猫と2人のおっさん   作:丸亀導師

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友達とお友達

ニャアンには、友達というべき相手がいなかった。

始めからいなかった訳では無い、戦争という惨禍の中生命からがら逃げ延びた彼女には、周囲の人間との意思の疎通をとる方法が無かったからだ。

 

動乱の最中、人々は他者を思いやると言う気力すら持てない。それだけでなく、食うものも住む場所も何処もかしこも皆他人を気にする余裕がなかった。

ニャアンもその様な環境下に置かれた為に、生きる為に必死だった。

 

必死に生きて、必死に食べ物を探して…必死に住む場所を探す日々…、勿論誰かから物を奪うことなんかもやった。

今の生活に落ち着く前に、色んな悪いこともやった。それらに対して、罪悪感が無い訳では無い。だが、そんな事をしなければ彼女は生きられなかった。

 

あの二人に出会うまでは。

 

始めは抵抗感があった。だが、慣れてくればその2人が自分に優しくしてくれるのだと、心がそちらにすり寄っていった。

だが、だからこそ運び屋を辞めるという選択肢は無かったのだ。

 

運び屋と言う仕事は、子供の割合が多い。大人よりも変えが利くからだが、似たような仕事をする人間を山程見てきた。

そんな中で友人などという物を作ろうなどと、そう思うやつはどうかしている。

 

だから、マチュはニャアンにとってそれはもう感動を覚えるような、そんな相手だったのだ。

難民というニャアンの身分を前にして、一緒にいてくれる…。友達として、このサイドに来て初めての人間であったのだ。

 

そんな相手に否定される…。それはもう、ニャアンの瞳はにゃあんと萎れて寂しくなった。

しょぼくれてしまうものの、そんな事で折れるような人間が難民を続けていられる訳が無い。

 

一頻り沈んだ後、彼女はガンダムの掌から降りるとマチュの直ぐ側に寄って言ったのだ。

 

「ごめん…、騙してなんかないよ…。」

 

その一言を聞いた瞬間、マチュは走り去って行ってしまった。ニャアンはそれを追いかけたものの、どうやら体力は向こうの方があるようで見失ってしまった。

ニャアンはまた沈んでしまったが、気を取り直してまたどうやって謝ろうかと考えながら、1人来た道を歩いて戻っていくのだ。

 

そして……、もう一つの懸念事項である。ユウキ…アムロに対して聞かなければならない事があった。

 

シュウジを寝かしつけ、きちんと栄養剤と飲み物を残してそこを後にする。

ユウキが何かを見ながら何かを考えていたが、直ぐに見切りをつけて走り寄ってきた。

 

「事情は…まあ、歩きながらでも良いかな?」

 

話が始まったのは、彼がどうしてクラバに参加していたのかと言うことと、何故シュウジの居場所が分かったのかと言うこと。の主に2つ。

1つ目に関して言えば、原因の一端はニャアンにも原因があった。

 

「見たところ君の給料が安すぎたからな、彼にはそれに対する抗議として、君に給料を与えている相手とクランバトルを通して決闘を申し出たと言うのが事の発端だよ。」

 

つまりはニャアンのケツ持ちをしたということだが、コレはもう過保護と言えるだろう。やりすぎである。

 

「2つ目は…、俺の勘といったところかな?色々と思うところがあったし、本腰を入れて探ったらあっさり見つけたといったところだよ。」

 

勘で見つけられたら世話もないが、このアムロという男。ア・バオア・クー戦において、内部通路図を知らない筈なのにセイラを出口まで導いたこともある。

つまりコロニー内部の情報を脳内で精査し、ガンダムのみ見つける為に集中した結果であった。

シュウジの気配を辿ったとも言える。

 

胡散臭い理由であるものの、一応は信じようと思った。

 

「ちなみにクラン名は…、木馬という物だよ。実に洒落た名前だ。」

 

現在3位に位置しているクランの名前、そう…何故あんなにも強いのか。それは単機であらゆる敵を薙ぎ払っている実績を持っているからに他ならなかった。

 

3人での帰り道、もう遅いと言うこともあり売店に寄ってヌードルを食べた。

クワトロは思った以上に麺類を食べるのが下手であった。いや、上品過ぎる食べ方だった。

 

「取り敢えず用意するものは選定した、たぶん上手くいく。」

 

食べながらアムロはそう切り出すと、クワトロの方を見てその提案をする。

 

「了解した。ニャアン、君はどうするね?」

 

その言葉にどんな意味があるのか、ニャアンには良くわからなかった。良くわからなかったが、なんとなく…。そうなんとなくだが、その行為にマチュが着てくれるのではないか?そんな事が脳裏に過る。

 

「手伝う…、そうすればマチュもあそこに来てくれると思うから……」

 

彼女のそのもの言いに、2人は顔を見合わせ少しだけ笑った。

 

 

……

 

アマテは家に帰り一眠りしてから、改めて昨日のことを思い出していた。

言い過ぎだったかもしれないと、そう思うところもあったからだ。罪悪感で悪夢を見てしまったのだ。

ごめんも言えず、最後までさよならしてしまうという、喪失感のあるそんな夢を。

 

だからだろうか、彼女はその日急いで学校から帰ると一目散にシュウジの元へと駆けつけた。

ニャアンはきっと彼の場所にいるんだろう…、そんな気がしたのだ。

 

自分の持っている小遣いをはたいて、食糧を買い足しいざというところで、扉を半開きにして中を覗くと…何やらおかしな事になっていた。

そう言えば、あの二人組…アムロ?とクワトロ?もこの場所を知っているから来ているかもしれない。そうだったら嫌だと思いながらも、それを見てしまったのだ。

 

「え…?嘘なんで!」

 

思わず声に出た。

一体何があったのか?と言えば、単純明快。

そこにいたのはシュウジやニャアンだけでもなければ、あの二人組だけでもない。

ガラの悪い見知らぬ大人達がいっぱいいたのだ。

 

思わず後ずさって持っていた食べ物を地面に落とす、リンゴが跳ねる音が響き渡る。

大人たちの輪の中心となっていた人物がそれに気がつくと、走りながらこちらに近づいてくる。

急いで逃げなければ、何か悪いことになるかも知れないとそう思い後ろを振り向くと……、ユウキ(アムロ)がいた。

 

逃げなければと思い切り股間に蹴りを入れようとするも、それを見事に手で止められると、そのまま足を捕まえられて

 

フワッ

 

と、身体が宙に浮かび上がりそのまま

 

デンッ!

 

と尻もちをつくように地面へと落下する。

鈍い音、アマテのお尻はヒリヒリと痛かった。

 

「大丈夫ですか?」

 

中から強面の、ヒゲモジャのオジサンがでてくる。

 

「いや、ラル大丈夫だ。どうもネズミがいたみたいだからな。猫の場所まで案内してやろうと思っただけだよ。」

 

そう言われるアマテに対して、ヒゲモジャの男ラルと呼ばれた彼は、なるほどと呟いてそのまま扉を開け放つ。その中へと強引に手を引かれながら、アマテはニャアンの前に引き摺り出された。

 

「何やってるんだよ!コレは、シュウジの機体だろ!」

 

抗議するように言うものの、何をやっているのかアマテにも分かっていた。幾つかのパーツに分けられたガンダムは、その近くにある全く同じでありながら、もっと新しい部品へと入れかえられていく。

 

「彼の機体を壊してしまったからな、お詫びとして直してあげているところさ。」

 

そんな状況の最中、ツナギを着たユウキと言う男が軽く説明しつつ、作業の方へと動いて行く。

初めて見る光景に、初めて見る人々。

そんな中に、シュウジも混ざりながらガンダムの整備を行っている。

 

傍らにニャアンがいて、談笑しながら何やら作業しているのだ。だが残念ながら、アマテにはそんな笑えるような話をしながら作業を手伝えるような知識は無い。

いや、そもそも作業自体を手伝えるのか?いや、無理だろう。だって、アマテ・ユズリハはお嬢様学校の生徒でこんなところで油に塗れて仕事をするような、そんな事を教えられたことが無いから。

 

アマテは言われるがままに、座っていなさいと言われた場所に腰を降ろすことしかできない。かばんの中に入っている食糧が、どういう訳か霞んで見えた……。

いや、なぜだろうか周囲が皆霞んで見えて悲しい気持ちになっていた。

 

また…、除け者にされている。そんな気持ちが脳裏に過る、だがそんな彼女のそれを知ってか知らずか、一人の男が近寄って来た。

金髪のクワトロと呼ばれている男だ。

彼もまたツナギは着ているものの、少し遠巻きにそれを見ている。どちらかと言えば作業の小間使い程度のことしかしていなかったようだ。

 

「どうかしたかな?まるでのけ者にでもされたかのような、そんな顔をしているが?」

 

「アンタには関係無い、アッチ行っててよ!!」

 

彼はそれを聞いて目を少し潜め非ぬ方向を向くと、そっと…アマテの隣に座る。

そんな行為すらアマテは鬱陶しく想いながら、どこかそんな彼に安らぎを覚えるのだ。親近感と言った方が良いだろう。

 

少し睨むようにその顔を見る。

よくよく見れば整った顔立ちに、少し艶っぽいしっとりとした雰囲気を持っている人だと…何故だか思った。

だが、そんな事口にはしない。カッコいいと、何処かでそう思うのだ。それが、堪らなく悔しい。

 

静かに横に座っている。それも、作業員の手伝いをせず。そんな光景も作業員には別にどうでもいいのだろう、流れるように作業を続けていた。そんな中に紛れている2人を見て、複雑な心境であった。

 

「友人と言うものは大切にしたほうが良い、私から出来るアドバイスなど、それくらいのものだ。」

 

聞いてもいないのに、クワトロはそう口にした。同時にマチュはそれが本心なのだろうと、何処かで覚っていた。

その言葉には何処か、ズッシリと重く後悔の念も溢れていることに。

 

「後悔……した事あるの……?」 

 

そんなものを問いただしたくなるように、自然とそんな言葉が口に出た。

 

「ある…。あのとき、ああしていれば。もっと上手くやっていれば、事情を話せば分かってくれたかもしれないし、そんな自分を受け入れてくれたかもしれない。

私にも、嘗てそんな友人が一人いた……。」

 

そう言って彼はユウキの方を見て目を細め、拳を強く握りしめる。

 

「どうしたの…?」

 

その瞳にはいつかの情景が過っているのだろう、強い後悔があった。

 

「私は……戦場でそんな彼が死ぬのを助けもせず、ただ静観していた。いや、彼が死ぬ舞台を整えたうえで、彼を殺した。

彼個人には、何の恨みも無いにも関わらず私は復讐の為に…手にかけたのだ。だからだろうな…、今の私はその結果だ。どう思う?」

 

「わかんない…、けど…なんか寂しそう。」

 

「フッ…寂しそうか…。そうだな、寂しいものさ。色を失った私は、他者に縋ることしか出来なかった。恋人のような物を創ってはみたものの、果たしてそれを本当の意味で愛せたのか?

私の一方的な行為だったのではないか?そう思うことがある。」

 

それは恋というものを知らなかったと言う、当時の情景がマチュの脳裏に何故か思い浮かんだ。恐らくは地球であろうそこで、彼は何かを見つけた。そしてそれを、信奉する事によって自らを安定させようとしたのだと。マチュの勝手な妄想だろうが…そんなビジョンが見えた気がした。

 

「その人は…どうなったの?」

 

「見ての通りさ…、見事に奪われたよ……彼に。」

 

憎々しいものを見るように、ユウキの方を見る彼は未だに何かに囚われているのか?だが、その中に今更後悔は無いのだろう。そこだけがポッカリと、何も無かった。

 

「どうかな?友人を大切にしなかった男の末路だ、コレでも仲直りは難しいかな?」

 

「わかんない…けど、そうはなりたく無い。」

 

そう返答するマチュに、クワトロはニコリと笑った。

不覚にも…、ドキリとするマチュは頭を左右に振った。この目の前の男が嫌いにはなれなかった。

 

小気味の良い音を立てながら、ガンダムは少しずつ元の姿へと変貌していった。

 

 

……

 

タタンタタンタタンタタン

 

良い音を立てながら列車は動き、そんな中でエグザべは情報を持っている男の直ぐ横に立った。

変な丸い頭のその男は新聞を広げながら、まるで口元を隠すようにしている。

 

彼とエグザべが話す傍ら、シャリア・ブルのモビルアーマー、キケロガが、サイド6へと持ち込まれた事を聞き、エグザべは驚愕を示す。

キシリア・ザビが秘密裏にこのコロニーに来る事となっている中、そんな一級の危険物が持ち込まれるなど想定外であったからだ。

 

勝手に後ろを着いてきたお友達(・・・)を、客車間の扉をチラチラと見ながら、感情が出やすい自分を内心叱咤した。そんな中でも淡々と話を進める中、ふと…男の口調が少し強くなる。

 

「それとだ…、ココだけの話だが…。我々の諜報網に裏切り者がいる…。」

 

「なんだと…?」

 

そんなものをどうして今更言うのか?

彼はそのまま話を続け、どれだけの情報が横流しにされているのか、それをエグザべへと話していく。いったいどれだけの人間がそれに与しているのか、誰にも見当は着いていないと。

 

「くれぐれも気を付けてくれ…、相手は軍警よりも手練れだ。」

 

「ああ、わかった。ありがとう。」

 

そう一言残すとエグザべは列車を降りる。後ろを着いてくる軍警の人間に注意をしながら、何とかしてこれらを巻こうと決意した。

そうしていながらも、エグザべは監視対象としているシャリア・ブルと言う男が、いったい何を目的としているのかイマイチ掴めていなかった。

 

「いったい…何をするつもりなんですか?アナタは…。」

 

自然とそんな言葉が口に出る。彼は上を見上げてソドンを見るとそこにいるであろう、今の上司に文句の1つでも言いたくなっていた。

 




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