系モビルスーツ特有の足音が鳴り響く、コロニー外壁沿いの通路。
赤いガンダムその足取りは軽く、一見すれば何の問題も無いように思えるだろうが、見る人が見ればその動作の異常さに気が付くことだろう。
そう、一瞬一瞬の足裏の動作が若干であるが遅れている。
それは本来であれば有り得ない、その動作の原因はフィールドモーターの不具合から来るものであった。
フィールドモーターはその特性上本来であれば大重量による負荷と、運動による摩耗が加わった場合耐久に問題のある技術であった。
だが、連邦の技官達はそれを戦争という、所謂蛮行に耐えうる程に技術を磨き上げた。
そう、本来であれば衝撃に弱い技術。
それを、実用レベルに引き上げた当時の新進気鋭の技術の集大成であった。
だが、時代とともにその技術が一般化されていくにつれ、ガンダムに本来搭載されていたそれは、今では時代遅れの産物である。
確かに実用レベルのものであるものの、どれだけ優秀なものであろうときちんとした整備も無く、戦闘の真似事を続けていればいずれその摩耗は限界に達する。
そして、その心配は今形となって顕在していた。
「摩擦係数が増えているな、整備は上手くやってるみたいだが…素人に毛が生えた程度か。こりゃ、長くないかもな。」
その限界を与えた人物が、コックピットコンソールを弄りながら、ガンダムを操縦していた。
アムロ・レイ、本来であればガンダムの開発者であった男テム・レイの一人息子であり、そのガンダムの操縦者となるはずであった男。
そんな彼は、ガンダムに対して非常に深く理解しており、その限界そのものを尤も知り得た人物である。
そんな彼は、本来ならば搭載されていなかったαサイコミュの事を少し考察しながら、ガンダムの現状を診断していた。
まずαサイコミュであるが、それ自体は彼の良く知るサイコミュと別段変わりがあるものではなく、寧ろこの時代にコレだけの小型化を実現していた事に関心を示した。だが、その無理矢理の搭載に若干であるが忌避感があった。
まず、脳波を利用したフィールド・モーターとの同調は決して悪いものではない、だがそのフィールド・モーターは本来同調する為には作られていないのだから、機体に対した過負荷を齎す。
本来のサイコミュ自体は、ビットという遠隔兵器の動作によって死角をなくすものであるから別に良いが、それが無いのならばコレが今乗っている事に殆ど意味はない。
寧ろレバーを用いた機体制御それに依存させていたほうが、機体としては限界に達するに時間がかかるのだ。
そして、その問題が顕著に出たのが先の黒い二連星との戦闘である。
「無理をさせた気は無いんだがな、やはり追従出来ないか……ん?」
何かを感じたのか、彼は機体を停止させると件の気配があった方へと気を向ける。
すると数秒ほど経った後、人影が現れそれを目にするとコックピットを開放して外へと顔を出した。
「……。」
ムスッとした顔をしたニャアンがそこにはいた。かなり色々と聞きたいことがあるようで、何から聞けば良いのかと逡巡しているようだった。
「話はあとにしよう、軍警が来ないとも限らない。取り敢えず、掌に乗ってくれ。」
露出したコックピットで操作をしながらガンダムの掌は、彼女の目の前へと優しく降りた。
それを躊躇いつつも、彼女はゆっくりと乗り込む。
そうして、掌に彼女を乗せたままガンダムは目的の格納庫へと、進んでいった。
2人の間に会話は無い、ただチラチラとニャアンが彼の事を見る事は止むことはなかった。
行き先へと到着すると、既に誰かがそこに持っていた。
1人はシュウジ、もう1人は急いで来たのだろうマチュでもう1人は金髪の美男である。
まず一言目に開口した言葉に、ニャアンは耳を疑った。
「流石はアムロ・レイだ。そんな機体ですら、私の期待通りに動いてくれる。」
「茶化すな、それよりもそっちの女の子の方が問題じゃないのか?」
ニャアンは手に乗りつつ、下を見下ろしマチュの方を見た。バツの悪そうな顔をしていて、その目は金髪の男を睨んでいるようだった。
果たして一体何があったのか?少し時間を戻そう。
戦闘を終えたマチュは急いでジークアクスを格納庫へと戻すと、シャワーを浴びる間もなく学生服に着替え直しカネバンの事務所を後にする。
走り去る彼女の背中を見守る様に、アンキー達は彼女を見送った。
マチュが急いで向かった先は、シュウジとガンダムがいるはずのコロニーの地下空間。
その場所は今では使われていない場所であるが、外壁はきちんとし整備されているおかげで、空気もきちんとし行き届いている。
そんな誰も来ないような場所に、彼女が到着した時…既にその人物は居た。
「やあ…待っていたよ。」
「誰…アンタ。」
金髪で尚且つスーツ姿でサングラスをつけている男は、そのあまり似合っていないサングラスを外すと、マチュの目に合うように視線を向けた。
「始めまして、君があのジークアクスとか言うジオンの最新鋭機のパイロット…、アマテ・ユズリハくんだね?」
話したことも無い人が自分の名前を知っている。しかも、マチュというコードネームではなく、本当の一般的な名前を。
「何でアンタが…!」
と同時に、彼女はその男…クワトロの後ろに横たわるシュウジの姿を目にして、一体何があったのかを妄想した。
そして、その結論に至ったが早いかその男に飛び付くように蹴りを入れようとして、それをいとも容易く受け止められた。
「話は最後まで聞くことだ。私は彼に何をしたという事もない。彼はただ、眠っているだけだよ。」
クワトロの言葉に嘘偽りはない、いや一点だけ嘘はあるがそれでもマチュはそれを信じたくはなかった。
あのムカつく男が教えてくれた通りに、彼が熱で寝込んでいる事など知っていたからだ。
そうしてマチュは力を緩め、諦めたように地面へとへたりこんだ。
これから自分達はどうなるのだろうか?と。
シュウジはお尋ね者で、マチュの機体はジオンからの窃盗したものである。そんな事実が公表されればタダでは済まされない。
それどころか…母親にまで迷惑がかかるのだと今更ながらに思った。
「私がそんなに悪人に見えるか?コレでも比較的マトモな性格だと、そう自覚しているのだがな?
そもそも、公務員である御母上の現状を鑑みるに、君のその心配は今更だろうに。」
まただ、シュウジやマチュと同じ様に、その男も特別なんだろう。そんな風に会話している事態、普通じゃないのだ。
そんな事実嫌だった。
「ふん…。まあ良い、私の知り合い達が帰ってくるまで私が君達を守るとしよう。」
達とはどういう事なのか、誰かの知り合いなのか?と…思ったとき、その知り合いが誰で何故この男がこの場所を知っているのか、マチュは思い立った。
あの天パの男はニャアンの知り合いで、保護者だと言った。そしてこの男は、そんな男ときっと知り合いで情報を共有していたのだとしたら……、誰が彼の場所を喋ったのか。
マチュは結論に至った。勿論それは濡れ衣であり、真実ではない。だがマチュにとっては事実であった。
ニャアンがシュウジを売ったのだ、と結論付けた。
どうして?何で、そんな事をするのだろうか?コレが天罰だとかそういうものなのか?と、半ば彼女の脳内はパニック状態である。
そして、そんな彼女の状態を他所にシュウジは未だに熱に浮かされ眠りにつき、金髪の男は余裕そうに仁王立ちしている。
「また何か誤解しているのか…?私が説明しても納得はしてもらえんか。だが…、今は待つ他あるまい。」
そうして、前へと戻るのだがそんな事があった結果、マチュのニャアンに対する信頼はズタズタになっていた。
それはそうだろうし、そんな光景を呑気に見ているクワトロが全部悪いのだ。
「…な…で…」
「どうしたの?マチュ。」
心配をするニャアンに、マチュはその瞳を憎しみを映しながら彼女を見る。
「何で、なんで裏切ったりするんだよ!!友達だと思ってたのに!!」
「えええ!」
ニャアンには一体何があったのか分からなかった。何よりどうして自分がそんな事を言われなければならないのか、どうしてクワトロがここにいるのか等、分からないことだらけであった。
「おい!取り敢えずなんでお前がここにいるかは置いておく、その子に何をした!!」
「アムロ…、誤解を招くようだから改めて言うが、誓って私は悪い事はしていない。」
「ほざくな!」
モビルスーツとその足元で始まったその口論も、一体全体何がどうなってそうなるのか?ニャアンは頭がこんがらがって来た。そして、この現状を全て知っていそうなシュウジに助けを求める為に、その瞳を寝込んでいる彼へと向けたのだった。
……
「記録は取れていますね?」
ソドンの艦橋では、今日執り行われたクラバの戦闘を記録しているのかと、シャリアは尋ねた。
「はい…しっかりと撮れています。けど…こんな戦闘データ何の役に立つんですか?」
コモリ少尉がそう言うと、シャリアは若干苦笑いしながらその意味を弁説する。
「いえ、実に素晴らしい戦闘だとそう想いましてね?特にあの赤いガンダムの動き…、艦長もそう想いませんか?」
ソドンの艦長であるラシット中佐にそう投げかけると、それに応えるようにラシットは顎に手を当てながら口を開いた。
「シャリア・ブル中佐…、それは私にあの動きが誰かの動きににているか?と、そう聞きたいのか?あのドムの動きは明らかに黒い三連星の動きだと…それに対応する姿が?まるで、中将のようであると。」
「あ、いえ。私は別にガンダムが大佐の動きであると、そう聞きたいのではありません。
どちらかと言えば、あのドムの動きが誰のものであったのか納得しただけですよ。
それに…大佐ならもっと上手くやってくれる筈です。」
執拗にシャアの事を中将ではなく大佐というその姿は、如何にも執着していると言えるだろう。
そして、艦長への確認を兼ねたその言葉とそのガンダムの動きに、薄ら寒いものを感じていた事を。
ガンダムを一番上手く使えるのは大佐たるシャアでなければならない、あんなポッと出のそんな奴が大佐よりも上手くガンダムを扱えるはずが無いと。
それは認めたくないという執念でもあった。
「そう言えば、エグザべ君。君はジークアクスのパイロットが誰であるのか…、心当たりはあるそうですが核心には近づけましたか?」
「はい、いいえ。確信に変わった訳ではありませんが…、目をつけた人物はいます。」
それが誰であるのか、それを口に出すほどエグザべの口は柔らかく無い。
それが確信に変わるまで、自分で口を噤んでいようとそう決心しているのだ。
「そうですか…わかりました。そのままその人物の捜索を続けてください…、そうすれば。面白いものが取れるでしょうから。」
面白いものにいったいどんな含みがあるのか?コモリは訝しんだ。と同時にエグザべはこの男に対する胡散臭さが、更に上がったことを自分なりに捉えていた。
……
ガチャ…、スー
と、何の音もなく玄関の戸が開き家の中へと入っていく。
「ただいまー」
何の感慨もなくただ、無意識の内にその言葉を口にし靴を脱いで綺麗に玄関に揃え、そのままにせず脱臭用の袋を中へと詰める。
なんとなくやっている、そんな日常的な行為。
アマテはそれを無意識に行い、無意識に自室へと向かい、無意識に荷物を降ろし、無意識にお弁当のカスをキッチンへと置き、無意識に其れ等を洗って無意識に乾かしておく。
無意識にいつも通りこの時間に溜まっているお風呂場へと向かい、無意識に洗濯機へと服を入れ無意識にお風呂へと入る。
そんな一連の無意識的動作は、彼女の生活の基盤となっている生活リズム。
しかしてその動作に淀みはなく、彼女の育ちの良さが如実に溢れていた。
礼儀正しく、実直で、宿題もきちんとこなす。
そうして出来た自由時間の中で、自分のやりたい事をやる。実に健全だ。普通と言っていい程にそれが彼女のいつも通りであった。
そんな毎日を暮らしていると、偶にであるが思う事がある。このまま大人になってこんな暮らしを続けるのだろうか?と。
今日、初めて誰かに裏切られた…。という実感を持った。実際はそうではなかったし、自分の早合点だったのだが…。
それでもその喪失感を覚えたのは、人生で初めてであった。
学校に通う日々の中、そんなものを感じたことなど微塵もなく、誰かに自分が裏切られるなど思ったこともない。
そうした感情を感じながら、ふと…今日のクラバでのあの一言を思い出すのだ。
『子供扱いして!!』
『君は立派に子供だよ。』
そんな問答は誰にもやったことはなく、大人に対する反抗なんて初めてだった。
生まれて初めて、大人から完全に否定されて自分が本当に子供なんだと実感させられた…。
それが堪らなく悔しく、それでいてその現実とともにニャアンやシュウジとの関係も、そんな子供の戯言なのだろうか?と…。
そう想いたくはなかった。
家に帰ると誰もいない、けれど何不自由無い生活。
アマテはそんな不自由な生活とは無縁で失ったことはない、だからだろうか?何故かあのとき…疎外感を感じたのだ。
裏切られたと感じた時。
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