猫と2人のおっさん   作:丸亀導師

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破壊者と守護者

コロニーの採光ミラーの向きが変化し、今日もイズマコロニーに夜の帳が降りる。

賑やかな静けさが、その人工の大地に人々の暮らしを誇らしげに示しながら夜も更けようとしていた。

 

今日も、何事もなく平穏な暮らしが終わるのだろうと、誰もがそう思っている。そんな時、誰も望んでいない非日常が向こうからやって来た。

 

始まりは閃光だった。

一瞬の地球で言うところの稲光のように、それが瞬くと次に

 

ドッ

 

と言う突発音が耳を劈く。

そして次の瞬間には、

 

ゴゴゴゴ

 

と言う地鳴りとともに、コロニーの内部と外部を隔てる為のシャフト。

港が有るはずのそれが、煙に飲み込まれていく。

 

周囲に浮くように散らばっていく残骸が、空気抵抗によって徐々に遠心力によって加速し、回転運動に飲み込まれながら大地へと降り注いでいく…。

 

その対象には難民区も居住区も関係なく、ただ見境なく降り注ぎそれを呆然と眺めていた人々を、意識する間もなく刈り取っていく。

それらの事象をゆっくりと意識の中で危険信号へと切り替わっていき、人々はその状況に阿鼻叫喚の渦となる。

 

コロニー全体の照明が夜から昼のような明るさに切り替わり、全土へと避難警報が鳴り響く。

 

「シェルターへ避難してください…。」

 

創られた声、無機質な機械音声が造られた当初の目的のとおりに、人々を安全な場所に誘導する為にその力を発揮しようとする。

普段は閉じられていた避難用のシェルター、それに続くシャッターが上がっていきその入り口をあらわにする。

 

だが、建造から40年以上経っている機構である。きちんとしたメンテナンスをしていても。その中の幾つかは、動作を停止し途中で止まってしまった。

仕方なく、最後は手動で開けるものもいる。 

 

そんな人々が逃げ惑う中、コロニーに滞留する爆煙の中から巨大な何かがその孤独なシルエットを浮き上がらせると、周囲の電子機器は軒並みオフラインへと移行する。

 

「何あれ…」

 

マチュはジークアクスの中から、その光景を眺めていた。

今日、最後の戦いへと赴こうと新たに変更された試合場所へと移動していた途中で、そんな光景が飛び込んできたのだ。

爆煙の中のシルエットは、巨大なそれはゆったりとその外へ顔を出す。

 

箱型の巨大な機体がその中から姿を現した。

 

マチュは日常が破壊されていく中、試合前までの事を思い出していた。

 

 

 

この日、最後の試合となるだろうことを、シュウジとニャアンに教える為に彼女は2人との集合場所となっていた、シュウジのいるエアシャフトへと脚を運んでいた。

予定の金額よりも多少多いが、コレでモビルスーツを積むことができる大型のスペースグライダーを、シュウジが買うことができると、喜びを分かち合って…。

 

そうしてひとしきりその事を言った後、彼に別れを告げようとマチュは一言切り出した。

 

「本当は私も一緒に行きたいけど…、お母さんが心配だから。」

 

「大丈夫、マチュにはマチュの暮らしが有るんだ。だからもう…大丈夫だよ。」

 

マチュは、シュウジと別れることを決意していた。

三者面談のあと、タマキと腹を割って話す機会を得た彼女は、そのまま家でタマキと口論の末、一つの結論にたどり着いた。

自分がもっと頑張れば、自分の願いは叶えられる。

 

そう…、それは単なるワガママ娘からの脱却と明確な夢を持つと言うことの現れでもあった。

努力は必ず報われる訳では無い、だが衝突し初めて分かることもあったりと、そんな中自分次第で未来は変わると…なんとなくわかった気がしたからだ。

 

「だから、もし地球に降りれたら連絡先教えてよ!何年かかっても、絶対に行くから!!」

 

「うん!待ってるよ…、ニャアンも来ないんでしょ?」

 

シュウジはマチュに理解を示すと同時に、ニャアンが胸に秘めているものも見透かしながら声をかけた。

そんな彼の言葉に対して、少しモジモジとしながらニャアンは答えた。

 

「そう…ごめんねシュウちゃん、色々勉強とかやってみたいことが有るから…その後でも追いかけるのは良いかなって。」

 

ニャアンがシュウジの事を、シュウちゃんと呼ぶ事にマチュは違和感を覚えるも、シュウジがそれに対して何の感慨も覚えていない事に安堵しつつ、3人でコレからの事を話した。

 

「ガンダムが載せられるグライダーは…」

 

楽しい時間はあっという間に終わりを告げて…日が暮れていく、別れの時が刻一刻と迫る中、ニャアンと共にそこを出て、マチュはカネバンへと急ぐ。

途中ニャアンが何やら用事が有るということで別れ、1人でそこに辿り着くと急いでパイロットスーツに着替え、さあ乗り込もうとした時…

 

「ちょっと待ちな。」

 

アンキーがマチュの背後から声をかけてきた。

 

「なんですか?」

 

様子のおかしい彼女に対してマチュはどうしてか、気を強く張ろうとする。何か大事な事が待っているのだと、察したのかと。

 

「いや…、まあなんというか。頑張れよって話なんだが…。コレが終わったら、もう家に来るな。」

 

「何で?ジークアクスは私の機体だから、私が操縦しないと。」

 

マチュはコレまでジークアクスを操縦してきたのは自分であって、他人にどうこう言われたくは無かった。

今や自分の手足のように動いてくれるそれに、半ば依存しつつも最近ではその機体を生かすために練習も怠っていないのだ。

足手纏は御免だから。

 

「お前は子供だ。しかも、良いとこの出のな。そんな子供が夜な夜な毎日こんなところに入り浸ってみろ、軍警が捜しに来るってもんさ…。

まあ、そんなタレコミがあったって話だよ…。家の方に軍警が来る可能性が有るから、もう来んなって事だ。」

 

それはアンキーなりの気遣いであった。いや、これ以上首を突っ込ませないようにする、大人としてのけじめであったのだろう。時間に押されるからこそ、そういうのだろうか?

 

「誰が言ったの?」

 

「さあ?ともかく、お友達にも気を付けな。言ってやんないと、手遅れになるからね。」

 

そう言うとアンキーは煙草を燻らせ、さっさとその場を後にしようとする。

その背中を見ながら、マチュは言った。

 

「ありがとう…」

 

と。

すぐ様コックピットに着くや、急いで移動を開始する。クラン開始前に、突如として変更となったルートを辿れば、なんとも今日はコロニーの中での戦いというではないか…。

 

マチュは瞬時に思った。馬鹿げていると。

こんな場所でやったら、人死が出ても何の不思議でもない。何故こんな場所でやるのか、コレではまるで…目立てと言わんばかりに。

 

そんな中、シュウジと合流しようと急ごうとした時…爆発が起きたのだ。

 

浮遊している物体が何であるか、それはその時はどうでも良かった。いや、どうでも良くは無いが今はシュウジの事が第一で、それは二の次だった。

 

建築途中のビル、その直ぐ側にガンダムの姿を捉えるとマチュは急いでシュウジと回線を開こうとして…違和感を覚えた。

まず、無線が通じないこと…。そして、

 

誰かに見られているような

 

そんな感覚に襲われた時、咄嗟に盾を構えていた。

幾つもの光がコロニー中を飛び交い、その内の1つがジークアクスを襲う。

耐ビームコーティングがそれを何とか防ごうとするが、盾が半ば融解するように吹き飛ばされる。

 

あまりにも大きな物体それが変形し、大地を踏みしめジークアクスの目の前に現れる。

明らかに巨大、同じモビルスーツとは思えない程にその巨体は、まるで悪魔のように佇む。

 

その時、マチュは感じ取った。

このモビルスーツのパイロットは、今とてもまずいことになっていると。

 

サイコ・ガンダム、それはニュータイプを自然ではなく普通の人を何かしらの強化手術によって、擬似的にニュータイプとした人々。所謂強化人間が搭乗することを前提として造られた機体。その特性上、強化人間はあたかもその機体のパーツとして扱われる。

 

そして、その機体のパイロットは…ドゥー・ムラサメは今。半狂乱の中にあった。

 

「あゔゔぁああ!!」

 

彼女の常に口に装着しているそれは、精神安定剤である。それがある限り、彼女は暴走することなく。比較的理性的にサイコ・ガンダムを動かす事が出来るのだが…、その薬剤が底をついたのだ。

 

次第に暴走していく力は、サイコ・ガンダムの不完全なサイコミュに呼応し、勝手に暴れまわり。

何より、ドゥーを待ち受けるように彼女をコックピットへと飲み込んだ。

 

それでもなお、まるで狂ったかのように周囲に被害を出し続けている。

そんな内の1つが、マチュに被弾しそしてニュータイプの感応が、ドゥーの望むそれに合致してしまった。

 

今やドゥーは、己のその思考の内。その尽くがジークアクス…いや、マチュを殺す事のみに向けられていた。

 

マチュは、そんな思考を真に受けたのは初めての体験であった。そのため、思考が少し萎縮した。いや、思考が竦んだと言ったほうが正確だろう。

彼女が今まで感じたことのあるものは、シイコの復讐心であったり、二連星の嘲笑であったりとしたものだが、明確な自身に対する破壊衝動等というものを感じたのは、この時初めてであった。

 

それが目の前に屹立する巨大な人型となって、彼女を襲い来る。

 

サイコ・ガンダム指部メガ粒子砲が、明滅を始めた瞬間。シュウジはマチュの異変に気が付き、咄嗟にガンダムをジークアクスにぶつけるように動く。

 

「マチュ!しっかり!!」

 

「っん!!!」

 

それによって、竦んだ意識が覚醒しマチュは目の前の巨大なそれを認識する。

 

事態は最悪を突き進んでいた。

 

「キラキラ!!お前が持ってるのかぁ!!」

 

半狂乱となりながら、ドゥーはジークアクスとガンダムを目に付けると、遮二無二ビームを乱射する。

余計な方向へ四方八方へとビームが飛び散る中、そんな姿を目にする僚機たるハンブラビ。

ゲーツはその光景を、呆れたように見下ろしながら事態の悪化を見た軍警を相手に交戦を開始した。

 

「まったく、雑魚を相手にしてりゃ良いんだよ。事態が大きければね!!」

 

一射のビームを放つと、それを避けられず軍警のザクは次々に蚊蜻蛉のように落ちていく。

 

「ザマァない、力もないくせに出てくるから。」

 

そんな、まるで作業のような戦いに期待も持たずに、彼は計画に対する変更を画策する。

 

彼等の任務は、とりあえずモビルスーツで暴れまわり周囲の目をそちらに向けることによって、本隊が目標を排除するまでの時間稼ぎであった…。が、ゲーツは欲が出た。早々にそんな事を切り、自らの手柄にしようと動き出す。

 

「そんな雑魚を相手にしてないで、行くぞドゥー!」

 

マチュはサイコ・ガンダムの執拗な攻撃を何とか逸らし、機体を隠しながら落ちてきたザクの武装を手に取る。

どう見ても効きそうもない武器であったが、無いよりはマシだとこの時思った。だが同時に…その手は、恐怖に震えていた。

 

自分がこんな物に乗らなければ、こんな事態にはならなかったのではないか?と。彼女の目の端には、吹き飛ばされ五体が無くなった人であったものだとか、そういう類のものが見える。

それだけではない、人々の思念が感じられた。

それは恐怖、悲しみそして痛みだ。

 

「あっ……いっいい…。」

 

マチュは苦しんだ。そんなもの、今まで感じたこともなかった。人の思念が、心が勝手に自分の中に入って来て蝕んでくる。そんな苦しげなマチュの姿を見たシュウジは、1つの事を決意した。

そしてそんな物を、口に出す時決まって彼はこう言うだろう。

 

「マチュを助けないといけない…と、ガンダムが言っている。」

 

赤いガンダムは、感情の海に囚われているジークアクスを置き去りにし、サイコガンダムの矢面に立つ。その手に持つのは、ビームライフル、そして背に背負うはビームサーベル。

 

「きゃ…アハハハ、お前が…!お前が持っているんだな!僕たちが、欲しいものを!!」

 

ゲーツにはドゥーの言っている事など、全く持って分からなかったが、1つ言えることはガンダムを手に入れればそれなりに良い結果となると言うことだろう。

 

「それを破壊するな!!」

 

ゲーツの静止など構わずに、サイコガンダムはその力を持てる分だけ解き放つ。

目の前に立つガンダムは、それを迎え撃つ為に盾を構えた。

 

 

 

……

 

地響きが続き、建物の中の電源は非常用へと切り替わりそれはあたかも戦時のような、そんな空気が立ち込めている。

時折光が解き放たれ、コロニー中にそれは拡散する。

 

だが…よく見ればそのビームが遠方に到達する前に、何かで霧散しているようである。

それによって被害は最小限に食い止められているともいえるが、いったい誰がそんな事をしているのだろうか?

本来のコロニーに、そんな機能は無いのだが。

 

「コロニー内でビーム撹乱膜か、考えたものだな。」

 

サイド6での会談を行い、帰りを待っていたキシリアは避難が遅れていた。

いや、もっと言えば避難が遅れたのは他人が逃げるのを先にし、自らは率先して誘導していたに他ならないからだが…。それは良いだろう。

 

「急ぎましょう。屋上に来るように手配はしてありますので。」

 

と、お付の人間であるアサーヴは彼女を率先して退避させようとしていたが…、些かその判断は遅かった。

 

ポーン

 

というエレベーターの音が鳴り響くと、その中からゾロゾロと幾人もの人影が現れる。咄嗟に物陰に隠れるも、もしそれが遅ければ、蜂の巣になっていたことだろう。

直ぐ横を銃弾が掠めた。

 

ピシーンという跳弾音が響き渡り、応戦するように拳銃を発砲する。

だが…多勢に無勢だ。

身辺警護の人間も応戦に加わるのだが、拳銃弾とライフル弾では戦いにもならない。徐々に押されていく。

 

そんな中でも、キシリアは率先して迎撃に加わっていた。そもそもザビ家は武闘派の人間が多く、彼女もその内の1人である。

少しでも長く生きる為に、抗うように。

 

と、交戦を続けていると何処からか相手方に手榴弾が転がり込み、炸裂する。と、窓ガラスを割るように誰かが侵入してくると、続いて何人かがそれとともに白兵戦へと加わっていく。

 

時間にして2分、簡単に決着は着いた。最後の一人を殺さない程度に痛め付け気絶させると、その目出し帽を着けた集団は長身の男と若干小太りな男を除いてキシリアへと銃を向ける。

それに対して応戦しようとするものの、キシリアはそれを手で制し、1歩2歩と前に出る。

 

「貴様等は何者か?」

 

「我々が何者かか?それは想像にお任せする。」

 

キシリアはその声に聞き覚えがあった。と同時に、有り得ないと内心焦燥感で満たされる。非常照明に照らされているその瞳、あの共に遊んだ事もある少年の面影は確かにあった。

 

「話はせぬ方が…」

 

「その声は…ラル家の者か?なる程な、元の鞘に収まったということか…。」

 

その言葉には沈黙が返ってくる。

 

「私の元へは帰ってこぬのか?」

 

「御冗談を、私は貴女とはあまり深い関係ではありませんので。それよりも早く行ったほうが身のためだと、そう思うが如何か?」

 

その言葉を最後に、その集団は去っていく…。あたかも、自分達はこの襲撃には関係がないと、そう示すように。

高圧的な態度、傲慢そうなその声は確かにあの男であるとキシリアは声にならない言葉を噛み締めながら、名残惜しむ。

 

「また……私は、お前に救われたのだな…。」

 

胸の奥が少し、苦しくなった。と同時に、熱い何かがそこにはあった。その胸の高鳴りと共に。

 

 




マチュは普通の女の子

変化したところのせいで、ジークアクスの戦闘を使い回せないぞ!


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